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ふれない夜を過ごすとき 颯馬2話







カレ目線

【個別教官室】

サトコとの夜のドライブから一夜明け、早朝から仕事に取り組む。

(サトコも頑張っていたな)

先程、休日だというのに朝から剣道の練習に励んでいる姿を見かけた。

(言ってくれたらいつも通り付き合ったのに)

おそらく昨日の叱咤を気にして誘わなかったのだろう。

そうやって誰にも頼らずに頑張ろうとしている姿が微笑ましかった。

(その努力に対する敬意もあるからこそ、声は掛けずにいようと思ったのだが‥)

そこで俺は思わぬ場面を見ることになってしまった。

千葉

『氷川のそういう頑張り屋なところ、俺、好きだよ』

(やはり千葉はサトコのことを‥)

あの瞬間を見てしまった俺は、千葉の気持ちに改めて気づかされた。

(好意を持っていることには何となく気付いていた)

(とはいえ特にライバル視したこともなかったが‥)

あのようにはっきりこの目で見ると、全く気にならないと言ったらうそになる。

(まっすぐで純粋なサトコに、他の男が惹かれるのは分かる‥)

(だからと言って、もちろんサトコのことは誰にも譲るつもりはない)

無意識のうちに、ペンを握る手に力がこもった。

(初め愛おしい、離したくないと思えた人だ‥サトコは、決して誰にも渡さない)

静かに強く、改めてそう思う自分がいた。







【資料室】

数日後ー

宿直で夜間の見回りのため資料室へやって来ると、サトコの姿があった。

(また一人で勉強しているのか)

最近のサトコは、放課後に居残りで自習したり、早朝に自主練したりしている。

(‥少々極端な気もするが)

努力の姿勢を微笑ましく見守るも、若干の寂しさも感じる。

(その決意をサトコの口から聞けてないせいかな‥)

自立しようと頑張っていることは一目瞭然だが、本人はそのことを全く話してくれていない。

(最近、連絡自体が減ってるしな)

そっとしておこうかと思いつつ、やはり声を掛けたくなる。

(明日から捜査で2週間ほどここを離れることだし‥それを伝えるだけでも)

颯馬

今日も自習ですか

サトコ

「颯馬教官‥!」

結局声を掛けてしまった俺に、サトコは驚いた目を向けた。

颯馬

勉強中に申し訳ないが、ひとつ連絡事項があります

サトコ

「はい‥何でしょうか」

颯馬

実は‥明日から捜査の為2週間ほど留守にします

サトコ

「‥そうでしたか。分かりました」

颯馬

留守を頼みますね

サトコ

「はい。教官が不在の間も、しっかり勉強や訓練を頑張ります」

「あ、出来ることがあれば、雑用でも何でも残して行ってくださいね」

颯馬

頼もしいですね

サトコ

「いえ‥この間のこと、少しでも仕事で取り返せるようにしたいので」

(‥その想いはもう充分に伝わっているよ)

認めたくないが今の俺は、教官としてはきっと少し甘いのだろう。

わかってはいても、健気なまでに真っ直ぐな視線に、なんだか胸が熱くなる。

颯馬

抱え込み過ぎないようにだけ、気を付けてくださいね

(過保護な発言になってしまったかな)

そう思うも、思わず本音が漏れてしまったのだから仕方ない。

サトコ

「大丈夫です!私のことは心配せずに、捜査頑張ってきてください!」

精一杯の笑顔を見せるサトコに、またも心を掴まれる。

颯馬

そんな顔で応援されたら、私も頑張らないわけにはいかなくなりますね

サトコの頑張る姿勢に、俺自身も元気をもらって微笑んだ。

(戻って来たときが楽しみだな)

2週間後の再会が、既に待ち遠しく感じる俺だった。







【車内】

颯馬

では、残りは成功報酬として後日に

テロ組織のアジト付近に停めた車内で、協力者に金を握らせた。

もちろん証拠用の録音もしている。

協力者

「約束はちゃんと守ってくださいよ?」

颯馬

今まで私が約束を破ったことがありますか?

協力者

「いや‥まあ、アンタのことは信用してるけど」

颯馬

私も貴方のことを信じてますから

協力者

「‥ああ」

真っ直ぐに相手の目を見つめて言うと、相手はフッと照れたように笑った。

(この顔を見せてくれたならもう大丈夫だ)

相手を協力者として完全に手中に収めたことを確信する。

協力者

「じゃ、アンタが欲しがっている情報、必ず掴んでくっからよ!」

颯馬

よろしくお願いします

信頼の証のように微笑むと、協力者の男は勇んでアジトへと乗り込んでいった。

颯馬

ふぅ‥

一人残った車の中で、人知れず小さく息をつく。

(この時間は未だに緊張する‥)

やはり協力者とのやりとりは非常に緊迫した空気になる。

その空気を悟られないよう、あくまで “味方” の顔をして接しなければならない。

(精神的にハードではあるが、それこそが公安の仕事だ)

いつしかそんな割り切り方を身につけ、今日も捜査に邁進するのだった。







【ホテル】

颯馬

そうですか、今日も一人で100本打ちを

一日の捜査を終えたあと、ホテルに戻ってサトコと電話で話す。

剣道の自主練に打ち込む様子を聞かされ、思わず頬が緩む。

(やはりサトコの声を聞くとホッとするな‥)

サトコ

『100本の素振りを3セット、計300本打ちです!』

携帯から聞こえてくる元気な声が、とても耳に心地いい。

(この時間が一番の癒しだ)

捜査での緊張からじんわりと解放されてゆくのを感じ、

自分で思っている以上に疲れていることを実感する。

サトコ

『明日は刑法の小テストがあるので、ついさっきまで同期と一緒に勉強してたんです』

颯馬

相変わらず頑張っているようですね

穏やかに答えつつ、同期という言葉に千葉の顔を浮かべた。

(俺では、彼のようにサトコと同じ立場で支え合うことはできない)

当然かつ仕方のないことではあるが、不意にどこか寂しさを覚える。

(‥同期といたら、サトコもあんな風に自立しようと焦ったりはしないのか?)

自分の存在が彼女を極端な行動に走らせているのではないかと、一瞬思う。

(いや‥理由は何であれ、今のサトコの努力を尊重しよう)

あれだけ頑張っている彼女を、純粋に応援したいという気持ちの方が強い。

颯馬

捜査が終わったら休みを取れることになったので、食事でも行きましょう

サトコ

『はい!楽しみにしています』

(俺も楽しみにしているよ、貴女に会えることも、貴女の成長も)

返ってきた明るい声に、自然と顔がほころんだ。







【会議室】

(捜査は順調‥あとは例の協力者からの連絡を待つだけだな‥)

捜査会議終了後の会議室に残り、携帯を手にした。

そこには着信を知らせる履歴は1件もない。

(今日もどちらも連絡なしか‥)

協力者の連絡を待つ一方、サトコからの連絡が途絶えていることも気になっていた。

(これまでは定期的に電話やLIDEがあったのに)

休憩時にLIDEを送ってみたものの、未読スルーのままだ。

(勉強に没頭していて気付かないだけならいいんだが‥)

少し心配になったその時、窓から一陣の風が舞い込んだ。

咄嗟に書類を手で押さえたその時ー

ガッシャン!!

颯馬

っ!

誰かが置いていったコップが風に煽られ、床に落ちて粉々に砕けた。

颯馬

‥‥

割れたガラスの欠片を見下ろし、何ともいえない不安に襲われた。







【駅前】

協力者を使っての捜査は、無事求めていた成果を得て終了した。

東京へ戻ると、俺はその足でサトコとの待ち合わせ場所へ向かう。

(やっと会える‥)

未読スルーだったLIDEには、あの翌日に返信があった。

やはり勉強に夢中で気付かなかったらしい。

(熱心なのはいいが、やっぱり極端だな‥)

待ち合わせ場所に到着し、苦笑いを浮かべつつサトコを待つ。

だが、なかなか現れない。

30分ほど待ってLIDEを送ってみるも、またも返信がない。

(今日も居残り勉強‥または加賀さんにでもつかまったか?)

『待ち合わせ場所のカフェで待っています』

そう再び連絡を入れ、その場を去った。







【カフェ】

カフェに移ってさらに30分が経過するも、サトコは来ない。

連絡もないままだ。

(こんなことは初めてだな‥)

頼んだコーヒーに口をつける気にもならないのは、心配が大きくなっているからかもしれない。

その時、コーヒーの横に置かれた、水が入ったコップが目に留まる。

颯馬

‥‥

出張先の会議室で割れたコップを思い出し、背中がひやりとする。

あの時感じた妙な不安が蘇り、思わずコップから目を逸らした。

(サトコに‥なにかあったか‥?)

我々の仕事の性質上、ただの遅刻ではない可能性も大いにある。

無意識のうちに握った拳に、グッと力が入る。

(学校に様子を見に行くべきか‥)

(いや、入れ違いになったらかえって心配をかけることになる)

連絡が取れない以上、やはり動かずにここで待つのが一番の方策と思い直す。

(サトコ‥早く元気な顔を見せてくれ‥)

そう祈った時、携帯が震えた。

颯馬

サトコ

『颯馬さん、ごめんなさい。今日行けなくなってしまって』

慌てて出た電話から、サトコの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

(よかった‥無事で)

颯馬

何かあったんですか?

ひとまずホッとしつつ、そう問いかけた時ー

???

『氷川ありがとな、一緒にいてくれて』

(‥千葉?)

サトコ

『あ、あの‥』

プツッ

颯馬

‥!

サトコが何か言いかけた瞬間、電話は切れた。

すぐにかけ直すも、サトコは出ない。

(‥千葉の声がしたということは、まだ学校にいるのか)

冷静に判断しつつも、心臓の鼓動が勝手に速くなる。

(『一緒にいてくれて』って、どういうことだ‥)

サトコに限って浮気などありえない。

(きっと何か事情があって‥)

そう思う俺の頭に、先日の剣道場の前で見かけた場面が蘇る。

千葉

『氷川のそういう頑張り屋なところ、俺、好きだよ』

(あれは単にサトコの努力を肯定しただけだろう‥)

自分に言い聞かせるように思いながら、うっすらと広がっている不安に戸惑う。

(同期のように支え合えない自分を寂しく思ったり‥俺は‥)

サトコを信じているはずなのに、揺らぐ心を否定できない自分がそこにいた‥

to  be  continued


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