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エピソード0 加賀3話

【取調室】

ハイテク犯罪対策総合センターからの情報をもとに捜査を続け、浮かび上がった犯人像は···
都内に住む、役所勤めの公務員たちだった。

加賀
で?爆弾はどこだ

公務員1
「そんなのないですよ···ただの憂さ晴らしですから」
「毎日仕事が面白くなくて···むしゃくしゃしてやっただけです」

(くだらねぇ···そんなことに振り回されてたのか、俺たちは)

犯人たちはみんな生活課に所属しており、証言に矛盾点はなかった。
家宅捜索でも爆弾などは見つからず、本当にただの “愉快犯” だったようだ。

(こんな幕切れか···まあ、大きな被害が出なかっただけよしとするか)
(それにしても、同じ公務員に足を引っ張られるとはな)

あまりにもあっけない、そしてお粗末な結果に、ため息しかこぼれない。
事件解決の報告に、近々上層部が記者会見を開くことになった。

【記者会見】

記者会見場で、上層部の会見を見守る。
すでに、犯人逮捕と今回の事件の顛末は、世の中に知れ渡っていた。

(公務員の犯罪、それに犯人特定に時間がかかった警察···どっちも叩かれるだろうな)

だが、叩かれようがなんだろうが、俺は俺のやり方を変えるつもりはない。
会場の後ろで眺めていると、記者たちの携帯が一斉に鳴った。

記者1
「なんだ?緊急エリアメールか?」

記者2
「いや···違う!見ろ、都内の地下鉄で小型爆弾が発見されたらしい!」

(なんだと···?)

突然の出来事に、上層部の連中も戸惑いを隠せない。
すぐに携帯が鳴り、ハイテク犯罪対策総合センターから連絡が入った。

担当者
『極秘情報です!都内の地下鉄B駅周辺で、小型の···』

加賀
···爆弾が見つかったんだろ

担当者
『えっ?なんで知ってるんですか?』

加賀
極秘でもなんでもねぇ。記者の連中、全員知ってやがる

(いったいどういうことだ?記者か誰かの携帯がハッキングされた?)
(いや、それより···この間逮捕された奴らこそが、フェイクだったってことか···?)

しかし、考えてる暇はない。すぐに浜口に連絡を取った。

加賀
浜口、今からメンバー揃えて、現場に向かう準備しとけ

浜口鉄郎
『なんだ?急に』

加賀
地下鉄の駅近くで、小型の爆弾がみつかった
俺もすぐ向かう。現場は二カ所だ。片方には俺が行く

浜口鉄郎
『ちょ、加賀···』

戸惑う浜口に構わず、電話を切る。
まずは浜口たちと合流するため、本庁に向かった。

【本庁】

浜口は、いつものふたりと一緒に俺を待っていた。

加賀
ここから遠い廃墟ビルのほうには、お前らが行け。B駅には俺が向かう

浜口鉄郎
「ふたりずつに分かれればいいだろ。俺もお前と行く」

加賀
お前なんざ、足手まといだ

浜口鉄郎
「またそうやって···」

加賀
俺の勘が正しければ、ビルの方が “アタリ” だ

浜口鉄郎
「え?」

加賀
廃墟ビルは、犯人グループが潜伏してるアジトって話を聞いた
なら犯人たちは、そっちにいる可能性が高い

浜口鉄郎
「じゃあ、B駅には···」

加賀
爆弾の話が帆の綱ら、そっちに仕掛けられてるだろうな
こっちには処理班が向かってるから、ひとりでいい

犯人グループが潜伏しているとしたら、確保するために人数が必要だ。
浜口たちが3人で行けば、問題ないだろう。

浜口鉄郎
「なんで···」

加賀
テメェらは、必ず犯人をしょっ引いて来い
ただ···油断すんじゃねぇぞ。向こうはまだ予備の爆弾を持ってるかもしれねぇ
いくら小型だろうと、まともに食らえばお陀仏だ

浜口鉄郎
「そんなの、お前だって同じだろ」
「それに、なんで···お前、手柄は」

加賀
喚くな。時間がねぇ

浜口の顔を掴み、黙らせた。

加賀
たまにはテメェらに手柄譲ってやるって言ってんだ

浜口鉄郎
「加賀···」

加賀
爆弾を処理すんのも、そこそこの手柄だ。問題ねぇ

同僚1
「ふん。恩着せがましい言い方しやがって」

同僚2
「いいじゃないか。お言葉に甘えて、今回はてがらをいただこうぜ」

加賀
さっさと行け。ミスったらただじゃおかねぇぞ

浜口鉄郎
「ああ···じゃあな、加賀。何か分かったら連絡しろよ」

加賀
こっちの台詞だ

浜口たちが、急いだ様子で玄関から出ていく。
俺も現場へ向かうため、それに続いた。

【B駅】

俺が向かった地下鉄の駅は、爆弾予告騒ぎで騒然としていた。
すでに規制が敷かれて、一般人は入れなくなっている。

警察官
「お疲れさまです。現場はこちらです」

加賀
ああ

爆発物処理班も到着しており、物々しい雰囲気だ。

(そろそろ、あいつらも着いた頃か)
(手柄を譲るなんざ、俺らしくもねぇ···)

だが、浜口には借りがある。
以前、一瞬の隙をついて襲い掛かってきた犯人を、近くにいた浜口が確保したからだ。

(下手すりゃ、刺されたかもしれねぇし、死んでた可能性だってある)
(···一度の手柄を譲ったくらいで、何かが変わるわけじゃねぇ)

ただ、命を助けられただけではなく、他の奴らとの間を取り持たれていることも事実だ。

(···頼んだわけじゃねぇがな)
(まあ··· “仲間” ってのも悪くねぇのは、認めてやる)

これで、貸し借りはナシだ。
そう思ったとき、爆発物処理班から報告が入った。

処理班
「失礼します!地下鉄内に仕掛けられていた例の爆弾ですが、爆発物ではありませんでした」

加賀
何?

処理班
「あれは偽物です。もしかして、もう一カ所のほうが···」

無線に浜口から連絡が入ったのは、そのときだった。

加賀
浜口、どうした

浜口鉄郎
『違う···違ったんだ、加賀···!』

加賀
おい、浜口

浜口鉄郎
『真犯人は、奴らじゃない!本当は···』

直後、激しい爆音。

加賀
···浜口!どうなってる!

浜口鉄郎
『こっちが、本物の···』
『処理班が、間に合わな···』

加賀
浜口···!

(今から応援に行って間に合うか?)
(いや···実行犯は必ず近くで見てるはずだ。浜口たちと連携を取れば)

浜口鉄郎
『加賀···悪い、ここから帰れそうにない』

爆音が続き、雑音の入り混じった無線から浜口の声が聞こえてくる。

加賀
なに言ってやがる。トチ狂ったか

浜口鉄郎
『出口が、封鎖···』
『加賀···犯人を···』

加賀
黙れ。俺が行くまで勝手に死ぬんじゃねぇぞ!

同僚1
『俺たちのことはいい···犯人を追え!』

加賀
······!

同僚2
『急げ、加賀···!奴らが逃げる前に』

浜口鉄郎
『俺たちの分まで、手柄を···』

加賀
浜口···おい!

途切れそうになった無線に、必死に呼びかける。
最後に聞こえた浜口の声が、耳に残った。

浜口鉄郎
『悪い、加賀···もしかしたら···』

加賀
何···?

それきり通信が途切れ、その瞬間走り出した。
浜口たちの最後の言葉どおり、まだ近くにいるであろう犯人を確保するために。

(くそっ···くそ!)

犯人確保と、そして手柄···
それと引き換えに、俺は信頼していた唯一の仲間を失った。

to be continued

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