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東雲 ふたりの卒業編 3話



【室長室】

室長室に入ると、かすかにコーヒーのにおいがした。

難波
ひとまずそこのソファに座ってくれ
歩もそのうち来るはずだから

サトコ
「···はい」

宮山
「失礼します」

(なんで2人揃って呼ばれたんだろう)
(雑用を頼まれるような雰囲気でもないし···)

サトコ
「!」

(もしかして「教育係」としてのダメ出し?)
(それで宮山くん本人からもいろいろ聞こうとしているとか···)

血の気が引きかけたところで、ドアをノックする音が聞こえてきた。

難波
おう、入れ

東雲
失礼します
···ああ、全員揃ってるんですね

難波
さっき廊下でこいつらを見かけてな。ついでに拾ってきたんだ

教官がソファに腰かけたところで、室長はテーブルに資料を並べた。

宮山
「これは···」

難波
今度の潜入捜査の資料だ
歩のサポートとしてお前たち2人にも加わってもらおうと思ってな

サトコ
「!」

難波
潜入先は『四ツ橋ケミカル』。聞いたことはあるか?

(ええと···最近どこかで聞いたような···)

宮山
「医療品開発支援を行っている企業ですよね」
「確か今年の『世界の有力企業2000社』に選ばれた···」

(そうだ、教官の家のテレビで観たんだった)

難波
そのとおり。今かなり注目されている企業というわけだが···
お前たちには明後日から3人でこの会社に潜入してもらう

サトコ
「何を調べるんですか?」

難波
主に資金の流れだ
企業として内部・外部ともに奇妙な入出金がないか、調べてほしい

サトコ
「···わかりました」

(「入出金を調べる」か。なるで捜査二課みたいだな)
(それか検察とか税理士とか···)

サトコ
「他には何を調べればいいですか?」

難波
いや、以上だ

(えっ)

宮山
「調べるのは入出金のことだけですか?」

難波
ああ、そうだ

(それって···)

宮山
「すみません、そういうのは公安の仕事ではないと思うのですが」

難波
···だそうだ、歩

すると、それまで無言だった東雲教官が、ちらりと私のほうを見た。

東雲
氷川さんの意見は?

サトコ
「えっ、そうですね···」

確かに宮山くんの指摘通り、これは公安の仕事とはいえない。

(でも、教官が携わっているってことは必ず何かあるはず)
(公安業務に関する何かが···となると···)

サトコ
「『四ツ橋ケミカル』は公安の『監視対象組織』と関わっている···」
「私たちが調べるのは、その『組織がらみの入出金』···でしょうか」

東雲
正解

宮山
「!」

東雲
今のところ、まだ疑惑段階だけどね
白か黒か、はっきりさせるために資金の流れを確認したいってわけ

難波
潜入後の行動については歩に任せている
明日までに各自指示を仰ぐように

サトコ
「わかりました」

宮山
「······」

(教官と一緒の大掛かりな捜査っていつ以来だろう)
(もしかしてコチ電業への潜入捜査以来?)

もっとも、あのときは教官も潜入捜査中だとは知らなかった。
だから、陰で助けてもらうばかりで、私自身は何もできなかったのだ。

(でも、今回は「教官のサポート」ってはっきり言われた)
(それなら絶対力になりたい···!)

難波
それじゃ、解散···
と言いたいところだけど、氷川だけ残ってくれ

(え···)

宮山
「では失礼します」

東雲
失礼します

(どうして私だけ?)

サトコ
「!!」

(やっぱり教育係としてのダメ出し?)
(それとも卒業試験の成績が悪すぎて、すでに留年が決定したとか···)

難波
そんな顔するな。大した話じゃない

室長は苦笑いすると、テーブルの上の資料を乱雑に束ねた。

難波
歩にはすでに了承済みだが···
今回の潜入捜査は、お前の卒業試験も兼ねている

サトコ
「!」

難波
特に卒業後の人事には大きく関わってくる
そのつもりで取り組んでほしい

サトコ
「···わかりました」

(卒業後の人事···できればこれからも教官と一緒に働きたい!)
(こうなったら何が何でも成果を挙げないと···)

難波
とはいえ、単に結果を出せばいいというわけではない

サトコ
「えっ」

難波
単独行動するとき、自分は何ができるのか
組織で動くとき、どのポジションなら力を発揮できるのか
それらも踏まえて行動してほしい

(私にできること···力を発揮できる部分···)

難波
そう難しい顔をするな
この2年間、お前が歩から教わったことを活かせばいいだけだ

サトコ
「!」

難波
構えすぎずに頑張ってこい

サトコ
「ありがとうございます!」

(そうだ、卒業試験は2年間の集大成なんだ)

東雲教官はもちろんのこと、他の教官方からも様々なことを教わってきた。

(それを発揮できれば、自然と結果もついてくるはず)
(頑張ろう、うん!)



【個別教官室】

その日の夜。
教官と私、宮山くんの3人でミーティングが行われた。

東雲
まずは配属先だけど···
オレはシステム開発部に配属されることになっている
残りは『経理課』の派遣社員と、『社員食堂』のアルバイトだけど···

宮山
「俺はどちらでもいいです」
「どちらでもうまくやれる自信があります」

(うわ、さすが宮山くん···)

東雲
氷川さんは?どっちを希望?

サトコ
「私は···」

それぞれの業務内容を改めて確認する。

(このミーティングの前に何度も考えたこと)
(これまでの潜入捜査経験を踏まえれば···)

サトコ
「私は『社員食堂』のアルバイトを希望します」

東雲
···そう。じゃあ、決まりだね
宮山は経理係、氷川さんは社食ってことで
じゃあ、まずは経理課の方から説明するけど···

教官の説明を、宮山くんはメモを取りながら確認している。
お互いの間に、先週の土曜日のような緊迫感はない。

(こういうところ、宮山くんってすごいよね)

1年目の時の私は、ここまで公私を分けられなかった。
つい、市場を持ち込んでしまったこともあった。

(潜入捜査中に、カッとなってエレベーターで教官にキスしたりして···)
(今、思うと、あれって完全にアウトだよね)

東雲
次、社食のアルバイトだけど···

教官が別の資料を取り出したところで、宮山くんのスマホが鳴った。

宮山
「すみません。少し外してもいいですか」

東雲
いいよ。ついでに休憩にしよう

サトコ
「じゃあ、飲み物淹れますね」

宮山くんが出ていったところで、教官が私のほうを振り向いた。

東雲
いいの?

サトコ
「何がですか?」

東雲
今回の配属先。経理課の方が成果を出しやすいと思うけど
資金の流れを直接確認できるわけだし

サトコ
「そうですね」

もちろん、それについて考えなかったわけではない。

(でも···)

サトコ
「1年間、宮山くんを見てきましたけど···」
「彼の飲み込みの速さは、訓練生のなかでも群を抜いています」

東雲
······

サトコ
「経理は専門職です。知識がなければ勤まりません」
「でも、彼なら短期間でもソツなくこなせるんじゃないかと」

東雲
ふーん···つまり宮山が優秀だから···
消去法で、キミは『社食のアルバイト』を選んだってわけだ

サトコ
「それが、そうでもなくて···」
「私、これまでの潜入捜査で『清掃員』と『庶務課のアルバイト』を経験してますけど···」
「自由度が高かったのは『清掃員』の方なんです」

東雲
······

サトコ
「裏方の人間は周囲に認識されにくいから、意外な情報を集めやすい」
「何か起きたときも比較的動きやすい」

東雲
······

サトコ
「なにより突発事項が起きたときの対応力は、彼より私のほうが上です」
「それについては自信があります」

東雲
···なるほどね

教官は、メガネを外すとふっと息をついた。

東雲
じゃあ、何かトラブルが発生した時は?
経理課ならともかく、社食のアルバイトじゃ、オレは助けられないけど
『社食』と『システム開発部』では距離がありすぎるし

サトコ
「構いません。そのときは···」

<選択してください>

A: 東雲を頼る

サトコ
「教官を頼ります。真っ先に連絡しますんで!」

東雲
···だからさ。さっきからそれが『難しい』って言ってるんだけど
社食とシステム開発部は別棟で距離があるから···

サトコ
「でも、私と教官の心の距離はかなり近いです!」
「だから問題ナシ···」

東雲
······

サトコ
「かなぁ···なんて···」

東雲
だいぶ離れたけどね、今
どこかの『マシなバカ』が『ただのバカ』に戻ったせいで

(うっ···)

サトコ
「じゃあ、その···何か起きたら自力で解決できるように頑張ります」

東雲
そうして
それでもダメなら、頼ってくれていいから

サトコ
「···わかりました」

B: 宮山を頼る

サトコ
「宮山くんを頼りますから」

東雲
·········ふーん、宮山をね

(あれ、なんか教官の雰囲気が···)

東雲
経理課もシステム開発部と同じだと思うけど
社食と距離があるっていう意味では

サトコ
「あっ、そうですよね」
「じゃあ、できるだけ自力で頑張ります」

東雲
ぜひ、そうして
それでもダメなら頼っていいから。『オレ』のことを

サトコ
「??わかりました」

(そっか、教官を頼ってもいいんだ)
(じゃあ、いざとなったら宮山くんより教官を頼ろうかな)

C: 教官の教えを思い出す

サトコ
「教官から教わったことを思い出しますから」

東雲
······

サトコ
「それでもダメなら、教官を頼るかもしれないですが···」
「できるだけ自力で何とかしてみせます!」

東雲
···わかった
とりあえず、どうしてもダメなときだけ連絡して
オレでも···サイアク、宮山でもいいから

サトコ
「了解です」

東雲
ま、でも、大丈夫だとは思ってるけど。個人的には

(え···)

東雲
そのつもりで指導してきたし
経験値も他の訓練生よりあるはずだし
なにより『オレの補佐官』だし

おまけのように付け足された言葉に、胸をギュッと掴まれる。

(どうしよう。嬉しい、すごく嬉しい···)
(今すぐ抱きつきたいくらい···)

サトコ
「教かぁぁ···」

宮山
「すみません、お待たせしました」

(ぎゃっ!)

東雲
誰から電話?

宮山
「後藤教官です。それでつい長引いてしまって···」
「あれ···先輩、どうして床に転がっているんですか?」

東雲
さあ、10円玉でも見つけたんじゃない?

結局、教官には抱きつきそびれてしまったものの
久しぶりの「オレの補佐官」という言葉の破壊力はすごすぎて···

(がんばる···絶対がんばる!)
(氷川サトコ、「補佐官」として最後の潜入捜査をやり遂げて···)



【社食 厨房】

(必ず、公安学校を卒業···)

パート1
「ああっ、新人、また焦げてるよ!」
「これじゃ、エビフライじゃなくて『焦げフライ』だろう」

サトコ
「す、すみません···」

パート1
「まいったねぇ。これじゃ、廃棄物が増えるばかりだよ」

パート2
「唐揚げや天ぷらは焦がさないのに不思議な子だねぇ」

サトコ
「すみません。自分でも謎でして···」

(まさか潜入初日にエビフライでつまずくなんて···)
(絶対、教官には報告できないよ)

パート1
「あんた、ええと···『長野かっぱ』さんだっけ?」
「揚げ物はいいから当分うどんとそばを茹でて」
「慣れてきたらラーメンも任せるから」

サトコ
「分かりました」

パート1
「さぁ、あと15分で昼休みだよ!戦いのはじまりだ」

(戦い?そんな大げさな···)

【社食】

ところが15分後···

男性社員1
「いやぁ、腹減ったな。なに食う?」

男性社員2
「給料日前だしなぁ、定食よりそばかな」

男性社員3
「オレはうどんだな。月見かタヌキか···」

そんな楽しげな会話が聞こえてくるなかで···

【厨房】

パート1
「素うどん大盛り、そば天、そばきつね」

サトコ
「はいっ」

パート1
「次、うどんわかめ、うどんタヌキ、そばきつね、うどんきつね」

サトコ
「はぃぃぃぃっ」

(待って、オーダー早すぎ!)
(うどん・うどん・そのあと「そば」で···)
(ああ、もう···ワケわかんないんですけどーっ!)

サトコ
「はぁ···はぁ···」

(やっと···列が途切れた···)
(怖い···本当に戦場だったよ、ここ···)

パート2
「ああ、小鉢がないねぇ」
「長野さん、定食のメニュー表、訂正してきて」

サトコ
「はい···」

【社食】

(メニュー表は···)
(ああ、これかな。定食の『小鉢』を『漬物』に変更っと···)

???
「やっぱ、珍しいよな、お前の名前」
「初めて聞いたぞ、『秋葉野冥土』なんて」

(あれ、その名前って···)

宮山
「や、やめてくださいよ。大声で名前を呼ばないでください」

???
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろ」
「俺は好きだけどな。いかにも『メイド喫茶好き』って感じで···」

(すごいな、宮山くん。もう親しい相手ができたんだ)
(私も早く人脈を広げないと···)

???
「すごーい!」
「ナグモさん、ほんと髪の毛がサラサラですねぇ」

(うん?「ナグモ」って確か···)

東雲
そうかな。特に手入れはしてないんだけど

女性社員1
「ええっ、そうなんですか?」

女性社員2
「すごーい、うらやましー」

(嘘ですから!その人、めっちゃ高いヘアケア用品使ってますから!)
(ていうかズルいよ、教官だけ「南雲駆」なんてまともな潜入名で)
(しかも、初日から女性社員2人とランチとか···)

サトコ
「···っ」

(違う違う!あれも人脈作り、人脈作り···)
(すべては情報収集のため···)

女性社員1
「ところで今日はどうする?」

女性社員2
「私はおにぎりセットとサラダかな。南雲さんはどうしますか?」

東雲
オレは···定食かな

(えっ、こっちに近づいてきた?)

東雲
すみません。今日のおすすめ定食はなんですか?

サトコ
「そ、そうですね。今日は···」

(教官にオススメするなら···)

<選択してください>

A: エビフライ定食

サトコ
「エビフライ定食ですね」

東雲
へぇ、エビフライ···
ブラックタイガーじゃなくて?

サトコ
「!!」

女性社員1
「えー、ブラックタイガーのフライって聞いたことないですよー」

女性社員2
「ありえなーい」

(くっ···まさか早速エビフライで失敗したの、バレてるなんてことは···)

B: オムライス定食

サトコ
「オムライス定食ですね」

東雲
へぇ、オムライス···
ごはんを包み込むタイプの?それとも···

サトコ
「ふわっ、とろっ···系です」

(って、今ので通じたかな)
(山梨の保育園に行ったときのこと、覚えてくれていたらきっと···)

東雲
ああ、あれね
『ふわっ···とろっ···ふわっ···』の

(やった、通じた!)

サトコ
「そうです、それです!」

東雲
ふーん、なるほどね

女性社員たち
「??」

C: キノコ定食

サトコ
「キノコ定食ですね」

東雲
···は?

サトコ
「キノコ定食です!」

女性社員1
「あー、確かにキノコおいしそー」

女性社員2
「いいね、私たち今日はそれにしよっか」

女性社員1
「うんうん、食べよう、キノコ」

東雲
······

(あれ、なんか女性社員のほうが盛り上がっちゃったな)

パート1
「長野さーん、なにやってんだい!」

(しまった!)

サトコ
「では失礼します」

(まずい、仕事中だった!)
(早く戻って、うどんを茹でないと···)

ドンッ!

???
「きゃっ」

サトコ
「すみません、大丈夫でしたか?」

???
「ええ」

(あ、大人っぽい香り···)
(なんていいうんだっけ、こういうの···オリエンタル系?)

???
「···何か?」

サトコ
「あ、いえ···」

(ていうか、今の人、誰かに似ているような···)
(誰だっけ···うーん···?)

と、まぁ、こんな調子で数日が過ぎていった。
そんななか、私だけが···

パート1
「オーダー入ったよ!そばタヌキ、そば天、うどんきつね」

サトコ
「はい、お待たせしました!」

パート1
「次、素うどん、そば天、うどん月見···」

サトコ
「素うどんできてます!そば天、うどん月見、できました」

(うんうん、我ながら見事な麺さばき···)
(って違ーうっ!そうじゃなくて···)


【学校 廊下】

サトコ
「はぁぁ···」

宮山
「なにをため息ついているんですか。これからミーティングなのに」
「東雲教官に怒られますよ」

サトコ
「そうだね」

(3日に1度の「出社前ミーティング」···)

【個別教官室】

(本当なら、ここで情報交換をするはずなんだけど···)

東雲
···オレからの報告は以上
次、氷川さん

サトコ
「私は、その···」
「初日からずっとうどんとそばを茹でてまして」

東雲
···は?

サトコ
「先日ようやく合格点をいただきまして」
「今日から受付担当を任されることになりました」

宮山
「つまり、今日からカウンター越しに先輩と会えるってことですか?」

サトコ
「うん、まぁ···そういうことになるのかな」

宮山
「そうですか。今日から昼休みが楽しみです」

東雲
···他は?

サトコ
「ええと···清掃員のシフトを確認しているところです」
「それと清掃道具の置き場所も」

東雲
いつまでに確認できそう?

サトコ
「今週中には」
「彼女たちとは休憩所が一緒なのでなんとか探りを入れられたらと」

東雲
了解

宮山
「あの···それって何か意味があるんですか?」
「清掃員のシフトなんて調べても役に立たないと思うんですけど」

サトコ
「今のところはね」
「でも、どこかの局面で使えるかもしれないから」

(とはいえ、確かにムダで終わる可能性も高いんだよね)
(正直、万が一の保険として調べているだけだし)

東雲
次、宮山

宮山
「はい。この数日、会社の帳簿データにアクセスしていたんですけど」
「不審な入金を見つけまして」

(えっ)

東雲
それは、『四ツ橋ケミカル』の帳簿上で?

宮山
「はい。ただし、その帳簿も振込口座も公にはされていなくて···」
「最終的にそのお金は『研究開発部・研究2課』の『研究費』として消えているんです」

東雲
金額は?

宮山
「1000万円。ちなみに振込先は『フォー・ピース・ワールド』···」
「業務内容は『輸入代行業』とのことですが」
「実際は『ペーパーカンパニー』の可能性が高そうです」

東雲
···なるほど
確か研究2課には優秀な開発者がいたよね

宮山
「はい、『阿川』という男です」

東雲
その阿川の技術や研究が、テロ組織に流れているとしたら···

(『フォー・ピース・ワールド』からの入金は、技術提供に対する「報酬」···)
(あるいは研究に必要な経費の「支払」の可能性も考えられるよね)

東雲
わかった。宮山は消えた研究費の行方を追って
オレは研究2課内のPCにアクセスする方法を考えるから

(···うん?)

サトコ
「システム開発部にいれば社内のPCにアクセスし放題ですよね?」

東雲
それが研究開発部のPCは遠隔操作ができない仕様になっているんだ

宮山
「じゃあ、探るには課内のPCに直接触れるしかないってことですか?」

東雲
そのとおり
でも、セキュリティが厳しくて、パスがないと潜入できない
仮にできたとしても、必要な情報をコピーするには時間がかかる

宮山
「つまり、コソコソと探るのは無理ってことですね」

東雲
そういうこと

(「別部署のPCのデータを堂々と探る」···)
(それってどうすればいいんだろう)


【厨房】

(まずはPCに触れるキッカケが必要だよね)
(「他人のものに触れるキッカケ」···たとえば···)

女性社員1
「あー、そのスマホケース可愛い~!ちょっと見せて」

女性社員2
「いいよ」

(なるほど「誉める」か。つまり教官が···)

東雲
あー、そのパソコンかわい~!ちょっと見せて

社員
「いいよ。どうぞどうぞ」

(···なんか違うな)
(そもそも「どうやって研究2課に入るんだ」って話だよね)

(となると、先に「研究2課」に入る手段を考えないと)

男性社員1
「えっ、お前、女子トイレに入ったの!?」

男性社員2
「しっ、声が大きい!」
「仕方ないだろ、非常事態だったんだから」

(非常事態···それなら···)

東雲
先ほど、研究2課のパソコンに爆弾が仕掛けられたとの情報が入った
至急、全員避難するように

社員
「うわー、逃げろー」

東雲
···ククク、まんまと騙されたな、愚か者め

(·········ないないない!)
(ふつう騙されないし、教官のキャラクターも違ってきちゃってるし)

(たぶん、理想的なのは「修理」や「メンテナンス」なんだよね)

研究2課のPCが壊れたら、おそらく教官のいるシステム開発部に連絡がいく。
その「修理」を教官が任せられれば、堂々とPCに触れられるはず。

(でも、そんな都合よく壊れるなんてこと···)

パート1
「参ったねぇ。このタイマー、液晶が見えにくくてさ」

パート2
「年季モノだからね。そろそろ買い替えてもらったらどうだい?」

パート1
「それが『壊れるまでダメ』だってさ。ケチな会社だよ」

パート2
「ならいっそ、壊しちまうかい?」

パート1
「ハハハッ、そりゃさすがに無理だろ」

(···それだ!)

to be continued



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