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刑事が浴衣に着替えたら 難波

【お祭り会場】

花火大会の夜は、難波さんとベランダで花火を見るのが恒例になっていた。
でも今年は会場に足を運ぼうということになり、浴衣に着替えて縁日に繰り出す。

難波
なかなかいいもんだな、浴衣ってのも

サトコ
「着付けできないから、鳴子にやってもらったんです」

難波
うんうん。ひよっこにも衣装だな

サトコ
「それ、もしかして···『馬子にも衣装』って意味ですか?」

難波
ははは

(答えになってない···)

難波さんらしさに私も笑いながら、露店を回る。
難波さんと付き合う前、一緒に夏祭りに来たことがあるのを思い出した。

(あのときは、ただの訓練生だったな···でも今は、恋人なんだ)

こうして堂々と、難波さんの隣を歩けるのが嬉しい。
美味しそうな食べ物に心惹かれたとき、聞き覚えのある声が耳に届いた。

そら
「黒澤、早く!向こうにかわいい子いた!」

黒澤
ちょっ、待っ···末広さん、先に声掛けてください!
彼女たちが見えなくなる前に!どうぞどうぞ!

振り返ると、そらさんと、そのあとを追いかける黒澤さんの後ろ姿が見えた。
人混みに紛れてはいるけど、振り返られると気づかれてしまう距離だ。

サトコ
「難波さん···!あれ見てください!」

難波
ん?なんだぁ?

サトコ
「黒澤さんとそらさんですよ···!さすがに、見つかったらまずいんじゃ」

普段、難波さんは公安学校にいる時でも私を下の名前で呼んだりする。
でもふたりきりでお祭りにいるとなると、さすがに言い訳できない。

難波
そうだな···まあ見つかってねぇよな?

サトコ
「大丈夫だと思います。かわいい子を追いかけてるみたいなので」

難波
んじゃ、行くか

素早く私の手を取ると、難波さんは黒澤さんたちがいるほうとは反対方向に歩き出した。
急いでいるのか、心なしかいつもより早足だ。

(花火大会、残念だな···でも見つかったら大変だし、仕方ないよね)

(難波さんと一緒に、会場で花火見てみたかったな···)

【難波マンション】

難波さんのマンションに戻ってくると、ベランダでビールを開けて乾杯する。

難波
結局、今年もここになっちまったな

サトコ
「でも、ここが一番の特等席ですね。誰にも見られないし」

難波
そうだなぁ

ドーン、と大きな音とともに花火が打ち上がる。
花火の明かりに、難波さんの横顔が浮かび上がった。

難波
来年も、この特等席で決まりだな

サトコ
「誰かに見つかったら大変だから、ですか?」

難波
うーん、それよりも···

缶ビールに口をつけながら、難波さんが私の肩を抱き寄せる。

サトコ
「!」

難波
ここなら、お前の浴衣姿も独り占めできる

サトコ
「え···?」

小さな声が、微かに耳をくすぐる。
思わず振り向いたけど、難波さんはいつもの飄々とした様子で花火を見上げていた。

(も、もしかして···急いで帰って来たのって、みんなに私の浴衣姿を見せたくないから、とか···?)

ほんの一瞬だけ垣間見えた難波さんの独占欲に、頬に熱が集中する。
大きな花火に照らされた難波さんの横顔から、目が離せなくなってしまったのだった。

Happy End

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