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彼を誘惑♡ハニートラップ 石神

【街】

石神
待たせたか

サトコ
「いえ、私も今来たところです。それに約束の時間ぴったりですよ」

石神
そうか

待ち合わせ場所で時計を確認する石神さんの腕には、お揃いのペアウォッチがつけられている。

(今日は久しぶりの石神さんとのデート···)

行き先は学校から少し離れた今時めずらしい単館の映画館。

新しいワンピースに高めのヒールを履いて、髪も緩く巻いてある。

石神
映画館はこっちだったな

サトコ
「はい」

(公安刑事を目指す者として、石神さんの彼女として···)

(今日は石神さんにハニートラップを···)

なぜ恋人である石神さんハニートラップを仕掛けることになったというとーー

【廊下】

ある日の昼休み。

昼食のあと、資料室に向かって歩いていると···

鳴子
「一柳教官、ありがとうございました!」


「ああ」

廊下の先では鳴子が一柳教官に一礼して見送っていた。

(鳴子···一柳教官が来てるときは必ず廊下でつかまえてるよね)

(積極的だなぁ)

サトコ
「鳴子、頑張ってるね」

鳴子
「一柳教官に会える機会って、あんまりないから」
「今は女性からアプローチする時代だしね~」

サトコ
「そうなの?」

鳴子
「この間、女性誌の特集に書いてあったよ」
「いきすぎない色仕掛けが男心をグッとつかむんだって」

(いきすぎない色仕掛け···)

鳴子
「ま、教官たちが相手じゃ効果はなさそうだけどね」

サトコ
「距離を詰める時点でハードル高いから···」

黒澤
特に石神さんみたいな冷徹な人には全く効かないでしょうね

東雲
あの人、サイボーグだからね

鳴子・サトコ
「確かに···」
「って、ええ!?」

(いつの間に黒澤さんと東雲教官が!?)

黒澤
ハニートラップで、あの冷徹仮面を崩せる人とかいるんでしょうか?

東雲
少なくとも色気0のお子様には無理だろうね

(な、何で、ここで私の顔を見るの!?)

【映画館】

(······というようなことがあって)

(私が石神さんにハニートラップを仕掛けることになったんだけど)

東雲教官たちを見返したいという気持ちもあるけれど、純粋に自分の力を試してみたくもあった。

(いきすぎない色気っていうと、やっぱりベタだけど···さりげないボディタッチとか?)

石神
席はこの辺りだな

サトコ
「この辺りって···」

(二人掛けのカップルシートばっかり!)

石神
この方がくつろげる

サトコ
「そ、そうですね」

自然と距離が近くなる造りのイス座ると、私の鼓動が駆け足になってくる。

(私がドキドキさせなきゃいけないのに、すでに負けてる!)

(いや、今からでも挽回を···)

今日観るのは私の提案でフランスの恋愛映画。

さりげなく石神さんの肩に身を寄せようとして身体を傾けるとーー

ゴンッ!

サトコ
「···っ」

ちょうど石神さんが体勢を変え、私は肩に思いきりこめかみをぶつけてしまった。

石神
······

(『何やってるんだ』って顔で見られてる!)

小さく笑って誤魔化すものの。

(やっぱり石神さん優勢だ···)

【バー】

映画を観たあとは、近くのお洒落なダイニングバーへと入った。

サトコ
「週末だからカウンターしか空いてませんでしたね」

石神
たまには隣同士で座るのもいいだろう

(でも隣ならちょうどいいかも。自然と距離も縮めやすいし···)

石神
何を飲む?

サトコ
「ええと···」

ドリンクメニューを広げてくれた石神さんと距離が縮まる。

膝がぶつかって顔を上げると、間近で石神さんと目が合って···

暗い照明のなかでぶつかる怜悧な瞳に不覚にも私の方の鼓動が飛び跳ねた。

(もう···惚れた弱みなのかな。私の方がずっと石神さんにドキドキしてるよ···)

【街】

石神さんのスマートな気配りのなか食事を終え、外に出る頃には完全に降伏していた。

(完敗だった···)

敗北を実感している私に、石神さんがその眼鏡を押し上げながら視線を送ってくる。

石神
···今日はどうした。いつもと違うな
何か企んでいるのか

サトコ
「!」
「そこまでお見通しなんて、やっぱり石神さんには敵わないです」
「実は···」

黒澤さんと東雲教官との間にあったことを話すと、石神さんは納得がいった顔を見せた。

石神
そういうことか

サトコ
「石神さんをドキドキさせるどころか、私がずっとドキドキしっぱなしでした」

石神
もうこれで終わりなのか?

サトコ
「これ以上やっても勝ち目がなさそうなので」

私も苦笑で答えながら並んで駅までの道を歩く。

(勝ち目がないなら、最初から無謀なことしないで)

(石神さんとのデートに集中してればよかったかな)

(こんなふうに過ごせる時間は貴重なのに···)

明日も仕事だから、今日は家に帰る予定だった。

けれど駅が見えてくると胸の寂しさが膨れ上がって···私の足は自然に止まってしまった。

サトコ
「まだ···あと少しだけ、一緒にいてもいいですか?」

石神
······

もう終電が近い。

それでも、そう言う私に石神さんは近くのタクシーを止めた。

(え···?)

後部座席のドアが開いて、石神さんが私を振り向く。

石神
···乗れ

サトコ
「!」

それが何を意味するかわからないわけもなく···今日一番心臓が飛び跳ねた。

【石神マンション バスルーム】

(結局、今日は全部石神さんのペースだったな。今も···)

少し手を動かすとチャプ···という水音が響く。

石神さんの部屋に一緒に帰ってきた私は、彼と一緒にお風呂に入っていた。

(時間短縮のためとはいえ、ここまで···)

石神
まったく、お前は···

後ろの石神さんが零れた私の髪を耳にかけながら、小さくため息を吐いた。

サトコ
「石神さん···?」

顔だけで振り返ると、いつもより髪が乱れた石神さんと目が合う。

石神
お前は突発的に大胆なことを言う。爆弾みたいな奴だな

サトコ
「爆弾?」

石神
終電が迫っているのに、一緒にいたい···そんなことを言われて帰せると思うか

サトコ
「あ、あれはつい···」

寂しくて···とは口に出せず、顔を赤くしていると···ふと石神さんの鼓動を背中に感じた。

(あれ?何かいつもより早いような···お風呂に入ってるせい?)

鼓動を確認するように、もう一度振り返り···

サトコ
「···もしかして、石神さんも少しはドキドキしてますか?」

石神
眼鏡をかけていなければ、随分と視界が悪い
だから、問題ないかと思っていたが···

石神さんがその目を細める。

その目には確かに私が映っていて、石神さんが少しだけぎこちなく視線を動かした。

石神
···この距離だと、な

かすかに赤いように見える顔に私の頬も熱くなる。

(ここで、その顔は反則!)

石神
ハニートラップにはかからないが···恋人の罠にならかかってもいい

サトコ
「石神さ···っ」

彼の手があごにかかり、少し態勢を変えて唇が塞がれる。

私を捕えるような口づけに次第に息が上がっていって···

(トラップにかかったのは、私かも···)

クラクラといろいろな意味でのぼせながら、企みの一日は恋人の夜へと変わっていった。

Happy  End

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