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雨音は愛のMelody 加賀3話

~カレ目線~

【加賀マンション】

ある雨の日、サトコが作った料理の中に野菜を見つけて心の中で舌打ちした。
サトコはというと、素知らぬ顔で窓の外を眺め『よく降りますね』などととぼけている。

(クズが···いくら細かくしても、匂いで分かる)

苛立ちながら、野菜をすべて皿の隅に残す。
みじん切りにされていたせいで、腹立たしいほど手間がかかった。

加賀
余計なことしやがって···

サトコ
「だって、出来れば野菜を食べた方がいいと思って」
「加賀さん、外食したらある程度は食べるじゃないですか」

加賀
外で残しても仕方ねぇだろ

サトコ
「外で食べれるなら、家でも食べれるんじゃ···」

加賀
食わねぇに越したことはねぇ

サトコ
「そんな、野菜を毒みたいに」

俺が残した野菜を食い終わると、サトコが肩を落とした。

サトコ
「うう、肥える···ダイエットしたい···」

加賀
俺に無断で痩せやがったら、どうなるかわかってんな?何度も言わせんな

サトコ
「理不尽ですよ···」

ぶつぶつ文句を言うサトコをキスで黙らせて、その肌の柔らかさを堪能した。

数日後、部屋に来たサトコは、得体のしれない草を持っていた。

(なんだ、あの謎の草は···)
(苗か···?まさか、ここで育てるつもりじゃねぇだろうな)

サトコ
「実はこれ、ミニトマトの苗なんです!」

加賀
テメェ···

(満面の笑みで、とんでもねぇもん持ち込みやがって)

仕置きしてやろうと、サトコに近づく。
だが生意気にも素早く俺と距離を取ると、サトコが首を振った。

サトコ
「は、話を聞いてください!」

加賀
問答無用だ

サトコ
「お願いです!ちょっとだけでいいですから!」
「加賀さんにも、野菜を育てる楽しみを味わって欲しいと思って···!」

(野菜なんざ育ててどうなる)
(それなら、テメェを調教したほうがなんぼかマシだ)

そうは思うものの、重そうに苗を抱えているサトコに、『持って帰れ』とも言えない。

(···仕方ねぇ)

ベランダに苗を置くサトコを、黙って眺める。
俺が了承したと受け取ったのか、サトコは嬉しそうだった。

サトコ
「知ってます?声をかけると、植物の育ちが良くなるって」
「というわけで、今日からこのトマトに名前を付けて、毎日水をやってくださいね」

加賀
···バカか、テメェは

サトコ
「そう言わず!ほーら、美味しく育つんだよーサトコ」

加賀
······

(頭でも打ったか)
(草に名前なんざいらねぇだろ)

さっきから草にかかりきりになっているサトコの腕を引っ張り、家の中に引きずり込む。
床に押し倒すと、ベランダを開け放ったままサトコの身体を攻め立てた。

サトコ
「ぁっ···---っ!」

加賀
いっちょまえに我慢してんじゃねぇ

サトコ
「だって···!」

抵抗していたサトコの力が緩み、次第に従順になっていく。
その反応を愉しみながら、サトコの口からこぼれ落ちる嬌声を聞いていた。

それから、サトコは今までよりも頻繁に部屋に来るようになった。

(まあ、この雨じゃ家ん中で過ごすしかねぇからな···)
(···それにしても、駄犬は草目当てか)

それはそれで、面白くない。
すぐに飽きると思っていたのに、サトコは何かあればミニトマトの苗を気にしている。

(テメェが気にすんのは、そっちじゃねぇだろ)

草に水をやるサトコを眺めながら、くだらない苛立ちを覚える。
そんな俺の気持ちに気付く様子もなく、サトコが肩を落としながら振り返った。

サトコ
「加賀さん、土が乾いちゃってますよ。お水やってますか?」

加賀
必要ねぇ

サトコ
「人間だって、ごはん食べなきゃ死んじゃうじゃないですか」
「植物だって同じですよ。水がないと育たないんですから」

コップに汲んだ水を苗にやりながら、サトコは楽しそうだ。
今のサトコの関心は、日に日に育っていく草に集中しているらしい。

(だったら、寮で育てりゃいいだろうが)
(なんでわざわざ、うちに置いていく···)

理解不能な行動にため息をつき、ベランダをあとにした。

数日後の休日、サトコは研修で不在だった。
つまらない1日になりそうだが、空の方は久々に晴れ渡っている。

サトコ
『私がいない間、お水あげてくださいね』

最後に会った日にサトコから言われた言葉を思い出し、舌打ちする。

(なんだって、野菜に水やりする必要がある···)

だが、サトコがいない間に枯れて、あいつがピーピー喚くのも面倒だった。

(···仕方ねぇ)

空になったペットボトルに、水を汲む。
それを持ってベランダへ出ようとした時、一羽のカラスがトマトを狙っていることに気付いた。

加賀
チッ

咄嗟に、カラスを追い払う。
無事なトマトを見てホッとしたあと、矛盾に気付いた。

(···カラスにくれてやってもよかったってのに···何やってんだ)

サトコ
『実はこれ、ミニトマトの苗なんです!』
『加賀さんにも、野菜を育てる楽しみを味わってほしいと思って···!』

あいつの笑顔を思い出して、ため息をついた。

(あいつが大事に育ててるもんを、枯らすわけにいかねぇか···)
(ったく···相変わらず面倒ごとばっかり持ち込むクズだな、あいつは)

サトコ
『今日からこのトマトに名前を付けて、毎日水をやってくださいね』
『ほーら、美味しく育つんだよーサトコ』

加賀
···テメェが、サトコか

思わず口の端で笑いながら、しゃがみ込んでトマトを眺める。
少しずつ赤くなってきた実は、あと数日で食べごろだろう。

加賀
まあ、俺は食わねぇが
素直に育つ分、テメェの方が駄犬より見どころがあるかもな

知らずのうちに、草に話しかけている自分がいた。

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

【道】

数日後、夜にサトコと会う約束をしていた。
仕事を終えて帰ろうとした頃、急に雨足が強くなり始めた。

(そういや、何年かに一度の大雨だとか言ってたか···)
(···こんな雨に当たりゃ、あの草もやばいんじゃねぇのか···)

ベランダに出しっぱなしにしてきたので、今頃強風にさらされているだろう。

加賀
チッ···くだらねぇ

そうこぼしながらも、無意識のうちにタクシーを探している。
だがさすがにこの台風並みの天気では、みんな考えることは同じらしかった。

(···別に、急ぐ必要もねぇ)
(だが···)

仕方なく、雨に濡れながら駅まで走った。

【加賀マンション】

家に帰ると、濡れた身体のままベランダへ直行した。
風で傾きかけた苗を抱えて、部屋に戻る。

(···間に合ったか)
(少し倒れそうになってるが···まあ、大丈夫だろ)

ひと息ついたとき、インターホンが鳴った。
玄関のドアを開けると、全身ずぶ濡れのサトコが息を切らして立っている。

サトコ
「加賀さん!?なんでそんなに濡れてるんですか!?」

加賀
···そりゃ、こっちの台詞だ

濡れた髪から流れた雫が、サトコの額や頬に伝う。
濡れていることなど気にもしていないらしいサトコが、慌てた様子でベランダに視線を向けた。

サトコ
「トマト···!あの苗、無事ですか!?」

(···まさか、そのためだけにこんなに急いで来たのか)

加賀
草のことより、テメェの心配をしろ

サトコ
「だって、さすがにこの風じゃ、折れちゃうかもしれないじゃないですか!」

加賀
···バカが

その言葉は、サトコと、そして自分に向けたものだった。

(人のことは言えねぇ···俺も、似たようなもんだな)
(このクズに感化されたか···)

サトコと同じようにずぶ濡れになっている自分の姿を思い出して、ため息が漏れる。

(俺もお前も、本物のバカとしか言いようがねぇ)

サトコの髪をタオルで拭いてやりながら、自嘲気味に笑うしかなかった。

Happy End

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