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東雲 恋の行方編 シークレット2



Episode8.5
「気付いて欲しいのは、誰?」

立て続けに仕事を頼まれたこともあって、昨日からほとんど寝ていなかった私。
そのせいで、ラーメン屋台ではすっかり眠りこけてしまって···

【加賀マンション】

サトコ
「う···ん···」

(あれ···なんだか甘くて美味しそうな香り···)

???
「起きろ、クズ」

(ん···この声は···)

加賀
起きたらさっさと返事をしろ、このクズが

サトコ
「ひ···っ」

(な、なんで加賀教官がここに···)
(ていうか、ここ、どこ!?)
(全く知らない部屋なんですけど···)

サトコ
「ああ···っ」

(そうだ、私···ラーメン屋台で睡魔に負けて···)

サトコ
「すみません、今すぐ帰ります!」

加賀
あいにく終電はもうねぇ

サトコ
「じゃあ、タクシーで···」

グウウウウ···

加賀
······

(私のお腹のバカッ!···なんでこのタイミングで)
(そりゃ、たしかにちょっとしかラーメン食べてなかったけど···)

加賀
···なにか飲むか

サトコ
「え···」

加賀
あいにく食いもんはねぇ。飲み物で我慢しろ

サトコ
「いえ、そんな···」

(···いいのかな、本当に)

申し訳なく思いつつも、私は膝を抱えてソファに座り直す。
しばらくすると、キッチンから甘い香りが漂ってきた。

(なんだろう、この香り···チョコレートっぽい気もするけど···)
(あ···もしかしてココア···?)

ソワソワしながら待っていると、教官はカップを持って戻って来た。

加賀
飲め、クズ

サトコ
「···ありがとうございます」

(やっぱりココアだ···)
(うわぁ···っ)

加賀
···どうだ、味は

サトコ
「おいしいです!めちゃくちゃおいしいです!」

加賀
歩の土産だ

(え···)

加賀
アイツは、これにさらに砂糖を加えて飲むと言っていた
まったく···不健康なヤツだ

サトコ
「そうですよね」
「いくら良く頭を使うからって、やっぱり糖分摂りすぎですよね」
「多いときには缶コーヒーを3本も飲んだりして···」

加賀
······

サトコ
「あと炭水化物も···」
「たまに焼きそばパンを1日に5個も食べたりして···」

加賀
······

サトコ
「教官のそういうところ、少しずつ分かってきたつもりでしたけど···」
「それでも全然足りないっていうか···」

加賀
······

サトコ
「私なんかより、ずーっと詳しく教官を知ってる人がいて···」
「やっぱり古い付き合いの人には敵わないのかなー···なんて···」

加賀
関塚さちか

サトコ
······

加賀
だからアイツはやめておけと言っただろうが

サトコ
「···そうですよね」
「加賀教官···忠告してくれましたもんね」

加賀
······

サトコ
「ああ、もう···!」
「やっぱり、こんなの不毛すぎますよね?」
「教官はさちさんしか見てないのに···」

加賀
······

サトコ
「教官···さちさんのために、警察官になったらしいんです」
「もともとは、さちさんが警察官に憧れてて···」
「でも、なれなかったから『自分が代わりに』って···」

加賀
······

サトコ
「なんか、もう···そんなの聞いちゃったら無理じゃないですか」
「完全にこれ、負け試合じゃないですか」

加賀
だったら他の男を選べ

サトコ
「!」

加賀
選べるならそうしろ。少なくとも俺なら歩を薦めねぇ

サトコ
「······」

加賀
アイツは公安刑事としては優秀だが、女関係はとんだガキだ
ガキとガキじゃ、ロクな恋愛にならなくて当然だ

サトコ
「···じゃあ、誰がおすすめですか」

加賀
······

サトコ
「加賀教官から見て、誰のことを好きになれば幸せになれますか?」

加賀
知りたいか、クズ

サトコ
「···はい」

加賀
だったら教えてやる
てめぇを幸せにしてやれんのは···

黒澤
石神さんなんてどうですか?

(へ···っ)

黒澤
なにせ、歩さんみたいに過去の恋愛を引きずってないですし!
真面目で将来有望、浮気する可能性もほぼ0%
それに石神さんと言えばやっぱり···

サトコ
「あ、あの···!」
「どうしてここに黒澤さんが···」

黒澤
やだなー、遊びに来たに決まってるじゃないですか!
たまには加賀さんと、男同士の話をしたいと思いまして

加賀
電話はもういいのか?

黒澤
はい!合コンのスケジューリング、ばっちりうまくいきました!

(びっくりした···まさか黒澤さんもいたなんて)
(それっぽい気配は全然なかったはずなんだけど···)

黒澤
ちなみに、氷川さんの理想の恋愛相手はどんな人ですか?

サトコ
「えっ···」

黒澤
誰と恋愛すれば幸せになれるのか···
それを、氷川さんは知りたいんですよね?
それには、まず自分の理想を思い浮かべないと

サトコ
「あ、そうですよね···えっと···」

(私の理想は···)

サトコ
「優しく誠実で···」

黒澤
ふむ

サトコ
「意地悪とか全然しなくて···」

黒澤
ふむふむ

サトコ
「人の弱みを握って、脅したりとかしなくて···」

黒澤
ふむふむふむ···

サトコ
「へんなあだ名をつけなくて···」
「髪型とかもあまり気にしない···」

黒澤
つまり歩さん以外の人が理想ってことですね!

サトコ
「えっ···はい、まぁ···」

黒澤
そうですか···となると···
オレはどうですか?

サトコ
「ええっ」

黒澤
石神さんに負けず劣らず、オレも優良物件だと思うんですよね
なのでこの機会に、公安期待のニューウェーブ・黒澤透をぜひ···

グイッ···

加賀
来い、この野郎

黒澤
あっ···痛いっ、耳がちぎれる···っ

加賀
······

黒澤
待っ···て大福···っ
大福差し上げますからーっ

バタン!

サトコ
「理想の相手···か」

(本当に黒澤さんの指摘どおりだよね)

理想を突き詰めれば突き詰めるほど、東雲教官は全然違う。
それなのに···

(なんで好きになっちゃったんだろう)
(あんな、厄介な人のこと···)

そのとき、偶然にも視線の先に、見覚えのあるジャケットを見つけてしまった。

(あれ···確か東雲教官のだよね)
(ここに忘れていったのかな。教官も案外うっかりしてるな···)

私はジャケットを手に取ると、そっと抱きしめてみる。

(バカみたい···こんなことして···)
(ジャケットなんか抱きしめても、なんの意味もないのに···)
(それに、この行為なんか···ちょっと危ない人っぽいね)

サトコ
「······」

(でも、まだちょっと残り香とかあったりして···)
(···ダメダメ、それを嗅いだら、本当に危ない人になっちゃうってば!)
(でも、すでにジャケットを抱きしめちゃってるし···)

サトコ
「ちょっとくらいなら···」

サトコ
「!?」

(ご、後···)

サトコ
「後藤教官!?」

後藤
その···加賀さんと今後の捜査方針のことで話し合いに来たんだが···
·········すまない

サトコ
「違···っ」
「違うんです、教官!」
「待って、せめて弁解させて···」

加賀
うるせぇ、クズが!

サトコ
「でも、後藤教官が誤解を···っ」

こうして確実に、私と後藤教官の間には見えない溝ができていくのだった。

Secret End



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