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雨音は愛のMelody 後藤1話



【学校 廊下】

成田
「ふざけるな!」

サトコ
「っ······」

成田教官の怒声が、廊下に響き渡る。
休み時間ということもあり、廊下に出ていた他の生徒たちは遠巻きに私たちのことを見ていた。

成田
「お前は頼まれたことすらまともに出来ないのか!?」

サトコ
「そ、それは、他の教官から緊急の呼び出しがありまして···」

成田
「言い訳をするな!」
「お前がさっさと頼まれていたことを終わらせれば、済む話だろう!?」

(そんな、むちゃくちゃな···!)
(頼まれたときは「手が空いたときにやっておけ」って言ってたのに···!)

成田教官は腕を組み、鼻を鳴らす。

成田
「こんな使えない奴が補佐官だとは、後藤も災難だな」
「···いや、そもそも後藤の教育がいけないのか」
「まったく···あいつはどういう教育をしているんだ?」

サトコ
「!」

(そうだ···私が補佐官である以上、後藤さんにも責任が発生してしまう)
(例えそれが理不尽なことでも、関係ない···)

私はギュッと手を握り、下唇を噛む。

(···もっとしっかりしなきゃ!)

サトコ
「本当に、申し訳ありませんでした!」

私は脇が甘かった自分を戒めながら、深々と頭を下げた。


【寮 自室】

自室に戻り時計を見ると、いつもは資料を前に勉強をしている時間だった。

(今日はもう休もうかな···)

今日の反省点を反芻しながら就寝準備をしていると、携帯が鳴った。
私は通話ボタンをタップして、電話に出る。

サトコ

「もしもし?」

後藤
俺だ。今、大丈夫か?

サトコ
「はい、どうかしましたか?」

後藤
今週末は休みが被っていただろ。どこかに出かけないか?

サトコ
「っ、はい!」

突然のデートのお誘いに、勢いよく返事をする。
それから私たちは行き先を決め、電話を切った。

(ずっと忙しかったし、まともにデートをするなんて、いつ振りだろう?)
(我ながら、単純だなって思うけど···)

昼間はあれだけ落ち込んでいたのに、今の私の心は驚くほど晴れやかだった。

サトコ
「ん~!」

デート当日、目を覚ました私は大きく伸びをする。
これから後藤さんとデートだと考えるだけで、胸が弾んだ。

(少し早く目が覚めちゃったな)

ベッドから降りて、カーテンを開ける。

サトコ
「あれ···?」

(なんか、雲が多い気がする···)
(でも、一応晴れてるし、天気予報で雨のこと言ってなかったし···大丈夫だよね?)


【鎌倉】

サトコ
「美味しい~!」

鎌倉にやって来た私たちは、紫さつまいもアイスクリームを食べながら小町通りを散策する。

サトコ
「後藤さんのアイスは、バニラとのミックスなんですよね」

後藤
食べてみるか?

サトコ
「はい、ありがとうございます!」

差し出されたアイスをひと口もらうと、優しい甘みが口の中いっぱいに広がった。

サトコ
「ミックスも美味しいですね」

後藤
ああ、アンタのもひと口くれるか?

サトコ
「あっ···」

後藤さんは私の手を掴み、パクリとアイスを口にした。
ふいに近くなった距離に、目を瞬く。

後藤
ん、美味いな

サトコ
「後藤さん、口元にアイスがついてますよ」

後藤
ここか?

サトコ
「いえ、反対側の···ちょっとじっとしててくださいね」

私はハンカチを取り出し、口元のアイスを拭ってあげる。

後藤
悪い

サトコ
「ふふ、とんでもないです」
「それにしても、鎌倉って美味しいものがたくさんありますよね」
「紫さつまいもアイスに、シラス丼、ソーセージなんかも人気ですしーー」

後藤
サトコ

サトコ
「っ······」

突然、後藤さんが私の肩を抱き寄せた。
私のすぐ横を、子どもたちが元気よく通り過ぎる。

後藤
週末だけあって、人通りが多いな···

サトコ
「は、はい···紫陽花の時期も被ってるし、余計にそうなんでしょうね」

後藤
······

後藤さんは私を抱き寄せたまま、歩き始める。

(え···!?)

サトコ
「後藤さん···?」

後藤
たまには、こういうのもいいだろ

サトコ
「は、はい···」

(後藤さんって、突然こういうことするよね···)
(ビックリするけど···ちょっと、嬉しいかも)

私は心臓が早鐘を打つのを感じながら、目を細めた。

鶴岡八幡宮を参拝した私たちは、再び鎌倉を散策していた。

後藤
次はどこに行きたい?

サトコ
「そうですね···」
「あっ、ここに行きたいです!大仏がある、えっと···」

後藤
高徳院だな。少し遠いが、ここからなら歩いて行けるだろ

サトコ
「そうですね、せっかくだから色々見てーー」

後藤
どうした?

ふいに足を止めた私に、後藤さんが首を傾げる。
私の目の前に飛び込んできたのは、電柱に貼ってある迷い猫のビラだった。

サトコ
「この猫、ものすごく見覚えがあるような···」

記憶を辿り思い出したのは、公安学校の裏庭で見かけるあのブサ猫だった。

サトコ
「あの猫が、お尋ね猫···?」

後藤
いや、違う。よく見てみろ

サトコ
「んん···?」

後藤
背中の模様と尻尾の長さが違うだろ?

サトコ
「あっ、本当だ!こんなに似ている猫がいるんですね」

後藤
そうだな

サトコ
「それにしても···このビラ、少し色あせてる···」

(だいぶ前から貼ってあるのかな?)
(飼い主さんも心配してるよね。見つかるといいんだけど···)

私たちは一応飼い主さんの連絡先をメモして、その場を後にした。

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

サトコ
「······あれ?」

のんびり歩きながら高徳院に向かっていると、水滴が頬にあたった。
空を見上げると、厚い雲の層が出来ている。

(さっきまで晴れてたのに···)

サトコ
「わっ···」

それから間もなく、ぽつぽつと雨が降り始めた。

後藤
サトコ、こっちだ

後藤さんは私の手を引き、少し離れたところにあるお店の軒先に避難する。

サトコ
「予報では雨なんて言ってなかったのに···少し、濡れちゃいましたね」

後藤
サトコ、これを使え

そう言って差し出されたのは、少ししわくちゃなハンカチだった。

サトコ
「あの、これは···」

後藤
···大丈夫だ、洗濯はしている

そう言って視線を逸らした後藤さんは、少しだけ恥ずかしそうにも見えた。

(後藤さんと出会ってから、かなり経つけどこういうところは変わってないんだな)

サトコ
「ありがとうございます」

後藤
······

濡れた箇所を拭いている間、私たちの間に沈黙が降りた。
しとしとと振る雨の匂いが鼻を掠め、なんだか懐かしい気持ちになる。

後藤
···もう少し、こっちに来い

サトコ
「はい···」

軒先はそこまでスペースが広くないため、私は後藤さんの方へ寄った。
わずかに触れる肩口が、熱を持つ。

(雨に降られて、散々だなって思ったけど···)

(たまにはこうして、ゆっくりした時間を過ごすのもいいよね)

心地よい雨の音に、しばらくの間耳を傾けていると···


「にゃあ」

サトコ
「え?」

(って、あの猫は!?)

サトコ
「後藤さん、ビラに載ってた猫です!」

後藤
ああ、あの模様は間違いない


「にゃっ」

サトコ
「あっーー」

猫は短い鳴き声を上げ、駆け出して行った。

(せっかく見つけたのに、この雨じゃ···)
(でも、ここで投げ出したくない···!)

サトコ
「後藤さん」

後藤
ああ、追いかけるぞ!

サトコ
「はい!」


【住宅街】

私たちは軒先を出て、猫を追いかける。


「にゃ~」

(猫って濡れるの嫌いじゃなかった···!?)
(雨降ってるのに、全然気にしてない···!)

猫が気まぐれに立ち止まったり歩いたりするおかげで、私たちの距離はどんどん縮まっていった。

(もう少しで、捕まえられーー)

後藤
サトコっ、止まれ!

サトコ
「!」

後藤さんの声に、足を止める。
ギリギリのところで信号が赤になり、猫は反対側へと走り去って行く。

後藤
確かこの先の道は、二手に分かれてるはずだ
途中で合流するから、挟み撃ちにしよう

サトコ
「分かりました!」

信号が青に変わり横断歩道を渡ると、私は右の道、後藤さんは左の道へと分かれる。

(そんなに遠くに行ってないといいんだけど···)

キョロキョロと辺りを見回しながら、先へと進む。


「にゃあ」

(···いた!)


「にゃ~」

猫は立ち止まり、大きなあくびをしていた。

(逃げられないように、慎重に···)


「にゃ!」

サトコ
「!」

恐る恐る近づくものの、猫は私の気配を察知したのか走り去って行った。

(あと少しだったのに···!)

サトコ
「ま、待ってーーっ!」

すかさず追いかけようとした瞬間、地面が濡れているせいで足を滑らせてしまう。

サトコ
「うっ···」

すんでのところで踏みとどまるも、足に鈍い痛みが走った。

to  be  continued



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