「班長ふたりで陶芸対決」
【陶芸教室】
(なぜ俺が、こんなことを···)
近々、陶芸教室に潜入捜査することになった。
その前に慣れておく必要があると、室長命令で陶芸教室にやって来た。
(···それはいい。仕事だから仕方がない)
(だが···)
加賀
「チッ···めんどくせぇ」
石神
「なぜお前と一緒なんだ」
加賀
「その言葉、そっくりそのまま返してやる」
先生
「はーい、それじゃまずは、何を作るか決めましょう」
「初めての人は、湯飲みやお茶碗、お皿などがオススメですよー」
話を聞いて、サトコと使えるペアの湯飲みを作ろうと決める。
隣を見ると、加賀も同じものを選択していた。
石神
「お前もそれを作るのか···」
加賀
「真似してんじゃねぇ」
石神
「その言葉、そっくりそのまま返す」
加賀
「さっき俺が言った言葉じゃねぇか」
石神
「お前とペアだと思われるのは御免だ」
加賀
「そりゃこっちの台詞だ」
苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、加賀が舌打ちする。
説明を聞きながら、ろくろを使って作り始めたものの、意外と難しい。
(形が整わないな···力を入れると変に歪む)
(もう少し優しく触れるべきか。だがそうすると···)
先生
「石神さん、ちょっと慎重すぎますねー」
「もう少し、指の腹に力を加えないと!」
石神
「指の腹に力を···」
加賀
「······」
こちらを見ていた加賀が、鼻で笑ったのがわかった。
石神
「おい」
加賀
「ずいぶんと不器用だな。まともなもん、作れんのか」
先生
「加賀さんは、ちょっと力入れ過ぎですねー」
「もうちょっと優しく!これじゃ潰れちゃいますよ」
加賀
「······」
石神
「お前も似たようなものだろう」
加賀
「うるせぇ」
火花を散らして、加賀と背を向けあう。
(あんなガサツな奴に、俺が負けるはずがない)
(まあ···どんなものでも、サトコなら喜んでくれるだろうが)
サトコの笑顔を想像しながら、湯飲みを作り続けた。
【教官室】
数日後、出来上がった作品が学校に届いた。
黒澤
「何ですか、この変な形の入れ物」
颯馬
「ああ、この前、石神さんと加賀さんが陶芸教室で作って来たものですね」
東雲
「···何作ったんですか?」
石神
「湯飲みだ」
加賀
「テメェのは湯飲みに見えねぇ」
「なんだそりゃ。壺か?」
石神
「一度に入れられる容積が大きい方が便利だろうが」
「お前こそ、ずいぶんいびつな形だな」
加賀
「あ゛ぁ゛?この芸術がわからねぇとは」
石神
「ふん、ずいぶんと安い芸術だな」
加賀
「サイボーグに理解を求めるだけ無駄か」
加賀と睨み合った時、教官室の電話が鳴り響く。
電話を取った東雲が、笑いを堪えたような表情でこちらを見た。
東雲
「陶芸教室からでしたよ」
「ふたりの作品、入れ間違えたそうです」
石神
「何?」
後藤
「つまり···石神さんが持っているのが加賀さんので、加賀さんが持ってるのが石神さんのか?」
加賀
「······」
思わず、加賀と顔を見合わせた。
(まさか···これが加賀のだったと?)
(俺は、加賀と自分の違いを見抜けなかったのか···!)
難波
「なんだー、葬式みたいな雰囲気になってるぞ」
教官室に入ってきた室長が、作品が入っていた箱を見つけて目を輝かせる。
難波
「おっ、届いたか」
「俺のもあるだろ?お前らより先に行ってきたんだよ、陶芸教室」
室長が開けた箱には、見事な出来栄えの皿が入っている。
颯馬
「室長、お上手ですね」
難波
「そうか?初めて作ったんだけどな」
「で、石神と加賀は···」
俺たちが持っているペアの湯飲みを見て、室長が苦笑いした。
難波
「···相変わらず仲いいな、お前ら」
石神
「···違います」
加賀
「···冗談じゃねぇ」
俺と加賀の声が、同時にむなしく教官室に響いたのだった···
Happy End