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ふたりの絆 石神2話

【個別教官室】

教官室でお茶を淹れるために電気ケトルの説明書を探していると、あることが思いつく。

(武器の密輸と家電のつながり···接点がないように見えたけど)
(こうすれば気付かれずに武器を運べるんじゃ···)

サトコ
「石神さん」

石神
どうした?

サトコ
「そんなわけないって笑われるかもしれないんですけど···いいですか?」

石神
話せ

サトコ
「三田村の密輸の手口についてです。こうすれば密輸が可能なんじゃないかって···」

石神
ほう···どんな手段だ?

サトコ
「それは···」

<選択してください>

A: 家電の箱を二重底にして武器を隠す

サトコ
「箱を二重底にして、武器を密輸すれば···」

石神
武器は細かいパーツに分けられて入ってきている。二重底にパーツをまとめて隠すのか?

サトコ
「それは···あ!パーツを発泡スチロールの中に埋めれば、かなり自然に運べるんじゃ···」

B: 家電の箱に武器を入れておく

サトコ
「家電の箱に武器を入れておくんです」
「例えばですけど、誰も電気ケトルの箱の中に拳銃が入ってるなんて思わないかなと···」

石神
武器はパーツに分けて入ってきているという話を忘れたか?

サトコ
「あ···」

(そうだった!でも、それだったら···)

サトコ
「緩衝剤の発泡スチロールの中に武器のパーツを隠せば安全かつ自然に運べるんじゃ···!」

C: 発泡スチロールの中に部品を隠す

サトコ
「武器はパーツに分けられて入ってきているんですよね?」

石神
ああ

サトコ
「それで思ったんです」
「緩衝剤の中に隠すようにすれば、家電と一緒に密輸できるんじゃないでしょうか」

石神
······

(そんなわけない···って言われるかな。こんな思い付きみたいな考えじゃ···)

サトコ
「短絡的な考えかもしれませんが···可能性だけでも···」

石神
いや、充分有り得る話だ

サトコ
「本当ですか!?」

石神
家電を運ぶルートにもよるが、出来ない話ではないだろう
あの男の勤務態度を調べたが、無遅刻無欠勤、ひどく真面目な働きぶりだ
武器の販売で金を得ているなら、そこまで真面目に働く理由があるのかと考えていたが···

サトコ
「仕事と密輸に関係があるのだとしたら···」

石神さんが深く頷く。

石神
よく考え付いた

サトコ
「偶然です。このケトルの箱を見ていたら思いついて」

石神
どの事件も込み入った手口で事が運んでいるとは限らない
どんな小さな可能性も見逃さずに捜査は進めるべきだ

立ち上がった石神さんが私の頭にポンと手を置く。

石神
この手の発想は勘頼りになる。お前には “勘” があるのかもしれない

サトコ
「お役に立てるように、磨いていきます!」

武器の密輸に関してはこの線で考え、明日の潜入捜査に臨むことになった。

【車内】

翌日の夜。
石神班は潜入先となるバーの近くに車を停め、車内で打ち合わせをしていた。

石神
颯馬と黒澤は車内で待機。会話は全てこちらにも流れるようになっている
決定的なことがあった場合は、各自の判断で最善の選択をするように

全員
「はい」

黒澤
それにしても、サトコさんの推理は見事でしたね

颯馬
あの善人面にも、そういう理由があるなら納得です

サトコ
「まだ推測の域を出ない話なんですが···」

石神
その件も含め、今回の接触で明確にしていきたい。いいな、後藤

後藤
了解です

サトコ
「今日もよろしくお願いします。後藤教官!」

後藤
ああ

(この間は硬さがあって、充分な出来とはいえなかった)
(石神さんにも指摘されたし、今日はもっと恋人らしくできるように頑張ろう!)

黒澤
出発前に、石神さんと後藤さんの兄弟設定考えたので発表しますね!

サトコ
「石神さんの指示ですか?」

石神
どうしても任せろと言うからな···

黒澤
石神さんは後藤さんの3歳上のお兄さんです。商社勤めで世界を飛び回るビジネスマン
石頭の冷徹課長として社内では煙たがられていますが···

サトコ
「く、黒澤さん?」

石神
······

(そんな設定で大丈夫なの!?)

黒澤
弟である後藤さんのことを誰より大事に思っています。というのも、二人が幼い頃に両親が···

石神
そこまでで充分だ。商社勤めで世界を飛び回っている···その情報だけ出せればいい

黒澤
実は石神兄が弟の婚約者であるサトコさんに思いを寄せてるって裏設定もあるんですけど!

石神
行くぞ

後藤
はい

サトコ
「はい!」

黒澤さんの話を途中で遮り、石神さんはワゴンを出た。

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【バー】

店に入ると、カウンターに三田村の姿を見つけることが出来た。

サトコ
「誠二さん、待ってください」

後藤
ん?

三田村と接触する前に私は後藤教官の腕に自分の腕を絡めた。

後藤
···少し距離が近くないか?

もぞっと落ち着かないように後藤教官が動く。

サトコ
「婚約者なんですから。これくらいしないと」

後藤
···そうか

チラッと石神さんに視線を送ってから、後藤教官が頷いた。
私と後藤教官が寄り添い、その一歩後ろを石神さんが続く。

後藤
三田村さん

三田村
「これは···伊藤さん!さっそく来てくれたんですね」

三田村は私たちが使っている “伊藤” という偽名をすぐに呼ぶ。

(私たちのこと、ちゃんと覚えてたみたい。ここまでは順調···)

サトコ
「今日は誠二さんのお兄さんも一緒なんです」

石神
初めまして。弟たちがいいバーを教えてもらったというので···

三田村
「はは、それは嬉しいな。伊藤さんご夫妻···いや、将来のご夫妻とは私の職場で会いまして」

すでに結構飲んでいるのか、三田村は上機嫌だ。

(これなら上手く話を聞き出していけるかも)

後藤
兄は商社勤めで世界を飛び回っている人で。こうやって飲みに行けるのは久しぶりなんです

三田村
「そうですか。商社にお勤めに···」

私たちの思った通りのところに三田村は食いついてくる。

石神
······

後藤
······

石神さんと後藤教官を見ると、目だけで頷かれる。

(この調子でいいってこと···次はお酒を飲ませて口を軽くしていく···)

サトコ
「私たちも飲みませんか?」

後藤
そうだな。三田村さん、乾杯に付き合ってもらえますか?いい店を教えて頂いたお礼に

三田村
「いやー、それは嬉しいな」

石神
乾杯ならシャンパンだな。4人いれば1本空けられるだろう

シャンパンはビールに比べ度数も高く、飲むペースも早くなる。
酔わせるには一番だと、石神さんがシャンパンを頼んだ。

石神
三田村さんはミツバチカメラで働かれてるとか

三田村
「ええ。家電は家族みたいなものですから」

石神
ミツバチカメラは外国人からも人気がありますよね。実際、接客する機会も多いのでは?

三田村
「そうですね。お陰さまで日常会話だけなら多国籍話せるようになりました」
「そうしたら、いつの間にか友人も増えましてね···」

石神さんは仕事の話しから交友関係へと話を発展させていく。

(さりげなく···さすが石神さん)

後藤
大丈夫か?

サトコ
「え?」

後藤教官が軽く私の背中に手を添える。

後藤
顔、結構赤くなってる

サトコ
「急に飲んだからかも···大丈夫です。まだ飲めますよ」

(ここで飲まなかったら、三田村のペースも落ちちゃうかもしれないし)
(それより後藤教官がせっかく手を添えてくれたんだから、私も···)

<選択してください>

A: 後藤の胸に顔を寄せる

サトコ
「でも、少しだけこうしてもいいですか?」

私は後藤教官の胸に頬を寄せた。

後藤
ああ。無理はするなよ

B: 指を絡めて後藤の手を握る

サトコ
「ほら、手はそんなに熱くないですよ」

私は後藤教官の手を取ると、指を絡めて握ってみた。

後藤
···そうだな

手の熱さを確認すると、後藤教官は私の手を包むように握り直した。

C: 石神の手を頬に引っ張ってくる

(ちょっとだけ石神さんも巻き込んでもいいかな?)

サトコ
「お義兄さんも触ってみてください。そんなに顔は熱くないので」

私は石神さんの手を取ると、自分の頬に触れさせた。

石神
···少し酔ってるんじゃないか?誠二、ちゃんと支えてやれ

後藤
ええ

石神さんが手を引くと、支えるように後藤教官が私の肩を抱いた。

三田村
「はは、本当にお二人は仲が良い」
「お兄さんとしても、こんな素敵なお嫁さんが来てくれれば安心でしょう」

石神
ええ。日本を離れている時間が長いので、これで一安心です

私たちを見て石神さんが微笑む。

(複雑だけど、ここは私も笑顔で応えないと!)

サトコ
「誠二さんのことは任せてください」

石神
頼りにしている

スッとカウンターに手を伸ばした石神さんが手に取ったのは私のシャンパングラスだった。

サトコ
「あ、それ···」

石神
······

声を出した私を石神さんが目で止めた。
そしてそのままグラスに注がれていたシャンパンを飲み干してしまう。

(もしかして、私の分も飲んでくれてるの?)
(石神さんは私よりずっと飲んでるのに···)

三田村
「いや~、伊藤さんのお兄さんなら仲良くなれそうだ」

石神
ぜひ三田村さんの外国のご友人たちにもお会いしたいです

三田村
「それなら、会いますか?今、ちょうど集まって作業を···あ、いや宴会でもしてるんじゃないかな」
「母国に荷物を届けてくれる人を探してる人とかもいましてね···」
「伊藤さんにご協力いただけるなら、ご紹介しますよ」

(これは三田村の仲間たちに会わせてもらえるってこと!)

逸る気持ちを抑え、私は成り行きを見守る。

石神
ええ。仕事で向かう先でいいのなら、できる限りご協力しますよ

三田村
「それは有り難い。では、ええと···」

後藤
今日は友人に車で送ってもらうつもりだったので、それで行きましょう

三田村
「そうですか!それは助かります」

酔っているせいか気も緩んでいるような三田村を連れ、私たちはバーを出た。

【一軒家】

三田村の案内で着いた先は古い一軒家だった。

三田村
「さあ、どうぞ。結構な人数集まってますよ」

黒澤さんと颯馬教官を車に残し、私たちは家の中に入る。

(この先の打ち合わせはない···状況に合わせて、自分の判断で動いていくしかない)

石神
お邪魔します

後藤
お邪魔します

私の前を歩く石神さんと後藤教官の足取りは、しっかりとしていた。

(全然酔ってないのかな。あれだけ飲んだのにすごい)

三田村
「内職とかやってる人もいますが、気にしないでくださいね」

(内職···)

チラッと通りかかったリビングを見ると、
そこには多くの外国人が集まり何やらパーツを組み立てていた。
そして、その周りには家電の箱と発泡スチロールが無造作に転がっている。

(武器の組み立て現場!パーツの密輸方法も予想通りで間違いない!)

石神
······

後藤
······

石神さんたちとも視線を交わす。

(あとは犯人たちを捕らえるタイミングを見るだけ‥)

三田村
「こちらへどうぞ」

石神
失礼します

客間に案内され、私たちは順に入る。

【客間】

三田村
「適当に座っていてください。今、お茶でも···」

石神
お構いなく

三田村はひとりの外国人を呼ぶと、私たちの方を見ながら何やら話している。

(英語じゃない···どこの言葉なんだろう)
(話していることがわからないと、行動が読みづらい···)

石神さんと後藤教官を見ると、二人は三田村を見ていなかった。
二人が見ているのは、閉められたカーテンの隙間。

(何かあるの?···ん?カーテンの隙間から光が···)

何度も点滅を繰り返すそれは月明かりなどではない。
明らかに人工的な光だ。

(こういう時は犯人が逃げないように包囲網を作ってから、動くはず)
(もしかしたら、外の颯馬教官と黒澤さんが突入のタイミングを伝えてるのかも)

石神班のメッセージ伝達手段は、まだ訓練生の私にはわからない。

(わからないなら、石神さんと後藤教官の動きに合わせていくだけ)
(いつ突入の合図が来てもいいように、準備を···)

そう、石神さんたちの動きと外の気配に意識を尖らせた時だった。
ガチャンッ!と客間の大きな窓が破られる!

三田村
「なっ!?」

石神
後藤!

後藤
了解です

石神さんが後藤教官の名を呼んだ次の瞬間には、後藤教官が三田村の身柄を拘束していた。

(名前を呼んだだけで!打ち合わせもしてないのに···)

三田村
「な、何だ、これは···!」

後藤
警察だ。大人しくしろ」

黒澤
逃げようと思っても、外は完全に包囲されてますよ

颯馬
皆さん、落ち着いて逮捕されてくださいね

石神
氷川は混乱している外国人たちを落ち着かせろ。後藤は···

後藤
凶器を持っている者がいないか確認します

颯馬
完成済みの武器は全て押収済みです

狭い一軒家の中は混乱していたものの。

石神班の見事な連携により、無事任務は成功に終わった。

【石神マンション】

その日の深夜···あと少しすれば空が明るくなりそうな頃。
私は石神さんと共に彼の家に帰って来ていた。

サトコ
「お疲れさまでした。無事に解決しそうでよかったですね」

石神
ああ。だが、こんな任務は今回きりだ

鞄を定位置に置いた石神さんがため息をこぼす。

(疲れてるみたい?あんなに飲んだ後に突入すれば、それも当然だよね)

サトコ

「やっぱりお酒、大変でしたか?」

石神
酒?

サトコ
「私の分まで飲んでもらっちゃって···ありがとうございました」

頭を下げると、石神さんが私の顎をつかんだ。
そのままグッと持ち上げられる。

石神
誰も酒の話などしていない

サトコ
「え?それじゃ···」

(何の話だろう。深夜過ぎまでの任務は石神さんにはめずらしくないだろうし···)

問うように石神さんを見つめ返すと、その親指が軽く私の唇に触れた。

石神
兄として、お前と後藤を見ているなど···

サトコ
「石神さん、気にしてたんですか···?」

(全然、気にも留めてないと思ってたのに···)

目を丸くする私に、石神さんは少しバツが悪そうに視線を逸らした。

石神
仕事だからと割り切っていたが、そう簡単にいかないものだな
お前が後藤を “誠二さん” と呼ぶのは···思ったよりもくるものがある

サトコ
「石神さん···」

いつも明瞭な声が少しくぐもる···それだけで彼の気持ちが伝わってきて胸が熱くなる。

(全然気にしてないと思ってたから···)

サトコ
「秀樹さん···!」

石神
何だ、突然···

名前を呼んでその胸に飛び込むと、私はぎゅーっと背中を抱きしめる。

サトコ
「秀樹さん」

石神
だから、何だ

サトコ
「何でもないです、秀樹さん」

石神
全く、お前は···

先程よりも優しい手で顔を持ち上げられ、見上げる石神さんの顔がかすかに赤い気がする。
そっとその眼鏡を外した彼の顔が近づいて来てーー
公安刑事ではない、二人きりの時間が流れようとしていた。

Happy  End

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