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ときめきノベル大賞 石神1話



【石神マンション】

波乱と緊張の班長会議終了後。

『1時間後に家に来てくれ』

ーーというメモを石神さんから受け取った私は、遅れて公安学校を出た。

(時間をずらしたのは、加賀教官に怪しまれないように···だよね)

家に呼んでくれたのは、石神さんなりの気遣いなのかと思うと胸が温かくなる。

(そろそろ1時間ちょうど···いいかな)

時計を確認してインターフォンを押すと、オートロックが開いてマンションに入った。

【リビング】

石神
おかえり

サトコ
「た、ただいま帰りました···!」

(石神さんに『おかえり』って出迎えてもらえるなんて···)

そのインパクトを感じながら部屋に入ると、リビングのソファに誘導される。

石神
少しそこで待っていてくれ

サトコ
「何かお手伝いすることがあれば···」

石神
大丈夫だ。今日は疲れただろう。休んでいろ

キッチンからはいい匂いがしていて、石神さんが夕飯を作ってくれていることがわかった。

(『今日は疲れただろう』···か。確かにあの時の緊張感はすごかったな···)

緊張のピークは “プリン派” か “大福派” かの選択を迫られた時ーー



【教官室】

石神
お前は、どっちの意見が正しいと思うんだ?

サトコ
「ど、どっちの···?」

石神
プリンか!

加賀
大福か!

サトコ
「えええ!?」
「わ、私は···」

(正直に言えば、プリンも大福も好き!だけど、この問いには···)

石神派か加賀派かーーという問題にまで及んでいるのかと思えば、
軽率に両方好きとは言えなかった。

加賀
さっさと答えろ

石神
考えるまでもない話のはずだ

(お二人の視線が突き刺さって痛い···可能な限り穏便に済ませたいけど)
(ここは石神さんの補佐官として、恋人として勇気をもって!)

サトコ
「ど、どちらかというと最近はプリンの方が食べる機会が多いかなと···」
「なので強いて言うなら “プリン派” です」

石神
そういうことだ

加賀
チッ、クソ眼鏡の下で頭の中までとろけやがったか

サトコ
「あの、予想外の展開になりましたけど···」
「とりあえず糖分補給もできたので会議を続けましょう!」

多少強引だと思いながらも会議続行を促すと、お二人は視線を絡ませてから小さく息を吐く。

加賀
これ以上時間を無駄にする気はねぇ

石神
やっとお前が口を開いている時間が無駄だと気付いたか

加賀
テメェの呼吸の方がはるかに無駄だな

サトコ
「無駄を減らすために、さくっと進めましょうか!」

会議冒頭の訓練の目的・方向性では意見が対立していたものの。
そこさえ決まれば、あとは話も早かった。

加賀
演習の幅を増やし、実践で履修可能な科目を増やしていけば問題ねぇ

石神
捜査全体を俯瞰できる機会を盛り込むという点も忘れるな

(やり方や信念は違うけど、決まった着地点には必ず辿り着くのが···)
(石神さんと加賀教官のすごいところだよね)

仕事でもプライベートでも、相反する立場の人と出会うことはある。
それをどう解決していくか···この会議からは学ぶことが多かった。

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【石神マンション】

今日の出来事を思い返しているうちに、リビングのテーブルに並んだのは···

サトコ
「水餃子!これ石神さんの手作りですか?」

石神
お前には及ばないが···出来はそこそこのはずだ

サトコ
「石神さんの手作り餃子が食べられるなんて···生きててよかったです!」

石神
大袈裟な奴だ

サトコ
「さっそく食べましょう!待ちきれません」

石神
まだ熱いから。ヤケドしないようにな

サトコ
「はい!」

(水餃子のタレが3種類も用意されてる···)
(私が学校にいる間に石神さんが準備してくれたんだ)

熱々の水餃子は私のお腹だけでなく、心まで熱々にしてくれた。

【キッチン】

食後、せめて後片付けくらいは···と、キッチンに立っていると。

石神
これは···

調味料をしまうために冷蔵庫を開けた石神さんが何かに気付いた声を出した。

(あ!余った大福を入れさせてもらったんだった!)
(大福を見たら、加賀教官とのバトルを思い出して···)

せっかくくつろいだ空気が台無しになってしまうかも···
と、急いで洗い物を済ませて大福を回収に向かう。

サトコ
「あれ?」

冷蔵庫を開けてみると、大福の箱がなくなっている。

(いったい、どこに···)

視線を巡らせていると、大福の箱を持っている石神さんを見つける。

(え?それ、どうするつもりなんですか?)

石神さんは食器棚から何かを取り出すと、大福の箱ごとリビングに向かった。



【リビング】

サトコ
「あの、その大福···」

石神
今日はとんだ失態を見せた。加賀と同じ土俵に上がってしまうとは···

石神さんは残っていた大福を小皿の上に乗せると、それを菓子楊枝で半分に切り分けて口を運ぶ。

(石神さんが大福を···!手で食べないところが、さすがだけど!)

サトコ
「あの、無理しなくても···私が責任を持って食べますので···」

石神
別に大福自体を毛嫌いしているわけじゃない
必然的にあいつに結びつくから避けているだけで···
お前が気を回して買ってきてくれたんだろう。無駄にはできない

サトコ
「石神さん···」

(私の気持ちまでフォローしてくれるなんて···)

サトコ
「大福の箱、片付けますね」

石神
ああ···今日は、つまらないことで心労をかけて悪かった。以後、注意するようにする

きちんと謝ってくれる大人の対応と優しさに胸がいっぱいになった。

サトコ
「班長同士のああいう場面は、確かにちょっと困りましたけど」
「石神さんの意外な顔を見られるのは嬉しいです。···かっ彼女としては」

石神
···そうか

照れながらの発言に石神さんも面喰っているのが分かる。

(こういう顔を見られるのも嬉しいし···あ、石神さんの口元に···)

サトコ
「ふふ、石神さん大福の粉ついてます」

石神
···どこだ?

サトコ
「ここです」

バツが悪そうに口元に手を伸ばす彼に、私が先にその唇の端に触れた。

サトコ
「あ···」

石神
どうした?

サトコ
「私の指にも粉が付いていたみたいで···す、すみません!」

(さっき箱を畳んだ時についちゃったんだ!余計に粉まみれにしてしまった···!)

石神
お前らしい

サトコ
「はは···今、ティッシュで拭きますね」

石神
自分でやる

サトコ
「私の責任ですから、ここは私が···」

同時にティッシュの箱に手が伸びて、その上で重なってしまった。
近い距離で顔を見合わせると、軽く指先が絡められる。

石神
大福の粉をつけたままじゃ、恰好がつかないな

サトコ
「そんなこと···そういう石神さんも好きですよ」

(気持ちを伝えるには···)

一瞬迷い、ためらいながらも石神さんの口元に唇を寄せてみる。
大福の粉のサラッとした感触を覚えながら、唇を離すとーーー

石神
···今度はお前の唇についてる

サトコ
「これくらいだったら···」

すぐにティッシュで押さえてしまおうと視線を動かしたときだった。
眼鏡を外す気配がして···

サトコ
「石神さ···ん?」

石神
······

唇が押し当てられる。
深くはならないけれど、温もりを分け合うようなキスは浸透するような甘さを伝えてきた。

(石神さん···)

名残惜しさのなか唇が離れていくと、その口元が笑みを象る。

石神
これで粉は全部なくなった

サトコ
「まだ半分、大福残ってますよ?」

石神
これはお前の分だ

菓子楊枝を使って、半分の大福を運んできてくれる。

サトコ
「あの、私、粉を付けずに食べられる自信ないんですが···」

石神
問題ない

公安刑事の時には見せられない艶っぽい笑みが、その対処法を物語っていて。

サトコ
「いただきます」

石神
ああ

大福の甘さが口に広がると、すぐに大福よりも甘い石神さんの唇が降りてきたのだった。

Happy End



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