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3周年スペシャルストーリー 加賀・石神2話



【イベント会場控室】

東雲
兵吾さんは?

突然やってきた東雲教官が、加賀教官を探して控室をぐるりと見渡す。
恐る恐るパンダの着ぐるみを指差すと、東雲教官が軽く目を見張った。

東雲
まさか···兵吾さん?

ヒョンヒョン
···チッ

着ぐるみの中からでも聞こえる盛大な舌打ちに、東雲教官が口元を押さえた。

東雲
やっぱり面白いことが起きてた。来て正解

ヒョンヒョン
テメェ···

東雲
その姿で凄まれても、全然怖くないですよ

サトコ
「確かに···」

鳴子
「東雲教官、もしかして手伝いに来てくれたんですか?」

東雲
まさか。仕事が思ったより早く片付いたから、冷やかしに···
···応援に来ただけ

千葉
「冷やかしに来たんだな···」

鳴子
「間違いないな···」

ヒョンヒョン
おい、ならテメェがパンダ役やれ
歩と千葉でやりゃいいだろ

東雲
すみません。オレ、すぐ戻んないといけないので
ていうか、なんでこんな面白いことになってんの?

サトコ
「パンダ役のふたりが、生ガキに当たって···」

東雲
なるほどな。治ったら食あたり以上の地獄を見せないと
っていうか、そろそろ時間じゃない?

鳴子
「あっ!千葉さん、先にステージに行ってて!」

千葉
「了解」
「じゃあ石神教官、加賀教官、よろしくお願いします」

ガミガミ
引き受けたからには最後まで責任を持ってやる

ヒョンヒョン
くだらねぇ···

サトコ
「おふたりとも、ステージに行きましょう」

鳴子
「歩けますか?つかまってください」

着ぐるみであまり前が見えないふたりを支えて、鳴子と一緒にステージの裏を目指す。
バタバタしすぎて、イベントが成功するか、不安でいっぱいだった。


【ステージ】

寸劇の前に、まずはガミガミとヒョンヒョンとのふれあいタイムが始まった。

サトコ
「それじゃよい子のみんな、ガミガミとヒョンヒョンを呼んでみよう!」

鳴子
「いくよ!せーの!」

子どもたち
「ガミガミ~!ヒョンヒョ~ン!」

子どもたちの声援の中、ガミガミとヒョンヒョンが現れる。
でも、ヒョンヒョンは驚くほどやる気を感じられない。

(頼みの綱のガミガミは···)

子ども1
「ガミガミ、お背中伸びてる~!」

母親
「本当ねえ、ずいぶんと姿勢の良い着ぐるみ···じゃない、パンダさんね」

父親
「それに、めちゃくちゃ愛想がいいな。あの着ぐるみ···」

だらっとめんどくさそうに立つヒョンヒョンとは違い、
ガミガミは自分から子どもたちと握手したり、頭を撫でたりしてあげている。

(さすが石神教官···!加賀教官もあんなふうにしてほしい!)

ヒョンヒョンのやる気のなさに、少し年上の子どもたちが集まり始めた。

子ども2
「なあ、なんでこのパンダこんなにだらだらしてんの?」

子ども3
「こいつの中身、おっさんなんじゃね?」

ヒョンヒョン
あ゛?

子どもたち
「ひっ···!」

子ども4
「ママぁ、あのパンダの中、ヤクザが入ってるよぉ」

(ヤクザ···!?いやでも、あながち間違いじゃな···)

ヒョンヒョン
······

私の考えを読んだかのように、加賀教官が着ぐるみの向こうから睨みをきかせてくる。

ガミガミ
···おい、不本意とはいえ、任された仕事だ。少しはまじめにやれ

ヒョンヒョン
あ?んな間抜けな格好で、俺に指図するんじゃねぇ

ガミガミ
見た目の間抜けさは貴様も同じだ。双子という設定だろう

ヒョンヒョン
そういう話してんじゃねぇんだ、クソ真面目パンダが

ドン!とヒョンヒョンがガミガミの胸を叩く。
イラッとしたのか、ガミガミがヒョンヒョンにチョップを食らわせた。

ヒョンヒョン
テメェ···

ガミガミ
先に手を出したのは貴様だ

ヒョンヒョン
上等だ。表出ろ

ガミガミ
望むところだ

サトコ
「きょうかっ···じゃない、ガミガミとヒョンヒョン!ダメですよ!」

鳴子
「ここは抑えて···!イベント中ですから!」

子ども1
「パンダさんがケンカしてるよぉ···」

子ども4
「ママぁ、やっぱりあのパンダ、ヤクザだった~」

ざわつく園内に、素早く鳴子と目配せする。

(まずい···!騒ぎになる前に、さっさと次の寸劇に移ろう!)

鳴子
「···はい!じゃあそろそろ、みんなお待ちかね」
「ガミガミとヒョンヒョンの物語を始めようかな~」

サトコ
「ふたりはついこの間、この動物園で生まれて···」

ポケットから台本を取り出しながら、序盤のストーリーを語り始める。
でもそこに入っているはずの台本が見つからず、思わず自分のポケットを見た。

(···ない!)
(あれ!?嘘···!さっき出てくるとき、ポケットに入れなかったっけ!?)

様子がおかしい私に、鳴子が小声で話しかけてくる。

鳴子
「サトコ、どうしたの?」

サトコ
「ごめん···!台本忘れてきた!すぐ控室に戻って···」

東雲
はい

振り返ると、舞台袖から東雲教官が台本を差し出してくれている。

東雲
テーブルの上に置いてあったから

サトコ
「東雲教官···神様!ありがとうございます!」

急いで台本を受け取ると、早速続きを始めた。

サトコ
「···ガミガミとヒョンヒョンは、この動物園に生まれ」

鳴子
「ずーっと一緒だったふたりは、とっても仲良く育ちました」

サトコ
「ときには、一緒に寝たり」

ガミガミ
······

ヒョンヒョン
······
おい···まさかここでテメェと寝そべれって言うんじゃねぇだろうな

ガミガミ
いいから黙ってやれ。氷川の言葉に動きを合わせるという話だろう

ヒョンヒョン
チッ···

ふたりが、ステージの真ん中で一緒になってゴロゴロし始める。

(というか···そもそも、こんなシーンあったっけ···?)
(いや、でも今はイベントを成功させる方が先だ)

サトコ
「他にも、ふたりは毎日一緒に手をつないで園内を散歩したり」

ガミガミ
······

ヒョンヒョン
······

着ぐるみのふたりが、渋々手をつないでスキップでステージを歩き始める。

サトコ
「たまには喧嘩もするけれど、そのあとはちゃーんと、抱き合って仲直···り···!?」

ガミガミ
······

ヒョンヒョン
······

私の言葉に合わせて、ふたりがきゅっと熱い抱擁を交わした。

鳴子
「ねえサトコ、なんか予定と違わない···?」

サトコ
「で、でも台本にはこう書いてあるし···」
「ガミガミとヒョンヒョンはダンスも上手。いつも一緒に踊ってます」

ヒョンヒョン
おい···

ガミガミ
···仕方ないだろう

手を取り合い、ふたりは園内に流れている音楽に合わせて踊り始めました。

子ども1
「もりのくまさんみたい~!」

母親
「ガミガミもヒョンヒョンも、動きにキレがあるわねえ」

父親
「すごいな···着ぐるみであの動き、相当鍛えてるんだろうな」

(やっぱりなんかおかしい···!こんなシーン、絶対になかった!)
(しかも、ふたりの怒りゲージがMAXに近くなっていくのがてにとるようにわかる···)

助けを求めるように、視線を泳がせる。
すると、いつの間にか客席に移動していた東雲教官と目があった。

東雲
······

(え!?何あのVサイン!?)
(まさかこの台本···東雲教官がすり替えた!?)

サトコ
「ふ、ふたりは毎晩、恋バナをしてから眠りにつきます」
「さてさて、ふたりが想いを寄せているのは、誰なのでしょう···?」

ガミガミ
······

ヒョンヒョン
······

子ども1
「ママー、恋バナって何~?」

母親
「ふふ、パンダさんもそういうお年頃なのね~」

父親
「この前生まれたばっかりって言ってなかったか···?」

途中でやめることもできず、仕方なく最後までやり遂げる。

(これ絶対、私のせいだと思われてる···!)
(東雲教官、なんてことするんですか···!)

サトコ
「こ、これでガミガミとヒョンヒョンの物語はおしまい!」
「それじゃこれから、お姉さんたちがみんなと一緒にお勉強をしまーす」

無理矢理ではあったけど、そのあとなんとかして、防犯教室への流れを作る。
最後の最後まで、着ぐるみ中から感じるふたりの視線は怒りに満ちていた。


【控室】

防犯教室のイベントが無事に終わった後、差し入れを持って控室を訪れた。

(とりあえず、あの台本は私が作ったわけじゃないって誤解を解かないと)

このままでは、命の危険すらある。
恐る恐る控室のドアを開けると、着ぐるみを脱いだ石神教官と加賀教官がいた。

(うっ···ま、まぶしい)
(ふたりの汗が···!パンダとミスマッチすぎて、かっこいい···!)

石神
···やられたな

加賀
あの野郎···ただじゃおかねぇ

石神
あの台本は、氷川が考えたのか

加賀
だろうな···この世に生まれてきたことを後悔させてやる

(ひいいいぃぃ···)

その会話に、見惚れていたことも忘れて震えてしまう。
私に気付いた瞬間、ふたりは鬼の形相に変わった。

加賀
テメェ···さっきは余計なことしてくれたな

石神
お前は、よほど反省文を書きたいらしい

サトコ
「ま、待ってください!これには深いわけが」

加賀
ついでに防弾チョッキなしの実地訓練でもしとくか

石神
訓練生を矢面に立たせるのは気が進まないが···今回ばかりは仕方がない

サトコ
「お願いします。聞いてください···!あの台本は私じゃなくて」

加賀
言い訳とはいい度胸だな

石神
反省文10枚追加だ

サトコ
「こ、こういうときばっかり結託して···!」

(でも、もとはと言えば台本を忘れた私が悪い···けど)
(東雲教官、恨みますよ···!)

こうなってしまっては、差し入れなどなんの効果もない。
そのあと、班長ふたりにこっぴどく叱られた私だった···

Happy End



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