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東雲 出逢い編 シークレット3

Episode 10.5
「タクシーの中の眠り姫」

【居酒屋】

恐竜展を楽しんだあと、教官が私を連れて来てくれたのは···

(まさかの居酒屋···)
(しかも個人経営っぽい感じの···)

東雲
キミ、生でいい?

サトコ
「あ···はい」

東雲
じゃあ、おばちゃん。生2つと、いつもの2人前で

おばちゃん
「はいよ」

(···『いつもの』?)

しばらくすると、生ビール2つと茹でピーナッツが出てきた。

サトコ
「これが『いつもの』ですか?」

東雲
なに言ってんの。これはお通し
『いつもの』って言うのは···

おばちゃん
「しのちゃん、今日はコーン揚げもあるけど」

(しのちゃん!?)

東雲
じゃあ、それも2人前で

おばちゃん
「はいよ」

(『しのちゃん』···しのちゃんって···)

東雲
···なに?ヘンな顔して

サトコ
「あ、その···『しのちゃん』って呼ばれてるんですね」

東雲
それがなに?
『東雲』だから『しのちゃん』って、べつに普通でしょ

おばちゃん
「『しののめ』って呼びにくいからねー」
「はい、『いつもの』ね」

ごとん、と大きめな皿が出てくる。

サトコ
「うわ···おでん···」

東雲
ここの、うまいんだよね。特に練り物系が
あと大根と牛すじも
あ···おばちゃん、次は熱燗ね

サトコ
「熱燗!?」

東雲
なに?

サトコ
「い、いえ···」

(おでんと熱燗···意外と渋いんだな。教官って)
(でも、お店のおばさんには『しのちゃん』って呼ばれてるんだよね)
(しのちゃん···しのちゃんって何だか···)

2時間後···

サトコ
「しのちゃん···」

東雲
···は?

サトコ
「しのちゃん···って可愛いれすね···」
「ふふふ···」

東雲
···まさかもう酔った?

サトコ
「酔ってまへん···酔ってまへんよー」

東雲
酔ってるじゃん

教官は少し笑うと、私の目の下を指先で軽くなぞってくる。

サトコ
「なんれすか···?」

東雲
マスカラ、また落ちてる···
これもオレのため···?

(オレの···つまり教官の···?)

サトコ
「そうれす···教官のためれす···」

東雲
『教官』じゃない

サトコ
「え···あ···えっと···」
「しのちゃん」
「しのちゃんのためれす···」

東雲
······

サトコ
「しのちゃんとデートなんで、ちょっと···」
「なんか、ちょっと···」

東雲
がんばってみた?

サトコ
「はい···」

東雲
···ふーん

(あ···教官、また笑った···)

サトコ
「もっと···」

東雲
ん?

サトコ
「もっと笑ってくらさい···」

東雲
······

サトコ
「笑ってるの···好きれす···」

東雲
······

サトコ
「好き···」
「好きれす···しのちゃん···」

東雲
···バカ

なぜかクシャッと頭を撫でられる。

東雲
やっぱりバカだよ。キミ

(あ···気持ちいい···)

(気のせいかな···なんだか甘やかされているみたい···)

???
「あらら···眠っちゃったのかい?」

???
「そうみたいです」

(眠ってないよ···眠ってないけど···)
(ダメだ···まぶたが重たい···)

???
「めずらしいね。しのちゃんが女の子を連れて来るなんて」
「あの子以来じゃない?なんだっけ···あの···」

(誰···誰以来···?)
(やっぱり、さちさんなのかな···)

サトコ
「やだ···」

(それは···なんかヤだなぁ···)

【タクシー】

それからどれくら経ったのだろう···

サトコ
「う···ん···」

(あれ···ここ、タクシーの中···?)

眠たい目をこすりながら、ぼんやり隣を見る。

(あ···教官···)
(窓側に寄りかかってる···寝てるのかな···)

ふと教官の右手が目に入る。
シートに力なく置かれた、細くて長い指先···

(お店にいたとき···頭撫でてくれた···)
(この手が···頭を···)

まだ眠気の去らないフワフワした気持ちのまま、教官の指に触れてみる。

(なんか冷たい···)
(でも、きれい···細長くて爪の形も······)

東雲
···どうする

(え···)

東雲
このあと、どうする?

(あれ···教官、起きてる···?)

確かめたかったけど、教官は振り返らない。
ずっと窓に頭を寄せたままだ。

サトコ
「教官···?」

東雲
······

サトコ
「東雲教官···?」

(···返事してくれない)
(さっきの···空耳だったのかな)
(それとも、私じゃない別の誰かに話しかけてる···とか···?)

確かめるかどうか迷っているうちに、再び睡魔が襲ってくる。

(ま、いっか···)
(空耳だったんだよね···きっと)

サトコ
「すぅ···」

東雲
······

ちゅっ!

東雲
······

結局、そのまま私は眠ってしまい···

???
「サトコっ!」

(ん···誰···?)

???
「サトコ···っ」
「サトコ、起きて···っ!」

サトコ
「え···っ」

(あれ···ここって···)

鳴子
「起きた?」

サトコ
「!?」

鳴子
「もう···こんなところで寝てたら、また風邪ひくよ?」

サトコ
「う、うん···」

(あれ···私、どうしてここにいるんだっけ?)
(確か恐竜展のあと、東雲教官と居酒屋で飲んで···)
(そのあと酔っ払って、気がついたらタクシーに乗ってて···)
(そして···)

サトコ
「···私、どうやってここまで来たんだっけ」

鳴子
「知らないわよ、そんなの」
「私が通りかかったときには、もうここで眠ってたけど」

(じゃあ、タクシーを降りたあと、自力で戻って来たってこと?)
(それとも教官が···)

サトコ
「ん?」

ふと、床に付箋紙が1枚落ちていることに気が付く。

サトコ
「これ···」

鳴子
「ああ、その付箋ね。最初はサトコのおでこに貼ってあったんだよ」
「こんなふうに···」

鳴子は私のおでこに、ぺたりと付箋紙を貼り付ける。

鳴子
「ぷ···っ、69点···っ」

サトコ
「?」

鳴子
「付箋に書いてあるの。ほら」

サトコ
「あ···ほんとだ」

黄色い真四角の付箋に書かれた「69点」の文字。
しかも、この文字には見覚えがあって···

(これ書いたの···教官だよね)
(なにが69点なんだろ···今日のデートがってこと?)
(それとも···)

サトコ
「ねぇ、鳴子。69点って···」

鳴子
「ん?」

サトコ
「···やっぱりいい」

(明日会ったら教官に直接聞いてみよう)

ひとまず私は手帳を取り出すと、今日のページに付箋紙を貼り付けた。
もちろん、はじめてのデートの思い出として。

Secret End

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