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東雲 恋の行方編 2話



【カフェテラス】

サトコ
「うーん···」

私はノートを広げながらため息をつく。

(困った···また謎が増えちゃったな···)
(どうして加賀教官にさちさんのダンナさんのことを聞かれたんだろ)

私は、整理するためノートに教官たちと関塚夫妻の顔を書く。

(まず、この2人が夫婦だよね)
(で、東雲教官がさちさんの幼なじみ···)
(そして加賀教官から、なぜか関塚さんのことを聞かれて···)

サトコ
「···ん?」

(そういえば、前にも加賀教官にさちさん絡みのことを聞かれてなかった?)
(確か、あれは···)



【ラーメン屋台】

加賀
歩の女を見たことがあるか?

サトコ
「えっ?」

加賀
···あるんだな。いつだ?

サトコ
「えっ···と、その···」

加賀
さっさと答えろ、グズ

サトコ
「あ、あの···懇親会の夜に···」

加賀
そうか

(···そうだ、聞かれた!)
(どうして?まさか関塚夫妻って公安にマークされて···)
(···ないない!あの2人、そんな人たちに見えないってば!)
(じゃあ、どうして?まさか···)
(加賀教官もさちさんを好きとか?)

サトコ
「······」

(もしかして、ドロドロの昼メロ展開···)

黒澤
どーも、ご無沙汰しています

サトコ
「あっ、お疲れ様です」

私は慌ててノートをテキストの下に隠した。

黒澤
なにしてるんですか

サトコ
「べ、勉強です!その···今週末小テストがあるんで」

黒澤
へぇ、そうですか
あれ···

黒澤さんが、テキストの入ったファイルを覗き込んでくる。

黒澤
これ、歩さんが作ったテキストですよね

サトコ
「そうですけど···どうして知ってるんですか?」

黒澤
これを作るとき、オレも手伝ったんです
いきなり夜中に呼び出されて『手伝って』って言われて···
おかげでオレ、その日徹夜ですよ
ま、翌日休みだったから良かったんですけど

(知らなかった···そうだったんだ)

サトコ
「すみません、ありがとうございます」

黒澤
ああ、気にしないでください
でも、そっかぁ、サトコさんのためかー
サトコさん、けっこう期待されてるんですね

サトコ
「!」

黒澤
歩さんって見込みのない人には目もくれないですもん
いよいよオレも『公安期待の星』の座が危うくなってきたかなー

(···そうなのかな。少しは期待してくれてるのかな)
(以前『キミは公安に向いてない』ってハッキリ言われたけど···)
(黒澤さんの言ってることが本当なら、ちゃんと期待に応えたいな)

そのことが功を奏したのか···



【教場】

1週間後。

鳴子
「ちょっと···すごいよ、サトコ!5番なんて!」
「これでもう『裏口入学』なんて言われなくなるよね」

サトコ
「う、うん···」

(ほんと夢みたい···小テストとはいえ5番以内に入れるなんて)
(このあと、教官に報告しないと!)

【モニタールーム】

サトコ
「おつかれさまです!」

東雲
うるさい。なに?

サトコ
「5番です!」

東雲
だからなにが···

サトコ
「この間の小テストの順位です!」
「5番なんて初めてだから嬉しくて···」

東雲
あっそう。テスト用紙は?

サトコ
「これです!」

東雲
ふーん···
なるほど···暗記系は全部クリアしたね

サトコ
「そうなんです!これも教官のおかげです!」

東雲
そんなことないよ
今回の勉強方法が合っていただけでしょ

サトコ
「それもそうですけど、やっぱり教官の···」

東雲
これならオレはもう必要ないね

(え···)

東雲
これからは1人で頑張って

<選択してください>

A: わかりました

サトコ
「···わかりました」

(そうだよね)
(いつまでも教官の手を煩わせるわけにはいかないもんね)

サトコ
「教官、今までお世話になりました!」
「本当に、本当にありが···」

B: え···

サトコ
「え···」

(それってもう勉強を教えてもらえないってこと?)
(まだまだ教えてもらいたいこと、たくさんあるのに?)
(そんな···でも···でも···っ)

東雲
その顔ブサイクすぎ

C: まだ教官の力が必要です

サトコ
「···まだ必要です」

東雲
ん?

サトコ
「まだまだ覚えること、たくさんあります」
「だから教官の力が必要です!」

東雲
······

サトコ
「もっといろいろ教えてください!」

東雲
······

サトコ
「もっと、もっと···」

東雲
うるさい

パチンッ!

サトコ
「痛っ!」

(な、なんでデコピン···っ)

東雲
なに本気にしてんの。ここで放置するわけないでしょ
たかだか5番程度で

サトコ
「!」

東雲
よく見ろ。この間違ったとこ
これ、テキスト5ページに説明書いてたよね?

(うっ···言われてみれば···)

東雲
あと、ここも。これはテキストの8ページ目

(ううっ···確かに···)

東雲
キミさ、本当に勉強したの?

サトコ
「しました!ちゃんとしました!」

東雲
······

サトコ
「本当です!」

(そりゃ、ちょっとだけ関塚夫妻のことに気を取られたりはしたけど···)

東雲
···ま、仕方ないか
キミの場合、底辺···どころか奈落の底からのスタートなわけだし
それでも5番なら、頑張った方か

教官は怠そうに首を回すと、視線だけを私のほうによこした。

東雲
とりあえず、ご褒美をあげるよ
なにがいい?

サトコ
「なにがって···」

東雲
そうだな···
キミの言うこと、1つだけ聞いてあげるよ
ごはんを奢って欲しいなら奢ってあげる
欲しいものがあるなら買ってあげる
ああ、でも金額は500円以内で···

サトコ
「だったら···!」

私は、思わず身を乗り出した。

サトコ
「だったら例のひったくり事件のこと、教えてください!」
「教官が、証言を変えた理由を」

東雲
···キミ、本当にしつこいね

サトコ
「しつこさ上等です!」
「これでも『長野のスッポン』って呼ばれてましたから」

東雲
え、キモ···

(うっ···)

東雲
···ま、いっか
じゃあ、キミにチャンスをあげるよ

教官は手帳を手に取ると、パラパラとページをめくる。

東雲
そうだな···とりあえず明日ならいっか
明日の0時から24時までの間にオレをその気にさせたら···
キミが知りたいこと、全部教えてあげるよ

(全部···本当に?)

東雲
ちなみに明日は休校日だけど、オレは10時から教官室にいる予定
さ、どうする?

サトコ
「やります!頑張ります!」

東雲
あっそう。じゃあ、そういうことで···
また明日

サトコ
「了解です!失礼します!」


【廊下】

(よし、頑張ろう!)
(頑張って教官をその気にさせて、知りたかったことを全部···)

サトコ
「···ん?」

(『教官をその気にさせる』ってどういうこと?)

【個別教官室】

翌日、朝10時

サトコ
「おはようございます」

東雲
おはよう

サトコ
「あの···今さらですけど」
「昨日言ってた『教官をその気にさせる』って具体的には···」

東雲
どういう意味だと思う?

サトコ
「えっ、それは···」

(私が知りたいことを教えてもらうわけだから···)

サトコ
「とにかく『喋る気にさせる』ってことかと」

東雲
どうやって?

サトコ
「?」

東雲
脅して?なだめすかして?

サトコ
「え、えっと···」

(脅すのは無理だよね。でもなだめるような状況でもないし···)
(そうなると、あとは···)

東雲
あー肩凝ったなー

サトコ
「!」

東雲
肩凝ってると、なにも喋る気になれな···

サトコ
「揉みます!氷川、揉ませていただきます!」

私は、急いで背後に回ると、グイグイと肩を揉み始める。

(そっか、『ご機嫌取り』だ!)
(教官の機嫌を取って、喋る気になってもらえれば···)

東雲
あーもうちょっと右

サトコ
「右ですね!」

東雲
あ···左かも

サトコ
「左ですね!」

東雲
そう言えば、今日『幻のピーチネクター』飲んでない···

サトコ
「買います!速攻で買ってきます!」

こうしてどんどん時間が過ぎ···

サトコ
「はぁ···はぁ···」
「お、大阪屋の肉まん···お持ちしました···」

東雲
あっそう
あーうまい···

(おかしい···さっきから、ただパシられてるだけのような気が···)

東雲
さて···と、提案書も書きあがったことだし
どうする?

サトコ
「な···なにがですか?」

東雲
オレはこれから出掛けるけど、キミは···

サトコ
「一緒に行きます!ぜひ!」

東雲
ちょ···近づきすぎ
もう少し下がってよ

サトコ
「うっ、すみません」
「ああっ、待ってください!」


【街】

教官のあとを追いながら、私は頭を巡らせる。

(どこに行くつもりなんだろう)
(もうすぐ13時だよね。となるとやっぱりお昼ご飯?)
(このあたりだとファミレス系かな。それともファストフード?)
(案外、渋めの定食屋さんだったりして···)

東雲
あ、そこの横断歩道渡るよ

サトコ
「はいっ···」

(あれ、これって駅方面?)
(もしかして電車移動するつもりじゃ···)

【カフェ】

30分後···私と教官は原宿にいた。

東雲
はぁぁ···
やっぱり頭脳能動のあとは糖分必須だよね

サトコ
「······」

(まさかのスイーツ系カフェ···しかも女子率95%···)

けれども教官は動じることなく2つのパフェを交互に食べている。

(知らなかった··教官ってこういうお店、平気なんだ···)

東雲
···なにポカンとしてんの

サトコ
「あ、その···なんでパフェを交互に食べてるのかなって···」

東雲
2つあるからでしょ

サトコ
「でも、交互に食べてると味が混ざりませんか?」

東雲
べつに。糖分摂取に影響ないし
むしろ片方だけ減る方がイヤだけど

サトコ
「どうしてですか?」

東雲
バランスが悪いから

サトコ
「···バランス?」

(あ···でも言われてみれば···)

サトコ
「教官室の書類っていつも同じ高さで積まれてますよね」

東雲
揃えてるから当然

サトコ
「床に積んである本の高さも···」

東雲
バランスが悪いとイラッとするじゃない

サトコ
「でも、いつも同じ高さに揃えるのって大変じゃないですか?」

東雲
そうでもないけど
1つ減ったら、他も1つ減らせばいいし
1つ増えたら、他も1つ増やせばいい

サトコ
「確かに···」

東雲
右頬にキスしたら左頬にキスすればいい

サトコ
「ゲホッ」

東雲
これでバランスがとれるってわけ

(いやいや、最後のはおかしいでしょ!)
(なんで、ここでキスの話が···)

東雲
なに赤くなってんの?

サトコ
「い、いえ、その···」

東雲
まさかキミ、初キスもまだとか···

サトコ
「そ、そんなことはないです!」

東雲
またまた···

サトコ
「ホントです!」

東雲
でも社会人になってからでしょ

サトコ
「違っ」

東雲
大学生

サトコ
「···っ」

東雲
はい、情報ゲット

教官はにやりと笑うと、スプーンをパフェのグラスにさした。

東雲
キミの初めてのキスは大学時代
ということは、おそらく初カレも大学時代
ついでに初めての相手も···

サトコ
「わーわーわー!」

東雲
という感じで相手の感情を揺さぶって···
情報を引き出すわけ

(あ···)

東雲
どんなに脅してもなだめすかしても、ご機嫌とっても···
相手の感情を揺さぶれないと意味がない

サトコ
「······」

東雲
わかった?

サトコ
「···はい!」

(そっか、そのために教官はあんな質問を···)
(私に経験した上で分からせるために···)

苺のショートケーキを頬張りながら、私は改めて決意する。

(よし···頑張ろう)
(頑張って、今日中に教官の感情を揺さぶって、ひったくり犯の一件を···)

東雲
それにしてもすごいよね、キミのケーキの食べ方

サトコ
「?」

東雲
爬虫類図鑑にでも載ってそう

(は···っ)

東雲
あ、ちょうどいいや。こっち向いて

パシャッ!

東雲
···うん、良く撮れてる
これ、藤咲巡査部長に送っておくよ

サトコ
「!?」

東雲
彼、生き物に詳しいから、どこの爬虫類に似てるのかすぐに教えて···

サトコ
「ダメです。藤咲瑞貴にだけは絶対ダメ···っ」
「私の青春の思い出が···っ」

結局、こんな調子が何時間も続き···

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【帰り道】

(おかしい···なんで私ばかり振り回されてるんだろう)
(でも、正直教官が強者すぎるっていうか)

東雲
さて···と。あと4時間で今日が終わるわけだけど
まだついてくる?

サトコ
「もちろんです!」

東雲
あっそう。じゃあ···


【東雲マンション】

東雲
どうぞ

(えっ···)

サトコ
「あの···ここは···」

東雲
オレの家
今日はもう外出の予定もないし

サトコ
「ちなみに、ご家族と同居なんて···」

東雲
していたらキミを連れて来ないけど

サトコ
「ですよねー···」

(じゃなくて···!)
(これって、好きな人の家に『おじゃましまーす』的な?)
(えっ···でも、え···っ)

東雲
どうするの?
あと3時間50分で今日が終わるけど

サトコ
「···!」

(そうだ、チャンスは今日1日だけ···)

<選択してください>

A: おじゃまします

サトコ
「おじゃまします」

東雲
ふーん···
じゃあ、どうぞ

B: う、うーん···

サトコ
「う、うーん···」

東雲
あっそう。来ないんだ
それじゃ

サトコ
「ああっ···やっぱり行きます!」
「中に入れてください!」

C: どうすればいいですか?

サトコ
「あの···どうすればいいですか?」

東雲
その質問の意味が分からない
それくらい自分で決めれば?

サトコ
「そ、そうですよね」

(とりあえず、おじゃましようかな···)

【リビング】

東雲
適当に座って

サトコ
「はい···」

(きれいに片付いてる···)
(なんか···どこかのモデルルームみたい···)

壁にかかった時計は8時15分を示している。

(あと3時間45分···)
(その間に何とかして教官からひったくり犯の件を聞き出さないと)
(でも、正直難しすぎるっていうか···むしろ私ばかり振り回されて···(

東雲
はい、飲み物
ここに置いておくから

サトコ
「···ありがとうございます」

(教官ってどうすれば動揺するんだろう···)
(いっそ色仕掛け?『胸の谷間をチラ見せ』的な?)
(いや、待て待て、そもそも見せられるほどの谷間が···)

東雲
一応断っとくけど
キミのナニートラップには99.9%引っかからない自信があるから

サトコ
「な···っ」

東雲
ロクな下着つけてなさそうな子に誘われてもねー

(そ、そこまで言わなくても···)

ヘコむ私の隣に、教官はどかりと座り込む。

東雲
ほら、あと3時間42分

サトコ
「······」

東雲
あ、3時間41分になった

(く···っ、どうすれば···)

東雲
本当になにも思いつかないの?
キミ、オレの補佐官でしょ
1つくらい、弱点に気付いてるでしょ

サトコ
「それは···」

(本当は気付いてる···1つだけ···)
(たぶん、さちさん絡みのネタなら···)

でも、それは使いたくない。
教官を傷つけることになるかもしれないし、なにより···

(私なりの『意地』っていうか『プライド』っていうか···)

東雲
ねーまだー

サトコ
「······」

東雲
あと3時間40分

サトコ
「······」

東雲
じゃあ、オレから質問

教官は私の顔を覗き込むと、含みのある笑みを浮かべてきた。

東雲
キミってさ、オレのことどう思ってんの?

(え···)

東雲
オレのこと、好きなの?

to be continued



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