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誘惑ランジェリー 後藤1話

【後藤マンション 寝室】

後藤さんの家で久しぶりに過ごす夜。
ひとつのベッドに入ると沈黙が降りた。

後藤
······

サトコ
「······」

(後藤さん、もう寝ちゃったかな)

彼に腕枕をされ胸に顔を寄せているために、その顔はよく見えない。

(最近、後藤さんも私も忙しかったからな。私も早く寝た方がいいかも)

この腕の中で眠るのも幸せだと思っていると、スッと髪を梳かれた。

その手に促されるように顔を上げると後藤さんと目が合う。

後藤
もう眠いか?

サトコ
「いえ···後藤さんとこうしていると気持ちいいなって思ってました」

後藤
···俺は足りない

サトコ
「え···」

後藤さんの腕が私の身体を上に引き上げる。

彼と視線の高さが同じになると、後藤さんの唇が軽く触れた。

後藤
もう少し起きてられるか?

サトコ
「は、はい···」

(そんなふうに聞かれたら、『寝ます』なんて言えない···!)

後藤
俺はダメだな

サトコ
「え?」

後藤
久しぶりに早く眠れるのに···寝かせてやれない

こうしていることに少しの罪悪感を覚えているのか、彼の眉が軽くひそめられる。
ベッドサイドの灯りだけで見る後藤さんのその表情は、いつもよりも色っぽく見えて。

サトコ
「後藤さんの腕の中で寝るのも好きですけど」
「抱きしめられるのは、もっと好きです」

後藤
サトコ···

後藤さんの腕に手を添えると、彼の手が少し性急になる。
寝間着に借りている後藤さんのシャツのボタンが外され、下着を外すために手が背中に回って···

パチッ!

(ん?今、パチッて···?)

後藤
······

サトコ
「あ、あの···?」

(後藤さん、固まってる?いったい何があったの!?)

その顔を見上げていると、彼は何とも気まずそうな顔をしている。

サトコ
「後藤さん?」

後藤
···悪い、壊れた

サトコ
「え?何が?」

後藤
アンタの下着だ

サトコ
「!」

(ブ、ブラが壊れたってこと!?えええっ!?)

まさかの事態に身体を起こして確認すると、ホックの部分が壊れていた。

サトコ
「すみません···生地が弱ってたのかもしれません」

後藤
いや、俺がもっと丁寧に扱ってれば···

サトコ
「そ、そんなことないですよ!下着は消耗品ですから!」

(そろそろ下着新しくしなきゃと思ってたし、いい機会だから買い換えよう)

【カフェ】

数日後の夕方。
私は大学時代の友人二人とカフェに来ていた。

友人A
「え?下着?」

サトコ
「うん。皆、どれくらいの頻度で買い換えてる?」

友人B
「買い換えてるっていうか、気に入ったのがあったら買い足す感じ?」

友人A
「そうそう。彼に見せたいなーって思う下着とか見つけたら買うよね」

サトコ
「そうなの?」

(そういう基準は考えたことがなかった。後藤さんに見せたい下着なんて···)
(ダ、ダメだ!考えるだけで恥ずかしすぎる···)

友人A
「いきなり下着の話なんて、どうしたの?」

サトコ
「それが、この間壊れちゃって···彼が外すときに」

友人B
「ああ、そういうアクシデントあるよね~。なら彼氏と新しいの買いに行けばいいじゃん」

サトコ
「ええっ!?」

(ご、後藤さんと下着を買いに!?)

友人A
「えー、さすがにそれはちょっと、彼氏嫌がるんじゃない?」

友人B
「私は一緒に買いに行くよー。意外なカレの好みとかわかっていいよ」

サトコ
「意外なカレの好みって···?」

友人B
「実は派手目の下着が好きとか、セクシーなデザインが好きとか」

(後藤さんの下着の好みなんて全然分からないし、考えられない···!)

以前にベージュの下着を見られたこともあったけれど、
後藤さんはあまり気に留めていなかった気がする。

(ていうか私が一方的に気にして、後藤さんには笑われたっけ)

友人A
「まあ、彼氏が嫌がらないならいいけどさ、カップルで買いに来てる人、結構見るし」

サトコ
「そうなんだ···」

(でも、後藤さんは嫌がりそうだよね。女性の下着売り場なんて)

無理だろうと思いながらも。

『彼の下着の好み』というワードが頭の中に残ってしまった。

【駅ビル】

それから数日後。

後藤さんの家に泊まる夜、私たちは駅ビルに買い物に来ていた。

後藤
あとは地下で食べ物を買って帰るだけか?

サトコ
「そうですね。今日は何が食べたいですか?」

後藤
和食もいいが中華もいいな

(久しぶりに餃子もいいよね)

そんなことを考えながらエスカレーターに向かっていると、カラフルなお店が見えてきた。

(あ、下着屋さん。そういえば、新しいの買わなくちゃ)

下着を見て思い出すのは、先日友人とした会話。

友人B
『私は一緒に買いに行くよー。意外なカレの好みとかわかっていいよ』

サトコ
『意外なカレの好みって···?』

友人B
『実は派手目の下着が好きとか、セクシーなデザインが好きとか』

(後藤さんの好み、知りたいかも···)

後藤
どうした?

不意に足を止めた私を後藤さんが振り返った。

サトコ
「あの、買い物···」

後藤
何か欲しいものがあるのか?

サトコ
「あれを···」

後藤

私の視線の先を見て、後藤さんが見事に固まった。

サトコ

「い、一緒に買いに行きませんか?」

後藤
······

サトコ
「なんて、はは···っ」

後藤
俺は···

固まっていた後藤さんがぎこちなく視線を逸らした。

その顔はどことなく赤い気がする。

(ダメに決まってるよね!私ったら、何て事を···)

サトコ
「す、すみません!変なことを言って···!」
「すぐに終わらせるので、本屋さんででも待ってていただけると···」

同じフロアにある本屋さんに視線を送ると、後藤さんが私の腕をつかんだ。

後藤
···いや、俺の責任だからな

サトコ
「え?」

後藤
行こう

サトコ
「ええっ!?」

(せ、責任って···そこまで言うほどのこと!?)

まるで潜入先にでも向かうように視線を鋭くした後藤さんは···
私の腕を引いて下着屋さんへと入っていった。

【後藤マンション 脱衣所】

後藤さんと下着を買った日の翌日の夜。

私は洗いたての新しい下着を手にバスルームに来ていた。

(こんな時に限って二晩泊まる約束だったなんて···いや、別にいいんだけど!)

(後藤さんに見せるための下着なんだから···!)

シャワーを浴びて新しい下着をつけると、今さらながらにドキドキしてくる。

(でも、真面目な後藤さんの性格を考えたら当たり前なのかも)

サトコ

「本当に···この下着でよかったのかな?」

鏡に映る自分の姿を見て考えていても答えが出る訳もなく。

(覚悟を決めるしかない!)

私は深呼吸をすると、下着の上に後藤さんのシャツを羽織った。

【寝室】

(昨日と同じ夜なのに、緊張する···)

サトコ
「お風呂、ありがとうございました。気持ちよかったです」

後藤
ああ

ベッドで本を読んでいた後藤さんが視線を上げる。

後藤
······

サトコ
「か、髪、ちゃんと乾かしました?」

後藤
ああ。アンタは?

サトコ
「乾かしました」

後藤
······

サトコ
「······」

髪に軽く触れて答えると短い沈黙が降りる。

(後藤さんもわかってるよね?私が一緒に勝った下着つけてること···)

少し緊張しながら、ベッドに入る。

サトコ
「あの···昨日は慣れないことに付き合わせてしまって、すみませんでした」

下着のことに触れないのもかえっておかしい気がして、私は後藤さんの顔を見ずに呟く。

後藤
いや···経験になった

後藤さんの手が私の肩にかかり引き寄せられる。
近い距離で見つめ合うと、熱を帯びたような後藤さんの目と出会った。

サトコ
「嫌じゃありませんでしたか?」

後藤
まあ、度々入るのは難しそうだけどな

サトコ
「そうですよね。ありがとうございました、私のお願いを聞いてくれて」

後藤
アンタの望みなら、出来るだけ叶えたい

後藤さんの手がスッと私の髪を梳いて頭の後ろに回る。
そのまま唇が重なると、抱きしめる腕の力も強くなった。

サトコ
「んっ···」

後藤
······

何度か触れるだけのキスが繰り返される。
感触を確かめ合うような口づけは互いの温もりを伝え合うようだった。

サトコ
「後藤、さん···」

後藤
ん?

唇の端に軽く落ちたキスは頬へと滑り、目元へと移る。
その間にも後藤さんの手はシャツの下に伸びてきて···ふと彼の手が止まった。

(後藤さん?)

後藤
そういえば、いろいろ試してたみたいだが···何を選んだんだ?

主語が抜かれた言葉に、それが下着の話だと一拍遅れて理解する。

(見る前にわざわざ聞いてくるって···後藤さんは無自覚なんだろうけど)

口にすることの恥ずかしさを覚えながらも、後藤さんの耳に唇を寄せる。

サトコ
「······です」

後藤

コソッと耳打ちすると、後藤さんは軽くその目を見張った。

サトコ
「その、好きって言ってたので···」

後藤
······

(や、やっぱり好みの下着を買うとか、あざと過ぎた!?)

(それか好みじゃなかったとか···)

サトコ
「あ、あの、電気を消して···」

このあと下着を見られるかと思うと恥ずかしくて、部屋の明かりを消そうとすると、

後藤
サトコ

後藤さんの手が伸びてきて、私の手を掴んだ。

サトコ
「後藤さ···んっ」

そのままベッドに押し倒され、言葉を飲み込むように唇を塞がれる。

サトコ
「んっ···っ」

後藤
······

両手がシーツに縫い止められ身動きが出来ない。
先程のように触れるだけのキスではなく、初めから貪るような深い口づけだった。

(こんなキス···っ)

いつもどこか壊れ物にでも触れるように優しいのが、後藤さんの手と唇だった。
けれど今は吐息まで飲むように絡め取られ、息ができなくなる。

サトコ
「後藤っ···さん···?」

後藤
明かりを消した方がいいのは、俺かもな

サトコ
「え?」

口づけを解いた後藤さんが、その手を額に当てた。

後藤
余裕のない顔、してるだろ

自信を持て余すように視線を逸らせる後藤さんを見ると、その顔をもっと見たくなる。

サトコ
「私の好きな後藤さんです···」

後藤
アンタ···

その頬を両手で包んで視線を合わせると、すぐにまた唇を塞がれる。

後藤
あんまり俺を追いこむな
今のアンタに、そんなことを言われたらーー

言葉は口づけに溶けて、先を急ぐように彼の指がシャツのボタンにかかった。

Happy  End

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