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愛でとろける3日間 2話

DAY2 :互いの匂いをうつして

【屋上】

ある日のお昼休み、鳴子と屋上でお弁当を食べ終え、たわいのない話に花を咲かせていた。

鳴子
「それで千葉さんがね、東雲教官に睨まれたらしくて」

サトコ
「うわあ、気の毒‥あの冷たい目で蔑まれたんだろうね」

鳴子
「うん、ゴミを見るようなあの目でね‥」

お弁当箱を片付けたとき、ふと煙草の香りを感じて振り返る。
少し離れたところで、室長がゆったりと煙草をふかしていた。

サトコ
「室長、お疲れ様です」

難波
おー、お疲れ。飯か?

鳴子
「学食も飽きたので、今日はお弁当を持ってきたんですよ」

難波
手作り弁当か。いいなー、おっさんにも作ってくれよ

冗談まじりに笑う室長と鳴子が楽しそうに話しているのを、ぼんやりと眺める。

(室長の煙草の香り、加賀さんのとは少し違うな‥銘柄が違うから当たり前だけど)
(それにしても‥)

この間の電話のことを思い出すので、なんとなく室長の顔を直視できない。

(どこまで聞かれたんだろう‥?まさか、私の声まで‥!?)
(いや、でもさすがにそれなら何かお咎めがあるはず‥)

だけど、室長のことなので、『バレなきゃいいだろ』とでも言いそうだ。

(そもそも、あの日私と加賀さんが一緒だったことも、本当なら室長は知らないはずだし)
(ここは、ボロが出ないように少し距離を取って‥)

難波
そうそう、氷川

サトコ
「は、はい!」

難波
この間の休み、邪魔して悪かったな

サトコ
「!?」

難波
そんなつもりなかったんだけどな~急いでたもんだから

サトコ
「い、いえ‥」

(この間の休み‥って、絶対、あの日のことだよね‥)
(『そんなつもりなかった』って、どういう意味!?ままま、まさか‥)

鳴子
「サトコ、どうしたの?真っ赤になったかと思ったら、今度は真っ青だよ」

サトコ
「い、いやあ‥そんなことは‥ハハハ‥」

慌てて首を振り、さりげなく鳴子の後ろに隠れる。
どうやら室長は、あの日私が加賀さんと一緒にいたことには気づいているらしい。

(でも、個別教官室での “あのこと” は‥!?)
(やっぱり、声‥聞かれてた!?)

その後、室長からそれについて語られることはなく‥
私と鳴子を見て、ふと思い出したように煙草を消した。

難波
悪ぃな。女の子なのに

鳴子
「え?」

難波
匂い、ついてねーか?

鳴子
「あ、大丈夫ですよ~」
「むしろ、お気遣い頂きありがとうございます‥」
「この学校で私たちを女の子扱いしてくれるの、室長だけです」

(確かに‥颯馬教官もしてくれるけど、たまに目が怖いし)

室長を見送ると、私たちも空になったお弁当箱を持って屋上をあとにした。

【車】

その夜、一度寮に戻ると加賀さんと待ち合わせをして車に乗り込んだ。

サトコ
「遅くなってすみません。課題が片付かなくて」

加賀
ああ
‥‥‥

助手席に座ってシートベルトを締める私を、加賀さんがジッと見つめてくる。
あまりにも鋭い視線に、身震いするほどだった。

サトコ
「‥加賀さん?」

<選択してください>

A: すみませんでした

サトコ
「す、すみませんでした‥」

加賀
なんのことか分かってんのか

サトコ
「いえ‥実は、さっぱり」

加賀
‥‥‥

(しまった‥なおさら怒らせた!)

B: 仕事で何かあった?

サトコ
「もしかして、仕事で何かありましたか?」

加賀
別にねぇ

サトコ
「でも、なんだかご機嫌ナナメ‥」

加賀
‥‥‥

(ダメだ、これ以上聞くとなおさら機嫌が悪くなる‥!)

C: 今日都合悪い?

サトコ
「もしかして今日、都合悪いですか?」

加賀
そんなこと言ってねぇ

サトコ
「でも、なんとなく表情が険しい‥」

(‥のは、いつものことか‥)

サトコ
「あの‥私、何かしましたか?」

恐る恐る尋ねると、加賀さんが私から目を逸らした。
そして、盛大に『チッ!』と舌打ちして車を出す。

(な、何‥!?想像以上に怒ってる!?)
(でも今日の演習ではミスしてないし、講義もちゃんと集中して聞いてたし)

サトコ
「えーと‥きょ、今日はこのまま、加賀さんのおうちにお邪魔していいんですよね‥?」

加賀
ああ

サトコ
「ごはん食べましたか?もしまだなら、何か作りますよ」

加賀
必要ねぇ

最低限の返事はしてくれるものの、それ以上の会話が広がらない。
不機嫌の理由もわからず、戦々恐々としながら加賀さんのマンションに着いた。

【加賀マンション バスルーム】

部屋に入るなり腕を掴まれ、バスルームへと引きずり込まれた。

サトコ
「かっ、加賀さん!まだ服着たまま‥!」

加賀
喚くな

加賀さんがシャワーをひねると、一気に冷たい水が頭上から降り注ぐ。

サトコ
「ぎゃー!冷たい!」

加賀
うるせぇ

サトコ
「いや、だって‥せめてお湯にしてください!」

加賀
じきになる

サトコ
「そういう問題じゃな‥」

さすがに抗議しようと思ったけど、本当にすぐお湯になったのでホッとため息をついた。

サトコ
「はあ、生き返る‥」

加賀
‥‥‥

サトコ
「でも、なんでいきなり水攻め‥」

加賀
これでもわからねぇとは、駄犬から野良犬に格下げだな

サトコ
「野良!?」

(す、捨てられる‥!?なんで!?)
(理由が分からないから、なおさら怖い‥!)

ビクビクしながら、加賀さんの様子をうかがう。
しばらくは、私が服のままシャワーを浴びているのを腕組みして眺めていた。

(止めてください、って言えない雰囲気‥)
(でも、服が肌に張り付いて気持ち悪い)

理由を尋ねようとする前に、少し乱暴に腕を引っ張られた。
髪や首筋に鼻を近づけて、なぜか加賀さんが私の匂いを嗅ぐ。

サトコ
「!?」
「い、犬‥!?」

加賀
あぁ゛?

サトコ
「いえ!なんでもないです!」

(加賀さんが犬化‥?ってことは、私が飼い主?)
(‥いや、さすがにそれはあり得ない)

黙って立ち尽くしていると、加賀さんはまだ何か気になるのかさらに私の肌に鼻をつけた。
身体を押さえつけられて、頬、耳、胸元‥と、吐息がかかるほど近くで何度も匂いを嗅がれる。

(鼻が肌に触れてくすぐったい‥は、恥ずかしすぎる)
(こんなの初めてで、どうしたらいいか‥)

肌を攻め立てるでもなくひたすら鼻を寄せる加賀さんを上から眺めるのは、妙に新鮮だ。

(それに、伏し目がちに見えるのが、なんだか色っぽい‥)

加賀
‥まあ、こんなもんか

満足げにうなずくと、ようやく加賀さんが私から身体を離した。
ホッとため息をつきながら、恐る恐る加賀さんの顔を覗く。

サトコ
「あの‥なんだったんですか?」

加賀
‥‥‥
気づいてなかったのか

サトコ
「気づく‥?何がですか?」

グイッと乱暴に私の首根っこを引っ張ると、シャワーが降り注ぐ中、加賀さんが乱暴に口づけた。

サトコ
「か、加賀さんまで濡れちゃいます!」

加賀
今さらだろ

サトコ
「も、もしかして私、変な匂いしてました?」

これまでの加賀さんの行動を見る限り、それしか考えられない。

(でも今日は講義ばかりだったから、汗かいてないし‥)

加賀さんの嫌いな匂い‥と考えると、一番に思いつくのが野菜だ。

(だけど、お弁当にはサラダしか入っていなかったはず)
(そこまで匂いはしてないよね‥だとしたら、なんで)

加賀
‥他の男にマーキングされやがって

サトコ
「マーキング!?」

(なんで犬用語‥!?)

サトコ
「っていうか、他の人の匂いなんてついてるはずないですよ」
「電車にも乗ってないし、香水もつけてないし」

加賀
‥難波さんだろ

サトコ
「室長?」

意味が分からず、首を傾げて加賀さんを見つめる。
室長とくっついた覚えもないし、匂いが移った記憶もない。

サトコ
「すみません、何がなんだか‥」

加賀
駄犬は記憶力も悪ぃのか
犬は家より飼い主につくってのは、うそだな

(飼い主‥匂い‥室長‥)
(‥あっ!)

サトコ
「もしかして、煙草の匂いですか!?」

加賀
遅ぇ

サトコ
「すみません‥完全に忘れてました」
「だって、お弁当の時間にちょっと話しただけですから」

加賀
『ちょっと』でずいぶん匂いがついたもんだな

サトコ
「し、室長がちょうど煙草吸ってたんですよ」
「鳴子にも匂いがついてましたから!たぶん!」

加賀
焦ってんじゃねぇ

呆れたように言われてようやく、別に疑われているわけではないと気づいた。

(疑われてる‥っていうより、もしかしてヤキモチ?)

その考えが顔に出ていたのか、加賀さんが不機嫌そうに私のブラウスのボタンに手をかける。

サトコ
「じ、自分で脱げますから‥」

加賀
飼い主の言うことが聞けねぇのか

そういわれると、まるで本当に飼い犬のようにおとなしくなってしまう。

(加賀さんに『おすわり』とか『お手』って言われたら、反射的にしちゃいそう‥)

肌に張り付いたブラウスを脱がされると、一瞬、加賀さんと視線が交差する。
その瞬間、どちらからともなく深く唇が重なった。

(こないだの電話の時のあの言葉も‥)
(加賀さんが、室長に嫉妬‥なんて、嬉しすぎる)
(シャワーを頭からかけられたのには、びっくりしたけど)

でも、それが加賀さんなりの愛情だというのはよくわかっている。
素直に言葉にしてくれない分、行動で表すのはいつものことだった。

(わかりにくいけど、分かった時には、愛されてるんだなって実感できる‥)
(だからこうして、どんどん離れられなくなっていくんだ)

キスの合間に下着を外され、加賀さんの大きな手が露わになった肌を包み込む。
吐息がこぼれると、加賀さんから少しだけ、さっきの不機嫌さが消えた気がした。

加賀
テメェはそうやって、俺にだけ啼いてりゃいい
そうすりゃ、テメェが欲しいもんを与えてやる

シャワーの雫が、肌を流れていく感覚。
それと同時に加賀さんの指が的確に私の弱いところを攻めて、立っていられなくなりそうだ。

サトコ
「っーーー‥‥!」
「加賀、さっ‥も、もうっ‥」

加賀
‥‥‥

切ない声をこぼす私を、加賀さんが射抜くように見つめる。
そのまま私が果てるまで、激しく攻められ続けた。

バスルームで散々もてあそばれたあと、一緒に湯船に浸かる。
加賀さんに後ろから抱きしめられるようにされて、背中に感じる温もりがくすぐったい。

サトコ
「あの‥もう、匂いしてないですよね?」

加賀
してたら捨ててる

(恐ろしい言葉を、サラッと言うな‥)

サトコ
「室長の煙草の匂い、加賀さんのとは違うなって思ってたんです」
「最近、加賀さんの煙草の匂いだけはわかるようになったんですよ」

加賀
嗅覚だけは犬並みか

クッと、加賀さんが笑う声が耳元で聞こえた。
後ろから回ってきた手がウエストに添えられて、いつものように私の肌の感触を愉しむ。

サトコ
「せめて、おなかは触らないでもらえると‥」

加賀
犬は服従するとき、腹見せるだろ

<選択してください>

A: もうとっくに服従してます

サトコ
「おなか見せなくても、もうとっくに服従してますから」

加賀
だろうな
躾の甲斐があったってもんだ

(本当に‥いつの間に躾けられてたんだろう)

B: 咬みつきますよ

サトコ
「飼い犬だって、たまにはご主人様に咬みつくんですよ」

加賀
やれるもんならやってみろ

ドスの効いた声に、慌てて首を振る。

(甘噛みすら許してもらえなそう‥!)

C: 犬扱いはやめてください

サトコ
「もう‥犬扱いはやめてください!」

加賀
犬じゃなかったらなんだってんだ

サトコ
「え‥!?か、加賀さんの恋人ですよね!?」

加賀
‥‥‥

(その意味深な笑顔は‥!?)

加賀
今度他の男の匂いをさせてきたら、ただじゃおかねぇ

サトコ
「何するつもりですか‥?」

加賀
二度とそんな気起こさねぇように、躾のし直しだ

サトコ
「ぜ、絶対しません‥!煙草吸ってる人のところには近づきませんから!」

お湯を波打たせて首を振る私を、加賀さんは黙って眺めている。
その手は無意識なのか、私の二の腕や胸の辺りを行き来して柔らかさを確かめていた。

サトコ
「‥加賀さんの匂い、移らないかな」

思わずぽつりとつぶやくと、その手の動きが止まった。
不思議に思って振り返ろうとする前に、肩を強く引かれる。

サトコ
「ひゃっ!?なんですか?」

加賀
動くな

まるで被疑者に言うような鋭い声に、背筋が伸びて身体が固まる。
嫌な汗が背中を伝う私の背筋に、加賀さんが頬を寄せた。

(‥ん?)

今度は肩に顔を埋められ、また頬を寄せられた。
そして、まるで私に自分の肌を擦りつけるような仕草をみせる。

(もしかして‥匂い、移されてる!?)

サトコ
「か、加賀さ‥」

加賀
じっとしてろ

耳や鎖骨にも鼻をくっつけられ、くすぐったさに肩が震えてお湯が跳ねる。
私の身体を持ち上げると、今度は胸元に鼻を寄せた。

サトコ
「そ、そこは匂いを付けなくても!」

加賀
うるせぇ

両手で胸を包み込むと、まるで堪能するかのようにその手がうごめく。
小さな嬌声がバスルームに響き、必死の声を我慢した。

(‥加賀さんの顔が、胸元にある)
(なんか‥頭、撫でたくなってきた)

甘えているようにも見える加賀さんの行動が可愛くて、そっと髪に触れる。
撫でようとしていることに気付いたのか、突然、少し強めに肌に吸い付かれた。

サトコ
「ひゃっ‥」

加賀
テメェには、こっちがお似合いだ

(‥キスマーク!)

サトコ
「み、見えるところはダメです‥!」

加賀
知るか

サトコ
「加賀さっ‥」

私の腰を抱きしめると、加賀さんが肌を貪る。
水音がバスルームを満たし、お互いの熱を高めるのに充分だった‥

to  be  continued

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