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愛でとろける3日間 3話

DAY3 :欲求不満を埋める夜

【学校 廊下】

いつも通りの毎日が続く中、ひとつだけ普段と違うことがあった。

(‥加賀さんと、なかなかふたりきりで会えない‥)
(いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだけど)

事件が相次ぎ捜査捜査の日々で、加賀さんは1ヶ月ほど、家に帰ってきていない。

(車の中で一晩中張り込みしたり、本庁や学校に泊まったり‥)
(たまに寮監になってるから、そういうときはベッドで寝られるみたいだけど)

サトコ
「加賀さんの身体も心配だし、それに‥」

わがままを言ってはいけないと、もちろんわかってはいるけど‥
恋人らしいことが何もできないのは、やっぱり寂しかった。

(せめて、何か手伝いできることがあればいいのにな‥)
(捜査だけじゃなくても、加賀さんのプライベートを支えられるような)

加賀
おい

サトコ
「はあ‥でも、私にできることなんて限られてるし」
「そういえば、ちゃんとごはん食べてるかな‥また野菜ばっかり残してるんじゃ」

加賀
‥‥‥
‥テメェ

ガッと後頭部をわしづかみにされて、メリメリと指がこめかみに食い込む!

サトコ
「ぎゃっ!痛い!加賀さん、頭蓋骨がミシミシ言ってます!」

加賀
呼んだらすぐ返事しろ

サトコ
「分かりました!気を付けます!だから離してください!」

ようやく解放してもらえて、頭を抱えながら加賀さんを振り返った。

サトコ
「お、お疲れ様です‥どうしたんですか?」

加賀
受け取れ

渡されたのは、加賀さんの部屋の鍵。

サトコ
「え‥」
「こ‥これって合鍵ですよね‥!?」

思わぬプレゼントに、声を潜めて問いかけてみる。

加賀
今だけだ
‥テメェにしか渡すつもりはねぇがな

サトコ
「それって‥」

<選択してください>

A: 自由に出入りしていいの?

サトコ
「じ、自由に加賀さんの部屋に出入りしてもいいんですか?」

加賀
今だけって言っただろ
俺が必要な時だけ、入るのを許してやる

サトコ
「必要な時って‥」

加賀
今回は、部屋の掃除と洗濯だ

(やっぱりそういうことか‥1ヶ月帰ってないなら、相当荒れてるだろうしな‥)

B: 私の部屋の合鍵もいる?

サトコ
「わ、私の部屋の合鍵もいりますか!?」

加賀
いらねぇ

サトコ
「ですよね‥」

(合鍵なら、寮監室にあるもんね‥)

加賀
それより、掃除と洗濯しとけ

サトコ
「やっぱり、雑用のためだったんですね‥」

C: 掃除しろってこと?

サトコ
「‥部屋の掃除をしろってことですか?」

加賀
洗濯もだ

サトコ
「ハイ‥」

(きっと、そういうことだろうと思ったけど)

(はあ‥私は加賀さんの家政婦じゃないんだけどな‥)
(でもこれも一応、加賀さんの役に立ってるんだよね!願ってたプライベートのサポートだし!)

無理やり自分を納得させつつも、何故かなんとなく釈然としない。
そんな私の気持ちに気付いたのか、加賀さんが少し屈んで私の耳元に唇を寄せた。

加賀
今夜は、部屋に帰る

サトコ
「っ‥‥」

わざと耳に触れるように、私の髪を耳にかける。
唇が微かに耳たぶをかすめて、そのまま離れていった。

加賀
‥綺麗にしとけ

サトコ
「は、はい‥」

(それは、部屋を‥?それとも、私を?)

意味深に笑うと、加賀さんは私に背を向けて廊下を歩いていく。
でもしばらくは加賀さんの低い声が耳に残り、その意味を考えて身動きが取れない私だった‥

【加賀マンション】

その夜、合鍵を使って加賀さんの部屋にお邪魔した。
家事をこなしながら、加賀さんの帰りを待つ。

(何時に帰る‥とは言ってなかったけど、そろそろかな)
(食事の支度も掃除も終わったし、あとはこれを洗濯すれば完了!)

部屋に散乱した洗濯物を集めていると、ソファに脱ぎ捨てられたシャツに気付いた。

サトコ
「危ない危ない、これだけ洗濯し忘れるところだった」
「はあ‥やっと今日、加賀さんと触れ合えるんだ」

最後に加賀さんと抱き合ったのは、頭からいきなりシャワーを浴びせられたあの夜だ。
あれから急に忙しくなり、学校で顔を合わせる以外は話すことすらできなくなってしまった。

(この1ヶ月、寂しかったな‥)
(仕事だし、加賀さんが一番大変なのはわかってるから、そんなこと言えなかったけど)

持っていたシャツを、ぎゅっと抱きしめる。
微かに煙草の香りがして、まるで加賀さんに抱きしめられているようだった。

(ちょっとだけ、着てみてもいいかな)
(洗濯が終わるまでの間‥ほんのちょっとだけ!)

服の上からでも加賀さんのシャツはぶかぶかで、袖も丈もかなり長い。

サトコ
「この1ヶ月の寂しさを、これで充電しよう」
「あ~、なんか元気出て来た!洗濯しようっと!」

【玄関】

洗濯を始めて少しすると玄関のドアが開く音がして、急いで出迎える。

サトコ
「加賀さん、おかえりなさい!」

加賀
‥‥‥

一瞬、加賀さんが笑った‥ような気がした。

サトコ
「‥加賀さん?」

加賀
尻尾振って出迎えとは、少しは犬って自覚が出て来たか

サトコ
「いや、犬の自覚はないですよ‥!」

(でも、さっき‥確かに、ちょっとだけ笑ったよね)
(もしかして、こうやって出迎えて、少しは喜んでくれてる?)

でもそのあと、私を見たまま、なぜか加賀さんは立ち止まったままだ。

サトコ
「どうかしましたか?」

加賀
‥着るなら、それ以外は全部脱げ

サトコ
「はい?」

首を傾げたけど、すぐにその態度の意味を理解する。

(しまった‥!加賀さんのシャツ、着たままだ!)

サトコ
「こ、これはですね‥」

加賀
‥‥‥

サトコ
「すみません‥!寂しくてつい‥」
「こ、これもちゃんと洗濯しますから!」

慌ててシャツを脱いで、背中に隠す。
笑って誤魔化しながら、さっきの加賀さんの言葉がなんとなく引っかかった。

(‥着るならそれ以外全部脱げ、って‥どういうこと!?)

加賀
なんだ

サトコ
「い、いえ!えっと‥ごはんできてますよ」
「それとも、先にお風呂入りますか?」

加賀
どっちでもねぇ

短く答えると、加賀さんが私の手首をつかむ。

そしてリビングでもバスルームでもなく‥まっすぐに、寝室へと向かった。

【寝室】

寝室に連れ込まれると、そのままベッドに押し倒される。

サトコ
「加賀さっ‥ま、まだ洗濯が終わってないんです!」

加賀
あとでいい
どうせ、そのシャツも洗うんだろ

私が持っていたシャツを見て、加賀さんが不敵に笑う。
こっそりシャツを羽織っていたのを思い出して、頬が火照った。

サトコ
「加賀さんの煙草の香りがしたから、つい」
「その‥匂いに包まれて、抱きしめられてるみたいな気持ちになって」

加賀
‥‥‥

サトコ
「最近、全然触れ合えてなかったので‥すみません、ほんの出来心で」

加賀
欲求不満か

サトコ
「よっ‥!?」

<選択してください>

A: そういうことになります

サトコ
「そ、そういうことになります‥」

恥ずかしかったけど、加賀さんに隠し事は無理なのですぐに観念した。
加賀さんが、妙に納得したようにうなずく。

加賀
発情期なら仕方ねぇ

サトコ
「お願いですから、その言い方はやめてください‥」

B: そんなわけない

サトコ
「よよよ、欲求不満なんて!そんな‥」

加賀
図星か

サトコ
「はい‥」

いつものように尋問されて、あっさり自白した。

C: 寂しかったんです

サトコ
「だって、寂しかったんですよ‥」

加賀
‥‥‥

サトコ
「もう、1ヶ月も放置プレイで」

加賀
お預けもできねぇのか、うちの犬は

(『うちの犬』か‥ふふふ‥)
(‥いやいや!今の、喜ぶところじゃない!)

サトコ
「‥加賀さんは、そんなことなかったですか?」

加賀
あ?

サトコ
「私と会えなくて‥その‥よ、欲求不満とか」

加賀
さあな
‥どう思う?

試すような聞き方に、返事が出来ない。

(捜査で忙しかったし、きっと寂しいなんて思ってもらえなかっただろうな)

私の手から、加賀さんが自分のシャツを持っていく。

加賀
主人の服で遊ぶとは、躾が足りねぇな
自由にさせてる間、ずいぶんと羽を伸ばしてたじゃねぇか

サトコ
「そんなことないです。加賀さん流に言うなら‥ご主人のことばっかり考えてましたよ」
「私は、加賀さんだけに忠実な犬ですから‥なんて」

(ちょ、ちょっと調子に乗りすぎたかな‥?)

加賀さんが、私に強い視線を向けた。
一瞬で唇を奪われて、手から離れたシャツがベッドから落ちる。

サトコ
「‥欲求不満は、加賀さんのほうじゃ」

加賀
‥‥‥

何も言わず、私を見つめたまま加賀さんが服の裾をめくるように手を差し入れる。
中で指先がうごめき、既に熱を帯びているところに触れた。

サトコ
「ぁっ‥」

加賀
‥かもな

私の身体に熱を灯して翻弄しながら、加賀さんがささやく。

加賀
だから、こんなに抱きてぇんだろ

サトコ
「え‥」

加賀
じゃなきゃ、鍵なんざ渡さねぇ

(そんな言い方、ずるい‥)
(もしかして‥掃除とか頼んだのは、口実だったの‥?)
(でもそれって‥私は特別なんだって、思っていいんだよね)

嬉しくて、そっと加賀さんの背中に手を回す。

加賀
テメェが脱がせろ

サトコ
「え‥?」

加賀
欲求不満なんだろ?
解消してやるから、疲れた主人に尽くせ

(ぬ、脱がせるって‥加賀さんの服を、私が?)
(さすがにそれは、恥ずかしいっ‥)

困り果てて何もできずにいると、加賀さんが再び、指先で肌をなぞる。
焦らすようにじわじわと私を追い詰めたかと思うと、不意にその温もりが消えた。

サトコ
「え‥」

加賀
うまくできたら、続きをしてやる

意地悪な言い方にも、反論できない。

(‥どうしよう、恥ずかしいんだけど)
(最近、全然一緒にいられなかったから‥本当はもっと触れて欲しい)
(加賀さんも、そうなんだって思って‥いいんだよね)

おずおずと、加賀さんのシャツに手を添える。
ボタンをひとつずつ外す私に、加賀さんは今にも舌打ちしそうな表情になった。

加賀
さっさとしろ

サトコ
「す、すみません‥慣れてなくて」
「あと、緊張で‥手が震えて」

加賀
こっちは1ヶ月待たされてんだ
これ以上、まだ主人にお預け食らわせるつもりか

サトコ
「お預けにしたのは、私じゃないですよ‥」

いつもは抗議するとすぐドスの効いた声で脅されるのに、今日はそれがない。
そのかわり、もたもたしながらもシャツを脱がせた私に触れるだけのキスをくれた。

加賀
いつまで待たせる

サトコ
「れ、練習しといたほうがいいですか?」
「でもそれには、加賀さんに練習台になってもらわないと」

小さく笑うと、再び加賀さんが手を服の中へ滑り込ませた。

加賀
上等だ
特別に、手取り足取り教えてやる

サトコ
「あっ、待っ‥か、加賀さんっ‥」

めくられて露わになった肌に、加賀さんがキスを落とす。
いつものように強引ではなくて、まるで慈しむような優しい口づけだった。

加賀
他の奴を練習台にしやがったら、ただじゃおかねぇ

サトコ
「そんなこと、しませんっ‥」
「‥けど、できれば優しく教えてほしいなと‥」

加賀
テメェ次第だ

それ以上は言葉を許してもらえず、加賀さんが触れるだけのキスをくれる。
でも舌先で唇をなぞられて、口を開けろと促された。

(今日の加賀さん‥なんだか、普段よりも‥)

微かに口を開くと、ごく自然に絡み合った舌を軽く吸われる。

サトコ
「んっ」

唇を合わせながら加賀さんは、私がボタンを外したシャツをじれったそうに脱ぎ捨てた。

加賀
‥他の男に、じゃれついたりしてねぇらしいな

サトコ
「え‥?」

加賀
俺以外の奴の匂いがしねぇ

満足げに、加賀さんの手が私を夢中にさせようと動き出す。
ふくらはぎから太ももへ、なぞるように指先を伝わらせる。

サトコ
「っ‥ぁ‥」

加賀
我慢するんじゃねぇ
何度も言わせるな

サトコ
「だ、だって‥恥ずかしいんです‥」

加賀
言ってもわからねぇなら、また別の場所で躾してやる
テメェは、ギャラリーがいたほうが燃えるらしいからな

(まさか‥電話で室長に聞かれたかもしれないときのこと言ってる!?)

サトコ
「あ、あれって結局、どこまで聞かれてたんですか‥!?」

加賀
さあな。室長に直接聞け

サトコ
「聞けるわけないですよ‥」
「それに、うっかり煙草の匂いが移ったらまたお仕置きされるし」

加賀
わかってるじゃねぇか

下着の上から追い詰めるようになぞられて、甘い声を我慢することができなくなる。
加賀さんが私の肌を味わう音が部屋に響いて、耳を塞ぎたいほど恥ずかしい。

(でも、すごく大事にされてるのがわかる)
(いつもそうだけど、今日は、特に‥)

肌を合わせるだけで、加賀さんが私を求めてくれているのを感じられた。
感触を確かめるように、そして私がつらくないように、加賀さんがゆっくりと身を沈める‥

サトコ
「っ‥‥!か、加賀、さっ‥」

加賀
1ヶ月我慢した褒美だ

サトコ
「あ、ぁっーーー」

揺さぶられて声をこぼす私を、加賀さんが満足げに見下ろす。
離れていても抱かれていても、いつだって加賀さんに翻弄されているのだと知った夜だった。

その夜も更けたころ‥‥

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