「男たちの自炊事情」
【カフェテラス】
ある日の昼休み。
黒澤
「いやー、本当に偶然ですね、後藤さん!」
「お昼休みにたまたま教官室に行って、たまたま後藤さんに会い」
「たまたまランチに誘ったら、たまたま後藤さんもたまたま···」
後藤
「たまたまたまたまうるさいぞ」
黒澤
「いいじゃないですか~、後藤さんとランチするの、三日ぶりですよ」
「一日置きだってつらいのに、この三日間、オレがどんなにしんどかったかわかります!?」
後藤
「わかったから、少し静かにしろ」
仕方なく、黒澤と一緒に食堂にやってきた。
定食を注文して席を探したが、どこも埋まっている。
黒澤
「あっ、あそこ空いてますよ!」
「石神さん、加賀さーん、失礼しまーす!」
これ以上ないほど眉間に深いシワを刻んだふたりに、黒澤は躊躇することなく近づいた。
どうやら石神さんたちも空いている席がなく、仕方なく一緒に座っているらしい。
(あの雰囲気を気にせず近づけるのは、黒澤くらいだろうな···)
黒澤
「いやー、今日の食堂は満員御礼ですね!席がなくて困ってたんですよー」
加賀
「黙れ」
石神
「黒澤、今から食事が終わるまで一言も喋るな」
黒澤
「一言も!?」
東雲
「うわ···なんかうるさいと思ったら」
難波
「おー、なんだなんだお前ら、みんな揃って」
颯馬
「すみません。私も一緒させてもらっていいですか?」
(···なんでみんな集まってくるんだ)
結局、教官室にいるのと変わらないメンバーでの昼飯になった。
パスタを食べながら、黒澤がキラキラさせた目を歩に向ける。
黒澤
「歩さ~ん、久しぶりに歩さんが作るパスタが食べたいです~」
東雲
「今食べてんじゃん、パスタ」
黒澤
「歩さんの美味しいパスタがいいんですよ!」
「アルデンテを思わせる茹で具合、それにあの絶妙な味付け···」
東雲
「アルデンテって言いたかっただけでしょ」
後藤
「そんなに美味いのか?歩のパスタ」
あまりにも黒澤が褒めるので、気になって尋ねてみる。
室長たちも興味深げに歩を見たが、答えたのは黒澤だった。
黒澤
「そりゃもう!お店で食べるパスタみたいですよ!」
「でもパスタだけじゃなくて、料理全般が得意なんですけどね!」
東雲
「なんで透が答えんの」
石神
「食事が済むまで喋るなと言ったはずだが」
加賀
「テメェの両目に箸突っ込むぞ」
黒澤
「エグい!」
(料理か···)
黒澤の話を聞いて、自分の腕前を思い出す。
何を作っても原型をとどめないものが出来上がってしまうので、料理はしないことに決めていた。
颯馬
「今は、料理男子がモテますからね」
難波
「まあ、できて困るもんでもねぇしな」
黒澤
「っていうか、最近はできて当たり前らしいですよ!」
後藤
「できて当たり前···」
(じゃあ、全然できない俺を、サトコはどう思ってるんだ···?)
もしかして呆れられているかもしれないと思うと、苦いものが込み上げてくる。
颯馬
「室長は、つまみ系を作るのが上手そうですね」
難波
「ま~バッと適当に炒めて食うくらい誰でもできるだろ」
「石神と加賀も料理するのか?」
石神
「まあ、それなりには」
加賀
「···気が向けば」
黒澤
「周介さんは、なんでもソツなくこなしますもんね」
颯馬
「そうですね、料理自体好きですから」
「そういえば、後藤は···」
後藤
「······」
無言の俺に、黒澤が大げさにあたふたし始める。
黒澤
「だ、大丈夫ですよ!料理がすべてじゃないですから!」
「後藤さんは料理ができなくても、世界一かっこいいです!」
後藤
「···まだ何も言ってない」
黒澤
「あっ···」
後藤
「···まあ、得意ではない」
(料理か···少し、勉強するか)
(あいつに簡単なものくらい、作ってやれるようにならないとな)
柄にもなく、そう決めた昼休みだった。
Happy End