~黒澤がウザい理由~
【個別教官室】
(あ、なくなった)
(‥後で、カノジョに頼むか)
最後の一本のピーチネクターを冷蔵庫から取り出し、パソコンに向かい合う。
キーボードに手を伸ばしたその時、ドアが勢いよく開かれる。
黒澤
「歩さ~ん★お待たせしました~!!」
東雲
「待ってない」
「それ置いて、早く出てって」
黒澤
「冷たっ!!!せっかく持ってきたのにそんなこと言っちゃっていいんですか~?」
東雲
「‥‥‥」
「いいから早くしろ」
黒澤
「はいはい。お届けモノですよ」
東雲
「うん。じゃあお疲れ」
黒澤が持っている本庁からの書類を受け取り、東雲は再びパソコンと向き合い直した。
しかし‥
黒澤
「そこに後藤さんが来て、さらにピンチになったわけですよ!」
東雲
「‥‥‥」
「ねぇ透‥いつまでいる気?」
黒澤
「歩さんの仕事が終わるまでですかね?」
東雲
「は?」
「終わらないから、帰れ」
黒澤
「えー!久しぶりじゃないですか」
東雲
「一週間ぶりね」
黒澤
「ほら!だいぶご無沙汰です!」
「ということで、仕事終わったら飲みに行きましょう!」
なかなか帰る気のない黒澤にうんざりし、ひと息つこうと先程のピーチネクターに手を伸ばす。
黒澤
「‥‥‥」
東雲
「何」
黒澤
「歩さんって、本当に好きですよね?ピーチネクター」
東雲
「うん」
黒澤
「毎日飲んでますし、常にストックしてますよね」
「オレにも一本ください!」
東雲
「いや、これ最後の一本だから」
黒澤
「えーーーー!!!!」
「今日、朝から何も水分摂ってないんですよ~」
東雲
「水道水でも飲めば?」
黒澤
「ひどい!歩さん冷たいっ!」
東雲
「‥‥」
黒澤
「‥‥」
「あ、そういえば!」
「この近所でピーチネクターをケース買いすると半額で配達してくれるスーパーがあるんです」
「送料も無料で!かなりお得!」
東雲
「へぇ」
黒澤
「そのスーパー、中々品揃えもいいし優しい老夫婦がやっていて」
東雲
「へぇ」
黒澤
「オレもそこでお水をケース買いして届けてもらったりしてるんですよ」
東雲
「ふーん」
黒澤
「歩さんの分も頼んでおきましょうか?」
東雲
「‥いい」
黒澤
「半額ですよ!?」
東雲
「別に、興味ない」
「ていうか‥もう、専属配達業者がいるから」
黒澤
「‥なるほど」
サトコ
『教官!ありましたよ!』
息を切らせワーワー言うサトコの姿を思い出しながら、東雲は窓を見つめる。
(‥あの子、自分で買いに行きたいみたいだし)
(また不機嫌になられたら困るしね‥)
難波
「お疲れさ~ん」
黒澤
「難波さん、お疲れ様です」
東雲
「お疲れ様です。難波さん、例の件なんですが‥」
難波
「そうか。わかった」
「ああ、そうだ。コレ、お前らに差し入れだ」
調査の報告を終えると、難波が手に持っているビニール袋を二人に渡す。
東雲
「どうも」
黒澤
「ありがとうございまーす」
難波
「はいよ。じゃあ、お先」
手をヒラヒラさせ、難波は部屋から出て行く。
黒澤
「おお!パンダのマーチやら色々入ってますよ」
(ああ。確か今日は、パチンコ屋から捜査だったっけ‥)
黒澤
「これは歩さん、どうぞ」
そう言って黒澤は、東雲のデスクにピーチネクターを差し出した。
東雲
「‥いいよ。透にあげる」
黒澤
「いいんですか!?ピーチネクターですよ?」
東雲
「いらない。さっき飲んだばかりだし」
「喉渇いてたんでしょ?」
黒澤
「!!!!くぅ~歩さんが優しい!」
「優しさが心に沁みます。透感激★」
東雲
「ウザ‥」
黒澤
「それにしても珍しいですね‥」
「何かいいことでもあったんですか?」
東雲
「いらないならもらうけど?」
黒澤
「いります!歩さんの愛情は頂きます!」
東雲
「ねぇ。今日の透、いつにも増してウザいんだけど」
黒澤
「ちょ、歩さん!そこはダメです!」
「ぎゃあああ~ピーチネクターが!!!」
片手で黒澤を弄びながら、1本メールを入れる。
ピーチネクターを見つめる東雲は、専属配達業者が来るのを待ちわびるのだった。
Happy End