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これが俺の愛し方 加賀1話

【待ち合わせ場所】

加賀さんが久しぶりに、丸一日休みになった。

(ここ最近、本当なら休みなのに、急きょ捜査が入ったり、張り込みが長引いたり···)

(ふたりきりで過ごしてなかったから、嬉しいな)

待ち合わせ場所へ向かうと、予想通り、すでに加賀さんが待っていた。

加賀
遅ぇ

サトコ
「すみません。でもいつも言ってますけど、まだ15分前···」

加賀
あ゛?

サトコ
「いえ···」

(加賀さんよりも先に着くには、前の日から待ってないといけないかもしれない···)

(でもこの凄んだ声と顔も、プライベートだと思うと恐怖2割愛しさ8割になるからすごい···)

サトコ
「恋は盲目とは、よく言ったものだな···」

加賀
黙れ

サトコ
「ハイ···」

加賀
散歩ごときで、ちぎれるほど尻尾振ってんじゃねぇ

サトコ
「すみません···」
「って、“ちぎれるほど” !?まさか加賀さん、本当に私に尻尾見えてるんですか···?」

加賀
テメェに尻尾がねぇと、本当に思ってんのか

(あ、あるの···!?)

(加賀さんが冗談を言うとは思えない···まさか)

恐る恐る、自分の背中の方を見てみる。

そこには、本当にはちきれんばかりに揺れてる尻尾が······

サトコ
「···ないじゃないですか!」

加賀
あるわけねぇだろ

サトコ
「冷静に言われると、本気にした自分がものすごく恥ずかしいです···」

加賀
キャンキャン喚くな。行くぞ

さっさと歩き出す加賀さんを、急いで追いかける。

呆れられると分かっていても、久しぶりのデートに頬の緩みは収まらなかった。

【街】

最近新しく出来た話題のショッピングモールへ行く途中、コンビニの前を通りかかる。

そこには、飼い主を待つ犬がつながれていた。

(ふふ···コンビニの中を覗いて、必死にご主人にアピールしてる)

(かわいいな。あの無邪気で純粋な目···)

加賀
テメェと一緒だな

サトコ
「えっ、無邪気で純粋なところがですか?」

加賀
アホ面がだ

サトコ
「アホ面···」
「私、普段、あんな顔して加賀さんを待ってるんですか?」

加賀
そっくりだ

サトコ
「そう言われると妙に親近感が湧くから不思議ですね」

加賀
今度ヘマしやがったら、この犬と同じように放置プレイしてやる

(ほ、放置プレイ···!)

加賀さんなら本当にやりかねないので、戦々恐々としてしまう。

サトコ
「知ってますか···?犬にとって、ご主人に無視されるのが一番つらいんですよ」

加賀
知るか

サトコ
「犬がイタズラするのは、ご主人に構って欲しいっていう気持ちの表れであってですね」
「注目してほしいから、必死に自分をアピールしてるんです」

加賀
さすが犬同士、気持ちが分かるらしいな

(また墓穴掘った···!)

(それにしても、放置プレイなんて嫌だ···!仕事でミスしないように気を付けないと)

加賀
······

こっそり加賀さんの顔を覗き込むと、少し後ろの方を見ながら厳しい表情を浮かべている。

サトコ
「どうしたんですか?何かありました?」

加賀
なんでもねぇ

それ以上聞けないほどぴしゃりと言われて、すごすごと黙り込むしかなかった。

【ショッピングモール】

ショッピングモールでお目当てのお団子を食べたあと、タバコを吸いに行った加賀さんを待つ。

(加賀さん、お団子食べてご機嫌だったな···あんまり表情には出てなかったけど)

(でもなんとなくわかるんだよね、食べた瞬間の雰囲気で、気に入ったかどうかが)

相当柔らかいお団子だったので、それがお気に召したらしい。

このあとはどうしようかと考えていると、ひとりの男性がこちらに近付いてきた。

男性
「すみません、ここから駅までって、どうやって行けばいいですか?」

サトコ
「駅までですか?案内表示が出てると思うんですけど」

男性に、現在地から駅までの道のりを説明する。

なぜかあまり真剣に聞いている様子はなかったけど、とりあえず伝わったようだ。

男性
「おー、なるほど。ありがとうございます」

サトコ
「いえ、お気をつけて」

男性
「ところで···お姉さん、ひとり?」

サトコ
「はい?」

突然変わった話の展開についていけず、思わず首を傾げる。

後ずさる私の手をつかみ、男性がショッピングモールの奥の方を指した。

男性
「向こうにいい店があったんだよ。よかったそこで話さねぇ?」

サトコ
「い、いえ···」

(向こうにいい店が···って、あっちは路地裏の方でしょ!)

(この人、怪しすぎる···勧誘か、まさかのナンパってところかな···?)

こんなところを加賀さんに見られたら、命の危険に晒される。

サトコ
「あの、離してください!こ、困ります」

男性
「そう言わないでさ、ちょっとくらいいいじゃん」

サトコ
「よくないんです!下手すると、あなたにも危険が」

男性
「は?」

(私の恋人に見つかったら、あなたも殺されるかもしれません···)

(なんて言えるはずないし···どうしたら)

サトコ
「とにかく私、恋人を待ってるんです。そろそろ戻ってきますから···」

男性
「大丈夫だって!見つからなきゃ問題ねぇから」

サトコ
「大アリです!」

抵抗しても、力が強くて振り払えない。

捻りあげることもできるけど、犯人でもない人にそんなことをするわけにはいかない。

(どうしよう、このままじゃ連れて行かれるっ···)

加賀
おい、何してんだ

サトコ
「!」

男性
「!!!」

加賀さんの姿を見るなり、男性が慌てた様子で私の手を離す。

そして、何も言わずそのまま立ち去ってしまった。

(助かった···けど、なんだったんだろう?)

加賀
······

サトコ
「あ···」

振り返ると、加賀さんはこの上なく険しい表情を浮かべている。

しまった、と思った時には何もかも遅かった。

サトコ
「あの···今のはですね」
「善良な市民に、道を聞かれまして···それで」

加賀
ほう···
それでテメェは、その “善良の市民” に拉致られそうになったわけか

サトコ
「ら、拉致だなんて···ちょっと、その···強引に引っ張られそうになっただけで」

加賀
チッ

盛大な舌打ちが聞こえ。恐る恐る加賀さんを見上げる。

そこには、眉間に皺を寄せて私を見下ろす加賀さんがいた。

加賀
大人しく “待て” もできねぇ駄犬には、何が必要か分かるな?

サトコ
「お、大人しく待ってましたよ···!他の人についていこうなんて思ってません!」

加賀
ちょっとリードを離すと、すぐうろちょろしやがって

(リードって、犬が散歩してるときの綱のこと!?)

(もうこれ、本格的に犬扱いだ···!)

そのまま、なすすべもなく加賀さんに連行され······

連れて来られたのは、なぜか加賀さんの部屋だった。

(うう、デートが終わってしまった···)

嘆く暇もなく、乱暴にベッドに放り出される。

サトコ
「ぎゃっ」

加賀
テメェの望み通り、放置してやる

サトコ
「え···」

加賀
脱げ

拒否する隙すら与えず、加賀さんが私の服を強引に脱がした。

サトコ
「待っ···な、何するんですか」

加賀
二度と主人に逆らわねぇように、躾け直してやる

(今まで、一度だって私が加賀さんに逆らったことがあっただろうか···!?)

(こんなに従順な犬はいないって自負してるのに!)

必死の抵抗もむなしく、下着とキャミソール姿にさせられる。

ベッドに押し倒され、頭の上で両手をまとめられた。

サトコ
「な、何を···」

加賀
うちの駄犬は、言葉で言ってもわからねぇらしいからな
逃げ出さねぇように、服は没収だ

サトコ
「に、逃げたりしませんから···!返してください!」

必死に懇願する私に、加賀さんが不吉な笑みを浮かべる。

その手が伸びてきて、指先が静かに太ももの内側をなぞっていった。

サトコ
「ひゃっ···」

加賀
さっきの男に、触られてねぇだろうな

サトコ
「あの短時間で、しかも公衆の面前でどこを触られると···」
「ぁっ···加賀さっ···ちょっと、待···」

加賀さんが、キャミソールの裾から手を中に差し入れる。

ウエストから胸元へと上がってきた指先が、私の肌に熱を灯した。

サトコ
「んっ···、っ······!」

加賀
······

焦らすように、指が下着の上から胸の輪郭をなぞる。

身をよじった弾みでめくれあがったキャミソールから、肌が露わになった。

加賀
誘ってるつもりか

サトコ
「ち、ちが···」

私に、覆いかぶさるようにして、加賀さんが唇を肌に這わせる。

もどかしさに腰が跳ね、加賀さんの射抜くような視線が恥ずかしい。

サトコ
「加賀、さ···」

加賀
···大人しくしてろ

ゆっくりと身を起こすと、加賀さんがベッドから離れた。

サトコ
「え···?」

加賀
テメェの躾に必要なもんを買ってくる
勝手に出歩いたら、ただじゃおかねぇ

それだけ言い残すと、加賀さんは服を持って部屋を出て行ってしまった。

加賀さんに与えられた熱は不完全で、キスすらお預けにされた状況に呆然となる。

(···ええ!?この状態で放置!?)

加賀
今度ヘマしやがったら、この犬と同じように、放置プレイしてやる

突然、さっきのコンビニ前でのことを思い出した。

( “ヘマ” って···まさか、ナンパされたから!?)

(じゃあこれ、本当に放置プレイ···!?)

加賀
テメェの躾に必要なもんを買ってくる

サトコ
「躾に必要なもの···」
「何···!?手錠!?鞭!?···首輪!?」

加賀さんが帰ってきた後のことが恐ろしくて、頭が真っ白になっていくのを感じた······

to  be  continued

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