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ふたりの卒業編 石神5話


【車内】

卒業試験の最終課題は実地試験ーーA国大使を狙う容疑者、藤田陸斗を確保し事件を防ぐこと。

少人数のチームに分かれて、現役の公安刑事の指揮のもとに私たちは任務に就く。

石神

A国大使がオペラを観劇するこのホールに4つの爆弾を仕掛けたという犯行予告があった

我々の任務は、その爆弾を撤去し、容疑者を確保すること

A国大使と一般客の身柄の安全を第一に考え各自行動するように

サトコ

「爆弾が仕掛けられたと分かった時点で、オペラを中止することは出来なかったんですか?」

後藤

会場に爆弾を仕掛けたという通告があったのは、ついさっき‥

大使と観客の入場が始まった後だった

石神

犯人側は一般客に爆弾の存在を伝えた場合は、遠隔で爆弾を爆発させると言っている

黒澤

でも、相手の狙いが読めませんよね

A国大使の命が本命なら、遠隔でも爆発させればいいのに

サトコ

「確かに‥」

黒澤さんの言葉に、嫌な予感が胸を過る。

(今回の容疑者とされる藤田陸斗の弟、藤田海斗の真の狙いは石神さんだった)

(双子の兄である陸斗の狙いも‥)

サトコ

「‥‥‥」

石神

黒澤の言うように、犯人側の目的はひとつではないかもしれない

だが、今回の任務では爆弾の処理と容疑者の確保に全力を挙げる

向こうの動機を探るのは、それからでいい

石神さんのもとで試験を受ける訓練生たちが深く頷く。

石神

今回の任務は二人一組で行う。まずは、氷川

サトコ

「はい」

石神

お前は後藤と組むように。続いて鈴木‥

ペアが決まり、私は後藤教官に小さく頭を下げる。

サトコ

「よろしくお願いします!」

後藤

ああ

(石神さんは、今のところ誰とも組んでないみたいだけど‥)

石神

‥‥以上、この組み合わせで任務に当たるように

全体の動きについては、こちらからインカムで常に状況を伝える

石神さんは全体の指揮を執るようだった。

石神

最終試験ではあるが、これは訓練ではない。それを肝に銘じるように

全員

「はい!」

会場となるオペラホールの地図を確認すると、私たちは現場へと向かった。


【オペラホール】

すでに観客が入り始めたオペラホールに私は後藤教官と共に入る。

後藤

刑事がいるとわかれば混乱を招く。自然に振る舞え

サトコ

「はい」

インカムを付けながら、私たちは会場内を見回し現状を確認した。

サトコ

「今のところ異常はないようですね」

後藤

そうだな。開演前に処理だけでも終わればいいが‥

会場の隅など、爆弾が仕掛けられていそうな場所を丹念に確認していく。

後藤

‥アンタの話、石神さんから聞いてる

私の方には視線は向けず、カーテンの裏を確認しながら後藤教官が話しを始める。

後藤

無理はするなよ。いざとなれば、俺が抜く

<選択してください>

A: 私を信頼してください

サトコ

「私を信頼してください。これでももうすぐ一人前の公安刑事になるんですから」

後藤

もうすぐ‥な。その差は大きい

卒業前である以上、俺は教官として訓練生を守る責任がある

サトコ

「では、私も訓練生なりに信頼してもらえるように頑張ります!」

後藤

‥わかった。訓練生としてのアンタには期待してる

B: 頼りにしています

サトコ

「はい。後藤教官のこと頼りにしています!」

後藤

アンタ、段々黒澤に似てきてないか‥?

サトコ

「え?そ、そうですか?そんなことないと思いますけど‥」

後藤

まあ、いい。無理はしなくていいが、しっかり頼むぞ

サトコ

「はい!」

C: 無茶はしませんが無理はします

サトコ

「‥無茶はしませんが無理はします」

「言ったじゃないですか。石神さんが『これは訓練じゃない』って」

後藤

「フッ、アンタらしい答えだ。なら、俺の背中は預ける

サトコ

「はい!」

後藤教官に威勢のいい返事をしながらも、私の鼓動は緊張で早くなっていた。

(これまでの試験とは比べものにならない‥当たり前か、人の命が掛かってるんだから)

(でも、最終試験を受けると決めたのは誰でもない私自身。私が決めた、私の道)

後藤

その箱の中を確認してくれ。俺はこっちを調べる

サトコ

「はい」

(石神さんの期待に応えたい‥‥その動機で道を選ぶのは間違ってるのかもしれないけど)

(これ以上逃げるようなことはしたくない)

(まだスタートにも立ててないのに、あれこれ言い訳して避けてる場合じゃないと思うから)

サトコ

「こちらには何もありません」

後藤

こちらも異常なしだ

石神

後藤、氷川、聞こえるか

後藤

はい

サトコ

「はい」

石神

会場二階と入口、ステージ下の3ヵ所で爆弾が発見され撤去された

後藤

早いですね

石神

爆弾を仕掛けられる場所は限られているからな。残りのひとつにも目星がついている

お前たちは爆弾の発見ではなく、藤田陸斗とその関係者の捜索に当たれ

後藤・サトコ

「了解です」

石神さんからの連絡を受け、私たちは懐から藤田陸斗の顔写真を出して確認をする。

後藤

双子とはいえ、藤田海斗がもうひとりいるようだな

サトコ

「一卵性って本当にそっくりですね」

後藤

藤田陸斗の周りには左翼団体のメンバーがいる可能性が高い

血の気の多い連中もいるから、気を付けろ

サトコ

「はい。藤田陸斗が左翼団体に入った動機は何でしょうか?」

(もし藤田陸斗まで石神さんを狙っていたら‥)

事件は形を変えると、私はそれが気がかりで仕方がない。

後藤

奴は左翼団体に入った経緯については現在調査中だ

藤田海斗の件もあるからな。聞いた話を鵜呑みにする訳にもいかない難しい話だ

サトコ

「そうですね‥」

後藤教官も石神さんの身を案じているのだろう。

いつも以上に表情が厳しく見える。

後藤

そろそろ開演時間か‥会場の照明が落ちる前にケリをつけたいが‥

サトコ

「後藤教官、今、通路に出て行った男‥後ろ姿が藤田陸斗に似ていました!」

後藤

何番の扉だ

サトコ

「5番扉です!」

後藤

行くぞ!

サトコ

「はい!」

通路脇の階段を静かに駆け降りると、私たちは廊下へと出た。

【廊下】

(いた!)

後藤

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

廊下の先に男の姿を見つけ、私たちはアイコンタクトを交わす。

(後藤教官が確保に動く。私はそのサポートを‥必要であれば、銃も抜く‥)

鼓動が早まり、手に掻いた汗を拭くで拭う。

後藤教官は速足で男との距離を詰めると‥‥

藤田

「!?」

藤田陸斗が振り向き、その目を瞬かせた。

藤田

「お前ら‥っ」

後藤

藤田陸斗、大人しくしろ!

藤田

「くっ!」

迫る後藤教官を前に、藤田陸斗が懐からサバイバルナイフを取り出した。

光る切っ先は真っ直ぐに後藤教官に向けられる。

サトコ

「後藤教官!」

私の手が拳銃に伸びる。

後藤

氷川、下がってろ!

藤田

「ち、近づいたら殺すぞ!」

後藤

出来るものならやってみろ

後藤教官が私の視界から消えた。

いや‥‥実際には消えたのではなく、

姿勢を低く取った後藤教官が足払いで藤田陸斗の足をすくう。

(早い‥!)

藤田

「うわっ!」

後藤

‥‥‥

バランスを崩した藤田陸斗の手から手刀でナイフを落とし、

腕を捻りあげるまで数秒の出来事だった。

(すごい‥!一瞬で藤田を捕えた!)

後藤

藤田陸斗、確保しました

石神

‥ああ。こちらでもちょうど4つ目の爆弾が解除されたところだ

後藤

これで任務完了ですね

石神

‥まだ油断は禁物だ

後藤教官が藤田陸斗の手に手錠をかける。

(藤田を捕えて爆弾も解除した。でも、石神さんの声、どこか納得のいっていないような‥)

(油断できない要因がまだあるってこと?)

後藤

藤田陸斗を連行します

石神

ああ。藤田の仲間と思われる連中も確保済みだ

これより公演中止のアナウンスをし会場の最終点検に入る

氷川は観客の避難誘導にあたってくれ

サトコ

「了解です」

後藤

コイツを引き渡し次第、俺もすぐに戻る

サトコ

「はい!」

後藤

行くぞ!

藤田

「ちっ」

藤田陸斗を連れて行く後藤教官と別れ、私は会場内に続く扉を開けた。


【会場】

サトコ

「今回の公演は都合により急遽中止となります」

「誘導員の指示に従い、落ち着いて移動をお願いします」

観客A

「なにがあったのかしら?」

観客B

「さあ‥設備の不具合とかって話をちょっと聞いたけど」

ざわめきはあるものの、

爆弾や殺害予告に関する情報は漏れていないため騒ぎにはなっていない。

(このまま観客の避難が終われば、無事に全てが片付いたことに‥)

順調だと思いながらも、何かが腑に落ちない。

(何だろう?この違和感は‥何か違うと思い始めたのは、いつから?)

観客を誘導しながら、私はここに来てからのことを順に思い返していく。

(爆弾を探しているときは感じてなかった。そのあと藤田陸斗らしき人物を見つけて‥)

頭に藤田陸斗の顔を思い浮かべ、彼の顔は写真と確かに同じだった。

(藤田海斗と瓜二つ。彼が藤田陸斗であることは疑いようがないはずなのに‥)

ここに違和感を覚えているのだと気が付く。

(どうして?気になるのは、あの人の顔じゃなくて‥)

記憶の中を懸命に探る。

何かが違うとアラームのように訴えているそれはただの勘ではなく、根拠がある気がして。

(石神さん‥石神さんはいつから、この事件のことを意識してた?)

(デスクにあったどんぐり、双子の話‥)

サトコ

「!」

ハッと頭に浮かんだのは、先日行った動物園での石神さんの言葉。

石神

‥一卵性の双子の声は周波数まで似ているらしいな

サトコ

「声‥!」

(さっきの男の声、藤田海斗とは似ても似つかない声だった!)

藤田海斗の声は穏やかさの中に冷たさが隠れるような声だった。

先程の男の声は粗野なだけで、声の裏まで滲むような深い色がなかった。

(まさか、偽物なんてことは‥)

頬が強張り、一瞬にして背筋が凍る。

(顔はソックリだった。あんなに似た人が双子以外にいるわけがない)

(声が似てない双子だっているかもしれない)

(でも‥)

会場内の避難がほぼ終わり、私は‥‥

<選択してください>

A: 本物の藤田陸斗を探す

(あいつが偽物なら、本物の藤田陸斗が近くに居る可能性が高い)

(早く本物を確保しないと、何も解決したことにはならない!)

急いで会場内を確認しようとして、私はハッと動きを止める。

(けど、これは私の推測でしかない。万が一間違っていたら‥)

(先に石神さんの指示を仰ごう)

B: 偽物を連れている後藤を追いかける

(さっきの男が偽物だったとしたら、連行している後藤教官に危険が及ぶ可能性も‥)

(後藤教官に知らせないと!)

後藤教官を追おうと廊下に視線を向け、私は動きを止める。

(でも、これは私の推測でしかない。さっきの男が本物の可能性だって、まだあるんだ)

(ここは石神さんの指示を仰ぐのが先‥だよね)

C: 石神の指示を仰ぐ

(さっきの男が偽物だとしたら、この近くにある本物の藤田陸斗が潜んでいる可能性は充分にある)

(すぐにでも動きたいけど)

この考えは私の推測でしかない。

(あの男が本物の可能性だってあるんだ)

(思い込みで勝手な行動をとることは出来ない。石神さんの指示を仰ごう)

私は呼吸を整えてから、石神さんと話そうとインカムに手を当てた。

その時‥‥

サトコ

「石神さ‥」

???

「待った」

サトコ

「!?」

口を開くとほぼ同時に背中にグッと何かが押し付けられた。

(この感触‥まさか拳銃?)

ドクッと心臓が大きく脈打つのが分かった。

鼓動が早くなり、急に周囲の音が遠くに聞こえ始める。

???

「インカムと銃、全部捨てて。携帯はそのままでいいよ」

「少しでも妙な動きをしたら、ズドン‥だからね」

サトコ

「‥‥‥」

背後を取られているために、男の顔を確認することはできない。

けれど、振り返って確認する必要はなかった。

(この声、藤田海斗と同じ‥やっぱり、さっき連行した男はダミーだったんだ!)

サトコ

「‥あなたの目的は、弟と同じですか?」

藤田

「ふっ、察しがいいね。物わかりのいい人は嫌いじゃない」

「君には役に立ってもらうよ」

銃口を押し付ける力が強くなり、私は藤田の指示のもとに歩かされることになった。

to  be  continued


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