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黒澤 出逢い編 3話



【教場】

黒澤さんからアドバイスを受けたことで、私の毎日は少しずつ変わり始めていた。

颯馬
では、次の問題を···
氷川さん

サトコ
「はい!この場合、事例3を参考にして···」

(大丈夫、ここはちゃんと予習済みだ)
(昨日まとめたとおりに発表すれば、問題ないはず)

サトコ
「···解答は以上です」

颯馬
いいですね。よくできました
説明不足な部分もありましたが···
大事なポイントは、全ておさえてありましたね

(やった!)

本音を言えば、講義や訓練のないように疑問を感じることはよくある。
法律上グレーなものが多いせいだ。

(でも、今はあれこれ考えない)
(まずは、刑事にあるために、コツコツひとつずつ···)

サトコ
「うーんっ」

(やっと昼休みだ。お腹空いたなぁ)

千葉
「おつかれ。氷川、最近調子いいよな」
「昨日の小テストも良かったみたいだし」

サトコ
「あれは、たまたま分かる範囲が出ただけだよ」
「講義も、まだついていくだけで精一杯だし」

千葉
「でも、最近遅くまで資料室で勉強してるだろ」
「昨日だって消灯時間ぎりぎりに寮に戻ってきて」

サトコ
「ん、まぁ···私の場合、それくらいしないとね」

千葉
「そっか、頑張れよ。そういう氷川のこと···」
「その···なんていうか···応援してるから···なんて···」

鳴子
「千葉くーん、サトコー!」
「来て来て!すごいことになったよ!」



【廊下】

サトコ
「うわ···みんな集まってる」

千葉
「あれ、掲示板の前だよな。何か告知でもあったんじゃ···」

鳴子
「ありだよ、大あり!」
「第1回『特別訓練』の選抜メンバーが発表されたんだけどさ」
「私たち、3人とも選ばれたんだよ」

サトコ
「えっ、私も?」

鳴子
「もちろんだよ」
「サトコは首席だからね。選ばれて当然じゃん」

(そうなのかな···)
(私、この間まで全然講義についていけなかたのに···)

千葉
「訓練の内容は?」

鳴子
「それが、まだ発表されてないんだ」
「ただ噂によると、行動確認系の訓練になりそうだって」

(え···ほんとに!?)

【カフェテラス】

サトコ
「はぁぁ···」

鳴子
「ちょっと、なに落ち込んでるの」
「私ら、選抜メンバー5人の中に選ばれたんだよ?」

サトコ
「そうだけど···」
「『行動確認』って、アレだよね」
「ターゲットを尾行したり、盗み撮りしたりっていう···」

鳴子
「まぁ、そうだけど···」
「···思い出した!サトコ、初めての訓練の時ボロボロだったよね」
「特に写真撮影の時にさ」
「ターゲットは東雲教官だってのに、写真にはなぜかキノコのぬいぐるみが写ってて!」

サトコ
「やめてよ。あれ、今でも謎なんだから」
「しかも、あのあと東雲教官にいっぱいイヤミ言われたし」

鳴子
「ま、いいじゃん。今度は成功させればさ」

千葉
「でも、それってターゲット次第だよな」
「この間は東雲教官だったけど、今回は誰だと思う?」

サトコ
「後藤教官かな、それか颯馬教官とか···」

鳴子
「私、石神教官な気がするんだよね。今回のは『特別訓練』なわけだし」

千葉
「だったら『室長』の可能性は?」

鳴子
「あるある!ありえそう···」

???
「なにが『ありえそう』なんですか?」

(うん?)
(あ、黒澤さ···)

鳴子
「黒澤さん、いいところに!」
「聞いてくださいよ。私たち、特別訓練のメンバーに選ばれたんです」

黒澤
へぇ、すごいじゃないですか。おめでとうございます

千葉
「ありがとうございます」

鳴子
「で、黒澤さん、何か聞いてないんですか?」
「例えば、訓練の具体的な内容とか···」

黒澤
さあ、どうでしょう

鳴子
「うわぁ···その笑顔、怪しいですね」

(···そっか、黒澤さんって鳴子たちとも知り合いだったんだ)
(もしかして、訓練生全員とすでに知り合いだったりして···)

黒澤
···ところで
どうしてサトコさんは、さっきから暗い顔してるんですか?

サトコ
「···っ、べ、べつにそんなことは···」
「ちょっと、訓練のことを考えて憂鬱になってるだけで···」

千葉
「噂だと、行動確認系の訓練じゃないかって話なんです」
「でも、氷川はそっち系が苦手で···」

鳴子
「黒澤さん、なにかアドバイスはないですか?」

黒澤
うーん、そうですねー

プルル、と振動音が聞こえてきた。
どうやら黒澤さんのスマホのようだ。

黒澤
アドバイスなら、歩さんあたりが適任だと思いますよ。それじゃ
はい、もしもし···はい···はい······

千葉
「···東雲教官か。ちょっと意外だな」

サトコ
「だよね。東雲教官ってあまりそういうイメージないけど···」

鳴子
「ちょ、そんなことより!」
「今の電話、女からだったよね!」

千葉
「女?」

鳴子
「だーかーら!黒澤さんにかかってきた電話!」
「声、漏れてたけど、絶対に女じゃん」
「もしかして、カノジョかな」

(カノジョ···黒澤さんに···?)

千葉
「女性ならそうなんじゃない?」
「黒澤さん、モテそうだし···」

サトコ
「わかる!黒澤さんっていい人だよね!」

千葉
「えっ?」

サトコ
「人当たり良いし、優しいし」
「落ち込んでいると、いろいろ励ましてくれるし!」

千葉
「あ、ああ、まぁ···」
「ええと、それよりどうする?」
「せっかくだし、東雲教官のところに行ってみる?」

サトコ
「そうだね。黒澤さんの推薦だし!」
「行こう、鳴子!」

鳴子
「ええっ、もうこの話、おしまい?」
「黒澤さんのカノジョのこと、気になってんだけどー」



【モニタールーム】

東雲
···特別訓練のアドバイス?

サトコ
「はい。黒澤さんに相談したら、東雲教官を推薦してくれて···」

東雲
怠···

サトコ
「えっ、今なんて···」

東雲
なんでもない。それより訓練に対するアドバイスだったよね
訓練内容については?

千葉
「噂では聞いています。おそらく『行動確認系』じゃないかって」

東雲
だったら予行演習をしてみればいいんじゃない?
オレの予想だと、今度の訓練の『ターゲット役』は···


【校門】

1時間後ーー
私たち3人は、息を潜めるように物陰に隠れていた。

鳴子
「ね、本当にこの時間で間違いないの?」

千葉
「ああ、教官室の『行動予定表』で確認したから間違いないって」

サトコ
「···っ、来たよ、『ターゲット』!」
「尾行はどこまでする?」

鳴子
「もちろん行けるところまででしょ」
「最低1時間は粘りたいな。で、写真は3枚以上···」

千葉
「角、曲がった。行こうか」

2人
「「うん!」」

一定距離を保ちながら、私たちはターゲットを追跡する。

千葉
「でも、加賀教官なのは意外だったな」
「俺、絶対に室長だと思ってたのに」

鳴子
「ね、このあとの加賀教官の予定は?」

千葉
「それが、予定表には『外出』としか書いてなかったんだよな」

サトコ
「えっ、行き先は?」

千葉
「それが全然」

サトコ
「そっか···石神教官はちゃんと書いてくれるけどな」

鳴子
「仕方ないよ。加賀教官、ワイルドだし」

千葉
「いや、もしかしたら言えないような場所に行くのかも」

2人
「「!?」」

サトコ
「い、言えないような場所って···」

千葉
「たとえば〇〇とか×××とか···」

2人
「「!!」」

(そ、そんなイケナイ場所に?)
(どうしよう。そこまで追跡することになったら···)

【駅前】

奇妙な緊張感が漂うなか、私たちは駅周辺へとやってきた。

鳴子
「ここからどうするか、だよね」
「〇〇や×××に行くなら、電車に乗るはずだけど···」

千葉
「その前に、そろそろ写真を撮りに行かないか?」
「3人一緒はさすがに無理だから、誰か1人が行くことになるけど···」

サトコ
「だったら私が行きたい」
「今のうちに練習しておきたいんだ」

千葉
「了解」

鳴子
「がんばれ、サトコ」

私は、スマホを手に、加賀教官に近づいていった。

(まずは、気付かれないように追い越さないといけないよね)
(このままだと後ろ姿しか撮れないから、もっと先で待ち伏せして···)
(えっ、路地に入った!?)
(どうしよう、このまま追いかける?)
(でも、一緒に路地に入ったら一発でバレそうだし···)
(だからって、このまま見失うのも···)

サトコ
「うわっ」

サトコ
「!!!」

加賀
どういうつもりだ
ずっとウロウロつけ回しやがって

ドンッ!

(ひっ···)

加賀
答えろ。このクズが

サトコ
「す···すすす···」
「すみませんでしたーっ」

こうして、予行演習はわずか25分で終わってしまった。
ちなみに、加賀教官は最初から私たちの尾行に気付いていたらしい。


【モニタールーム】

さらに、特別訓練当日···

サトコ
「どう、加賀教官対策は···」

鳴子
「ばっちり。ふたりは?」

サトコ
「それなりに。おかげで寝不足だけど」

千葉
「俺も」
「どんな対策をしても、最後に壁ドンされる気がして···」

サトコ
「そ、それは、なんていうか···いろいろな意味で辛いね」

千葉
「ああ。でも、おかげで対策を立てられたわけだから」

サトコ
「そうだね。そう考えると、予行演習をしておいて正解···」

???
「え、キミたち、本気で演習やったの?」

(えっ···)

東雲
あれ、冗談のつもりだったんだけど

(ええっ!?)

サトコ
「冗談って···」
「じゃあ、加賀教官がターゲットっていうのは···」

東雲
嘘に決まってるじゃん
そんな情報、事前に教えるわけないんだし

3人
「「·········」」

(言われてみれば、確かに···)
(でも、だったら私たちのあの時間はいったい···)

呆然としているうちに、他の選抜メンバーや教官たちがやってきた。
最後に石神教官が入ってきたところで、空気がピッと引き締まった。

石神
それでは特別訓練について説明する
訓練は、本日18時まで
こちらが指定した人物の『行動確認調査』を行ってもらう

(ここまでは噂通りだ)

石神
なお、監視対象者はそれぞれ違うが···
いずれも一般市民だ

訓練生たち
「「!!」」

(それって、バレたら絶対にマズいパターン···)

石神
そのため、キミたち5人にはそれぞれ教官とペアになってもらう
訓練中は教官の指示に従うように

(あ、教官も一緒なんだ。だったら安心···)
(って、最初から頼りにしちゃダメだ。気を引き締めていかないと)

石神
では、ペアを発表する
千葉・颯馬ペア、佐々木・後藤ペア···

あとの2人も、それぞれ加賀教官・東雲教官と組むことになった。

(ということは、私は石神教官と···)

???
「すみませーん、遅くなりまして!」

(えっ)

黒澤
公安の新しい風、黒澤透★ただいま参上!

(く、黒澤さん!?)

石神
······

後藤
······

加賀
···ちっ

東雲
透、うるさい

颯馬
いいじゃないですか、黒澤らしくて
それで、なぜ彼がここに?

石神
俺の代わりだ。氷川と組んでもらう

(えっ、私と!?)

黒澤
そういうわけです
よろしくお願いしますね、サトコさん

サトコ
「よ、よろしくお願いします」

(なにこれ、まさかの展開すぎ···)
(でも、黒澤さんと組むのも勉強になりそう···)

黒澤
それじゃ、まずは最初の共同作業として···
『コンビ名』を決めましょうか

(···うん?)

黒澤
大事ですよねー、コンビ名
オレの候補はこの3つですけど、どれがいいですか?

黒澤さんが手帳を見せてくれる。
そこに書いてったのは···

<選択してください>

A: とおる with S

サトコ
「じゃあ、『とおる with S』で」

黒澤
いいですねー。それ、オレのイチオシです
『とおる with Student』···略して『with S』!

後藤
?? だったらそこは『T』じゃないのか?
訓練生は『Student』というより『Trainee』だろう

黒澤
うーん···でも、オレとしては『T』より『S』がいいんですよね

颯馬
だったら『Sadistic』はいかがですか?
『とおる with Sadistic』でも『with S』ですよ

黒澤
いいですね、それ!
じゃあ、サトコさんは今日から『ドS』ってことで···

サトコ
「ま、待ってください!私、『ドS』なんかじゃ···」

B: かっぱと黒P

サトコ
「じゃあ、その···『かっぱと黒P』で」

東雲
え、よりによってそれ?
サトコちゃんって、意外とセンス悪かったんだね

サトコ
「で、でも、これが一番わかりやすいじゃないですか」
「『かっぱ』は、先日決まった私の潜入名ですし」
「『黒P』は、黒澤さんの『黒』と『ポリス』の『P』で···」

黒澤
いえ、違いますよ
オレの『P』は、『プリティ』の『P』です

(えっ!?)

黒澤
もしくは『ピュア』とか『プリンス』の『P』···

C: 中央線姉妹

サトコ
「ええと···『中央線姉妹』はどうでしょう」
「中央線、結構好きですし」

黒澤
奇遇ですね。オレも好きなんです
夜遅くまで走ってるし、ここに来る時もよく使うし
なによりサボりたくなったら、これ1本で高尾山に···

石神
ほう···

(···っ、黒澤さん、後ろ···後ろ···っ!)

石神
無駄話は終わったか

サトコ
「!!」

石神
では時間だ。特別訓練をはじめる
各自、5分以内に現場に向かうように

(5分!?)
(そんな、急がないと···)

黒澤
大丈夫ですよ、落ち着いてください
まずは、資料に目を通しましょうか

サトコ
「は、はい」

(ターゲット···29歳女性)


【街】

(生命保険会社の保険外交員)
(資料によると、毎朝8時に出社し、10時には営業先に向かう)

サトコ
「···来ました。ターゲットの女性です」

黒澤
では、あとをつけましょう

黒澤
行き先の見当はついていますか?

サトコ
「ええと···」

(資料には『S区一帯が担当』って書いてあったよね)
(そいうことは···)

サトコ
「地下鉄の駅に向かっていると思います」
「ここからS区に行くには、地下鉄に乗らないといけないので」

黒澤
なるほど、半分正解です

サトコ
「半分?」

黒澤
交通手段は地下鉄だけじゃありません
ほら、あそこ···見えませんか?

サトコ
「あ、バス停!」

黒澤さんの指摘通り、彼女はバス停で足を止めた。
どうやらバスに乗ってS区に向かうようだ。

黒澤
ここでしばらく待機して、バスが来たら列に並びましょう
ICカードは?

サトコ
「持っています。チャージもばっちりです」

黒澤
さすがサトコさん。首席を取っただけのことはありますね

サトコ
「いえ、そんな···」

尾行前に交通ICカードをチャージしておくことは、ごく当たり前のことだ。
けれども、それを言葉にして褒めてもらえるのはやっぱり嬉しい。

(この調子で頑張ろう)
(ペアになってくれた黒澤さんのためにも、いい成績を残さなくちゃ)

その後、3時間尾行を続けたところで、彼女はチェーンのうどん屋に入った。
どうやらお昼ご飯のようだ。

サトコ
「私たちも店に入りますか?」

黒澤
そうですね···サトコさんはどうしますか?

(えっ、私?)

サトコ
「私なら···お店に入ります」
「彼女が店内で何をするのか、気になりますし」

黒澤
そうですね。それについてはオレも同じ意見です
ただ···

黒澤さんの視線の先を見て。ハッとした。

(彼女が座ったの、窓際の席だ)

黒澤
あの席なら、外からでも監視できます
もちろん監視レベルによっては、店内に入る必要もありますが···
今回のケースなら、ここからのほうが怪しまれません

(確かに···)

黒澤
というわけで、この間に着替えとトイレを済ませましょう
オレが先に行ってきますんで、何かあったら連絡ください

サトコ
「了解です」

(···運がいいな。尾行中にトイレに行けるなんて)
(この感じだと、着替えもトイレで出来そうだし···)

サトコ
「···ん?」

(ターゲットが誰かと相席してる···いつの間に···)
(······男?)

数分後ーー
思っていたよりもだいぶ早く黒澤さんが戻って来た。

黒澤
おつかれさまです。メール確認しました
例の男性は、まだ···

サトコ
「はい、ターゲットと同席しています」

黒澤
なるほど···
······
······あ、サトコさん、休憩してきてください

サトコ
「でも···」

黒澤
あの様子だと、ターゲットがすぐに動くことはありません
10分くらいなら問題ないでしょう
トイレ休憩と着替えを済ませて来てください

サトコ
「···わかりました。いってきます」

黒澤さんの読みどおり、彼女が店を出てきたのは30分後だった。
ただし、今度は食事を同席した男性と一緒だ。

サトコ
「あの人、彼女の恋人でしょうか」

黒澤
今の時点ではなんとも言えませんね
それなりに親しい間柄だとは思いますが

(となると···)

サトコ
「ふたりの写真、撮っておいた方がいいですよね」

黒澤
もちろんです

(だったら、スマホ···)
(ううん、デジカメの方がいいかな)
(で、あとは黒澤さんの指示を仰いで···)

黒澤
さて、どうしましょう

サトコ
「えっ···」

黒澤
ふたりの写真を撮るんですよね?
サトコさんなら、どうやって撮りますか

(困ったな。写真撮るの、苦手なんだけど···)
(こういう時は···)

<選択してください>

A: 率直に聞く

サトコ
「あの···どうすればいいんでしょう」

黒澤
そうですね、こういうときは···
と、答えたいのはやまやまですが
今回は訓練ですからね。まずは自分で考えないと

(うっ、そうか···)

サトコ
「ええと···じゃあ···」

B: まずは必死に考える

サトコ
「すみません、1分···」
「いえ、30秒待ってください!その間に答えを出しますから」

黒澤
そうですか。では待ちましょう

(まず、この場所からの設営はムリだよね)
(となると気づかれないように接近···)
(ていうか、ふたりの前に出ないとダメなわけで···)

黒澤
······

C: 写真を撮るのをやめる

サトコ
「ええと、写真を撮るのはやめようかなぁ···なんて···」

黒澤
その選択肢はナシですね
あの男性が、重要人物だったら困りますから

(うっ、確かに···)
(じゃあ···)

サトコ
「まずは、早歩きで2人を追い越します」

黒澤
······

サトコ
「そのあと立ち止まれる場所を探して、そこで待ち伏せ···」

(っと、このやり方、加賀教官のときに失敗したパターン···)

黒澤
いいですね、それ

サトコ
「えっ」

黒澤
ターゲットを追い越し、待機して撮る
今のサトコさんなら、たぶんそれがベストです

サトコ
「で、でも···」
「実は、このやり方で失敗したばかりで···」

黒澤
失敗の原因は?

サトコ
「えっ、それは···」
「ターゲットが、加賀教官だったんですけど···」

先日の予行演習での出来事を説明した。
ひととおり聞き終えた黒澤さんは「なるほど」とにっこり笑った。

黒澤
だったら、なおさらやりましょう
予行演習での失敗を活かすためにも

サトコ
「??」

黒澤
だって、サトコさんは学んだわけでしょう?
尾行で起こる『トラブル』のひとつを

(あ···)

黒澤
それなら、今回は同じことが起こらないようにすればいいですし
もし起きたとしても、きっと対処できます
だから、もっと自信を持ちましょう

(黒澤さん···)

黒澤
それと、先輩としてアドバイスをひとつ
尾行のコツは、とにかく『堂々としている』ことです

サトコ
「堂々と?」

黒澤
そうです
なにが起きても焦らない。焦った態度を見せない
たとえば、ほら···

(あ···っ)

監視対象者が、十字路を右に曲がった。

(しまった!早く追いかけて···)

黒澤
サトコさん

サトコ
「···っ」

(そうだ、焦るな。焦っちゃダメだ)

今すぐ走り出したい衝動を抑えて、まずは早歩き程度にとどめる。

黒澤
さて、どうしますか?

サトコ
「尾行を続けます」

黒澤
想定されるトラブルは?

サトコ
「ええと···」
「ターゲットを見失っている可能性があること。それとは逆に···」
「待ち伏せされているかもしれないこと」

黒澤
そうです。加賀さんのときと同じ
『尾行を気付かれていたパターン』ですね
その場合はどうしますか?

サトコ
「知らん顔をして通り過ぎます」

黒澤
声をかけられたら?

サトコ
「とぼけます。シラを切り通します」

黒澤
いいですねー。では、それで

十字路は、もう目の前だ。

(何が起きても焦るな、焦った顔を見せるな)

自分に強く言い聞かせて、私は十字路を右に曲がった。
ところが···

サトコ
「え···」

(こ、これは···)

to be contineud



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