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彼氏力チェック 石神

お題:落ち込む彼女の慰め方

【階段】

お昼休み。

いつものように鳴子と千葉さんと食堂に向かっていると、ポケットの中のスマホが鳴った。

(あれ、お母さんだ···なんだろう)

鳴子たちには先に食堂に行ってもらい、電話に出る。


『あ、サトコ。今大丈夫だった?』

サトコ
「うん、ちょうどお昼休みだから。どうかしたの?」


『それがね···おばあちゃんが入院したのよ』

サトコ
「えっ···!?」


『一昨日の夜ぐらいから体調崩しちゃってたんだけど、病院に行ったら入院することになっちゃって』

サトコ
「嘘···それで、大丈夫なの?」


『···うん、まあこっちのことは大丈夫よ。とりあえず連絡だけしとこうと思って』

サトコ
「本当?」


『こっちのことは気にしなくていいから、お仕事頑張りなさい』
『もし何かあったら、また連絡するわね』

サトコ
「あっ、お母さん···!」

私の仕事のことを気遣ってか、すぐに電話は切られてしまった。

サトコ
「おばあちゃん、入院しちゃったんだ···」

(今すぐおばあちゃんの顔を見に行きたいけど、講義は休めない···どうしよう)

【個別教官室】

放課後。

石神さんの仕事が片付き、二人分の紅茶を淹れる。

(お母さん、元気なかったな···)

(そういえば···最近、私から電話もしてなかった気がする)

石神
どうした?

サトコ
「あ、いや···」

石神
何かあるなら話せ

サトコ
「······はい。実は···」

サトコ
「···って感じで、もう大丈夫みたいなんですけどね」

石神
······

サトコ
「石神さん?」

石神
大丈夫だという顔をしていないように見えるのは、俺の気のせいか?

サトコ
「はい、母はもう大丈夫だと言って···」

石神
いや、お前のことだ

サトコ
「······」

石神さんに図星を突かれ、私は言葉に詰まる。

(おばあちゃんのことは心配だけど、講義には絶対出なきゃいけないし···)

(でも、おばあちゃんにも会いに行きたい···)

石神
後悔する決断はするな
俺はちゃんと、お前に教えてきたつもりだ

サトコ
「!」

顔を上げると、石神さんは厳しい眼差しをこちらに向けていた。

石神さんの言葉に、背中を押されハッと目が覚める。

サトコ
「石神さん···」
「···やっぱり、おばあちゃんに会ってきます」

私は石神さんの目を真っ直ぐ見て、決断する。

すると、石神さんはフッと優しい表情に変わった。

石神
ああ。行って来い

サトコ
「最近、自分のことばかりだったので、もっと家族に連絡を取っておけばよかった···」
「両親にまで気遣わせてしまって···家族に協力していない自分が情けないです」

優しく微笑む石神さんを見て、さっきまでの緊張が溶けてゆく。

正直な自分の気持ちが、堰を切ったように溢れ出してきた。

石神
気付いたなら、今すぐ電話をかけてやれ

弱音を吐く暇があるなら行動に移せと言わんばかりに、石神さんは再び私の背中を厳しく押す。

サトコ
「はい!母に電話してきます!」

石神
ああ

急いで教官室を出て、すぐに実家の母に電話を掛けた。

サトコ
「石神さん、ありがとうございました」

電話を終えて教官室へ戻り、石神さんの隣に腰を下ろす。

すると、石神さんは優しく私の頭を自分の肩に引き寄せた。

石神
忙しい時ほど気遣ってやらないと、見落としてしまうことも多くなる

ただ慰めるのではなく、石神さんらしい厳しいアドバイスをくれるのが心地よい。

目頭がじんわり熱くなり、さっき堪えた涙が再び零れ落ちそうになってしまう。

石神
一人で抱えきれない悩みなら、俺を頼ってくれてもいい
だから、明日はちゃんとおばあさんに会って来い

サトコ
「っ···石神さん」

石神
ただし、休んだ分の課題は三割増だ。覚悟しておけ

フッと悪戯に笑う石神さんの手が、頭に触れる。

窓から差し込む夕日とその手の温もりが、やけに心に染みたのだった。

Happy  End

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