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教官たちの贈り物 颯馬



【個別教官室】

サトコの卒業が迫ってきたある日、個別教官室で一緒に書類の整理をしていた。
日付が古くなっていくにつれて、懐かしい書類が顔を出す。

サトコ
「颯馬さん、見てください!入学したての頃の講義資料じゃないですか?」

颯馬
おや、そうですね
懐かしい

サトコ
「この資料、しょっちゅう見返してたなぁ」
「本当に懐かしい···そんな私も、もうすぐ卒業なんですね」

颯馬
時間が経つのは早いですね

しみじみと、サトコと一緒に書類を眺める。
彼女が入学してきた、あの日のことを思い出したーー

【車内】

あれは、サトコと初めて潜入した時のことだ。

颯馬
失敗したら懲罰を受けてもらいます

サトコ
「罰···ですか。あの、具体的にはどんな···」

颯馬
そうですね。まだ決めていませんが···
優秀な新人のために、とびきりのものを考えておきますよ

サトコも同じことを思い出したのか、書類をファイリングしながら笑った。

サトコ
「実を言うと、あのときの颯馬さん、かなり怖かったです」

颯馬
そうですか?

サトコ
「はい。だって、いきなり『懲罰』なんて言うし」
「目が笑ってなかったていうか···何を考えてるかわからなくて」

(···確かに)

あのとき彼女にそう思われていたことに多少驚きながら、当時のことを思い返す。
誰も信じられずふさぎ込んでいたせいで、そういう印象を与えたのかもしれない。

(あの頃は、これからもあの状態が続くものだと思っていたのに)

目が合うと、サトコは照れくさそうに笑った。

サトコ
「もちろん今は、優しい人だって知ってますけど」
「でも、たまに本気で起こってるときはちょっと怖いです」

颯馬
怖く見えますか?

サトコ
「颯馬さんは、笑顔の裏で静かに怒りますからね···」

そこまで彼女が自分を理解していることを、嬉しく思う。
そんな感情すらなかったあの頃を思い出すと、いっそう彼女への愛しい気持ちが募った。

(無気力で、無感動で、相手の厚意を素直に受け止められなかった···)
(そんな俺を変えたのは、貴女だ。サトコ)

こんなに素直で自分に正直でいてくれた彼女にさえ、始めの頃は心を許してなかった。
それでも彼女は自分から離れていかず、最後まで信じて一緒にいてくれた。

(出会ってから今日まで、ずっとそうだった)
(貴女がいなければ、俺は···)

これまでのことを思い返すうちに、サトコへの想いがさらに強くなる。
楽しそうに思い出を話しサトコを見つめていると、俺の視線に気付いた彼女が言葉を止めた。

サトコ
「颯馬さん···?どうしたんですか?」

颯馬
いえ、私も思い出していただけですよ
今まで、いろいろありましたからね

サトコ
「ふふ···そうですね。今となってはいい思い出です」
「あの···でも」

言いにくそうに、サトコが上目遣いになった。
その表情に、少し気持ちを煽られる。

颯馬
···なんですか?

サトコ
「その···あのとき “懲罰” って言ってましたけど、何をするつもりだったんですか?」

颯馬
ああ···

自分の言葉を思い出して、フッと笑う。
頬に手を伸ばすと、驚いたようにサトコが身じろぎした。

颯馬
こういうことですよ

彼女が驚く間もなく腰を抱き寄せて、唇を重ねる。
身を引こうとするサトコを抱きしめる腕に力を込めると、彼女は戸惑いながらもそれに応えた。

サトコ
「そ、颯馬さっ···」

颯馬
煽った貴女のせいですよ

サトコ
「あ、煽っ···!?」

真っ赤になる彼女の口を、さらに深いキスでふさぐ。
形ばかりの抵抗を見せていたサトコが、フッと力を抜いた。

(貴女のそういうところが、愛しい···)
(素直で、正直で、従順で···)

なのに、ここぞというときには俺を叱ることさえする。
年下の彼女に、心の芯まで持っていかれている自覚があった。

サトコ
「だ、誰か来たら···」

颯馬
そうですね···でも、もう少し

ふたりきりの教官室には、求め合う音だけがひっそりと響き渡っていた···

Happy End



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