カテゴリー

エピソード0 加賀4話

爆弾を仕掛けた犯人は、無事に確保できた。
だがそのかわり、浜口たち3人は全員、死亡が確認された。

加賀
······

刑事1
「おい···加賀だぞ」

刑事2
「よく来れるよな···自分だけ手柄とって、仲間見殺しにして」

刑事3
「手柄のためならなんでもやる、って聞いたことあるけど···まさか仲間まで利用するなんてな」

葬儀場で、遠巻きに同僚たちが話しているのが聞こえる。
先へ進むと、浜口の嫁が乳飲み子を抱えて立っていた。

鉄郎の妻
「······」

加賀
······

浜口良美は、俺と目を合わせようとしない。
真っ青な顔で、感情の抜け落ちた無表情のまま立ち尽くしていた。

(···体が弱いって言ってたな)
(最近は、入退院を繰り返してるとか···)

そんな中で出産し、ようやく訪れた幸せを俺が奪った。

加賀
······

最後にもう一度頭を下げ、浜口良美の前から立ち去った。

【街】

葬式の帰り、ひとりで雨の中を歩く。
写真の中の浜口たちが、いつまでも頭から離れない。

(···あいつらは、犯人逮捕を望んでた)
(あれが、犯人グループを確保する唯一の方法だった)

浜口たちのところへ駆けつけたところで、もう間に合わなかっただろう。
それどころか、犯人たちも逃がしてしまったかもしれない。

(だから浜口たちも、俺に託した···)
(逆の立場だったら、俺もそうする)

刑事としては、正しい判断だったと思っている。
でもそう思う一方で、決して消えることのない気持ちがくすぶっていた。

刑事2
『自分だけ手柄取って、仲間見殺しにして』

刑事3
『まさか仲間まで利用するなんてな』

(手柄···利用···)

石神
困っている人を助けたいからだ
それが、俺の目指す正義だ

(正義···)

俺の正義は、どこにある。

(···正しい判断、だとしても)
(仲間を全員失って···何が正義だ···)

浜口鉄郎
『加賀の悪い癖だよな。手柄の独り占めはダメダメ』

(手柄なんざ···くれてやったって)
(あいつらが、無事なら···)

同僚1
『ふん。恩着せがましい言い方しやがって』

同僚2
『いいじゃないか。お言葉に甘えて、今回は手柄をいただこうぜ』

結果から言えば、今回ばかりは俺の “勘” が外れた。

加賀
俺の勘が正しければ、ビルの方が “アタリ” だ

(根拠の乏しい “勘” で、あいつらを失った)
(俺は···)

ポケットから、煙草を取り出す。
一本咥えてライターを取り出し、火を点けようとしたが、雨のせいかなかなか点かない。

加賀
······

自分の手が、震えている。
涙が頬を伝い、流れ落ちる雨に紛れてアスファルトに落ちた。

(何が···正義だ···)
(何が···)

【科捜研】

浜口たちの葬儀の数日後、莉子に呼ばれて科捜研に顔を出した。
俺の顔を見るなり、他の奴らはまるで親の仇のように冷たい視線を向けてくる。

刑事1
「ほら、この間の爆破事件の···」

刑事2
「ああ···仲間を利用して、手柄を立てたって」

加賀
······

何も知らない奴らに何を言われようが、どうでもいい。
相手にもせず、莉子が待つ部屋のドアを開けた。

莉子
「兵吾ちゃん。待ってたわ」

加賀
なんかわかったのか

莉子
「爆発が激しくて、ほとんど証拠なんて残ってなかったけど···」

ためらいがちに莉子が渡してきたのは、爆弾の一部と思われるものだ。
どこかで見たことのあるものに、眉をひそめる。

加賀
これは···

莉子
「飛行機に搭載されてる、ブラックボックスと同じ素材」
「···国が大手航空会社と共同開発した、あの素材よ」

加賀
なんでそれがここにある

莉子
「···わからないの」

俺が何を言いたいのか、莉子は瞬時に理解した。

莉子
「一般には出回ってないものなのに、犯人はどうやって手に入れたのか」

加賀
······

(一般には出回ってない素材···それを、犯人グループが調達できた)

加賀
···つまり、黒幕は

莉子
「めったなこと言うもんじゃないわよ」

静かに、莉子が俺の言葉を遮る。
誰かに聞かれているかもしれないことを危惧しているようだった。

(···そのために、浜口たちは死んだのか)
(こんなもんのために···)

加賀
······

莉子
「兵吾ちゃん···」

(いや···違う)
(あいつらを殺したのは、俺だ)

疑いもせず浜口たちをそちらへ回した。
あのとき入ってきた情報をもっと見極めていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

(···全部、たらればの話だ)
(後悔したって、何もかも遅ぇ···)

莉子
「そういえば···記者会見中に、記者たちの携帯がハッキングされたって聞いたけど」

加賀
ああ。どこのどいつの仕業か知らねぇが
極秘情報を堂々とリークするとは、よほど肝が据わった奴らしいな

莉子
「感心してる場合じゃないでしょ。こっちの情報が全部漏れてるってことじゃない」

加賀
ただのハッカーか、内部に詳しい奴か···
どっちにしても、それを探すのは俺の仕事じゃねぇ

それより、問題はこのプラスチック片だ。
一般に出回っていないものとなれば、黒幕は国か航空会社に関係した人間の可能性が高い。

(わざわざ、こんな足のつくもん使いやがって)
(···証拠を残さねぇほど、粉々に全部吹っ飛ばすつもりだったのか)

莉子
「国と航空会社共同開発したってだけあって、相当いい素材なのよね、これ」
「ヘンな話だけど、爆発物に使用するには持って来いって言ってもいい」

加賀
黒幕の連中が、それを知らねぇわけねぇな

莉子
「そうね···もしかして、これを開発したのも今回の爆発物を作るため···」
「···なんていうのは、考えすぎかもしれないけど」

加賀
······

(今回の爆破事件を起こすために、国が航空会社と手を組んで材料を作った···?)
(いや、国と航空会社、どっちが黒かわからねぇが)

もちろん、それとはまったく関係のない組織の可能性もある。
なんらかの方法で手に入れることも、大きな組織なら不可能ではないだろう。

加賀
だがどっちにしても、こっちに真犯人の手先がいるってことだな

莉子
「そうね」
「だから言ったでしょ、滅多なこと言うもんじゃないって」

内部の人間でも、信用できない。
莉子は暗に、そう言いたかったらしかった。

【街】

仕事を終えて、本庁を出る。
まっすぐ帰る気にもならず、ぶらぶらと夜の街を歩いた。

(もし本当に、あの爆弾を作ったのが “こっち側の人間” だとしたら)
(なんのために···?何が目的だ?)

まず、愉快犯のセンは消える。
人であれモノであれ情報であれ、必ず “ターゲット” がいるはずだ。

(国を動かしてまで···爆弾で全部消し去りてぇ “何か” があったのか···)

顔を上げると、いつかのラーメン屋の屋台が見えた。
特に腹も減っていなかったが、考えをまとめるためにのれんをくぐった。

【ラーメン屋台】

のれんの向こうには、見覚えのある男がいた。

ガタイのいい男
おっ?また会ったな、色男

加賀
······

(···出直すか)

ガタイのいい男
おーい、なんで周り右する?

加賀
あんたと話に来たんじゃねぇ

ガタイのいい男
つれないねぇ
なんだ?今抱えている事件で面倒なことでも起きたか?

加賀
······

思わず、男を凝視した。

(···俺のことを知ってんのか)
(この男、何者だ···?)

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする