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お留守番彼氏 加賀

【加賀マンション 寝室】

ある休日の日、目を覚ますと隣にいるはずのサトコの姿がなかった。

(どこ行きやがった···?)

水でも飲みに行ったのかと思ったが、どうやらもう部屋にはいないらしい。

(そういや、今日は日帰りの地方研修に行くって言ってたな)
(声も掛けずにコソコソ行きやがって···)

あいつのことだから、おそらく俺に気を遣って静かに出て行ったのだろう。
だが、それがわかっていても気に入らない。

(あいつが出て行ったことにも気づかねぇとは···)
(最近、徹夜の捜査が続いたせいか···)

加賀
なんにしろ、あとで仕置きだな

きっと今頃くしゃみでもしているだろうサトコを思い浮かべると、口の端が持ち上がる。
もう一度ベッドに横になり、まだ残るサトコの温もりを抱きしめるように目を閉じた。

【校門前】

二度寝から目を覚ますと、着替えて学校へとやって来た。

休みだが、片付けなければならない仕事が山積みだ。

(こんなときに限って、手駒がいねぇとはな···)
(研修なんざ休ませて、こっちを手伝わせりゃよかったか)

だが、行ってしまったものはもうどうしようもない。
仕方なく校門をくぐろうとすると、無表情のサイボーグ野郎に出くわした。

加賀
······

石神
······

向こうもこちらに気付いたらしく、大きくため息をつく。

加賀
チッ

石神
···休みじゃなかったのか

加賀
その言葉、そっくりそのまま返してやる

石神
俺は片付ける仕事があったから来ただけだ

(よりにもよって、休みの日にこいつの顔を拝まなきゃならねぇとは···)
(···今日は、朝からツイてねぇな)

思えば今朝、目が覚めた時にあいつが隣にいなかった時点で、出鼻をくじかれた。

(···仕置き、2倍にしてやる)

心の中でもう一度舌打ちをして、教官室へ向かった。

【教官室】

サイボーグと共に教官室に入ると、室長以外の奴らが揃っていた。

後藤
おはようございます

颯馬
おふたりも休日出勤ですか?

石神
ああ。お前たちもか

東雲
冗談じゃないですよね、せっかくの休みなのに
ところで···もしかしてコレ、ドッキリかなにかですか?

加賀
あ?

東雲
だって、兵吾さんと石神さんが一緒に出勤なんてありえないでしょ

颯馬
今日は午後から大荒れかもしれませんね。天気予報は快晴でしたけど

石神
校門で偶然会っただけだ

加賀
好きでこの仏頂面と一緒に来たわけじゃねぇ

東雲
仏頂面は兵吾さんも同じじゃないですか

加賀
あ゛?

黒澤
おっはようございまーっす!
あれ?おふたりともお揃いで!一緒に休日出勤ですか!?

加賀
うるせぇ

石神
黒澤、少し黙れ

黒澤
ひどい!オレだって好きで休みの日に来たわけじゃないのに!

(騒がしいな···)

自分のデスクに座ると、置いた携帯が光っているのが見えた。
どうやら、サトコからLIDEが来ているらしい。

(··· “おはようございます。今日、頑張ってきますね!” )
( “お土産は、ずんだ餅でいいですか?すごく美味しそうなのを見つけたんですよ” ···)

加賀
···ふん

(研修中に別のことを考えるとは、ずいぶん偉くなったもんだな)

返信しようとした瞬間、黒澤の声が飛んできた。

黒澤
加賀さん、何かいいことでもあったんですか!?

加賀
······

黒澤
だって、今ちょっと笑ってましたよね?

加賀
···黒澤、ちょっと校舎裏来い

黒澤
校舎裏···!?

東雲
ご愁傷様

後藤
喝入れてもらってこい

黒澤
いやいや!加賀さんに呼び出されるとか、喝入れられるってレベルじゃないですよね
もしオレが戻らなかったら、捜索願出してください···

難波
おーい、誰か手空いてる奴いないか?

室長がやってきて、サトコに返事を送るタイミングを逃す。

(···まあ、別に返事なんざしなくても構わねぇが)
(とりあえず、黒澤はあとでシメとくか···)

デスクに山積みの書類に向き直り、心の中で今日何度目かの舌打ちをした。

【商店街】

個別教官室に籠って仕事を片付け、気が付くと陽も傾き始めていた。
気晴らしにタバコを吸いがてら、空腹感を覚えたので行きつけの老舗和菓子屋へとやってきた。

(あいつがずんだ餅を買ってくるなら、褒美になんか用意しとくか)

集中していたせいで、脳が糖分と柔らかさを求めている。
が、店の前に掲げられていたのは “臨時休業” の看板だった。

加賀
···チッ!

通行人
「!?」

(なんだ今日は···厄日か)

加賀
···ふざけやがって

通行人1
「ねえ···あの人、ものすごく怒ってるけど···なんで!?」

通行人2
「シッ···目を合わせちゃダメ!」

(どいつもこいつも···)

いつまでも店の前にいても仕方ないので、近くに停めてある車へと戻った。

【車内】

車のエンジンをかけたとき、再びサトコからLIDEが来た。
“今日、研修が長引いて帰れなくなりました···おやすみなさい”

加賀
······

タバコに火を点けて、煙を吐き出す。
いくら吸い込んでも、苛々は消えない。

(駄犬が···根性で帰ってきやがれ)

アクセルを踏み込み、学校への道を戻った。

【加賀マンション】

仕事を終えて帰宅して、まだ食事を摂っていなかったことに気付く。

(適当に出前でも頼むか···)
(···あいつがいりゃ、外に食いに出たんだがな)

出前の注文を済ませると、窓の前に立って外を眺めながらタバコをふかす。
少しするとインターホンの音が鳴り響き、応答ボタンを押すと
『お届けものです』と女の声が聞こえた。

(···来たか)

出前を受け取るため、玄関のドアを開ける。
目の前に立っていたのは、そこにいないはずの人間だった。

サトコ
「加賀さん!お疲れさまです!」

加賀

サトコ
「驚きましたか!?ギリギリ、終電に間に合ってよかったです!」

加賀
テメェ···

サトコ
「最初から間に合う予定だったんですけど、たまにはサプライズもいいかなって」
「はいこれ、約束のずんだ餅です!」

加賀
······

ひとりで盛り上がるサトコに、苛立ちがピークに達した。

加賀
···テメェのせいだ

サトコ
「え?」

加賀
仕置き、10倍だな

サトコ
「!?」

俺の言葉を聞いた瞬間、サトコが咄嗟に身を引く。
その速さは褒めてやってもいいが、今はそんな気分ではない。

(そもそも、テメェが一声かけて行きゃ、結果は違ってた)
(朝から、人の神経逆撫でしやがって)

胸倉をつかみ、サトコを一気にこっちへ引き寄せる。
無理やり口をキスで塞ぎ、声を出す間もないくらいにかき乱してやった。

サトコ
「っ······!」
「かっ···」

加賀
喚くな

薄目を開けると、必死に俺のキスを受け止めるサトコの顔が見えた。
頬を紅潮させ、微かに開く唇から吐息を零し、呼吸を乱している。

サトコ
「加賀···さ···」

加賀
黙れ

サトコ
「だ···って···」

今朝、柔らかさを求めて手を伸ばした先に、こいつはいなかった。
あの時から感じていた苛立ちは、合わさった唇のおかげでようやく落ち着き始める。

(勝手に出て行って、勝手に戻ってきやがって)
(サプライズなんざ二度と起こそうと思わねぇくらい、今日はきっちり躾けてやる)

つかんだ胸倉を離して、サトコの服を乱す。
肌に指先が触れた瞬間、サトコの腰が震えてその手が背中に回ってきた。

サトコ
「加賀さん、怒ってるんですか···?」

加賀
···さあな

サトコ
「どうして···」

加賀
テメェの胸に聞いてみやがれ

サトコ
「や、やっぱり、サプライズがダメでしたか···」

ベッドに連れ込みながら、サトコの言葉にこぼれそうになる苦笑を抑える。

(気に入らねぇのは、サプライズじゃねぇ)
(···テメェが無断でいなくなるからだ)

腕の中で泣くような甘い声をこぼすサトコの唇を、もう一度塞いでやる。
二度と、離れられないようにするためにーーーー

Happy  End

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