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東雲 恋の行方編 4話



【モニタールーム】

ドアを開けるなり、加賀教官は私を中へと突き飛ばす。

加賀
そこの椅子に座れ

サトコ
「えっ、椅子···」

加賀
早くしねぇか、このクズが

(な、なんで近づいて···っ)

カチッ!

(···ん?)

背後にあったモニター画面が、少し間をあけてから起動する。

サトコ
「この映像は···」

加賀
とある監視カメラの2ヶ月前の映像だ

見ろ、あと顎で示されて、私はモニターと向かい合う。

(これ···屋内だよね)
(絨毯敷きの廊下ってことはホテルかどこかの···)

加賀
この映像を全部見ろ。早送りはするな
なにか不審な点があったらすぐに呼べ

(えっ···)

サトコ
「それだけですか!?」

加賀
他に何かできるのか。クズの分際で

サトコ
「え、えっと···それは···」

バタン!

サトコ
「···行っちゃった」

(でも『全部見ろ』って···どれくらいかかるの?)
(1時間?2時間?まさか24時間とか···)

サトコ
「···と、とりあえず座ろう、うん」

1時間経過。

(参ったな···もうずーっと廊下の映像のままなんだけど)
(誰かが通りかかるわけでもないし、なんでこんな映像を···)

サトコ
「あ···」

(やっと誰か来た···)
(ワゴンを押してる···ホテルの従業員っぽいな)
(ってことは、これ···やっぱりホテルの監視カメラなんだ)

3時間経過。

サトコ
「うう···」

(ダメだ、変化なさすぎ···)
(3時間も見てるのに、通ったのは従業員5人だけって)
(早送りしたいけど、ダメだって言われたし···)

サトコ
「ふわぁ···」

(···まずい。眠たくなってきた)

サトコ
「確か、眠気覚ましのツボが···」

5時間経過。

サトコ
「すぅ···すぅ···」

加賀
起きろ

サトコ
「すぅ···」

加賀
起きろ、このクズが···!

サトコ
「!?」

(し、しまった、つい居眠りを···)

サトコ
「すみませんっ!」

加賀
いつから寝ていた?

サトコ
「え、えっと···たしか···」

(あれ?)

加賀
どうした?

サトコ
「すみません。なんか映像が変わってる気がして」

加賀
···どういうことだ?

サトコ
「えっと···ちょっと待ってください」
「今、思い出しますんで」

私は目を閉じると、寝る前に見ていた映像を思い浮かべる。

(廊下···カーペット···絵···絵画···シャンデリア···)

サトコ
「···シャンデリア!」
「この隅っこのシャンデリア···私が寝る前は1個だけ明かりが消えてたんです」
「でも、今はついてます」

加賀
···バカな

加賀教官はなぜか吐き捨てるように言うと、映像を巻き戻し始める。

加賀
お前の言ってることが正しければ、誰かが電球を変えたということだな

サトコ
「あ、そうですね」

加賀
だが、そんな映像はどこにもねぇ

サトコ
「そんなはずは···」

加賀
見てみろ

何度か映像を止めながら、加賀教官はシャンデリアが点灯したコマを探る。
そして···

加賀
···ここからだな。消えていた電気が点いたのは

サトコ
「そうですけど···」

加賀
よく見ろ。その前の映像で、誰も電球の交換なんざしてねぇだろうが

加賀教官が何度もスイッチングして、前後の映像を見せてくれる。

サトコ
「そんな···どうして···」

加賀
······

サトコ
「交換作業もしないで電球を変えるなんてムリですよね」
「でも、映像が飛んでるようには···」

加賀
···クズ。命令だ
明日から歩を見張れ

サトコ
「!」

加賀
見張って、俺に毎日報告しろ

サトコ
「そ···それはどうして···」

加賀
うるせぇ!とにかく歩を見張って報告しろ!

(そ、そんなのいきなり言われても···)

<選択してください>

A: 冗談ですよね?

サトコ
「じょ、冗談ですよね?」
「東雲教官を見張るなんて···」

加賀
···なんだと

ドンッ!

加賀
どういう意味だ、このクズが

サトコ
「すすすすみません···っ!」

(ていうか恐いです、その壁ドン···っ!)

B: イヤです

サトコ
「イヤです!」

加賀
なんだと!?

サトコ
「だって自分の担当教官を見張るだなんて、そんなの···」

加賀
あいにくお前に拒否権はねぇ

グイッ!

(な、なんで顎をつかんで···っ!)

加賀
お前はおとなしく言うことを聞けばいいんだ、このクズが

(痛いっ、顎が痛いです、加賀教官···っ)

C: 理由を教えて

サトコ
「せめて理由を教えてください」
「どうして東雲教官を見張らないと···」

加賀
ぐちゃぐちゃ言うな
必要だからに決まってんだろうが!このグズグズが

(ぐ、グズグズ?)

加賀
報告はメールで構わねぇ
絶対に歩にバレないようにしろ
サボったら俺の担当科目の単位はないと思え
いいな

サトコ
「······」

加賀
いいな?クズ

サトコ
「は···はい···っ」

(な、なんかエライことに···)
(でも、いきなり『見張って報告しろ』って言われても、どうすれば···)



×月3日(月)晴れ······

東雲教官に一芸を強要された。


東雲
ふわぁ···
ダメだ、眠い···
ああ、ちょっと、キミ
一発ギャグやってよ。目覚めそうなヤツ
ほら、早く
······
···え、キモ
なにその失敗したセクシーポーズみたいなの
ないね。ないない

···渾身の『長野のスッポン』ネタだったのにひどすぎると思う。

×月4日(火)くもり······

昼休みに黒澤さんが会いに来る。

黒澤
ね、ね、歩さん!久しぶりに、来てくださいよ

東雲
ごめん、今忙しいし

黒澤
そう言わないで。今度はアキバ系のOL集めましたから!

東雲
OLなら丸の内がいい

黒澤
そう言わないで。ね、ねっ

どうやら合コ···食事会のお誘いらしい。

×月5日(水)晴れ······

最近、教官は缶コーヒーばかり飲む。
メーカーはDOSSのプレミアム。
おかげで難波室長と話す機会が増えた。

難波
あー、悪いね。応募シール
ま、DOSSジャンが2枚当たったら氷川に1枚やるから

後藤
室長、これを

難波
おっ、悪いね。後藤もシールをくれるのか
よし、DOSSジャンが2枚当たったら後藤に1枚やるから

···難波室長はやっぱり適当···いろいろおおらかだと思う。

×月6日(木)くもり···

東雲教官にまたエビフライを奪われた。

東雲
あーなんで他人のエビフライっておいしいんだろうね
ごちそうさま

あ然としていると、隣の席の人が声をかけてくれた。

優しい人
「あの···よろしければ私のエビフライをどうぞ」
「いえ、全部は食べませんから」

「優しい人」は警護課の人らしい。
でも、どこかで会ったことがあるような···


【カフェテラス】

サトコ
「って違ーう!」

(これじゃ、ただの『東雲教官観察日記』だってば!)
(しかも私、結構ひどい仕打ち受けてるよね)
(一発ギャグさせられたり、パシリにされたり、エビフライ奪われたり···)

サトコ
「ああ、もう···」

(わかんない···ほんと、わかんない!)
(どうして私、こんな人のことを好きに···)

東雲
なに書いてんの

サトコ
「!」

東雲
それ、なんのノート?

サトコ
「な、鳴子との交換日記です!」

東雲
ふーん···交換···
ふわぁぁ···

(教官、今日も眠たそうだな···)

サトコ
「仕事、お忙しいんですか?」

東雲
······

サトコ
「最近、缶コーヒーばかり飲んでますよね」
「最初は室長にシールをあげるためなのかなって思ってましたけど」
「それにしては飲みすぎな気が···」

東雲
そういうキミこそ···
最近オレのこと、よく見てるよね

サトコ
「!」

東雲
なんで?何が目的?
もしかして誰かに頼まれた?
オレのこと、見張れって···

サトコ
「い、いえ、そんなことは···」

(まずい!なんとかして誤魔化さないと···)
(なんとかして···なんとか···)

サトコ
「あああっ!差し入れ!」

東雲
···は?

サトコ
「教官、お忙しいみたいですし」
「補佐官として夜食でも差し入れますよ!」
「なにがいいですか?」

東雲
オマール海老のテルミドール風

(げっ···)

東雲
というのはどうせ無理だろうから
エビフライ
タルタルソース付きで

サトコ
「りょ···了解です!では、失礼します!」

ガタガタンッ!

東雲
······


(とりあえず、うまく誤魔化せたよね)
(うん、誤魔化せたよ···たぶん···)

サトコ
「はぁぁ···」

(それにしても『エビフライ』か···作ったことないんだけど)
(まずは小麦粉で衣を作るんだっけ。それで卵液にくぐらせて···)
(···ん?それだと海老天になっちゃう?)

サトコ
「エビフライ、エビフライ···うーん···」

【個別教官室】

その日の夜。

サトコ
「失礼します···」

東雲
なに?

サトコ
「あの···夜食の差し入れを···」

東雲
ああ、そこに置いて···
!?

(な、なんかめちゃくちゃ凝視してる···)
(そうだよね、するよね、そりゃ)

東雲
なにこれ

サトコ
「エビフライ···です···」

東雲
黒くない?

サトコ
「それは、その···」
「ブ、ブラックタイガーなので!」

東雲
······

サトコ
「···嘘です」
「揚げ物を作るの、久しぶりすぎて」

東雲
······

サトコ
「や、やっぱり別の持ってきますね」
「今ならまだスーパーのお惣菜も···」

東雲
いいよ、これで
廃棄物を増やすのもどうかと思うし

教官は黒すぎる衣を外すと、タルタルソースをたっぷりとつける。

東雲
ん···?なにこのソースの食感···
やけにガリガリしてるんだけど

サトコ
「たくあんです。ピクルスが切れてたんで代わりに···」
「···ダメでしたか?」

東雲
べつに。悪くはないんじゃない
もう少し細かく刻んで欲しかったけど

(うっ)

東雲
それにエビフライも、エビ自体は普通に美味しいし
問題なのはこの黒い衣だけで

サトコ
「た、確かに···」

東雲
ま、甘めに採点して38点ってとこ···

サトコ
「赤点じゃないんですか?」

(よっしゃーっ!)

東雲
なにそのポジティブシンキング
もう少し落ち込みなよ。素材に助けられただけなんだから

サトコ
「そ、そうですよね」

それでも教官は、フライの衣以外は食べてくれた。
たくあん入りのタルタルソースまで、きれいさっぱりと。

東雲
はぁ···美味しかった
ただの『エビ』だったけど
『エビフライ』じゃなかったけど

サトコ
「うっ、すみません」

東雲
ま、いいんじゃない
次はもっとましな差し入れ···
ふわぁ···

(あ、やっぱり眠たそう)

サトコ
「コーヒー買ってきましょうか?」

東雲
いらない。それより···

いきなり右肩が重たくなる。

サトコ
「えっ、ちょ···」

東雲
動かないで

サトコ
「!」

東雲
少しだけ、肩貸して···
少しだけ···
すぅ···

(早っ、もう寝ちゃってるし!)
(ていうかこの状況、一体どうすれば···)

ガチガチに緊張したまま、視線だけをなんとか動かす。
すぐそばにある、さらさらの髪。
右肩に感じる、あたたかな体温。

(どうしよう···これも『要報告』?)
(でも、こんなのなんて書けば···)

東雲
すぅ···すぅ···

(教官···)

少しだけ···
本当に少しだけ、教官の頭に寄り添ってみる。

(これが『当たり前』だったらいいのに)
(こんなふうに、いつも教官のそばにいられたら···)
(それを許してもらえるようになれたら、私···)

♪~

(この着信メロディ、さちさんからの···!)

東雲
すぅ···すぅ···

(どうしよう、起こさないとダメだよね)
(でも、教官、眠っちゃってるし··)
(でも···)

迷いに迷った末、私は教官を揺さぶった。

東雲
···なに?

サトコ
「電話です。教官に···」

東雲
電話···

教官は素早く起き上ると、スマホに手を伸ばす。

東雲
ごめん、なに?
ああ、うん···うん···

(···行っちゃった)

触れた右肩は、まだほんのりとあたたかい。
そのことだけで、なんだか胸がぎゅうっとなりそうで···

サトコ
「···やめやめ!」

(いつまでもヘコまない!)
(教官がさちさんを好きなの、知ってるし)
(こっちは、そんなのわかってても好きなんだし!)

サトコ
「とりあえず片付け···っと」

(ん?)

ふと、机のそばのゴミ箱になにかが捨ててあることに気が付く。

(写真の束···教官の···?)

サトコ
「これ···!」

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【寮 自室】

部屋に戻ると、私はスマホを開いて加賀教官のメアドを呼び出した。

(『×月6日(木)追加報告』···)
(『関塚さちさんから電話あり。内容は』···)

そこまで打ち込んだところで、手が止まる。

(やっぱりイヤだな、こういうの)

加賀教官が、以前から関塚夫妻を気にしていたことは知っている。
だけど、さちさんとのやりとりは東雲教官にとっては大事なもののはずだ。

(きっと誰にも触れられたくないようなもの···)
(だから、さちさんからの電話だって気づいたとき、飛び起きたんだよね)

けれども教官は、今それを無理やり捨てようとしている。

(このゴミ箱にあった写真···どれもさちさんと教官なんだよね)

一番上にあった写真は、大学の合格発表のときのもの。
その次が中学校の卒業式。
さらに、小学生のころのさちさんの誕生日パーティー。
そして最後の1枚は···

(あのガラスの破片···ステンドグラスだったんだ···)

ステンドグラスの工房らしい場所にいる小学生の2人。
笑顔のさちさんが手にしているのは、例の『ガラスの破片』だ。

(きっと、教官にとっては大事な思い出のものだったんだ)
(だから私が触ったとき、あんなに怒って···)

それなのに、教官は捨ててしまった。
『ガラスの破片』も『思い出の写真』も全部···。

(それって、なにかが違う気がする···)
(なにか···うまく言えないけど···)

【学校 教場】

翌日。

鳴子
「サトコー、今日飲みに行かない?」

サトコ
「ごめん。私、パス」

鳴子
「そうなの?用事?」

サトコ
「うん、ちょっとね」


【裏庭】

サトコ
「うーん···」

(ないな。絶対にこの辺りにあると思ったんだけど···)

探しても探しても『ガラスの破片』は見つからない。

(教官の窓は、あそこだよね)
(となると、せいぜいこの辺りに落ちそうなんだけど···)

???
「お前か、『忍者ラボ』の新入りは」

(忍者?)

サトコ
「いえ、違いま···」
「!?」

謎の男
「そうか。サムライから新入りがいると聞いたんだが···」
「失礼」

(『サムライ』?『忍者』?)
(ていうか、なんで『大和なでしこ』?)

サトコ
「···ま、いっか」

私はしゃがみこむと、改めて雑草をかき分ける。

(たしか、そんなに小さな破片じゃなかったよね)
(あれならすぐに見つかりそうなんだけど···)

ぽつんっ···

(雨か··)

ザアアアッ!

(うそっ!)

【シャワー室】

ノズルから出てきたお湯で、私は身体を温める。

(あぶなかった···まさか、いきなりどしゃ降りになるなんて)
(とりあえず身体をあたためて、すぐに髪の毛を乾かさないと···)

ガチャッ!

東雲
後藤さん、オレですけど

(えっ)

東雲
昨日も言いましたけど、情報交換しませんか?
後藤さんに1つ提供したいネタがあって···

(うそ、後藤教官もシャワー浴びてたの!?)
(···ううん、そんなはずない)
(ここに来たとき、シャワールームは誰も使っていなくて···

東雲
···後藤さん?

(じゃあ、これってもしかして私に話しかけて···)

東雲
···誰!

バンッと乱暴に扉が開く。

東雲
な···っ

とっさに私は···

<選択してください>

A: しゃがみこむ

とっさに私は、しゃがみ込んだ。

サトコ
「すみません、すみません!」

東雲
バ、バカ!
なんでキミが謝って···

B: シャワーをかける

サトコ
「きゃあああっ」

とっさに私は、手にしていたシャワーノズルを教官に向けた。

東雲
ちょ···なにす···っ
ゲホゲホッ

C: 突き飛ばす

サトコ
「きゃあっ!」

とっさに私は、教官を突き飛ばした。

東雲
な···っ
なにを···っ

東雲
ていうか1人で入ってるなら鍵くらいかけろ!

教官はそう吐き捨てると、慌ててシャワールームを出て行こうとする。
ところが···

???
「あの···本当にいいんですか?シャワー室を使って」

???
「構わん。このままだと風邪を引く」

???
「ですがサムライ、古来より日本では『風邪は万病の薬』と···」

???
「エイジさん。それ、いろいろ混じってるし間違ってますよ」

(更衣室に人が!?)
(まさか、このままここに入ってくるつもり!?)

to be continued



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