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テーマパーク 颯馬

(えっ、颯馬さん?)

難波
どうした、颯馬
黒澤への制裁はもういいのか?

颯馬
その件はあとで『個人的』にさせてもらおうかと
それより、不審者を見かけたので、これから氷川さんと2人で探ってきます

(えっ···)

颯馬
もっとも私の『勘違い』の可能性も高いので皆には内密に願えればと

難波
···そうか
ま、勘違いじゃなかったときだけ報告するように

颯馬
わかりました。では···

サトコ
「あ、あの···」

颯馬
皆と過ごすのはもう十分でしょう
それとも···
俺と2人きりになるのは不満?

サトコ
「いえ、とんでもないです」

思わず背筋を伸ばすと、颯馬さんは「ふふ」と笑みをこぼす。

颯馬
では、行きましょうか
このパークで一番刺激的なアトラクションに

(刺激的···)
(ってことは絶叫系マシンってこと?)
(それとも、フリーフォールタイプのスライダー?)
(ああ、でもゴーカートかも···)

【観覧車】

颯馬
さあ、着きましたよ

(あれ、ここって···)

サトコ
「観覧車···?」

颯馬
そうです。観覧車ほど刺激的な乗り物はないでしょう?

(···そうなの?)

颯馬
ああ、でもかなりの待機列ができていますね
まずは並びましょうか

サトコ
「はい···」

(どうして観覧車が『刺激的』なんだろう)
(もしかして、ここのパーク限定でなにかあるとか?)
(でも、パッと見た感じだとごく普通の観覧車っぽいよね)

疑問に思いつつも、ひとまず長い列の最後尾に並ぶ。

サトコ
「ずいぶん人気なんですね」

颯馬
ここの観覧車は都内を一覧できますからね
しかも、一度乗ればたっぷり20分間も楽しめますし

サトコ
「20分···けっこう長いですね」

(どうりでカップルだらけなわけだ)
(きっと、夕暮れ時や夜景が見える時間帯だともっと並ぶんだろうなぁ)

サトコ
「···くしゅん!」

颯馬
寒いですか?

サトコ
「いえ、そんなことは···」
「くしゅんっ!」

颯馬
···なにか温かいものでも買ってきましょう
並んでいる間も冷えますからね

サトコ
「だったら私が···」

颯馬
女性を走らせるようなことはしませんよ
貴女はここで待っていてください

サトコ
「···はい」

(こういうときの颯馬さんって、やっぱり大人···)
(ていうか、紳士だなぁ)

正直、男の人にこんなふうに接してもらうのはあまり慣れていない。
だからこそ、なんだかくすぐったくなってしまう。

(あ···でも『キャラ耳』をつけるときは、結構はしゃいでいたよね)
(アレはアレで、意外な一面って感じで悪くなかったような···)

サトコ
「···ん?」

(結局私って、どんな颯馬さんも好きってこと?)
(それはそれで、なんていうか···)

辿り着いた結論に、なんだか気恥ずかしくなってしまう。

(と、とりあえず、これ以上あれこれ考えるのはやめよう)
(颯馬さんが帰ってくるまでに、頬が赤いのをなんとかしないと···)

ところが···

(···戻ってこないんですけど)
(どうしちゃったんだろう。まさかトラブルに巻き込まれたとか?)
(それとも、本当に不審者が現れたとか···)

女性
「見て見て、あそこ!あれ、逆ナンだよね」

男性
「逆ナン?」

女性
「ほら、あのジラブーの『キャラ耳』の···」

(『ジラブー』って、たしか颯馬さんがつけてた『キャラ耳』···)

サトコ
「!?」

見ると、颯馬さんが女性3人に囲まれている。
しかも、3人とも颯馬さんと同じ『キャラ耳』を着けていて···

(ジ···ジラブーがいっぱい···)
(じゃなくて!)
(逆ナン!?なんで?)

ひとまず、颯馬さんは当たり障りのない笑顔で彼女たちに対応している。
けれども、女の人たちはなかなか離れようとしない。

(大丈夫だよね、そのうち諦めてくれるよね)
(そもそも女性3人に男性1人だと人数が合わないし···)
(ああ、でも颯馬さんなら3人くらい余裕で···)

サトコ
「!!」

(あ、あのミニスカートの人、あんなに身体を寄せて‥)

たまりかねた私は、列を飛び出すと彼女たちの前に立ちはだかった!

サトコ
「ダメです!」

颯馬
サトコ?

サトコ
「この人は私のです!私の彼です!」
「キャラ耳は違うけど、私の一番大事な人で···」

颯馬
どうしたんですか、そんなに血相を変えて

(え···)

颯馬
···?

(あれ、この状況···)
(なんか···思っていたのとは全然違うような···)

女性1
「あ、じゃあ私たちはこれで···」

颯馬
迷わずに行けそうですか?

女性2
「はい、おかげさまで!」

女性3
「いろいろありがとうございました」

(···ありがとう?)

笑顔で去っていくジラブーさんたちを見送って、私は恐る恐る訊ねてみる。

サトコ
「あの···今の方々はどのようなご用件で···」

颯馬
売店の場所を聞かれただけですよ
『パン美ふりかけ』を買える店を探していたんだそうです

サトコ
「そ、そうですか···」

(私ってば、ひどい勘違い···)

颯馬
やきもちですか?

サトコ
「···っ」

颯馬
ナンパでもされたと思いましたか?

サトコ
「······」

颯馬
大丈夫ですよ
私の目には、貴女しか映っていません

(颯馬さん···)

颯馬
では、列に並び直しましょうか

サトコ
「え···」

(そうだ!私、待機列を飛び出して···)

サトコ
「す、すみません!」

颯馬
いいですよ
貴女と一緒なら、長い列に並ぶのも楽しそうですから
それに、今度はあたたかい飲み物もありますし

サトコ
「でも···」

(やっぱり申し訳ないよ)
(私のせいで、並び直しになっちゃうのに···)

そんな心の声が伝わったのか···

颯馬
···それなら1つだけお願いを聞いてもらいましょうか
今回のお詫びということで

サトコ
「わかりました。どんなお願いですか?」

颯馬
そうですね。では観覧車に乗った時に···

耳元でそっと「お願い事」を囁かれる。

サトコ
「え···いいんですか、たったそれだけで」

颯馬
ええ

サトコ
「···わかりました」

(本当にいいのかな。そんな簡単なことで)

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

【観覧車】

ところが、数十分後···

颯馬
ふふっ。やっぱりそうだ···

サトコ
「···っ」

颯馬
本当に貴女は『ココ』が弱いのですね···

耳元で囁かれて、背筋が震える。

サトコ
「颯馬さん、ダメです···もう···」

颯馬
どうしてですか?
私のお願いを聞いてくれるのでしょう?

サトコ
「そうです···けど···」

(どうして私···OKしちゃったんだろう)
(でも、あのときは、ただ「指に触れたい」っていうから···)

颯馬
面白いものですね
外から見ると、私はただ貴女の手に触れているようにしか見えないはず···

サトコ
「······」

颯馬
まさか、指のこの部分が貴女の敏感な所だったなんて

サトコ
「そ、そんなの···」
「私も今初めて知っ···」
「!」

颯馬さんの指先に、じわじわと力が込められる。
それと同時に甘い痺れのようなものが身体中に広がっていく。

颯馬
ふふ、やっぱり刺激的なアトラクションですね、観覧車は
20分間もこんなふうに楽しめるなんて···

サトコ
「し、刺激的って···」
「そういう意味だったんですか?」

颯馬
ええ、もちろん
世間では『壁ドン』などが騒がれているようですが···
あんなものは風情がないでしょう
女性の心を開くなら、こうやって、ゆっくり···
時間をかけないと···

(そんなこと···言われても···)

サトコ
「颯馬さん···やっぱりダメです···」

颯馬
おや···

サトコ
「ごめんなさい···もうギブアップ···」

颯馬
ふふ、困りましたね
そんな涙を含んだ目で見つめられては···

ちゅ、と目尻に唇が落ちてくる。

颯馬
では、続きは帰ってからにしましょうか

サトコ
「はい···」

ようやく颯馬さんの手が離れて、私はふうっと息をつく。

(どうしよう···今日一番体力を消耗したかも···)
(まさか、観覧車でこんなふうになるなんて···)

颯馬
肩に寄りかかりますか

サトコ
「はい···」

颯馬
では、今のうちにゆっくり休んでください
帰ってからは、この程度じゃすみませんので

(えっ···)

恐る恐る隣を見ると、意味ありげな笑顔とぶつかった。

颯馬
···なにか?

サトコ
「い、いえ···」

鼓動が速くなるのを感じながら、私はこっそり息を漏らす。
頬にのぼった熱を、そっと逃がすかのように。

Happy  End

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