カテゴリー

東雲 恋の行方編 5話



【更衣室】

更衣室から賑やかな声が聞こえてくる。

好青年
「でも、残念でしたね。久しぶりの『忍者ラボ』だったのに雨に降られるなて」

謎の男
「まったくだ。今日こそ『水遁の術』を完成させるつもりが···」

男子訓練生A
「あの···本当にできるんですか?『水遁の術』なんて」

男子訓練生B
「あれ、あくまで伝説なんじゃ···」

謎の男
「できるはずだ。そのように文献にも書いてある」

好青年
「えっと···とりあえずシャワー浴びませんか」

後藤
そうだ、早くしろ

【シャワー室】

(ご、後藤教官がこっちに···!)

東雲
こっち

サトコ
「!?」

東雲
早く!

後藤
···ん?
誰だ、そこにいるのは

東雲
オレです

後藤
なんだ、歩か

東雲
ふぅ···

(良かった。気づかれてないみたい···)

東雲
ちょっとよけて。シャワー出すから

(えっ、でも···)

温かなシャワーが雨のように落ちてくる。

サトコ
「教官、服···」

東雲
仕方ないでしょ
シャワー浴びてることになってるんだから

サトコ
「でも···」

東雲
それにまた風邪ひかれても困るし

(教官···)

<選択してください>

A: ありがとう

サトコ
「ありがとうございます」

東雲
べつに
それよりあまり動かないで

サトコ
「え···」

東雲
視界に入ると、いろいろ困る···

サトコ
「···っ」

B ···風邪?

サトコ
「···風邪?」

東雲
忘れたの?
池に落ちて風邪ひいたくせに

(あっ、研修旅行のときの···!)
(でも、あれはあのあと押し入れで寝たせいのような気も···)

C: すみません

サトコ
「すみません···」

東雲
······

サトコ
「教官に迷惑かけて···」

東雲
···べつに

東雲
とりあえず、皆がブースに入ったら出るから

サトコ
「は、はい···」

温かなお湯が降り注ぐなか、息を潜めて外の気配を窺う。
それでも、心臓の鼓動が速くなるのは止められなくて···

(どうしよう···なんか息苦しい···)
(心臓がバクバクしすぎて、口の中がもうカラカラで···)

東雲
···よし、行くよ

サトコ
「は、はいっ」

教官はシャワーを止めると、ブースの扉を開ける。

東雲
いいよ、来て···

男子訓練生A
「あっ、タオル···」

バタン!

東雲
!!

男子訓練生A
「えっ···東雲教官!?」

東雲
なに?どうかした?

男子訓練生A
「えっ、その···ずぶ濡れ···」

東雲
悪い?

男子訓練生A
「いえ!失礼しました!」

バタン!

東雲
···行くよ

教官が、私の身体を抱き寄せる。
そのまま庇われるようにして、私はなんとかシャワールームを脱出した。

【更衣室】

東雲
はぁぁ···

サトコ
「すみません。ありがとうございました」

東雲
お礼はいいから、早く着替えて

サトコ
「は、はいっ」

(ダメだ···まだバクバクしてる)
(だって、絶対いろいろ見られたし···)
(あ、でも確か私には性的興奮を覚えないって···)

東雲
着替えた?

サトコ
「はい!」

東雲
······

サトコ
「その···本当にすみませんでした」

東雲
いいよ、もう
早く行きなよ

サトコ
「はい。あの···教官は···」

東雲
もう少ししてから行く

サトコ
「···わかりました」
「それじゃ、失礼します」

東雲
うん

バタン!

東雲
······

モッピー!お金がたまるポイントサイト

【寮 談話室】

サトコ
「はぁぁ···」

(どうしよう···今晩眠れそうにないよ)
(とりあえず、もう二度とこういうことがないようにしなくちゃ)
(鳴子に相談して、なにか対策を立てないと···)


【カフェテラス】

翌週。

鳴子
「『女子入浴中』の札?シャワー室に?」

サトコ
「うん」

鳴子
「あー確かに必要かも」
「男の人とバッティングすると気まずいもんね」
「ホームセンターに行けばなにかあるかな」

サトコ
「それか100均かな···今度探してくるよ」

鳴子
「うん、よろしく」
「あっ、そういえばさ、聞いた?」
「東雲教官のワイルド疑惑」

サトコ
「···ワイルド?」

鳴子
「東雲教官ってさ、服を着たままシャワーを浴びて···」
「そのあと、バリバリってシャツを破いて脱ぎ捨ててさ」
「最後に乾布摩擦をするんだって」

サトコ
「!?」

鳴子
「なんかワイルドだよねー」

サトコ
「そ、そうだね···」

(それ、まさかこの間の一件が原因なんじゃ···)

鳴子
「でもさ、ちょっと意外じゃない?」
「そういうのって、どっちかっていうと加賀教官のイメージ···」

加賀
おい、クズ

サトコ
「!!」

鳴子
「あ、おつかれさまでーす」

サトコ
「お、おつかれさまで···」

加賀
来い、クズ

加賀教官が、私の首根っこを捕まえる。

サトコ
「きょ、教官、首が···っ」

加賀
いいから来い、クズ!


【個別教官室】

加賀
理由はわかってるな

サトコ
「······」

加賀
金曜から今日までの報告はどうした

サトコ
「ど、土日は教官に会わなかったので···」

加賀
金曜は

サトコ
「······」

加賀
なにがあった

(言えない···あんなシャワー室のゴタゴタとか···)

加賀
俺の目を見ろ、グズ

サトコ
「···っ」

加賀
なにがあったか、さっさと吐け

サトコ
「······」

加賀
女とでも会っていたか?
例えば『関塚さち』とか···

サトコ
······!

加賀
図星か

サトコ
「違います!会っていません!」

(木曜日に電話はかかってきたけど、会ってなんて···)
(···たぶん)

加賀
···じゃあ、なぜ黙る

サトコ
「報告することが、ないからです」

加賀
······

サトコ
「逆に質問させてください」
「どうして東雲教官を監視しないといけないんですか?」

加賀
······

サトコ
「それに、どうして加賀教官は関塚夫妻のことを···」

加賀
黙れ!

ドンッ!

加賀
もういい、お前はクビだ
毎日毎日くだらねぇ観察日記みたいなものばかりよこしやがって

サトコ
「そ、それについては反省してますけど···っ」

加賀
歩のことが好きか

サトコ
「···っ」

加賀
答えろ

サトコ
「そ、それは···」

加賀
······

サトコ
「それは···」

加賀
···半人前のくせに、このクズが

(え···)

加賀
一つだけ忠告しとく
あいつはやめておけ
どうせお前が泣くだけだ

サトコ
「······」

加賀
もういい、行け

サトコ
「···失礼します」


【カフェテラス】

(『どうせ泣くだけだ』か···)

サトコ
「知ってるよ、それくらい」

このまま好きでいても、きっと報われない。
そんなことは、イヤってほど分かってる。

(それでも好きでいるの、やめられないだってば···)

サトコ
「はぁ···」

(なんでやめられないんだろ、私)
(いい人なら、他にももっといるよね)
(『優しい人』とか『カッコいい人』とか『キノコじゃない人』とか···)

千葉
「氷川···ここ、いいかな?」

サトコ
「あ、どうぞ」

(あれ?)

サトコ
「千葉さん、痩せた?」

千葉
「え···」

サトコ
「頬、痩せた気がするけど···」

千葉
「ああ···うん、ちょっといろいろあってさ」

サトコ
「そっか···」

すると、なぜか千葉さんがじーっと私を見つめてくる。

サトコ
「···なに?」

千葉
「ああ、その···」
「実は氷川に話したいことが···」

サトコ
「私に?なにを?」

千葉
「······」
「···ごめん、やっぱりいい」
「じゃあ」

サトコ
「えっ、ちょっと···」

(···いいのかな、本当に)
(なにか悩み事があるんじゃ···)

颯馬
こんにちは

サトコ
「おつかれさまです」

颯馬
聞きましたよ。先日の小テスト、5番だったそうですね
さすが歩が目をかけているだけのことはあります

サトコ
「い、いえ、そんなことは···」
「むしろ、いつも『バカ』って言われてばかりで···」

颯馬
ですが、歩からいろいろ教わっているのでしょう
彼とよく一緒にいますし

サトコ
「それは、まぁ補佐官ですから」

颯馬
貴女なら私の知らない歩のことを知っていそうだ

(な、なんでいきなり顔を近付けて···)

颯馬
ふふ···そう怯えないでください
近いうちにお食事でもしましょう
貴女には聞きたいことがいろいろありますので
では失礼

サトコ
「お、おつかれさまです···」

(そんな、聞きたいことって言われても···)


【個別教官室】

私が知ってる教官のことなんて、本当はそんなに多くない。

(意地悪で口が悪くて、すぐに人をパシリにして···)
(でも、何気にけっこう優しくて···)
(初恋の相手が結婚しても、ずーっとずーっと大好きで···)

東雲
ねぇ、キミさ
ゴミ箱の中身、片付けた?

サトコ
「!」

東雲
オレ、ゴミを捨てた覚え、ないんだけど···

サトコ
「え、えっと···」

<選択してください>

A: 片付けたような···

サトコ
「片付けた···ような···」

東雲
いつ?

サトコ
「え、えっと···いつだったかな」
「ちょっと忘れてしまったような···」

東雲
······

B: 片付けてないです

サトコ
「片付けてないです」

東雲
······

サトコ
「片付けてないです!」

東雲
なに2回も言ってんの

サトコ
「それは、その···」

C: 痛たた···お腹が···

サトコ
「痛たた···お腹が···」

東雲
拾い食いするから

サトコ
「してませんよ、そんなこと!」

東雲
で?お腹が痛いフリをした理由は?

サトコ
「そ、それは···」

(まずい、ここはもう逃げるしか···)

サトコ
「すみません。ちょっと用事を思い出しました!」

東雲
は?

サトコ
「失礼します!」

モッピー!お金がたまるポイントサイト

【裏庭】

サトコ
「うぅ···」

(やっぱり捨てたこと、後悔してる···よね)
(それならそれで、私が返せばいいだけなんだけど)

できれば『ガラスの破片』も一緒に返したい。
そう思って、今までこっそり探し続けてきた。でも···

サトコ
「···ダメだ。やっぱりない」

(なんで見つからないんだろう)
(絶対この辺りに落ちてるはずなのに)

バカなことをしている自覚はある。
でも、大事な思い出を捨てて「おしまい」になるとは思えない。

(それで忘れられるなら、とっくに吹っ切ってるよ)
(それができないから、きっと今まで引きずって···)

コツン···

サトコ
「あっ···」

(あった!これ···)

???
「氷川···」

(えっ···)

サトコ
「あ、おつかれさま。どうしたの?」

千葉
「······」

サトコ
「···千葉さん?」

千葉
「やっぱり氷川に話しておきたいことがある」
「俺と一緒に来てくれないか?」

【個別教官室】

(ここって颯馬教官の個別教官室だよね)
(どうして、ここに···)

私があたりを見回している間に、千葉さんはPCを起ち上げる。

サトコ
「ちょ···それ、教官のじゃ···」

千葉
「いいんだ。許可もらってるから」
「それに最近は俺ばかり使ってたし」

サトコ
「···どういうこと?」

千葉
「実は今、颯馬教官の手伝いをしててさ」

サトコ
「ええっ、いつの間に!?」

千葉
「少し前···かな」
「ちょっと目を付けられたっていうか···」

颯馬
人聞きが悪いですね。『目をかけた』ですよ

千葉
「うわっ」

(いつの間に!?)

颯馬
彼、優秀でしょう?
なにせ『授業の予習』で警視庁のDBにアクセスできるくらいですから

サトコ
「!」

颯馬
それなら実践で使ってみようと思いまして

(そ、それって、まさか例の『ひったくり犯』を調べてた時の···)

チラリと千葉さんを見ると、気まずそうに視線が泳ぐ。

(うっ、やっぱりそうなんだ···)
(ごめんなさい、千葉さん!)

颯馬
では、残りは千葉くん···貴方が説明しなさい

千葉
「は、はい」
「実は俺、ここのところ『ある女性』の追跡調査をしていたんだ」
「その人は、笹野川六郎議員の愛人なんだけど···」

サトコ
「えっ···笹野川議員って、たしか『愛妻家』って評判だったんじゃ···」

颯馬
それはあくまで表向きの顔ですよ
彼は、我々が調べただけでも3人の愛人を囲っています

(うわぁ···)

千葉
「議員の愛人騒動は、少し前にも話題になってるんだ」
「きっかけは、SNS上の書き込みでさ」

千葉さんはプリントアウトした用紙を見せてくれる。

サトコ
「これ···トイッター?」

千葉
「うん、ちょっと会話の流れを見てみて」

······『今、ホテルで笹野川って議員とすれ違った。若い女連れ』

······『嫁じゃね?』

······『日本人じゃないっぽい』

······『不倫かよwww』

······『アイツが愛妻家とかウソ。いつも秘書名義でホテル取ってる』

サトコ
「うわ、サイテー···」

千葉
「2枚目も読んでみて」

サトコ
「うん···」

······『すみません、笹野川議員が愛人と一緒ってほんとですか?』
『今日は体調不良って聞いたんですが』

······『笹野川議員、今日政府代表のパネラーとして』
『うちのシンポジウムに出席するはずだったんですけど···』

······『マジで?』

······『あいつ、愛人とホテルにいた』

······『笹野川、愛人と会ってて仕事サボりwww』

······『笹野川、終わった\(^o^)/』

サトコ
「えっと、つまり···」
「議員は愛人と会っていて、シンポジウムを欠席したってこと?」

千葉
「SNS上ではそういう流れになってたんだ」
「もっとも本人はすぐに否定したけど」

サトコ
「なんて?」

千葉
「『その日は本当に体調不良のため別のホテルで寝ていた』って」
「それについては、滞在先のホテル従業員の証言もあるみたい」

サトコ
「···そうなんだ」

颯馬
ですが、この件についてはいくつか不審点があるんです
まずは1点目。彼が滞在していたはずのAホテルですが···
どの監視カメラの画像を見ても、彼の姿は見当たりません

サトコ
「はぁ···」

颯馬
2点目。笹野川がこのホテルに滞在していたと証言したのは、Aホテルの従業員なのですが···
名前は『裏原ユキト』

サトコ
「裏原···って」
「私が捕まえたひったくり犯!」

(そうだよ!『裏原ユキト』29歳。ホテル従業員···)

颯馬
思い出せたようですね
では、このSNSの書き込みの日付も見てください

サトコ
「あっ、この日は···っ!」

颯馬
そうです。あなたが『ひったくり犯を捕まえ損ねた日』···
つまり、あなたの証言が正しければ、裏原はこの日Aホテルにはいないはずなんです

(そうだ···そうなるよね)

サトコ
「じゃあ、裏原が22件目のひったくりを『やっていない』って言い張っているのは···」

颯馬
笹野川議員に証言を頼まれたせいかもしれません
もともとこのAホテルは、笹野川議員にゆかりのあるホテルですしね
裏原としても、議員が証人になってくれれば1件分の罪が軽くなるわけですし

サトコ
「そんな···ズルいです!」
「自分たちのやったことを隠すためにウソの証言をするなんて···!」

千葉
「ただ、問題はそれだけじゃないんだ」

サトコ
「え···」

千葉
「SNSの噂を確かめるために、今度はBホテルの監視カメラ映像も手に入れたんだ」
「噂が正しければ、議員と愛人が映ってるはずだろ?」

サトコ
「うん···」

千葉
「ところが、そっちにも議員の姿は映ってなくて···」

颯馬
どうやら該当映像を上書き削除されたみたいなんです
この映像···氷川さんは既に見ていますよね

モニターに、見覚えのある映像が映し出される。

サトコ
「これ···加賀教官に頼まれた···」

颯馬
そうです。あなたはこの映像から不自然な『飛び』を見つけましたよね

サトコ
「はい···」

颯馬
これは、おそらく元の映像に別の時間帯の映像を上書きしたせいです
そして我々は、元の映像にこそ議員が映ってるはずだと考えています

サトコ
「そんな···映像の上書きなんてできるんですか?」

颯馬
本来ならできません。こうしたものにはタイムコードが入るんです
ですが、この日は機器の故障でタイムコードが表示されませんでした
それならば、削除も上書きも決して難しくありません

(そうなんだ···)

サトコ
「でも、誰がなんのためにそんなことを···」

颯馬
目的はわかりません
ただ、細工した人間の目星はついています

サトコ
「え···」

颯馬
コンピューターやネットワーク系に詳しく、遠隔操作ができる人物···

(まさか···)

颯馬
つまり我々は東雲歩の仕業だと思っているのですよ、氷川さん

to be contineud



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする