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ふたりの絆 後藤1話

【会議室】

教官と共に武器密輸組織を追うことになった私は···

サトコ
「後藤教官、お願いします!」

後藤
ああ。明日の夕方に男が働いている家電量販店に向かおう

石神
これが捜査資料になる。接触までに読み込んでおくように

サトコ
「はい」

後藤
はい

石神教官が資料を配り、会議は終了となった。

【家電量販店】

次の日の夕方。
予定通り、私は後藤さんとターゲットの男が勤める家電量販店に来ていた。

サトコ
「大型の家電量販店って、歩いてるだけで楽しいですよね」

後藤
ああ。乾燥機付き全自動洗濯機、お掃除ロボット···
自動洗濯物たたみ機も遠からず一般販売されるかもしれない。家電は偉大だな

サトコ
「自動洗濯物たたみ機···ニュースで見ましたけど、受注生産開始したんでしたっけ」
「後藤さんも欲しいんですか?」

後藤
あれば便利だと思う。一枚一枚セットするのは面倒そうだが···それも改良されていくだろう

(後藤さんの家事やりたくないレベルは、やっぱりすごい···!)

後藤
といっても、最近アンタとなら料理や洗濯も苦にならなくなってきたけどな

サトコ
「本当ですか?」

頷く後藤さんにソワッと嬉しい気持ちになる。

(いや、今はデートじゃなくて捜査なんだから浮かれるの禁止!)
(気を引き締めて···)

サトコ
「···掃除機のコーナーにいる店員‥あの男ですよね?」

後藤
間違いない。接客中のようだが···

顔と名札を確認しようと近づいていくと···

サトコ
「え、あの男が接客してるのって···」

後藤
···桂木さんだな

SPの桂木さんの姿を見つけ、私たちは足を止め近くの柱に身を隠す。

(こんなところで桂木さんに会うなんて、どうすれば···)

<選択してください>

A: 桂木に話しかける

サトコ
「桂木さんに話しかけますか?さりげなく会話に混ぜてもらえば···」

後藤
ターゲットの前で知り合いと接触するのは好ましくない
会話が聞こえる位置まで接近して様子を見よう
傍から見ることで、気付けることもあるかもしれない

サトコ
「はい!」

B: 隠れて様子を見る

サトコ
「ここは隠れて様子を見た方がいいですよね?」

後藤
そうだな。ターゲットの前で知人と接触しない方がいい
アンタの言う通り、会話が聞き取れる距離に隠れよう

サトコ
「はい」

C: 桂木に電話してみる

サトコ
「桂木さんに電話してみるのは、どうでしょうか?」

後藤
電話して、どうする?

サトコ
「事情を話して代わりに聴取···をお願いするには、長電話になっちゃいますね」

後藤
ここは会話が聞き取れる距離で様子を見よう

サトコ
「はい!」

私たちは桂木さんからは見えない位置を探りながら、徐々に距離を詰めていく。

桂木
「この掃除機、吸引率は悪くはないが···ヘッドの方はどうなってるんですか?」
「自走式かエアタービン式かの違いも実際の吸引率に影響してくるかと思うんですが」

三田村
「こちらのヘッドはですね···」

桂木
「それから騒音値の方も···」

(かなり込み入った話をしてる!?)

サトコ
「何だか難しそうな話をしてるように思うのは、私だけでしょうか?」

後藤
いや、俺も半分くらいしか分からない

サトコ
桂木さん、すごく熱心に掃除機探してるみたいですね
こだわりがあるんでしょうか?

後藤
こだわりというか···あの噂は本当だったのかもな

サトコ
「噂?」

後藤
桂木さんは結構な家電オタクだと聞いたことがある

サトコ
「家電オタク!?そんなジャンルもあるんですね···」

(でも、それも納得かも···)

短い時間見ただけで頷けてしまうほど、桂木さんはすごい熱意で話をしている。

サトコ
「このあとはどうしましょうか?桂木さんが帰った後、男と接触しますか?」

後藤
そうだな···せっかくの機会だ。このあとは桂木さんに話を聞こう
男には明日にでもまた接客できるからな

サトコ
「はい!」

ここから待ち続けること数十分······桂木さんは話を終え、掃除機カタログを手に売り場から離れた。

【カフェ】

桂木
「こんなところで二人に声をかけられるとは思わなかったな」

後藤
すみません。突然

家電量販店を出たところで、私たちは桂木さんに声をかけ近くのカフェに誘った。

桂木
「二人で家電なんか見てたから、てっきり同棲でもするのかと思った」

サトコ
「ど、同棲って···その、あの···」

後藤
カップルを装った方が警戒されないので

突然の発言に言葉に詰まる私に後藤さんが冷静に返してくれる。

桂木
「確かに···こういう時、女性の捜査員がいるといいな」
「ウチは、そら子を用意するのがせいぜいだ」

サトコ
「そら子って、確か···」

後藤
細かいことは気にしなくていい

桂木
「俺の目にもカップルに見えるんだから、大したものだ」

後藤
ええ。氷川となら疑われる気がしません

(ご、後藤さん···)

妙なところで自信を見せる後藤さんに、私の方が恥ずかしくなってしまった。

(いや、別に後藤さんのことを知られたわけじゃないんだから、ここは冷静に···)

サトコ
「桂木さんは、今日非番だったんですか?」

桂木
「ああ。久しぶりの休みで···ずっと買い換えようと思っていた掃除機を見に来たんだが···」
「候補は挙がったが、決定打がなくて今日は買えなかったんだ」

後藤
俺たちが桂木さんを呼び止めたのは、桂木さんを接客した店員について伺いたいんです

桂木
「接客した店員···三田村のことか?」

桂木さんが男の名刺をテーブルに置く。

後藤
はい。この名刺、お預かりしてもいいですか?

桂木
「···ああ、構わない」

後藤
氷川、袋、持ってるな

サトコ
「はい!」

私は手袋をすると、三田村の名刺を押収袋の中にしまう。
それを見て桂木さんも事情を察してくれたようだった。

桂木
「俺が聞いた話では、新卒でミツバチカメラに入社し、以後カメラ、家電、玩具···」
「かなり多くの売り場を経験していると言っていた」

後藤
なるほど···家電売り場だけではないとうことですね

桂木
「店舗間の異動もあったようだが、今の店舗が一番長いと言っていたな」

サトコ
「桂木さん、すごいですね。聞き込みでもないのに、そこまで詳しい情報を得てるなんて···」

桂木
「話してるうちに、自然とな。あの男の家電に対する知識は相当なものだった」
「種類に関わらず、かなり勉強してるんじゃないか?」
「特に内部構造にまで詳しい店員はなかなかいない」

後藤
家電量販店の店員としては優秀ということですね

桂木
「そういうことになるな」

桂木さんからの話をメモに取りながら私も頷く。

(確かに桂木さんの話を聞いていると、問題のない、むしろ優秀な店員に見える···)
(そんな男が、どうして武器の密輸に手を出したりしたんだろう?)

【会議室】

その日の夜。
私と後藤さんは公安学校に戻り、石神さんに報告をしていた。

後藤
···というわけで、今回は直接の接触はできなかったのですが有益な情報は得られました

石神
桂木さんからの話なら、信頼できる情報だな

黒澤
偶然、桂木さんに会うなんてこともあるんですね~

颯馬
張り込みをしていると意外な人物に会うことありますよね
あんぱん咥えて『遅刻、遅刻~』って走っている加賀さんとか

サトコ
「え、ほんとですか!?」

颯馬
ふふ、どうでしょう?

(颯馬教官の笑顔だと本当かウソか、分からない!)

石神
相手の動きは数日張り込んで様子を見ることにする
ローテーションは後藤と氷川
俺、後藤、俺と氷川···この4体制で進める。いいな?

後藤
はい

サトコ
「はい!」

(石神教官とも張り込みを!これは頑張らないと···)

石神
颯馬と黒澤は引き続き調査している件を進めてくれ

黒澤
オレもサトコさんと張り込みしたかったな~

颯馬
私と徹夜で作業は不満ですか?

黒澤
ハハッ、全然不満じゃないですよ~
差し入れ持って行きますね

笑顔のまま黒澤さんは私にコソっと耳打ちする。

サトコ
「無理しないでくださいね」

黒澤
抜け出すいい理由になります

石神
聞こえてるぞ

黒澤
え、何の話ですか~?

後藤
では、さっそく明日から男の張り込みを始めます

石神
ああ

こうして明日から張り込みが開始となった。

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【帰り道】

翌日。
勤務中の情報は桂木さんから得られたこともあり、退勤後を中心に男のあとをつけていく。

サトコ
「8時に会社を出て、本屋とスーパーに寄って帰る···模範的な生活ですね」

後藤
ごく普通の会社員だな

いざという時に怪しまれないよう、私たちはカップルを装いながら歩く。

サトコ
「このあとは真っ直ぐ帰るんですかね?」

後藤
スーパーでアイスを買っていたから、そう長い寄り道はしないだろう

男は築15年くらいのアパートの一室に入って行く。

サトコ
「あそこが三田村の自宅···近所の人に話を聞きますか?」

後藤
いや、まだその段階じゃない。ここで疑われ逃げられても困るからな
今夜は、この近くで張り込みか···

後藤さんは周囲を見回し、アパートが見える人目に付かない路地へと移動する。

サトコ
「真冬じゃなくてよかったですね」

後藤
そうだな。とはいえ遅くなれば冷えるかもしれない。無理はするなよ

サトコ
「大丈夫です!これまでの訓練の結果、見せてみせます!」

後藤
そうか

気合を入れる私に、後藤さんがフッと笑う。
その時···グゥーっと私のお腹が鳴った。

後藤
アンタ、こういう時は外さないな

サトコ
「いえ、あの、これは···腹が減っては戦が出来ぬ的な話でして···」

後藤
そういえば、今日はロクに腹に入れてなかったな。ここに来るまでにコンビニがあっただろう
男も夕飯中はそう動かないはずだ。アンタも食料の買い出しに行って来てくれ

サトコ
「了解です!後藤さん、何か欲しいものありますか?」

後藤
俺が普段食べてるもの、アンタならわかるだろ。任せる

サトコ
「後藤さんがいつも食べている物といえば‥」

<選択してください>

A: 変わり種おにぎり

サトコ
「やっぱり···変わり種おにぎりですか?」

後藤
別に変わり種じゃなくてもいいんだが···アンタが美味そうだと思うのを買ってきてくれ

サトコ
「わかりました。新作がないか探してきますね」

後藤
あとコーヒーを頼む

サトコ
「ブラックと甘いの、どっちにしますか?」

後藤
アンタと飲むなら、甘いやつでいい

B: カロリーブロック緑黄色野菜味

サトコ
「カロリーブロック緑黄色野菜味···ですか?」

後藤
···味までよく覚えてるな

サトコ
「そこが後藤さんなりのこだわりかと思いまして」

後藤
まあ、そうだが···アンタと食べるなら、何もカロリーブロックじゃなくていい
おにぎりでも買ってきてくれ

サトコ
「おにぎりですね。わかりました」

(変わり種おにぎりの新作がないか探して来よう!)

C: 一柳教官の手作り弁当

(ここは張り込みの緊張感を緩めるためにも、軽い冗談でも‥)

サトコ
「一柳教官の手作り弁当···ですか?」

後藤
···本気で言ってるのか?

後藤さんが思い切り顔をしかめる。

サトコ
「冗談ですって!そこまで嫌そうな顔をしなくても···」
「一柳教官のお弁当って美味しそうじゃないですか?」

後藤
だからこそ、腹立だしいんだ

サトコ
「え?」

後藤
···何かのついでにアイツの弁当は食ったことがある。これがまた美味かった
美味いと思いながら、一柳が作ったという事実を受け止めるのは···大変なことだ

サトコ
「そ、そうなんですね···」

(冗談から思わぬ方向に話が行ってしまった!)

サトコ
「じゃあ手軽に食べられるように、おにぎりでも買ってきますね」

後藤

頼む

(後藤さんと食べるなら変わり種おにぎりを探してみようかな)

張り込みを後藤さんに任せ、私は徒歩5分のコンビニへと走った。

サトコ
「お待たせしました!変わりはないですか?」

後藤
特に動きはない。そんなに急がなくても大丈夫だ

走って戻って来た私の肩に後藤さんが手を置く。

サトコ
「いろいろ買ってきましたよ。煮卵おにぎりに、カレードリアおにぎり···」
「それから、ビックリビッグおにぎりと···」

後藤
ビックリビッグおにぎり?何が入ってるんだ?

サトコ
「3種類の具材が入ってるみたいです」

後藤
アンタは変わったおにぎりを買ってくるのが好きだな

サトコ
「後藤さんとだと楽しく食べられるので」

後藤
そうか···そうだな

夕食をおにぎりで済ませながら張り込みを続けていると、段々と身体が冷えてきた。

(夜になってこんなに気温が下がるんだったら、もう一枚着てくればよかった)

後藤
···こっちに来い

サトコ
「後藤さん?」

後藤さんが私を後ろから抱きしめてくる。
馴染んだ温もりと匂いに包まれると、ドキッと鼓動が跳ねた。

サトコ
「ど、どうしたんですか?張り込み中に···」

後藤
風邪でもひいたら捜査に支障が出る。任務遂行のために必要なことだ
それにこうしてた方がカモフラージュになるだろう

サトコ
「ご、後藤さん···」

(たしかに、後藤さんの手も冷たい···)

回された手に自分の手を重ねて温めてみる。
すると後藤さんが少しくすぐったそうな声を漏らした。

サトコ
「後藤さんに風邪ひかせられませんから」

後藤
そうか

(これなら張り込みも頑張れそう!)

身を寄せ合いながら様子を見ていると、向こうから歩いてくる男たちの姿が見えた。

サトコ
「後藤さん、あの男たち···三田村の部屋に行くみたいですよ」

後藤
日本人ではなさそうだな

4人の外国人が三田村の部屋に入って行く。

後藤
写真を···

サトコ
「撮りました!」

後藤
今夜はあの男たちが部屋を出るまで見張ることになりそうだ

サトコ
「そうですね···」

男たちが三田村の部屋を出たのは、日付が変わる少し前。
程なく三田村の部屋の灯りが落ち、私たちは石神教官と交代した。

【家電量販店】

翌々日、私は石神教官と組んで張り込みに出る。

石神
順調に情報は集まっている。お前たちが初日に撮った男たちの身元も間もなく颯馬が割りそうだ

サトコ
「この調子で決定的な証拠を押さえられればいいんですが···」

石神
そうだな。密輸の手段、ルートについても、まだ不明だ
動機はもちろんだが、具体的な流れも押さえたい

サトコ
「はい」

(石神教官との張り込みで失敗したら、後藤さんの顔にも泥を塗ることになる)
(くれぐれも気を付けないと)

サトコ
「ここ数日の張り込みの結果を見て思ったんですが」
「あの男、勤務態度や生活に関しては几帳面で真面目ですね」

石神
ああ。暮らしぶりを見ている限りでは、犯罪に手を染める必要はなさそうに見える

サトコ
「ということは武器マニアとかの類でしょうか」

石神
どうだろうな。黒澤に男の部屋を望遠で撮らせたが、一見ではその手のものは確認できなかった

サトコ
「ということは、別にアジトを構えている可能性も?」

石神
有り得る。お前もなかなか察しが良くなったな

サトコ
「教官たちの指導のおかげです」

勤務中の様子を見に来たけれど、ここでは動きがない。

石神
あまりここに居ても怪しまれる。一度外に出るか

サトコ
「はい」

三田村の退勤時刻を前に、私たちは下の階に向かうエレベーターに乗り込んだ。

【エレベーター】

エレベーターに乗っているのは私たちだけだった。

サトコ
「今日で張り込みは一応終わりますが、このあとは···」

石神
得た情報を整理して、一度会議を開く。必要な証拠が揃っていれば確保に動けるが···
足りない場合は、引き続き三田村の周囲を探ることになる

石神教官の一歩後ろで話を聞き、頷いた、次の瞬間······

ガコンッ!

サトコ
「!?」

エレベーターが止まり、照明が落ちた。
大きな揺れに思わず体勢を崩す。

(あれ?転んだと思ったけど···痛くない?)

石神
大丈夫か?

サトコ
「は、はい···」

(何か床に弾力があるっていうか、温かいっていうか···)

段々と暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと周りが見えてくると···

サトコ
「い、石神教官!」

(石神教官を押し倒してる!)

石神
「···この暗さでは、俺も動くに動けない

突然のエレベーター停止とは別の緊張が私を襲ってきた。

to  be  continued

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