【居酒屋】
珍しく仕事が早めに終わった夜、黒澤に誘われて飲みにやってきた。
黒澤
「久しぶりですねー、みなさんで飲むの」
東雲
「透、ちょっと黙って」
加賀
「酒がまずくなる」
黒澤
「なんでみなさん、オレにそんなに冷たいんですか!」
「この温厚黒澤も、たまには怒っちゃいますよ!」
後藤
「怒ったらどうなるんだ」
黒澤
「ぷんぷん!」
全員
「······」
黒澤
「あれ?かわいくなかったですか?」
颯馬
「···まあ、かわいくはないですが、それが黒澤のいいところですよ」
適当にフォローすると、みんなの冷たい視線から逃げるように黒澤が泣きついてくる。
黒澤
「さすが周介さん!天使!」
「でも周介さんって、ほんとに怒らないですよね」
難波
「確かに、温厚だよなあ」
「プライベートで怒ったことあんのか?」
颯馬
「私も人間ですからね。怒ることくらいはありますよ」
後藤
「あるのか···」
東雲
「あるんだ···」
意外そうなみんなの言葉に、黒澤が勢いづいた。
黒澤
「ちなみに、どんなことで?好きな人を寝取られたとかですか!?」
颯馬
「そんなことでは怒りませんよ」
(···怒るも何もありえませんからね)
難波
「颯馬の場合、寝取る側だろ」
颯馬
「フフ···それは否定しませんが」
石神
「······」
加賀
「······」
颯馬
「冗談ですよ」
「最近怒ったことといえば、そうですね···」
「今日、マルタイを尾行するのに電車に乗ったんですが」
「そのとき、お年寄りに席を譲らない若者がいたんですよ」
難波
「そりゃいかんな。年長者は大事にしないとダメだぞ、お前ら」
黒澤
「オレ、めっちゃ席譲りますよ!」
颯馬
「偉いですよ、黒澤」
「そうそう、それにこの前、若者が乗っていた自転車が年配の女性にぶつかりそうになったんです」
「それに、おばあさんがお店から出ようとしているのに、ドアを開けてあげない若者もいましたね」
「あれはよくない。久しぶりに怒りましたよ」
なぜか、次第にみんなの口数が減っていく。
颯馬
「どうしました?」
後藤
「いえ···」
石神
「···見事に、全部お年寄り関係だな」
黒澤
「周介さんって、もしかして熟女好きなんですか!?」
颯馬
「···熟女?」
後藤
「黒澤···!」
東雲
「びっくりするほど空気読まないね···あえて?」
黒澤
「いや、だって···みなさんもそう思いましたよね!?」
(···なるほど、この微妙な空気はそういうことか)
思わず苦笑しながら、大きく頷く。
颯馬
「年齢に関係なく、どんな女性も魅力的な存在ですよ」
加賀
「······」
難波
「さすが、天然のたらしは言うことが違うな」
黒澤
「オレもそんなこと言ってみたい···!」
妙な盛り上がりを見せる黒澤たちを眺めながら、思い浮かべるのはサトコの顔だ。
(確かに、女性は年齢に関係なく魅力的だけど)
(その中でも、サトコは特別だ)
後藤
「···颯馬さん、なんで笑ってるんですか」
颯馬
「いえ?大したことではありませんよ」
黒澤
「熟女かー!」
「さすが周介さん、守備範囲広いですね!」
難波
「颯馬とは気が合いそうだな」
東雲
「室長は守備範囲が広いんじゃなくて、歳相応ってだけでしょ···」
難波
「ん?なんか言ったか?」
東雲
「いえ、何も」
楽しそうに飲むみんなを微笑ましい気持ちで眺めながら、夜は更けていった。
Happy End