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愛でとろける3日間 難波1話

DAY1 :こたつの中の悪戯

【寮 談話室】

休日前の夜は、みんな何となく部屋に戻らない。
私も鳴子と千葉さんと一緒にスナックをつまみながら、取り留めもない話に花を咲かせていた。

鳴子
「そういえばこの間、訓練生が武器庫で幽霊を見たらしいよ」

サトコ
「え、幽霊?」

千葉
「その話、俺も聞いた。あのビビり方は面白かったよね」

サトコ
「‥‥‥」

千葉
「まあ、どういう場所にも幽霊話はつきものだし」

サトコ
「そ、そうかな‥」

(嫌だな、幽霊とか‥こうやって聞いているだけでも背筋が寒くなってきた‥)

思わずブルッとした時、ポケットの中でスマホが震えた。

(あ、室長からLIDEだ‥!)

『今から来れるか?いいものが手に入った』

(いいものって、何だろう‥?)

ちょっとワクワクしながら、さっそく室長の家に向かうことにした。

【スーパー】

(冷蔵庫の中、相変わらず空っぽなんだろうな~)

ふと思い立って、室長のマンション近くのスーパーに立ち寄った。

(また久しぶりにブリの照り焼きが食べたいなんて言われるかな)

室長のことを考えて思わず微笑みながら、ブリの切り身のパックを手に取った。

店員
「今日のブリはオススメですよ~!」

いきなり店員さんから声が掛かって振り返る。

サトコ
「確かにモノは良さそうなんですけど、もう少し厚みがある方が‥」

店員
「だったら、こちらどうです?」

店員さんは手早くもう少し厚みのある切り身を探し出してくれた。

サトコ
「これならいいかも‥きっと喜んでもらえます」

店員
「あっ、もしかして旦那さんのためですか?」

サトコ
「え?あ‥」

店員
「羨ましいな~こんな若くて可愛い奥さんがいたら、家に帰るのも楽しみでしょうね」

サトコ
「そんな、奥さんだなんて‥!」

思わず頬が熱くなる。

(なんだかくすぐったい‥でも、室長とはまだそんな‥!)

店員
「その感じ、まだ新婚さんですか?いいなぁ、初々しくて」

サトコ
「やだ、そんなんじゃありませんから‥」

店員
「ところで、ブリ以外にハマチもオススメなんですが、どうです?」

サトコ
「あ、それは大丈夫です~」

店員
「しっかりしてるなぁ~」

満更でもなく微笑みながら、さり気なく売り場を移動した。

(でもいつか、そうなれたらいいなぁ‥)
(室長とは、これからもずっとずっと一緒にいたい‥)

【難波マンション】

合鍵で部屋に入り、室長が戻るまでの間に簡単な夜食を作っておくことにした。

(いいものって何だろう‥楽しみだな)

ウキウキしながら待っていると、再び室長からのLIDEが入る。

サトコ
「ん‥こたつに、みかん?」

2つのスタンプに続いて、『先に温まっててくれ』の文字。
その時になって初めて、リビングの真ん中に見覚えのないこたつが置いてあることに気が付いた。

サトコ
「これのことだったんだ‥!」

【リビング】

サトコ
「なんか、ほっこりするかも‥」

こたつの上にはちゃんとみかんも置いてあった。
どうやら室長は、このこたつを桂木さんからもらったらしい。

(さすがは室長の家電指南役‥ツボを心得てるって感じ‥)

お言葉に甘えてみかんを頬張りながら、何となくテレビのリモコンを手に取った。

サトコ
「やっぱりこたつと言えばテレビだよね‥あ、これ!」

ずっと気になっていたドラマがちょうどやっていて、ついつい見入ってしまう。
恋人同士の切ない別れのシーンが来て、思わず涙ぐんでしまった。

ピンポーン!

サトコ
「あ、室長かな」

サトコ
「おかえりなさい」

みかんを持ったまま迎えに出た私を見て、室長は疲れた笑みを浮かべた。

難波
ただいま‥

室長はまるで充電器を求めるロボット掃除機のように、私に吸い付くように抱きついた。

サトコ
「お疲れさまです」

難波
あ~本当に疲れた
みかんの匂いだ‥

室長は言いながら、改めて大きく息を吸い込んだ。

サトコ
「そうだ‥みかん食べます?」

手に持ったままだったみかんをひと房差し出すと、室長は嬉しそうに口を開く。

難波
うん、うまい‥

サトコ
「よく揉んでおきましたから」

難波
‥揉むとみかんは甘くなるのか?

サトコ
「え‥違うんですか?私はおばあちゃんにそう教わりましたけど‥」

難波
おばあちゃんの知恵袋か‥
サトコは特に、そういうの似合うよな

サトコ
「ちょっ‥それって、私がおばあちゃんぽいってことですか?」

難波
ははっ‥サトコおばあちゃんか
かわいいな

室長は笑いながら愛しそうに私の髪をクシャクシャし、ゆっくりと慈しむように抱きしめた。

難波
途中からだとわかんねぇな

こたつで隣り合った辺に座りながら、ドラマの続きを見た。
私は相変わらず涙が出そうなのに、室長は退屈そうだ。

サトコ
「もうすぐ終わりますから、ちょっと待っててくださいね」
「これ、食べます?」

みかんを差し出すと、室長は素直に受け取って皮を剥き始めた。

(ん?)

ボロボロと細かく剥かれていく皮に、思わず目を留める。

(室長って‥)

<選択してください>

A: 不器用すぎませんか?

サトコ
「ちょっと不器用過ぎませんか?」

難波
ん、そうか?

サトコ
「みかんは、こう、花びらのように剥いた方が‥」

私が別のみかんを剥いてみせると、室長はあっさりとそれと自分のを取り換えた。

難波
じゃあ、交換

B: 代わりに剥きましょうか?

サトコ
「代わりに剥きましょうか?」

あまりの不器用さに見かねて言うと、室長は不思議そうに私を見た。

難波
‥なんでだ?

サトコ
「なんでと言うか‥みかんは、こう、花びらのように剥いた方が‥」

難波
もしかして、剥き方によっても甘さが変わるのか?

サトコ
「いえ、それはないと思いますけど‥」

難波
じゃあ、大丈夫だ

C: ‥‥‥

(ものすごく不器用?)

サトコ
「‥‥‥」

じっと手元を見つめていると、室長が不思議そうに顔を上げて私を見た。

難波
もしかして、欲しいのか?

サトコ
「い、いえ‥」

難波
皮を剥くのは面倒だよな
食いたくなったらいつでも言ってくれ

サトコ
「はい‥」

それからしばらくは、私はドラマに、室長はみかんに集中した。

サトコ
「あ、ごめんなさい‥!」

難波
お、悪ぃ‥

何気なく伸ばした足同士が時々ぶつかり、その都度微笑みを交し合う。
今まで味わったこともないような穏やかでのんびりとした時間が流れていった。

(やっぱりいいなぁ、こたつは‥)

室長が大きな猫のように伸びをする。
ほんのりとタバコの香りが漂って、室長に包まれているときのような温かな気持ちが広がった。

それから数十分して。
ドラマが佳境に入ってきたころ、突然室長がみかん片手に立ち上がった。

(‥どうしたんだろう?飽きちゃったのかな)

気になって振り返るより早く、私の後ろから室長がこたつに入ってきた。
抱え込むように私の身体に回された手には、キレイに筋まで取られたみかんが握られている。

難波
ほら

サトコ
「!」

(私の為に剥いてくれたの?さっきはあんなに大変そうにしてたのに‥)

室長は二人羽織のようにして、私にみかんをひと房ずつ食べさせてくれた。

難波
うまいか?

サトコ
「はひ、おいひいれす‥」

室長に微笑みかけつつ、ドラマに視線を投げつつ、
室長の温もりを残すみかんをひとつずつ口に含む。

(なんだかもう、とてつもなく幸せな気分になってきた‥)

しみじみとこの状況を味わっていると、横顔に何だか視線を感じる気がする。

(ん?)

急に落ち着かない気持ちになり、こたつに両手を埋めた。
その手が、こたつの中で室長の手に触れる。

サトコ
「!」

ギュッと握りしめられ、私はハッとなって室長を振り返った。

難波
やっとこっち向いたな

サトコ
「すみません」

難波
まったくウチのひよっこは‥
俺よりドラマに夢中か?

<選択してください>

A: そんなことはありません

サトコ
「そ、そんなことは‥!」
「ただ、ちょっといいところだったので」

難波
こっちもこれから、いいところだ

サトコ
「え‥」

難波
次は俺に、夢中になってもらおうか

サトコ
「!」

B: ちょうどいいところだったので

サトコ
「ちょうどいいところだったので」

難波
俺はひよっこに夢中だっていうのにな

サトコ
「え‥」

C: 室長はみかんに夢中でしたね

サトコ
「室長はみかんに夢中でしたよね?」

難波
エサで釣らないと振り向いてもらえないからな~

ちょっと冗談めかして言ってから、室長は真剣に私を見つめた。

難波
でも俺が夢中なのは、みかんじゃなくてお前だ

サトコ
「!」

室長の突然の言葉に、一瞬で顔が真っ赤になった。
それが分かっているのに、室長と絡み合った視線が離せない。
恥ずかしさと戸惑いが入り混じり、さっきまで気になって仕方がなかったドラマの音が、
急にどこか遠くに行ってしまったように思えた。

サトコ
「あっ‥」

服の中にそっと差し入れられた室長の手の感触に、思わず声が漏れた。
室長の大きな手が、ゆっくりと私の腰の周りを撫でていく。
その手が徐々に上に上がってきて、やがて大切な宝物でも見つけたかのように、
そっと下着の上から私の胸を包み込んだ。
うなじにかかる室長の息に思いがけない熱を感じ、思わず上体がのけぞった。
無防備になった首筋に、室長の唇がそっとその熱を焼きつける。

難波
‥‥‥

(どうしよう‥なんだかもう、ドラマに集中できなくなってきた‥)

サトコ
待って‥

難波

室長の指が境界を越えて来ようとするのを、思わず手で止めた。

難波
‥何でだ?

サトコ
「ま、まだ、ドラマが‥」

難波
このドラマ、いつ終わる?

いつになく甘えたような室長の言葉に、それだけで胸がドキドキしてしまう。

サトコ
「もう少し‥です‥」

言いながら、本当は自分自身が既に室長を求め始めてしまっていることに気付いていた。

(でも、やっぱり続けて欲しいなんて言えないし‥)

難波
しょうがねぇな‥

私の気持ちとは裏腹に室長の手が止まる。
室長は名残惜しそうに服の中から手を出すと、改めて私の身体をギュッと抱きしめた。

(この感じ、なんか落ち着くかも‥)

難波
でもまあ、これはこれで落ち着くよな~

サトコ
「!」

期せずして同じことを思っていたと分かり、思わず振り返って微笑んだ。
その瞬間、室長はハッとなった表情を浮かべてキスを落としてくる。

難波
折角我慢してるのに‥
そんな顔されたら抑えられなくなっちまうぞ?

サトコ
「ご、ごめんなさい‥」

思わず謝って、恥ずかしさを隠すように再びドラマに集中しようとした。

(ダメだ‥観てるはずなのに、ちっとも内容が頭に入ってこないよ‥)

そうこうするうち、ドラマの中でもラブシーンが始まった。
主人公の男性が恋人の女性をベッドに押し倒し、ゆっくりと肌に唇を這わせる。

難波
‥どうかしたか?

サトコ
「え‥?」

難波
身体が硬い‥

サトコ
「そ、そうですか?そんなつもりは‥‥」

(でも、こういうシーンを室長と一緒に観てるのもなんかきまり悪いよね‥)

サトコ
「やっぱり、消しましょうか」

難波
いや‥

私の手からリモコンを奪い取ると、
室長は再び私の身体をまさぐり始めた。
まるで、ドラマの主人公の唇の動きをなぞるかのように。

(何だか変な気分‥あの主人が室長に見えて‥)

テレビの中と現実に‥‥互いにシンクロし合うような官能的な動きに、身体の芯が一気に熱を持った。

サトコ
「あぁ‥」

自分のものとは思えない色っぽい吐息が漏れて、ますます身体が熱くなる。

(どうしよう、私‥我慢できないかも‥)

難波
どうした?

私の様子にとっくに気付いていたはずの室長が、今さらちょっと意地悪にささやいた。
耳元に掛かる室長の吐息も相当熱い。

サトコ
「室長の、意地悪‥」

難波
意地悪?どこが?

室長は余裕の笑みで楽しむように私の顔を覗き込みながら、
今度こそブラのホックを外し、ゆっくりと胸の感触を確かめた。

(もう、何がなんだか分かんなくなってきちゃったよ‥)

思わず目を瞑る。

難波
もういいのか?見なくて

サトコ
「こんなことされてたら、集中できません」

難波
‥そうか?

室長はさり気なく言いながら、自然な動きで私のシャツのボタンを外し、
そっと肩先から滑り落とした。

サトコ
「!」

露わになった肌を両手で覆い、心許なさを少しでも減らそうと室長の身体に身を埋める。
温かな感触に覆われた肌が、もうすでに更なる愛撫を求めてしまっているのが分かった。
それなのに。

難波
終わるまで、あとどのくらいだ?

サトコ
「そんなこと聞いて‥ずるい‥」

(室長だって、もうわかってるくせに‥)

難波
俺は、こうしてるだけでも十分満足なんだがな‥

素肌を室長の手が撫でていく。
時に敏感な所を刺激しながら、私の身体を滑るように。

(十分って言いながら、どんどん激しく、なってるしっ‥)

でも室長の動きの一つ一つは、どれも愛と優しさに溢れているのが分かる。
そのことが、私に新たな喜びを与えてくれた。

サトコ
「もう、ドラマなんか‥いい‥」

難波
‥‥‥
お前がそう言うなら

ゆっくりと、室長のキスが後ろから胸元に落とされる。
そうしながら室長の手がスカートの裾に伸びて、思わず身体が小さく跳ねた。

難波
あったかい‥

寒い冬の日にこたつに入った瞬間のような、ホッとした呟きが漏れる。
室長はその温かさを逃すまいとするかのように、私の身体に隈なく唇を這わせた。
さっきまでドラマの主人公がやっていたのと同じように。

(さっきの彼女もきっと、愛されてたんだな。あの2人は絶対、結ばれるはず‥)
(でも結局あの後、主人公とその恋人はどうなったんだっけ‥?)

観ていたはずなのに、さっぱり思い出せない。
でもそれだったら、私たちが二人であの続きを紡いでしまえばいい。
テレビのドラマが終わった後も、私たち二人のドラマは終わることなく続いていった。

to  be  continued

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