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あの夜をもう一度 颯馬1話



【ショップ】

今日は卒業決定後初めての休日デート。
2人でゆっくりとウィンドウショッピングを楽しんでいる。

(颯馬さんへ何かプレゼントしたいんだけど、何かいいものないかな?)
(無事に卒業が決まったのも颯馬さんのおかげだし、これまで指導してもらったお礼がしたい)

そう思いながらふと颯馬さんの方を見ると、1枚のストールを手に取っている。

(そういえば颯馬さん、私服の時はよくストールとかマフラー着けてるよね···!)

颯馬さんがその場を離れたのを確認し、入れ替わるようにストールのある方へ向かう。

(青味のあるグリーンが爽やかだな。手触りもいい···うん、これにしよう!)

ちらりと振り返ると、颯馬さんは他の商品に目を向けている。

(今のうちに買って、サプライズプレゼントにしちゃおう···!)

ストールを手に、そっとレジへ向かおうとしたその時ー

颯馬
いい色ですよね、そのストール

サトコ
「!」

(そ、颯馬さん···!?)

颯馬
でもそれ、男物じゃないですか?

サトコ
「あ、あれ?わぁ、本当だ!気付かなかった~」
「危うく間違えて買っちゃうところでした!」

颯馬
フフ···

慌てて誤魔化すも、颯馬さんは意味深な笑みを浮かべる。

颯馬
女性が巻いても素敵だと思いますよ

サトコ
「え、あ、でも···私には似合わない色かなぁ···」

颯馬
自分に合わない色を選ぼうとしていたのですか?

サトコ
「あ、いや···」

(し、しまった!余計なこと言っちゃった···)

颯馬
隠し事が下手ですね

サトコ
「···!」

耳元で囁かれ、サプライズ失敗を自覚する。

(はぁ···完全に見抜かれちゃってたよね)

颯馬
フフ···貴女と過ごす時間はやっぱり楽しいです

肩を落とす私を見て、颯馬さんは余裕たっぷりに微笑んだ。



【教官室】

卒業式を数週間後に控えたある日、教官室に呼ばれた。

サトコ
「失礼します」

難波
おー来たか、ギリギリ卒業確定者

(ギリギリって···その通りだと思うけど)

教官室には颯馬さんもいて、室長の言葉にクスッと小さく笑っている。

サトコ
「あの、お話って何でしょうか?」

難波
そうそう、石神班でとあるパーティーへ潜入することが決まったんだが
その捜査にお前も参加してほしいんだ

サトコ
「はい···どのような捜査なんですか?」

石神
そのパーティーでは海外マフィアによる銃の密売が行われているという疑惑がある
その調査が目的だ

サトコ
「銃の密売···」

難波
女手が不足してるっていうから、協力してやってくれ

後藤
女性同伴の方がパーティーには潜入しやすいからな

サトコ
「確かにそうですね」

過去の経験からも、パーティーなどの場ではカップルを装った方が自然に振る舞える。

(まだ入学したての頃、颯馬さんと夫婦役を演じて捜査したなぁ)

あの時は週末だけ実際にマンションの一室で夫婦として生活もするという徹底ぶりだった。

【マンション】

颯馬
少し長い任務になるので、週末はここで、2人で過ごすことになります

サトコ
「え、2人でですか!?」

颯馬
マンションの中では、夫婦として過ごしてもらいます

サトコ
「ふ、夫婦!?!?」



【教官室】

(いきなりの夫婦役で、とにかくビックリしちゃって···あの頃は迷惑ばかりかけてたな)
(そんな私も、なんとか公安学校を卒業できるまでになったんだよね···)

改めて颯馬さんをはじめとする教官の方々への感謝の気持ちが湧いてくる。

(こうして捜査の一員として呼んでもらえたことも、すごく嬉しい)

あの時は麻薬取引疑惑のパーティーへの潜入だった。
そして今回は銃の密売疑惑のパーティー。

(卒業も決まったことだし、公安刑事として色々な経験を積んでいきたい···!)

石神
というわけで、氷川には颯馬と組んで潜入してもらう

(え···)

難波
夫婦役でも恋人役でも、好きなように演じて来い

颯馬
頑張りましょうね

サトコ
「···はい!」

(また颯馬さんと組んで捜査ができるんだ!)

卒業試験の捜査が一緒に汲める最後の任務になるかと思っていた。
再び2人で任務に就け、しかもカップル役なら喜びもひとしおだ。

(成長した姿を見せられるよう、頑張ろう!)


【パーティー会場】

幾度となく捜査会議を重ね、いよいよ潜入捜査当日を迎えた。

後藤
周さん、聞こえますか

颯馬
ええ、聞こえます

石神
氷川も聞こえてるな

サトコ
「はい、大丈夫です」

颯馬さんと一緒に、インカムから聞こえる声を確認した。
2人で夫婦役としてパーティーに潜入し、
指示役の石神教官たちには会場近くの車内に待機している。

石神
では指示通りに頼む

颯馬さんと私は同時に頷くと、2人で一緒に会場内へと進んだ。

颯馬
何か飲むかい?サトコ

サトコ
「じゃあ、シャンパンをお願いします。周介さん」

(名前で呼ばれたら名前で呼び返す···夫婦だからね)

颯馬さんは『よくできました』とでも言うように優しく微笑んだ。

(初めての時はすごく緊張したけど、今日は大丈夫そう)

颯馬
はい、お待たせ

サトコ
「ありがとうございます」

颯馬さんからシャンパンを受け取った。
その手には、偽物の結婚指輪が付けられている。
もちろん私の左手の薬指にも同じ指輪を付けている。

(偽装でも、やっぱりちょっと嬉しいかも)

颯馬
なんだか懐かしいですね

サトコ
「はい···」

颯馬
前にもこんなことがありましたからね

サトコ
「あの時のこと、今にも鮮明に覚えています」

颯馬
私も覚えてますよ

言いながら、颯馬さんはスッと私の腰に手を回した。

(妻をさりげなくエスコートする夫···さすが颯馬さん、動きが自然)

颯馬
すっかり慣れたものですね

サトコ
「え?」

颯馬
あの時の貴女はかなり慌てていましたから

(そういえば、あの時もこんな風に腰を抱かれて···)

サトコ
「あ、あの···」

颯馬
今、貴女は私の妻ですから。胸を張って、堂々としていてください

そっと耳元で囁かれたことを思い出した。

(確かにあの時の私、かなりパニくってたよね···)

突然腰を抱き寄せられ、心臓がバクバクしたことを覚えている。

颯馬
今や凛とした妻の風格を感じます

サトコ
「···貫禄出過ぎでしょうか?」

颯馬
フフ、それも成長の証でしょう

冗談っぽく言いながら、他の招待客に柔らかな笑みで会釈をする颯馬さん。
私もそんな “夫” に合わせ、“妻” として控えめな会釈をする。

(あ、この人、確かイタリアンコーヒーショップをチェーン展開している会社の社長···)

イタリア系マフィアと繋がっている疑いのある人物だ。

颯馬
これは『グラツィオーゾカフェ』の笠原様、お会いできて光栄です

招待客
「えっとキミは···」

颯馬
申し遅れました。外務省日本企業支援担当の添田と申します

招待客
「外務省の···それはどうも」

颯馬さんはスラスラと嘘を並べ、海外取引のある会社社長たちから次々と情報を入手する。

(打ち合わせ通りとはいえ、さすがだな)

私自身も以前より余裕を持った対応ができ、計画は順調に遂行されていく。
その時、インカムを通して指示が入った。

後藤
廊下を出た奥に別室があるはずだ。おそらくそこで密売取引が行われる

石神
会場での情報収集は颯馬に任せ、お前は別室の場所を探って来い

サトコ
「はい」

ドレスの胸元に隠したマイクに向かって小さく返事をした。

サトコ
「周介さん、ちょっとお手洗いに行ってきます」

颯馬
ああ、気を付けて

颯馬さんと別れ、トイレへ行くフリをして廊下に出た。


【廊下】

(怪しそうな場所は···)

廊下を進んでいくと、『VIP ROOM』と書かれたドアがあった。
その手前には、『関係者以外立入禁止』のプレートが立てられている。
そこへ先ほど挨拶を交わした会社社長が現れ、辺りを気にしながら入室していく。

(きっとここが取引場所···後藤教官に報せなきゃ)

???
「お客様、どうかされましたか?」

サトコ
「!」

突然の声に驚いて振り向くと、ボーイさんが穏やかな笑みを浮かべていた。

ボーイ
「この先は関係者以外立ち入り禁止ですが」

サトコ
「すみません、お手洗いを探していて迷ってしまって」

ボーイ
「···では、私がお連れしましょう」

(え···)

なぜか不敵な笑みを浮かべられ、白いハンカチを持った手が伸びてくる。

(···まずい!)

サトコ
「うっ···」

(颯馬···さ···ん···)

一瞬のうちにハンカチで口元を覆われ、助けを呼ぶ間もなく意識が遠のいた。

【倉庫】

(ここは···)

暫くして目を覚ますと、倉庫のような薄暗い部屋に監禁されていた。

サトコ
「はぁ···」

(こんなにあっさり敵の手の内に落ちるなんて···)

悔しさと情けなさでため息を漏らすと、暗がりの中に人の気配を感じた。

サトコ
「誰!?」

颯馬
お目覚めですか?

サトコ
「そ、颯馬さん!?」

颯馬
異変を感じてすぐに駆け付けたのですが、不覚にも私まで一緒に捕まってしまいました

颯馬さんは自嘲するように微笑んだ。

(助けに来てくれたんだ···)

颯馬
私がついていながら申し訳ない

サトコ
「そんな···。私こそ、こんな初歩的なミスをしてしまって···申し訳ありません」

颯馬
無事で何よりです

(颯馬さん······なんてホッとしてる場合じゃない!)

サトコ
「早くここから脱出しないと」

颯馬
そうなのですが、ドアは頑丈な鍵が掛けられていてビクともしません

颯馬さんと一緒にドアノブに手を掛けるも、確かにどうにも開きそうにない。

サトコ
「外から何とかしてもらうしかないですね」
「石神教官に応援要請しましょう!」

颯馬
それが···

マイクに口を近づけようとすると、颯馬さんの顔が曇った。

サトコ
「どうしたんですか?」

颯馬
実は先ほどから呼びかけているのですが、一切応答がないのです

サトコ
「えっ?」

颯馬
ここは地下のようですし、電波の状態が悪いのでしょう

(そんな···!)

サトコ
「石神教官、後藤教官、氷川です!応答願います!」

何度も呼びかけるも、何の反応もない。

サトコ
「肝心な時に使えないなんて···」

颯馬
困りましたね

サトコ
「インカムが使えない以上、自力でなんとかするしかないですね!」

私は消沈してしまいそうな気持ちを奮い立たせるように言った。

サトコ
「どこか他に脱出できる場所がないか探しましょう」

颯馬
そうですね、配管口や通気口なども確認してみましょう

サトコ
「はい!」

施錠されたドアから離れ、別の脱出経路を求めて2人で倉庫内を探る。
空調設備の吸気口など、何とかなりそう場所をくまなく見ていく。
そんな時、インカムから雑音がこぼれてきた。

ジ···ジジッ···

サトコ
「!?」

インカムの音声
『ジッ···ダメだ···ジジ···』

サトコ
「石神教官!?後藤教官ですか!?」

呼びかけるもやはり応答はない。
ただ途切れ途切れにざわざわとした人の声が漏れ聞こえてくる。
インカムに手を当て耳を澄ますも、誰が何を話しているのか判別できない。

颯馬
やけにざわついていますね···

サトコ
「はい···最初に『ダメだ』って聞こえた気がするんですが···」

颯馬
石神さんの声のようにも聞こえましたが、何が『ダメ』なのか···

サトコ
「···もしかして、石神さんたちも敵に見つかってしまったんじゃ!?」

颯馬
······

颯馬さんが黙ったその時、再び雑音と共に音声が聞こえてきた。

ジジッ

石神
もういい

後藤
石神さん···本当にいいんですか?

雑音はあるものの、今度は2人の声だとはっきり分かった。

サトコ
「石神教官!後藤教官!こちら氷川、応答願います!!」

ジッ、ジジッ···

石神
あいつらのことは放っておけ

後藤
しかし···

(こっちの声は聞こえてない?何を話してるの?)

石神
こうなった以上、別の策を考える必要がある

(別の策···?)

サトコ
「石神教官!氷川です!聞こえますか!?」

音声は徐々に鮮明になってきたものの、相変わらずこちらからの呼びかけには反応しない。

石神
相手にこちらの手の内がバレたんだ。作戦続行は無理だ

後藤
確かに···

石神
あいつらには、自分たちの失態は自分たちでカタを付けてもらうしかない

(まさか···私たちは見捨てられる···!?)

サトコ
「颯馬さん、今の話って···」

颯馬
······

後藤
では、あの2人はあのままということで···

石神
ああ。敵に捕まった公安に用などないからな

黙り込む颯馬さんと私の耳に、無情な声が流れ込んできた···

to be continued



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