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雨音は愛のMelody 加賀1話

【加賀マンション】

6月に入ってからというもの、雨の日が多い。
出かけるのも躊躇われて、今日は加賀さんの部屋で手料理を振る舞うことにした。

サトコ
「最近、よく降りますね。今日は一日中、雨予報ですよ」

加賀
······

サトコ
「あ、でも明日からは晴れるらしいです。梅雨明けはまだみたいですけど」

加賀
···おい

サトコ
「え?」

呼びかけられて、窓の外に向けていた視線を加賀さんに戻す。
そこには、忌々しそうに料理の中の野菜をよけている加賀さんの姿があった。

サトコ
「あっ···」

加賀
テメェ···こんなもん入れるとは、いい度胸だな

サトコ
「こ、細かく刻んだからバレないと思ったのに」

加賀
あ゛?

サトコ
「なんでもないです···すみません···」

(最近忙しいせいか、加賀さんの顔色がよくないから)
(少しでも野菜を食べて、元気になってもらいたかったのに)

サトコ
「次はバレないようにやらないと···」

加賀
今度くだらねぇ真似しやがったら、テメェに今年の夏は来ないと思え

サトコ
「それって、命の危険があるってことですか···!?」
「うう···加賀さんのことを思っての行動だったのに」

加賀さんがよけた野菜を、泣くなく食べる。
加賀さんはそれを、冷ややかな目で眺めていた。

加賀
俺に野菜を食わせようなんざ、100万年早ぇ

サトコ
「でも、ちょっとくらいは食べた方がいいですよ」
「いざって時にスタミナがなくなって、犯人を確保できないかもしれないし」

加賀
あり得ねぇな

自信満々の加賀さんの目の前で、野菜を全部食べ終える。
自分の分を食べたあとだったので、いつも以上にお腹がいっぱいだった。

サトコ
「もしこのまま、デ···」
「···じゃない、ふくよかになったら、加賀さんを恨みますよ」

加賀
上等だ

口の端を持ち上げて、加賀さんが私の二の腕に手を伸ばした。
抵抗する間もなくむにゅむにゅと揉まれて、恥ずかしさとくすぐったさに身をよじる。

サトコ
「や、やめてください···!」

加賀
この柔らかさをキープできるなら、太ろうが問題ねぇ
むしろ、俺に無断で痩せやがったら仕置きだからな

サトコ
「私だって体型を気にするお年頃なのに···」

結局今日も、加賀さんに野菜を食べてもらう作戦は失敗してしまった。

(どんなに細かく刻んでも、絶対見つけられるんだよね···)
(よし!こうなったら···)

数日後、加賀さんとの約束の日に再び部屋を訪れた。
部屋に入った私が持っているものを見て、加賀さんが怪訝そうに眉をひそめる。

加賀
なんだその草は

サトコ
「草じゃないですよ。実はこれ、ミニトマトの苗です!」

加賀
······

途中で買ってきたミニトマトの苗を加賀さんに差し出すと、その眉間の皺はさらに濃くなった。

加賀
テメェ···燃やす

サトコ
「お、落ち着いてください!とりあえず話を聞いてください···!」
「ミニトマトって、栽培がすごく簡単なんですよ。お水さえやってればちゃんと育ちますから」

加賀
それがどうした

サトコ
「自分で育てた野菜を収穫して食べる!素晴らしいじゃないですか!」
「これ、ベランダに置いておきますから。毎日水やりしてくださいね」

加賀
興味ねぇな

予想通りの返事に、くじけそうになる。

(でも、ここで諦めちゃダメだ!)
(加賀さんに野菜を食べてもらうためにも、食い下がらないと!)

サトコ
「この子、加賀さんが育ててくれないと枯れちゃうんですよ」
「加賀さんだけが頼りなんです!どうか、立派なミニトマトに育ててやってください!」

加賀
チッ···忌々しいもん持ってきやがって
うちのベランダに草なんざいらねぇ

サトコ
「ミニトマトだって言ってるのに···」

ベランダに置いて、早速お水をやる。
当然のことながら、加賀さんは手伝うことなくただ黙って眺めていた。

サトコ
「これ、私だと思ってかわいがってくださいね」

加賀
テメェは草か

サトコ
「ミニトマトですってば」
「あ、いえ、私は人間ですけどね!」

加賀
···くだらねぇな

サトコ
「そう言わず···ほら、名前を呼べばさらに愛着わきますよ!」
「よーしよし、美味しく育つんだよ。サトコ」

加賀
······
ついに頭わいたのか

サトコ
「ひどい···」

でも『持って帰れ』と言われないところを見ると、苗を置いておくのは許可されたらしい。
とりあえず、今はそれで充分だった。

サトコ
「私が毎日来れればいいんですけど、無理なので···水やりお願いしますね」

加賀
気が向いたらな。それより

サトコ
「···!」

ベランダから部屋に引っ張られて、転びそうになる。
体勢を崩したまま、加賀さんの腕の中に倒れ込んだ。

サトコ
「す、すみません···」

加賀
黙れ

床に押し倒されて、ベランダを開け放したまま、加賀さんが私の身体をまさぐる。
必死に首を振ったけど、慌てる私とは裏腹に、加賀さんは愉しそうだ。

加賀
美味しく育つんだろ?

サトコ
「え···」

サトコ
『美味しく育つんだよ。サトコ』

サトコ
「いや···!あれは、冗談で」

加賀
草よりも、テメェを育てるほうが性に合ってる
···俺好みにな

サトコ
「······!」

押し倒された弾みでめくれたスカートの裾から、加賀さんが手を差し入れる。
両手を拘束されて身動きが取れない私を、じわりとその指先が追い詰めた。

(私よりも、今はトマトを育ててほしい···)
(でも、こんなふうにされたら···)

結局抵抗できず、開いたベランダの窓から外に聞こえないよう、必死に声を抑えた。

そろそろ梅雨も明けそうな、ある日。
加賀さんの部屋にお邪魔すると、いつものように早速ミニトマトを確認する。

サトコ
「あっ、この実、赤くなってきてますね!」

加賀
知らねぇ

サトコ
「加賀さん、やっぱりお水やってくれてないんですか?」

私が数日おきに来て水をやっているものの、あまり長く放置しておくと枯れてしまうかもしれない。

(でも今の時期はまだ雨が多いから、なんとか大丈夫そう···)
(今日も苗の土、濡れてるな。昨日の雨のおかげかも)

サトコ
「それにしても、ひどいですよ···お水もやってくれないなんて」
「私だと思って大事に育ててください、って言ったのに」

加賀
草を育てるなら、テメェの面倒は見ねぇ
草か自分か、どっちか選べ

サトコ
「そんな!」

(やっぱり無理だったのかな、加賀さんにミニトマトを育ててもらおうなんて)
(実がなったら、一緒に食べたかったのに)

しょんぼりしながら、今日も苗に水をやる私だった。

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【寮 自室】

数日後。
講義を終えて、いったん寮に戻って来た。

(今日はこのあと、加賀さんの家に行く約束なんだよね)
(明日は休みだから、泊まっていいって言われてるし···ご飯作って、一緒にDVD観て)

うきうきしながら準備していると、窓の外から激しい雨音が聞こえてきた。

サトコ
「わっ···急に降ってきた!」

テレビ
『今日は、台風並みの低気圧が近づいて来ています』
『大雨と強風にご注意ください。このあとはできるだけ外出を避け、ご自宅で···』

ちょうどついていたテレビの天気予報の画面は、何やら物々しい雰囲気だ。

(台風並みの大雨と強風···)
(まずい···!加賀さんの部屋のトマト、ベランダに出しっぱなしだ!)

居ても立ってもいられず、着の身着のまま部屋を飛び出した。

to be continued

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