【教官室】
その日の教官室に、突如、勇ましい音楽が鳴り響いた。
♪デッ デッ デッ デッ デデッ デッ デデーッ
東雲
「‥これ、あの銀河系を舞台にした映画のテーマ曲?」
後藤
「‥光る剣を使って戦う、あのSF映画だな」
颯馬
「しかも、暗黒面の方ですね」
曲を奏でているのは、黒澤が置き忘れて行った携帯。
そしてその番号にかけているのは、石神だった。
石神
「‥‥‥」
東雲
「透的石神さんのイメージって‥」
後藤
「歩‥言うな」
黒澤
「すみませーん!オレの携帯、知りませんか!?」
ちょうど石神が受話器を置いた時、黒澤が教官室に飛び込んできた。
黒澤
「あ、あったあった!失礼しました~」
石神
「待て」
鋭い声で、石神が黒澤を呼び止める。
黒澤
「石神さん、どうしたんですか?」
石神
「刑事たる者、不用意に携帯を置き忘れるな」
「万が一、情報が流出したらどうするつもりだ」
黒澤
「大丈夫です!この携帯は見られても大丈夫なやつですから」
「画像フォルダにも、後藤さんの隠し撮りくらいしか入ってないし」
後藤
「おい、ちょっと待て」
東雲
「それが見られていいレベルの携帯なわけ?」
颯馬
「見られたくない携帯の中身を開くのが怖いですね‥」
石神
「とにかく、今後こんなことがあったら、始末書を書かせるからな」
黒澤
「始末書!?携帯の置き忘れで!?」
「歩さん‥なんで石神さん、あんなに機嫌悪いんですか?」
東雲
「透の携帯の着信音を考えたら分かるんじゃない?」
黒澤
「着信音‥?」
「‥あ」
しまった、と言わんばかりに、黒澤が携帯を自分の後ろに隠した。
黒澤
「いやあ‥お見苦しいところを!」
石神
「まったく‥」
「今すぐ着信音を変えろ」
黒澤
「えー、でも石神さんにはアレがぴったりなんですよね」
石神
「‥‥‥」
黒澤
「わかりました!今すぐ変更しますから!」
「でも、どんなのがいいですかね。代替案ないですか?」
後藤
「初期設定でいいだろ、そんなの」
黒澤
「それだと、誰からの着信かわからないじゃないですか」
「誰からの電話なのか、一発で知りたいんですよね~」
後藤
「‥なら、『踊れ大捜査線』だ」
全員の視線が、後藤に集中する。
黒澤
「石神さん!」
「『事件は教官室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!』」
「‥って言ってみてください!」
石神
「お前‥」
東雲
「でも、他人に職業がバレそうな着信音って、まずくないですか?」
石神
「話がそれてるぞ」
「とにかく、さっきの着信音はすぐに変更して‥」
そのとき、再び黒澤の携帯が鳴った。
あの “仁義がない” 任侠映画のオープニング曲が、辺りに響き渡る。
♪パララーァァァァァン パララーァァァァァァァァァン
‥テンテンテンテンテンテンテン‥
黒澤
「うわっ、もう約束の時間過ぎてる!」
「すみません、ちょっと電話してきまーす!」
携帯を手に、慌ただしく黒澤が教官室を出て行った。
石神
「加賀か」
後藤
「‥加賀さんか」
東雲
「兵吾さんか‥」
颯馬
「加賀さんで間違いありませんね」
そのテーマ曲を聞いた瞬間、誰もが加賀の顔を思い浮かべたという‥
Happy End