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3周年スペシャルストーリー 東雲



それは、まだ卒業前のこと。

サトコ
『はぁ···はぁ···はぁ···』

(ダメだ、身体が重い···)
(でも、このままじゃテロリストに捕まってしまう!)
(なんとしても、ここから逃げて···)

【学校 廊下】

(ぎゃっ!)

石神
どこに行く、氷川

(ど、どこって、その···)

石神
補習は終わったのか

(いえ、でも···っ)

石神
逃げるのは、補習が終わってからだ
今すぐ課題を済ませろ

(でも、そんなことをしていたらテロリストが···!)

加賀
おい、クズ

(ひっ)

加賀
いい度胸だな
この俺から逃げるとは

(違っ···テロリストが···)

加賀
罰だ。テメェは今日から···
俺の犬になれ

(ええっ?)

加賀
まずは200回まわって「ワン」だ

(無理!たぶん10回もまわればめまいが···)
(じゃなくて!そんなことしてたら、アイツが···)

???
『ダメですよー、加賀さん』
『彼女、怖がってるじゃないですかー』

(···っ、この声は···)

黒澤
どーもー黒澤でーす
最近テロリストに転職しましたー

(ええっ!?)

黒澤
透、ラブ★テロリストだから
アナタのハートを狙い撃ち

(ちょ、それ···本物の拳銃!)

黒澤
そーれっ!ずっきゅーん★



【東雲マンション】

サトコ
「ぎゃーっ!」

ドカッ!

???
「ぐっ···」

(え···なに、今の手応え···)

薄く目を開けて、ギョッとした。
ベッドで寝ていたはずの教官が、なぜか私の毛布のそばでうずくまっていた。
それも、下腹部をおさえて。

サトコ
「教官!?どうしたんですか」

東雲
どうもこうも···
誰のせいでこうなったと···

(···っ、もしかして、さっきの!!)

【リビング】

数十分後···

サトコ
「あの···教官···」
「『幻のピーチネクター・ウルトラDX』をお持ちしました」

東雲
······

サトコ
「このたびは、本当に申し訳ありませんでした」
「教官の大事な教官に、私···」
「私······っ!」

東雲
いいから。もう
それより何?うなされてた理由は

サトコ
「それが、あまりよく覚えてないんですけど···」
「どうも『ラブ・テロリスト』にズッキューンされる夢で···」

東雲
···なにそれ
寝る前にAVでも観たの?

サトコ
「観てません!」
「そもそも、寝る前は、2人で『金曜映画ショー』を観てたじゃないですか!」

東雲
ああ、『新選組が愛した女』ね
『大事なシーンをカットされてた』ってキミがキレまくってた···

サトコ
「そうですよ!しかも3ヵ所ですよ!」
「挙句の果てに、エンディングも全カットで···」

東雲
それで?
結局『ラブ・テロリスト』はなんだったわけ?

サトコ
「···それが謎なんです」
「ただ、とにかく恐ろしいってことしか覚えてなくて···」
「私は必死に逃げようとしているのに、身体が重くて苦しくて···」

東雲
······

サトコ
「ほら、このとおりTシャツも寝汗でびっしょり!」
「って、なんですか、その顔は」

東雲
···べつに
それよりこのピーチネクター、ぬるいんだけど

サトコ
「あ、じゃあ、冷蔵庫に入れてきますね」

このときは、これで話が終わってしまったんだけど···

東雲
······

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次の週末のこと。

サトコ
「ううん···」
「ううう···うううーん···」

【資料室】

後藤
まだ、心は決まらないのか

(え、なんの?)

後藤
俺の気持ちは、変わらない
あの初めての夜から、ずっと

(「初めての夜」!?)
(後藤教官と、いったい何が···)

後藤
どうした、忘れたのか?
「あの夜」だ。お前が、オレを受け入れてくれたあの···

(ええっ!?)
(ままま、待って!「受け入れた」って、まさか···)

後藤
愛してる、サトコ
今すぐ俺を抱きたい

(ぎゃーーーっ!)
(私ってば、なんてことを!)
(東雲教官ともまだ···なのに···!!)

颯馬
待ちなさい、泥棒ネコ

(な···っ)

颯馬
いい度胸ですね。私のいない間にコソコソと

(今度は颯馬教官!?)
(まさか私、颯馬教官とも···)

後藤
···っ、違うんだ、周さん!
俺···俺は···っ

颯馬
言い訳は無用です、後藤
さあ、ここで決めなさい。彼女を選ぶか、私を選ぶか

後藤
くっ、周さん···っ

(え···なに、この展開···いろいろ謎すぎるんですけど)
(誰か、詳しい説明を···)

難波
呼んだか、氷川

(呼んでません!ぜんぜん呼んでません!)

難波
んー、なんだ、修羅場か
こういうときこそ、オッサンが本領発揮しないとなー

(ダメです、室長!本領発揮しないで···)

難波
おーい、お前らー
サトコは、俺とラブテロリスト···


【東雲マンション】

サトコ
「してませーんっ!」

バキッ!

???
「ぐっ···」

(あ···なんか、また妙な手応えが···)

薄く目を開けると、1週間前と同じ光景が飛び込んできた。
ベッドに寝ているはずの教官が、私の布団のそばでうずくまって···

サトコ
「あ、あの···」

東雲
······

サトコ
「今回の、原因は···」

東雲
氷川···サトコ······

(···ですよね)

【リビング】

数十分後···

サトコ
「あの···教官···」
「『幻のピーチネクター・ウルトラソウルDX』です」

東雲
······

サトコ
「す、すでにご存じかもしれませんが」
「『ウルトラDX』より、こっちのほうがちょっとプレミアムで···」
「それに、今回はちゃんと冷やしてますし」

東雲
······

(ひ···っ)

サトコ
「このたびは、本当に申し訳ありませんでした!」
「教官の大事な···大事な教官に、二度も蹴りを···」

東雲
だからいいって。そのくだりは
それより何だったの。今日の夢は

サトコ
「それが、やっぱりウロ覚えなんですけど···」
「後藤教官と颯馬教官が『泥棒ネコ』で···」
「最後は室長が『ラブ・テロリスト』に···」

東雲
またそれ!?
なんなの、キミ

サトコ
「わ、私にもよく分からないんです!」
「ただ、とにかく変な夢で···」
「ほら!今日も、寝汗びっしょり···」

東雲
···そのことだけど
キミ、パジャマは?

サトコ
「えっ?」

東雲
前はちゃんと着てたよね?
なのに、なんで今そんな恰好なの

サトコ
「??」
「わりと普通じゃないですか?Tシャツとステテコって···」

東雲
ステテコ!
あり得ない。女性が『ステテコ』とか···

サトコ
「そんなことないですよ」
「ここ数年、女性向けの可愛いステテコって人気ですし」
「ほら、柄だって『桃』と『キノコ』で···」

東雲
とにかく!
その格好のせいじゃないの?キミの寝相が悪い原因
Tシャツとかで寝てると、睡眠時の動きが制限されてストレス溜まるっていうし

サトコ
「それを言ったら、教官だってTシャツで寝てるじゃないですか!」

東雲
オレは快適だから
その証拠に、寝相も悪くないし、他人を蹴飛ばしたりしないし

(うっ、でも···)

サトコ
「パジャマって結構かさばりますし···」
「Tシャツとステテコの方が、お泊り道具としてはラクで···」

東雲
だったら『置きパジャマ』すれば?

サトコ
「置きパジャマ?」

東雲
キミ専用のパジャマ。うちに置いて行ってもいいけど
ま、特権ってことで。恋人としての···

(特権!!)

サトコ
「します!特権行使します!」

東雲
そう。じゃあ···
買いに行こうか、今から


【寝具売場】

サトコ
「うわぁ、いろいろなパジャマがありますね」

(定番のからルームウェアっぽいものまで···うーん、迷うなぁ···)
(でも、せっかくの「置きパジャマ」だし、とっておきのにしないと!)
(たとえば···)

サトコ
「あっ、ジェラートピコの新作!」
「可愛いですよね!私、ここのルームウェアに憧れてて···」

東雲
なにそれ。ヒツジ?

(うっ、たしかにモコモコしてるけど···)

サトコ
「じゃあ、このフリルのに···」

東雲
それ、20代前半向け

サトコ
「···っ、じゃあ、こっちのレースの···」

東雲
いろいろキツイ

サトコ
「これ···」

東雲
多すぎ。露出が

(う、ううううう···)

サトコ
「じゃあ、どれならいんですか!」

東雲
普通でいいじゃん
これとか

サトコ
「可愛くないです」

東雲
これは

サトコ
「ピンときません」

東雲
これ

サトコ
「···どう見ても男物ですけど」

東雲
じゃあ、こっちは?

サトコ
「かっぱの着ぐるみじゃないですか!」

(もう!からかって···)

そのときだった。
ちょっと大人っぽい、素敵なパジャマを見つけたのは。

(これ、いいな。デザインがおしゃれだし、色味も好みだし。素材は···)
(シルクか。どうりで手触りがいいわけだよね)

東雲
···なに、気に入ったの?

サトコ
「はい。どう思います」

東雲
···まぁ······
悪くないんじゃない?

(やった!)

サトコ
「じゃあ、これに決定···」

(って、高っ!)
(パジャマ1着でこの値段!?)

東雲
···なに、買わないの?

サトコ
「いえ、その···」

(どうしよう。貯金を崩せば、買えなくはないよね)
(でも、そうなると今年買う予定のコートが···)
(でもでも!教官も気に入ってくれたみたいだし···)

サトコ
「···よし」

(買おう、買っちゃおう!)
(さよなら!冬のコート···)

女性
「あーっ!見て、このパジャマ!可愛い!」

ドンッ!

(痛っ···)

女性
「ねぇ、このパジャマ、欲しい~。買って~」

男性
「いいよ~、キミのためなら」

女性
「優しい!ありがと~」

(ちょ、待っ···)

サトコ
「私の置きパジャマーーー!」

東雲
·········バカ


【東雲マンション】

サトコ
「やっぱり、これからの女子は『ステテコ』です」
「『ステテコ』が一番ですよ!」

東雲
······

サトコ
「きっと神様が言ってるんです!」
「『お前にパジャマなんて100万年早い』···」
「『お前はステテコだ』『ステテコ女なんだ!』って!」

東雲
いや、言ってないし
ていうか買えばよかったじゃん、他のパジャマ···

サトコ
「ダメです!」
「せっかくの『置きパジャマ』ですよ!?」
「教官の寝室に置かせてもらうんですよ!?」
「だったら特別のものじゃないと!」

東雲
···キモ

サトコ
「キモくて結構です!」
「教官には分からないですよ!この繊細な乙女ゴコ···」
「ぷはっ!」

(なにこれ···なにを投げつけて···)

サトコ
「え···」

(パジャマ?)

東雲
それ着れば。オレのだけど

(教官の···?)

東雲
洗濯済みだし
着心地も悪くなかったはずだし
丈も長いから、その···
寝ていて、お腹も出ないだろうし

(教官の···つまり「彼の」「パジャマ」···)

東雲
だいたい寝相悪すぎだから、キミ
気付くと、掛け布団蹴飛ばしてるし
Tシャツの丈が短すぎて、いつもお腹出てるし
お腹冷やして寝るとか、女子力低すぎ···

サトコ
「教官ーっ!!」

東雲
ぐっ···

サトコ
「『彼パジャマ』ですね!」
「『彼パジャマ』を、私に着てほしいってことですね!?」

東雲
違うから!
さっきから言ってるけど、オレはキミのお腹が気になって···

サトコ
「好きです!大好きです!」
「今日は『彼パジャマ』に包まれて眠ります!」

東雲
·········あっそう

そんなわけで、パジャマ問題はひとまず解決し···

【寝室】

その日の夜ーー

(教官のパジャマ···裾が思っていた以上に長めだな)
(肩の位置も、ちょっとズレてるし···)
(でも、そういうのが『彼パジャマ』の醍醐味っていうか···)
(いかにも『彼パジャマ』っていうか···)

サトコ
「ふふふ···」

東雲
キモ。ニヤけすぎ
言っておくけど、今日だけだから。それ貸すの
次からはちゃんと用意してきてよ

サトコ
「はーい」

(でも、ずーっとこれでもいいなぁ)
(だって、これ···)

いつもの客用布団に潜り込むと、パジャマの香りがふわっと強くなる。
教官の服からときどき香る、ユーカリのアロマの香りだ。

サトコ
「ふふ···ふふふふ···」

東雲
···怖
今度はなに?

サトコ
「においです」

東雲
におい?

サトコ
「パジャマから、教官のいつものにおいがして···」
「なんだか幸せだなぁって」

東雲
······

ごそ、と音がした。
どうしたんだろう、と顔を上げると、教官がベッドから降りてきて···

東雲
···そっち寄って

サトコ
「えっ」

東雲
早く

教官は、私を押しやると同じ布団の中に入ってきた。

サトコ
「ど、どうしたんですか、いきなり」

東雲
···べつに
気になっただけ。オレのにおいが

サトコ
「気になったって···」

(そのわりに、枕まで持ってきて···)

サトコ
「···っ」
「教官、なにを···」

東雲
確かめてる。においを

(でも、そこ···うなじ···!)

東雲
···ねぇ。キミのにおいしかしないんだけど

サトコ
「た、確かめる場所、間違ってます!」
「教官のにおいがするのは、私のパジャマで···」

サトコ
「ん···っ」

からかうように、軽く唇をついばまれる。
まるで「そんなこと分かってる」とでも言わんばかりに。

サトコ
「きょ、教官···においのことは···」

東雲
······

サトコ
「においに···興味があったんじゃ···」
「んっ···」

何度も言葉をさえぎられて、返事を誤魔化される。
それでも重ねた手に力を込めると、教官がかすれた声で呟いた。

東雲
バカ、察しろ

サトコ
「む、無理です。その···」
「バカ、ですから」

東雲
···生意気

身体を引き寄せられ、キスがいっそう深くなる。
かすかに鼻をかすめる、ユーカリとは別の、汗のにおいーー

久しぶりのパジャマに、久しぶりの濃厚なキス。
心が深く満たされて、今日は穏やかな夢を見られそうだった。

Happy End



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