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雨音は愛のMelody 後藤2話

【住宅街】

(まさか···)

サトコ
「っーー」

一歩踏み出そうとすると、右の足首がズキズキと痛んだ。

(捻っちゃったんだ···)
(···でも、大丈夫。歩けないほど痛いわけじゃない)

サトコ
「今はとにかく、あの猫を追いかけないと···!」


「にゃ~」

サトコ
「もうあんな遠くに!?ま、待って!」

慌てて駆け出し、猫を追う。

サトコ
「はぁ、はぁ···」

(さすがにこの足だと、スピードが出ない)
(それに、このままだと足が持たなーー)

後藤
サトコ!

サトコ
「っ、後藤さん!?」


「にゃっ!」

猫は突然現れた後藤さんに驚き、身を翻す。


「にゃ~···」

(後藤さんの様子をうかがってる···今がチャンスだ!)

サトコ
「つっーー」

猫に忍び寄るも、足の痛みでどうしても動きが鈍ってしまう。

(これくらい、どうってことない!今はとにかく、目の前のことに集中して···)


「にゃあ~!」

サトコ
「あっーー!」

捕まえようとした瞬間、するりと猫が抜けだしてしまう。


「にゃ~!」

後藤
っ、と

猫が走り出そうとするところを、後藤さんがすかさず捕まえた。


「にゃっ!?にゃ~!」

後藤
ほら、大人しくしろ

後藤さんは、腕の中で暴れる猫を優しく撫でる。

後藤
追いかけ回して、悪かったな


「にゃあっ」

後藤
でも、もう大丈夫だ。怖くない
ちゃんと飼い主のとこへ、連れてってやるから


「にゃあ···」

後藤
な?


「にゃぁ~」

後藤さんの優しい声音に、猫はウソのように大人しくなった。


「ゴロゴロ···」

よほどリラックスしているのか、猫は気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
無事捕まえたことに安堵しながら、私は後藤さんの元へ駆け寄った。

サトコ
「さすが後藤さんですね」

後藤
俺の力だけじゃない。アンタが頑張ってくれたおかげだ


「にゃあ」

サトコ
「ふふ、なんだか懐かれちゃいましたね」

後藤
ブサ猫といいこの猫といい、俺は猫に好かれる人間なのか···


「にゃあ」

後藤
フッ、それはそれでいいか

(なんだかんだ言って、後藤さんは猫好きなんだろうな)

猫の首元を撫でる後藤さんがなんだか微笑ましくて、顔がほころんだ。

後藤
飼い主に連絡するぞ

サトコ
「そうですね。えっと···迷子札、ついてませんね」

後藤
逃げてる途中で、とれたんだろ

サトコ
「それじゃあ···」

私は飼い主の連絡先をメモしていたことを思い出し、連絡を取った。

女の子
「みーちゃん!」

待ち合わせ場所に行くと、猫は後藤さんの腕から飛び出して女の子に駆け寄った。

女の子
「もう、どこにいってたの?ず~っとさがしてたんだからね!」


「にゃあ」

女の子が猫を撫でていると、少し遅れて女の子の母親がやってきた。

母親
「この度は、本当にありがとうございます」

後藤
お役に立ててよかったです

女の子
「おねーちゃん、おにーちゃん、ありがとう!」

サトコ
「ふふっ、どういたしまして」

母親
「それじゃあ、行きましょうか」

女の子
「うん!」

私と後藤さんは、去っていく女の子たちを見送る。

サトコ
「あんなに喜んでもらえるなんて···よかったですね」

後藤
ああ」

私たちは顔を見合わせ、微笑み合う。

後藤
そういえば、いつの間にか雨が止んでるな

サトコ
「あ、本当だ···」

雲の隙間から、太陽が顔を出していた。
陽の光を受け、木の葉についている水滴がキラキラと輝いている。

後藤
俺たちも行くか

サトコ
「そうですね」

(っーー)

歩き出した瞬間、右の足首がズキリと痛んだ。

後藤
どうした?

サトコ
「い、いえ···」

(これくらいなら大丈夫って思ったけど、少し痛みが増してるかも)
(でも、久しぶりのデートだし···ここで終わらせたくない)

私は足の痛みを我慢して、笑顔を顔に貼りつけた。

サトコ
「なんでもありません」
「高徳院はここから近いんですよね?さあ、行きましょう!」

後藤
······

元気よく言って歩き出そうとすると、後藤さんは私の手を掴んで足を止めた。

サトコ
「後藤さん···?」

後藤
アンタ、何か隠してないか?

サトコ
「!」

(足のこと、バレてる!?)
(いやいや!そんなことは···)

サトコ
「な、何も隠してませんよ」
「ほら、早く行かないと回る時間がーー、っ!」

変に力を入れてしまい、足が酷く痛んだ。
思わず顔を歪めてしまった私に、後藤さんはため息をつく。

後藤
···やっぱりな。足、怪我してるんだろ?

サトコ
「それは···」

後藤
サトコ

サトコ
「うっ···」

(やっぱり、後藤さんに誤魔化しはきかないか···)

サトコ
「実は、猫を追いかけている時に足を滑らせてしまって···」

後藤
それならそうと、早く言え
お前の気持ちは分からなくもないが、無理をするな

サトコ
「すみません···」

肩を落とす私に、後藤さんは背を向けてその場にしゃがみ込む。

後藤
乗れ

サトコ
「!?」

(これって、おぶされって事···!?)
(後藤さんにそんな事させる訳にいかないよ···!)

後藤
くだらない心配をするな

サトコ
「こ、心を読まないでください!」

後藤
アンタの考えそうなことくらいわかる

サトコ
「でも···」

後藤
別に気を使ってるんじゃない
俺がしたいだけだ

サトコ
「···!」

後藤
ほら、早く乗れ

サトコ
「は、はい···」

私は恐る恐る、後藤さんの背中に乗る。
後藤さんは立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。

後藤
······

サトコ
「······」

お互い服が濡れているせいか、後藤さんの温もりをほぼダイレクトに感じる。
私の足を気遣ってなのか、歩くスピードは緩やかだった。

(後藤さんは、やっぱり優しいな···)
(···今日くらいは、甘えちゃおう)

私は後藤さんの肩口に顔を埋め、逞しいその身体をギュッと抱きしめた。

それからしばらくして、後藤さんが足を止める。

後藤
サトコ、見てみろ

サトコ
「え···?」

顔を上げると、たくさんの紫陽花が咲いていた。
青色や薄紫色、赤みを帯びた紫など、色とりどりの紫陽花に目を奪われる。

(あっ、遠くの方に虹が架かってる···!)

サトコ
「綺麗···」

虹の下には紫陽花があり、まるで一枚の絵のような光景に目を奪われる。
感嘆の声を漏らしていると、後藤さんがフッと微笑んだ。

後藤
雨もたまには悪くないな

サトコ
「そうですね」

柔らかいその声音に、笑みをこぼす。
それから私たちはしばらくの間、素敵なその光景を眺め続けたーー

【後藤マンション】

後藤さんの家に到着して、ソファに下してもらう。

後藤
ここが痛むのか?

サトコ
「はい···」

後藤さんは私の足を取り、優しく手当をしてくれた。

後藤
これでいいだろ。もう無茶はするな

サトコ
「はい。これからは、気を付けますね」

後藤
ああ

私は隣に座る後藤さんの肩に、頭を預けた。

(色々なことがあったけど···)

サトコ
「今日はとても楽しかったです」

後藤
俺もだ

見つめ合い、どちらからともなく顔が近づく。

サトコ
「ん···」

そしてゆっくりと瞼を閉じ、唇が重なった。
労わるような口づけはとても甘く、胸の奥に灯がともる。

後藤
······

キスの合間に、吐息が漏れる。
それから後藤さんは最後に触れるだけのキスをして、顔を離した。

後藤
···この続きは、足が治ったらな

サトコ
「え···?」

後藤
そんな顔をするな

後藤さんは苦笑しながら、私の頭にポンッと手を置く。

後藤
今は、治すことが優先だ

サトコ
「はい···」

(少しだけ、残念だけど···)

後藤さんの優しさを嬉しく思いながら、彼に寄り添う。
私は愛しい人の温もりを感じながら、そっと瞳を閉じた。

Happy  End

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