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離れるの禁止! 加賀

【加賀マンション】

日曜日。
おうちデートに誘われて、加賀さんの部屋にお邪魔する。

サトコ
「お邪魔します。あっ、コレお土産のマシュマロです。美味しいって評判のお店なんですよ」

加賀
······

無言ながらも早速1つ口に放り込んだ加賀さんが眉を上げる。

加賀
···悪くねぇな

サトコ
「お口に合ってよかったです!」
「そのかわりという訳じゃないんですけど、実はお願いが···」

加賀
あ?

サトコ
「月曜日までに仕上げなきゃいけない仕事が少しだけ残ってるんです」

加賀
···そういうのは昨日までに終わらせとけ

(うっ)

サトコ
「すっ、すみません!あと2時間もあれば終わりなんですけど」

加賀
チッ···仕事用のPCは持って来てんのか?

サトコ
「はい、それであの、···ここでやってもいいですか···?」

加賀
······

てっきり “このクズが” と罵られるかと思ったけど、

加賀
さっさと終わらせろ

サトコ
「えっ」

加賀
···何か言いたげだな。今からでも取り消してやろうか?

サトコ
「いえっ、とんでもないです。ありがとうございます···!」

(ま、マシュマロ効果···!?)

加賀さんがドカッとソファに座る。

加賀
色気のカケラもねぇ···

(ひっ)

サトコ
「すみません···!すぐ終わらせますから」

2人分のコーヒーを淹れてから、張り切ってPCを取り出す。
リビングのテーブルに置こうとした時、ぽつんと置かれた手錠が目に入った。

サトコ
「これ、どうしたんですか?」

加賀
壊れてるから、一旦持ち帰って来た

サトコ
「ああ、危ないですもんね···」

(現場で使う物に紛れ込んでたら、きちんと身柄確保できないもんね)

納得して、キーボードに指を走らせていく。

パチパチ···パチ···

(この事件とこの事件、共通点がポツポツあるんだよね)
(もうちょっと多角的に見れば、もっと出てくるのかも)
(そうすれば未解決事件の捜査にも光が···)

サトコ
「ぐえっ」

しばらく作業に集中していると、いきなり呼吸が詰まった。
加賀さんが首根っこを掴んで後ろに引っ張ったらしい。

サトコ
「えっ」

振り向くと、加賀さんがPCの画面を覗き込んでいた。

加賀
この2つの事件のどこが引っかかる

サトコ
「殺人の手口です。犯人は1人、エレベーターの中で、同じ薬品を毒物として使用」
「···似てると思いませんか?」
「地理的には距離がありますし、次の事件までに5年も経ってますけど···」

加賀
防犯カメラは···両方とも設置ナシか

サトコ
「はい。そこもちょっと念入りな気がして···慣れたプロの仕業に見えます」
「ちなみに似たような毒物を使った事件は、過去にとある国の諜報組織で前例があって···」
「もしかするとこの事件、その国が絡んでいるのかもしれないなと」

加賀
多少飛躍してるが、一理あるな
毒物のサンプルは残ってんのか?鑑識に問い合わせて···

サトコ
「確認したところ、一応残ってました」

加賀
「 “一応” ?

サトコ
「当時は2つの事件が結びつかなかったとかで、詳しい組成までは分析してなかったそうです」

加賀
まぁ、だろうな

サトコ
「もう一度分析するかは教官たちと相談してからなと···」
「でもかなり時間が経ってますし、正確な結果が出るかどうか···」

加賀
目のつけどころは悪くねぇ。なら、こっちの線から考えてみろ

具体的な細かいアドバイスを受け、分析はどんどん進んでいく。

(な、なんか加賀さんの助言で糸口が見えてきた気がする···!)

作業に没頭していく私に、加賀さんは軽い調子で尋ねてきた。

加賀
これ、誰から頼まれた?

サトコ
「石神教官からです。いい勉強になるからやってみないかって言われまし···」
「!?」

言葉が終わるより先に、なぜか私の内ももをスルリと撫でる加賀さんの手。
深く侵入しようとするのを止めようと、慌てて押さえる。

サトコ
「えっ、あ、あの···?」

いきなり何のセクハラかと見やると、加賀さんの視線は少しの怒気を孕んでいた。

加賀
···つまりテメェは、目の前の俺よりクソメガネを優先したってことか

サトコ
「こ、これも私にとっては仕事で···っ」

加賀さんの顔がぐっと近づく。

加賀
···言い訳とはいい度胸だな

サトコ
「···っ」

肌と服の隙間から入り込む手に、つい力が抜けてしまいそうになる。

サトコ
「ちょっ···まだ、終わってな···」

加賀
クソメガネの用事なんざ、俺といる時にやるんじゃねぇ

サトコ
「···さっきはアドバイス、くれたじゃないですかっ」

加賀
テメェが今、相手しなきゃいけねぇのは誰だ

サトコ
「···っ、でも、あ···」

流されそうになる。
流されてしまってもいいかという、気分になる。
理性を振り絞り、奥歯を噛んでぎゅっと拳を握りしめた。

(···加賀さんのおかげでやっと進展したんだから、やり遂げなきゃ!)

サトコ
「ダ、ダメですからっ!」

ガシャン!

加賀さんの手を止めたい一心で、近くの手錠をかけてしまった。

サトコ
「···あ」

(しまった!)

加賀さんは何とも言えない顔で手錠を見てから、私に冷ややかな目を向けた。

加賀
···テメェ

(ひっ···)

サトコ
「すみません!今外します···って、あれ?」

手錠はがっちりと嵌ったまま、びくともしない。

加賀
クズ。壊れてるっつったろうが

サトコ
「えっ」

( “壊れてる” って、外せない方の壊れてる···!?)

しかも、よりによって利き手にかけてしまった。

(カギがあっても外せないだよね?どうしよう···)

焦る私を、加賀さんは無表情で見やり···

ガチャン

サトコ
「えっ」

気づいた時には、私の左手と加賀さんの右手が繋がっていた。

サトコ
「加賀さん、何やってるんですか!?」

加賀
片手にかけただけで封じたとは言えねぇだろ。お互いにかけるくらいやれ

サトコ
「何を言ってるんですか!?」
「というか、そういう問題じゃないですよね···?」

加賀さんはまったく手錠に怯んでいないらしい。

(いやいや、壊れてるのにコレ···)

このままでは仕事どころか、日常の動作もおぼつかない。

サトコ
「···何とかして外しましょう!じゃないと明日、学校にも行けな···」

加賀
かったりぃ

サトコ
「加賀さーん!?」

加賀
腹減ったな···

サトコ
「もうっ、話を聞いてください!」

加賀
ピーピーうるせぇ。焦って解決すんのか、ああ゛?

ぐっと言葉に詰まった。

(それはそうだけど···)

こっちとしては、加賀さんの冷静さがかえって焦りを呼ぶのだ。

加賀
週明けに学校に行きゃ、何かあるだろ
ここには工具もねぇし、焦るだけ無駄だ

そう言って、加賀さんはゆったりと脚を組む。

(まあ··· “腹が減っては戦は出来ない” 、か)

気付けば、時計は12時を過ぎたところだった。

(確か冷蔵庫の中には何もなかったし···)

サトコ
「出前、取りましょうか」

(デリバリーのチラシ···あった)

サトコ
「ピザとお寿司と中華、どれがいいですか?」

加賀
全部却下

サトコ
「えっ」

加賀
外に食いに行くぞ

加賀さんは怠そうに立ち上がる。

引っ張られて立ち上がりながら、私は茫然と加賀さんの背中を見つめた。

(こ、この人、本気···?)

【店内】

“普通のテーブル席でいいだろ” と言い放つ加賀さんに泣きついて、
なんとか個室のある店にしてもらった。
向かいには座れないから、当然隣り合わせで座ることになる。

(加賀さんのポケットに手を入れてたから、外を歩くときはまだ大丈夫だったけど···)

加賀さんは普段通りの顔でメニューを眺めている。

加賀
牛肉100%のダブルハンバーグか、ステーキか···

手首にかけられた手錠さえなければ、なんてことない姿···だけど。

(加賀さんの神経って超合金で出来てるのかな···)

呆れ半分眺めていると、加賀さんは私を冷ややかに一瞥した。

加賀
何ボケッとしてんだ。さっさと決めろ

サトコ
「すっ、すみません。じゃあ、ハンバーグとグリル野菜の盛り合わせで」

加賀
肉料理専門店で野菜なんざ頼みやがって···

加賀さんがブツブツ言ってるところで、ドアがノックされた。

サトコ
「!」

咄嗟に顔を伏せて手首を引くと、加賀さんが鼻で笑う気配がした。

(手錠!隠したいです!!)

ぐっと引っ張っても、気にしていないのか加賀さんの腕は揺るぎもしない。

店員
「失礼します!ご注文はお決まり···で···」

店員の語尾が不自然に消える。
顔を上げなくても、何を見ているのかは分かった。

加賀
俺はスペシャルハンバーグをダブル、ライス大盛りで

店員
「···かしこまりました。そちらは?」

サトコ
「···ハンバーグとグリル野菜の盛り合わせをお願いします···」

店員
「···かしこまりました」

パタン···

(···気まずすぎる···手錠見られちゃったよね)
(絶対、異常なカップルだと思われた···)

顔から火が出そうな私とは対照的に、加賀さんはゆったりと脚を組みかえる。

加賀
デザートも充実してるな···後で頼むか

(って、今のをもう1回繰り返すつもり!?)
(加賀さんって神経が超合金なだけじゃなくて、心臓にも毛が生えてたりして···)

そう思った瞬間、じろりと睨まれた。

サトコ
「ま、まだ何も言ってません···」

加賀
言わなくても顔に出てる

サトコ
「う···そもそも、なんで外に出たんですか」

(とりあえず、あのまま部屋にこもってるのが一番無難だったのに)

ため息と共に尋ねると、加賀さんは不機嫌そうに眉を寄せた。

加賀
こんなもんのせいで行動を制限されてたまるか
俺は行きたい所に行って、食いたいもんを食う

(···確かに、それが加賀さんかも···)

思わず納得してしまったところで料理が運ばれてきた。
店員の視線はそっぽを向いてやりすごす。

加賀
···チッ

箸を取ろうとして、加賀さんが小さく舌打ちした。

(そうか、利き手じゃないから···)

ぎこちない手つきで箸をつけようとする加賀さん。
しかし何度かトライしても上手くいかず、ついに箸が手からカランと落ちた。

サトコ
「あ、拾います!」

加賀
いい。それよりフォーク

サトコ
「はいっ」

フォークでハンバーグを切って口に運ぶ手つきも、どこかおぼつかない。
私とつながったままの右手を、加賀さんは苛立たしげに眺めた。

サトコ
「あの···両手使って、いいですよ?」

(私はちょっと食べにくくなるけど、こうなっちゃったのは私のせいなんだし···)

加賀
いらねぇ
···チッ

舌打ちしつつ、加賀さんはハンバーグをぐしゃっと切る。

(こんな危なっかしい加賀さん、初めて見たかも···)

自分の置かれた状況を忘れて、ついキュンとしてしまう。

サトコ
「あ、あの、加賀さん···お手伝い、しましょうか···?」

加賀
······

視線をよこされるだけの数拍置いたあと、加賀さんが持っていたフォークを無言で渡される。

サトコ
「ちょっと待っててくださいね」

とはいえ、私も両手は使えないから、ナイフで切ることはできない。

出来る限り丁寧にフォークで切って、加賀さんの口元に運ぶ。

サトコ
「ど、どうぞ···」

加賀
······

ゆっくり味わってから、また口を開ける。

(こういうのって何度やっても、緊張するな)
(···そうだ。このやり方なら、野菜も食べてくれたりして)

普段の意地悪への仕返しも兼ねて、付け合せをフォークに刺す。

加賀
···何のつもりだ

サトコ
「野菜は身体に良いんですよ」

口元に運んでみたけれど、加賀さんは頑として口を開けてくれない。
私が諦めて手を下ろすと、勝ち誇ったように笑った。

加賀
んなもん必要ねぇ。肉だけでいい

サトコ
「···どうぞ」

加賀
フン

(···と油断させて、不意を突く!)

スイートコーンをライスに混ぜて口に放り込むと、加賀さんははっきりと顔をしかめた。

加賀
テメェ···

右手を上げようとしたら私の左手まで持ち上がってしまい、さらに顔に険しさが増す。

加賀
手錠が外れたら覚えとけ

サトコ
「ひっ」

一事が万事そんな調子で、せっかくの料理も殆ど味が分からないままだった。

【加賀マンション】

食事を終えると寄り道せず、まっすぐ加賀さんの家に帰る。

(疲れた···)
(手錠が外れるまで、ずっとこんな調子なのかな···)

ぐったりとリビングテーブルに突っ伏す。
手錠でつながった手が、くいっと引っ張られた。

加賀
おい、サトコ

サトコ
「···はい?」

バキッ!!

サトコ
「!?」

加賀さんが、自由になった利き手をヒラヒラと振る。

サトコ
「あ、あれ···?なんで···?」

加賀
「 “壊れてる” っつただろうが
こんなもん、最初から力を入れれば壊れる

サトコ
「···!?」
「それならそうと、早く言ってください!」

加賀
ま、なかなか楽しめたな

(じゃあ加賀さんは最初からそのつもりで···?ひどい!)

それに “力を込めたら” とは言っても、それは加賀さん並みの力があってのこと。

(実際私が外そうとしてもビクともしなかったし···)

私はおずおずと加賀さんを見上げた。

サトコ
「あ、あの···」

加賀
ん?

サトコ
「私の手錠も外してください···」

加賀さんの口角が吊り上る。

加賀
ねだり方は今まで身体に教え込んできたはずだ

サトコ
「お···お願いします···」

加賀
じゃなくて。···こういう時はどう言う?

手錠に触れた手が、ゆっくりと腕へ上がってくる。

加賀
···早く

見上げる私に、加賀さんは試すような視線を向ける。

サトコ
「お···」
「お願いします···助けて、ください···っ」
「そのかわり、加賀さんの言うことを何でも聞きます!」

加賀さんは笑みを深めた。

加賀
上出来だ。···そのまま動くなよ

ガシャン!

多少の痛みと引き換えに、手錠はあっけなく外れた。
喜ぶ暇もなく抱き上げられる。

サトコ
「!?」

加賀
大人しくしてろ

サトコ
「···っ」

加賀さんは私を横抱きにしたまま、真っ直ぐ寝室へ向かう。

【寝室】

私をベッドに投げるように置いて、すぐに加賀さんも上がってきた。

口角を吊り上げた笑顔に、ぎゅっと胸が苦しくなる。

加賀
鏡で見せてやろうか、その顔···

サトコ
「ゃ···」

指先が鎖骨をなぞり、そのまま胸元へと忍び込み···
鼓動がバクバクとうるさくて、私はぎゅっと目を閉じた。

加賀さんの求めに必死に応えるうちに、窓の外はすっかり暮れてしまった。
ようやく解放された私は、ぐったりと机に突っ伏した。

(せっかくの休日がこんな形で終わっちゃったよ···)
(そりゃ加賀さんとずっと一緒にいられたのは嬉しいけど···)

はかなく消えた計画を悲しんで、つい余計な言葉がこぼれる。

サトコ
「私にもっと腕力があれば···」

加賀
「 “力があれば、俺に助けを求めなくても済んだ” ?

サトコ
「!」

加賀
なるほどな···
テメェがかけた癖になぁ

サトコ
「いえっ、言ってな···加賀さん!?」

加賀さんは私の両手を取り、手近にあったリボンをくるくる巻きつける。

加賀
動くな

サトコ
「···っ」

目で射すくめられているうちに、ゆるく両手首を結ばれてしまった。

(このリボン、マシュマロの箱についてたヤツだ)
(ようやく自由になったと思ったのに···)

おまけに加賀さんの所有物扱いされているようで、
悔しいような···ちょっと嬉しいような···いや、やっぱり悔しい。

(···ほどこうと思えばほどけるけど)
(いや、勝手にほどいたりしたら···何されるかわからない!)

なんだかんだ従順になってしまう私の気持ちを知ってか知らずか
加賀さんは低く笑って、再びのしかかってくる。
まだ汗ばんでいる肌に手が這い、敏感な箇所を的確に刺激してくる。

サトコ
「···あっ」

加賀
不満げだな

サトコ
「そ、そんなこと···んっ」

加賀
···いいから、もっと力抜け

私の弱点が、加賀さんによってひとつひとつ開かれていく。
思わず身をよじった時、加賀さんの手首にかすかな手錠の痕が見えた。

(ということは、私の手首にも···?)
(明日になっても残ってたらどうしよう···)

加賀
······
···何考えてる

サトコ
「えっ、あ···」

不安も指も絡め取るように、大きな手がしっかりと私の手を握る。

(あったかい、優しい手···)
(なんか···加賀さんには何もかもお見通しなんだよね···きっと)

手錠はとっくに外れている。
でも手錠で繋がれていた時よりも、こうして力強く手を握ってくれている時の方が、
加賀さんの心を近くに感じられているような気がした。

サトコ
「···離さないでほしいって、思いました···」

加賀
······

ゆるく縛られた手を、加賀さんの手がシーツに押し付ける。

加賀
···誰が離すかよ

サトコ
「···んっ」

耳元で囁かれたと思った次の瞬間には、再び加賀さんの手に酔わされてしまう。
教え込まれた通りに声を零す私を、加賀さんは朝まで離さなかった。

Happy  End

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