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ときめきノベル大賞 石神カレ目線



【石神マンション 寝室】

加賀との班長会議があった日の夜。
泊まっていくことになったサトコとともにベッドに入ると、やっと心からひと息つけた心地になる。

(今日はらしくもない姿を見せてしまった。少しは挽回できただろうか)

腕の中のサトコの髪を梳きながら、今日1日のことが頭に浮かんできてーー



【スーパー】

(水餃子に必要なものは···)

携帯でレシピサイトを見ながら、揃える食材を確認する。

(海老を使った水餃子もあるのか)
(あまり時間はないが、何種類か挑戦してみよう)

水餃子はサトコを部屋に初めて呼んだ時の思い出の食べ物だ。

【リビング】

サトコ
「夕飯はこれでも大丈夫ですか?すみません。これくらいしか作れなくて···」

石神
俺にしてみれば奇跡だ

サトコ
「ふふ、言いすぎですよ。でも餃子は焼くのが一番なんですけどね」

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【スーパー】

(···焼き餃子の方がよかったか?だが、焼き餃子は昨日の昼に食べていたからな)
(今日は水餃子にしておこう)

水餃子を振る舞うことにしたのは、昼間の会議の埋め合わせに他ならない。

(加賀とつまらない件でサトコを困らせるなど、教官としても上司としても失格だ)
(会議が上手くまとまったのは、サトコの功績だろう)

あのまま加賀との険悪な空気が続いていたら、それこそ疲れも倍以上だっただろうと···
彼女には感謝の気持ちしかなかった···

【石神マンション キッチン】

夕食後。
洗い物をしてくれるサトコの横で調味料をしまうために冷蔵庫を開ける。

石神
これは···

冷蔵庫の中に見えたのは和菓子店の箱。

(加賀との会議だからと、わざわざ2店舗も回って···)

ラルムのプリンに、老舗和菓子店、鶴屋の大福。
決して暇ではないなかで、揃えたサトコの気遣いに胸が温かくなる。

(大福か···)

頭に浮かびかけた奴の顔を意識的に消すと、その箱を手に取った。

【リビング】

(大福に罪はない。サトコの気持ちにも···な)

そもそも考えれば特段大福が嫌いというわけではない。

(食べなくなったのは、加賀に会ってから···か)
(そう考えれば、俺もつまらないことに惑わされているな)

久しぶりに食べてみれば、洋菓子とは違う甘さがこれはこれで美味しい。

(どうしても、あいつの影がちらつくから避けてきたが)
(こだわる方が馬鹿馬鹿しいと思うようにならなければ)

加賀のせいで味わうものが減るのも癪だと大福を味わっていると···

サトコ
「ふふ、石神さん大福の粉ついてます」

石神
···どこだ?

サトコ
「ここです」

(大福の粉···やはり、一筋縄ではいかないところが加賀と似ている)

大福と加賀の共通点について考えようかと思ったけれど。
それは目の前のサトコとの甘い時間に消えていった。


【寝室】

(しかし、思えば···サトコの対応力も随分と上がったものだ)

今日の会議での立ち回り方は大したものだと思う。

(少し前だったら、狼狽えて右往左往しているだけだっただろう)
(それを俺たちの好物を用意し、結果的に緩衝剤となって上手くまとめていた)
(そこまで見越して、後藤はサトコを書記に抜擢したのかもしれない)

腕の中の彼女に視線を落とせば、その目は閉じられていて長い睫毛が見える。

(眠ればあどけなくも見えるが、顔付も変わった)
(一人前の公安刑事になっているということか)

彼女の成長を嬉しく思いながら、ふと自分との関係性について考える。

(未熟な部分も多かったが、早い段階でハッとさせられるようなことをする奴だった)
(プライベートでも決して他の人間が踏み込まないところまでやって来て···)

気が付けば、心が彼女でいっぱいになっていた。

(他人と自分を分け、常に距離を取る生き方をしてきた)
(そんな俺の懐深くに入ってきたお前は···)

愛おしく、寝かせてやりたいのに手が髪に触れる。

石神
···まだ起きてるか

サトコ
「はい」

顔を上げたサトコと目が合えば、温もりを求めるように手が動く。

石神
···今度、一緒に甘味を食べに行くのは、どうだ?

サトコ
「プリンじゃなくて···ですか?」

石神
要は記憶の連結の問題だ。良い記憶で上塗りしていけば好きになる

サトコ
「なるほど···それは名案ですね!」
「それじゃ、今日も···もっといい思い出にした方が大福のために···」

石神
それは···誘っているのか?

サトコ
「え、あ···そ、そういうわけじゃないんですけどっ」

腕の中で顔を赤くする彼女が可愛く、髪にキスを落とす。

石神
確かに今日のことで記憶は塗り替わりつつある
大福を見て思い出すのが、お前になるように···

サトコ
「んっ···」

より甘い記憶にするために···というのは、ただの口実なのかもしれない。

(サトコに触れれば、彼女のことしか考えられなくなる)
(他のつまらないことなど、どうでもよくなって···)

結局、大切なものはひとつしかないのかもしれないと思いながら、何よりも甘い唇に酔いしれた。

Happy End



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