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Season2 カレ目線 石神2話

「結果オーライなんて」

【個別教官室】

石川前長官が誘拐され、その事件の全貌が少しずつ見えてくる。

( “どんぐり” ···)

(わざわざ、これを残すということは俺へのメッセージか)

藤田の過去を洗えば、動機もある程度推測できる。

石神
まだ詳しいことは言えないが‥藤田が関係しているかもしれない
これからそのコンビニへ行って、確かめてくる

サトコ
「私もご一緒していいですか?」

石神
お前は留守を任されているんだろう?

サトコ
「頼まれていた仕事は終わりました」
「それに石神さんよりも私の方が、藤田さんは話しやすいと思います‥」

サトコは寺とコンビニでの出来事を引き合いに出して話を続ける。

(これまではがむしゃらに自分の意志を通そうとすることが多かったが···)

(根拠を持って理論的に攻めてくるようになったか)

これが加賀の元で学んだ結果なのだろう。

サトコ
「まずは私が様子を見に行って、その後石神さんと合流するのはどうでしょうか?」

石神
···言うようになったな

(俺の下にいるだけだったら、ここまで短期間で口が回るようにはならなかった)

これまでのサトコは俺の考えに従い、いわばこちらが敷いたレールの上を走らせていた。

いずれは自分で道を拓かせるつもりだったが···

(加賀のように放り出すやり方は俺にはない)

(ここまで短期間で交渉術を身につけられたのは、加賀の力ということになる)

加賀がそこまで意識して指導していたのかは、わからないが。

己の正義感をただ振り回していた頃に比べれば、公安を目指すものとして大きな進歩だった。

サトコ
「藤田さんは石川さんが誘拐された日に、アルバイトを辞めています」
「あのコンビニでは、長い間働いていたそうです」

石神
そうか···

コンビニから戻ってきたサトコからの報告に、容疑はほぼ確定した。

(次はどう動いてくるか···)

考えていると、サトコが少し躊躇いながら口を開いてくる。

サトコ
「···石神さん。何故、藤田さんが怪しいと踏んだのか、聞いてもいいですか?」

石神
······

ここまで関われば当然出てくる疑問。

だが、それを話していいのかという迷いもある。

(今のサトコは俺の補佐官ではない)

(話せば、深く関わらせることになる)

サトコ
「···颯馬教官と後藤教官に聞きました。石神さんと藤田さんの父親のことを」

石神
あいつら···

サトコ
「石神さんは藤田さんと関わりが深いんですよね?」
「もし、その息子さんが今回の事件に関与していたとなると‥」

迷いはサトコが続けた言葉で意味をなさなくなる。

(そこまで知っていれば、同じか)

一通りの話をして席を立つと、サトコも勢いよく立ち上がった。

その身をこちらに乗り出してくる。

サトコ
「待ってください!私も捜査に協力させてください」

石神
この前も言ったが、お前は今、加賀の補佐官だ

(お前なら、そう言うと思った。今のお前なら、今回の事件で力を発揮することも出来るだろう)

(だが···)

加賀の補佐官であるということが、頑なに一線を引かせる。

(それこそ一人前の公安刑事になっていたら、連れて行くことも出来たんだがな)

サトコに背を向け、ここしばらくずっと胸の底で澱んでいたものが揺れるのを感じる。

(彼女には彼女の刑事としての道がある)

(俺が敷いたレールの上だけを歩いているより、他の道を経験した方が優秀な刑事になる)

(それは今回のことではっきりわかったというのに)

今、サトコを連れて出られないという現実に、蓄積した澱みが込み上げてきて‥

俺は足早に教官室をあとにした。

【ビル】

当初の読み通り藤田の潜伏先を突き止め、石川さんを救出した。

近くのビルまで逃がしたものの、藤田を確保したのは計画通り。

唯一の予想外の出来事と言えばーーー

(まさか、サトコが藤田に向かって飛び出すとは‥)

この仕事に就いてから滅多なことでは動じなくなったが‥

(サトコといると確実に寿命が縮まりそうだ)

石神
···助けられなくて、すまなかった

サトコ
「私なら、大丈夫です!怪我もありませんでしたし···」

石神
そうか。今回はお前の転機で助かったが···

(事件解決後に能天気な顔を見せるのは···黒澤とお前くらいだ)

石神
犯人に向かって、無鉄砲に飛び込むなど言語道断だ
たまたま逸れたからいいものの、もし弾に当たっていたらどうする?

サトコ
「あ、あれは身体が勝手に動いたと言いますか‥」
「それに、そのおかげで誰も怪我をしないで藤田も確保できたんですよ?」

石神
結果だけでものを言うな

サトコ
「うっ···」

石神
俺の指示に従えと言っただろう?

サトコ
「はい···」

石神
反省文だ

先程までの能天気ぶりはどこへやら、サトコは目に見えて肩を落とす。

その素直な反応を微笑ましく思いたいところだが···

(これはサトコの大きな弱点になる)

彼女が考えている以上に、今回の事態は深刻だった。

【屋上】

その日の夕方は、めずらしく薄日が差していた。

石神
······

藤田確保の流れを細部まで思い出し分析する。

サトコが飛び出したタイミング、藤田が銃を撃つ瞬間の表情と動き。

(サトコが無傷でいられたのは運が良かったにすぎないというのに)

(あいつはその幸運の確立というものを考えてもいない)

後藤
石神さん、ここでしたか

石神
ああ。何かあったか

後藤
藤田の件ですが、今は落ち着いているようです。取り調べにも、手こずらないかもしれません

石神
そう願いたいものだな

後藤
ええ

石神
······

後藤
······

石神
···どうした

話を終えても去る気配のない後藤に顔を向ける。

後藤
いえ···石神さんはどう考えているのかと思って

石神
何の話だ

後藤
藤田を確保するときの話です。氷川が銃を持った藤田に飛びかかった···
反省文だけでいいんですか?

(後藤も気にかかったか)

同僚が危ない目に遭う···という意味では、後藤が気にするのも理解できる。

石神
反省文を書かせたところで意味はない
だが、幸運を幸運と思っていない人間に、その奇跡の確立を話しても無駄なことだ

後藤
ですが、あのまま放っておけば···

石神
わかっている。そうするつもりはない

今回の出来事で象徴的だったのは、サトコのあの言葉。

サトコ
『それに、そのおかげで誰の怪我をしないで藤田も確保できたんですよ?』

(結果オーライなどという言葉で笑って済ませることなど出来るはずもない)

(一歩間違えば命を失っていた···その危機感があいつにはない)

後藤
無鉄砲なヤツだとは思ってましたが、加賀さんの下からまで飛び出すとは···
前代未聞じゃないですか?

石神
まったくだ。俺も油断していた
結局、最後には俺の指示に従う···そういう甘さがあった

後藤
石神さんも加賀さんも撥ねつける矜持を持っていると考えれば
ある意味頼もしくはあるんですが‥

石神
今はまだ頼もしいなどとは言えない。あれは氷川の大きな弱点だ

後藤
···はい

(あの意志の強さと頑固さは評価に値する)

(だが、加賀の元に置いておけば、今回のような行動はさらに助長されるだろう)

自己責任ーーその言葉の元に加賀は谷底に飛び込む背中を止めることもしないだろう。

(成長できる範囲ならいい。しかし命まで賭けさせるわけにはいかない)

石神
···俺が育てていく。お前も力を貸してくれ

後藤
俺に出来ることでしたら

リスクを背負っているが、大きな成長の見込みがあるのも事実。

公安に新しい風を吹かせる可能性を秘めたサトコを導いていくことーー

それが教官としての任務だ。

(補佐官交代が期間限定のもので助かった)

仕事の面で安堵すると同時に···終わりが見えた交代期間に、

胸の澱みが軽くなっていくのを感じていた。

to  be  continued

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