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あ、クリスマスは愛のため中止です 加賀1話



【学校 廊下】

クリスマスも近づいた、12月のある日の放課後。

莉子
「いたいた、サトコちゃん」

サトコ
「うっ、ファビュラス!」

莉子
「え?何?」

サトコ
「すみません、なんでもないです」

(莉子さん、相変わらず綺麗だな···なんと羨ましい)

サトコ
「それより、お仕事ですか?」

莉子
「秀っちに野暮用があって来たんだけど、いないみたいね」
「ところでサトコちゃん、この遊園地知ってる?」

莉子さんが私に差し出したのは、遊園地のチケットだった。

サトコ
「あ!この遊園地、今イベントやってるんですよね」

莉子
「そうなの?クリスマスの?」

サトコ
「はい。夜になるとクリスマス仕様のいるイルミネーションになるとか」
「マスコットの着ぐるみと一緒に写真を撮ると、クリスマスカードにしてくれるとか」

莉子
「へえー。そんなに詳しいってことは、もしかして行きたかった?」

サトコ
「実は、テレビで観ていいなーって」
「でも人気みたいで、なかなかチケットが取れないんです」

莉子
「ならちょうどよかった。これ、もらってくれない?」

遊園地のチケットは、3枚ある。

サトコ
「も、もらっていいんですか···!?すっごく貴重なチケットですよ!?」

莉子
「んー、残念ながら私、まったく興味ないのよね」
「もう遊園地でキャッキャするような歳でもないし」

サトコ
「うう···オトナ発言···」
「私がもらって、本当にいいんですか?」

莉子
「ええ。知り合いからもらったんだけど、無駄にするのも申し訳ないし」
「こっちも、もらってくれると助かるんだけど」

サトコ
「ありがとうございます···!じゃあ、お言葉に甘えて」

3枚のチケットを受け取って莉子さんを見送ると、早速加賀さんに会いに教官室に向かう。

(さすがに加賀さんは遊園地なんて興味ないだろうけど、花ちゃんなら行きたがるよね)
(美優紀さんたちがいつも忙しいから、なかなかそういうところには行けないって言ってたし)

弾む足取りで、教官室に足を踏み入れたものの···



【個別教官室】

個別教官室にいた加賀さんに花ちゃんのことを尋ねると、顔をしかめられた。

サトコ
「へ、変なこと考えてないですよ。どうしてるかなーって」

加賀
そうじゃねぇ
···花が、インフルエンザにかかった

サトコ
「え!?大丈夫なんですか?」

加賀
予防接種してたからな。軽く済んだらしい
だがしばらくは外出禁止で、それが終わったら父親の実家に里帰りだ

サトコ
「そっか···もう年末ですもんね···」

(残念だな···花ちゃん、きっと喜んでくれると思ったのに)
(でもそういうことなら、無理には誘えないか···)

加賀
花になんか用か?

<選択してください>

 たいしたことじゃない 

サトコ
「たいしたことじゃないんですけど···」

(それなら、加賀さんとふたりで···)
(っていうのは、100%無理だろうな···)

加賀
なんだ

サトコ
「いえ···」

加賀さんが、遊園地に行くことを了承してくれるはずがない。

 たまには遊びたいなと

サトコ
「いえ···たまには花ちゃんとあそびたいなーって」

加賀
ああ···精神年齢が近いからな

サトコ
「そんなことを、ものすごく納得したように言わなくても···」

(加賀さんとふたりで行きたいけど、それだと1枚余っちゃうよね···)

 インフルエンザ、お大事に

サトコ
「なんでもないです。インフルエンザ、お大事にしてください」

加賀
ああ、伝えておく
···花も、テメェに会うのを楽しみにしてる

サトコ
「え?」

加賀
また今度誘ってやれ

サトコ
「もちろんです!」

(遊園地には、鳴子と千葉さんを誘って行こうかな)
(ちょうど3枚あるし、ふたりに予定を聞いてみよう)


【カフェテラス】

鳴子
「遊園地!?行く行く!」

千葉
「オレも行きたいな。遊園地なんて10年くらい行ってないけど」

サトコ
「よかった。3枚もらったし、ちょうどいいと思って」

ふたりも快諾してくれたので、早速予定を決めることにした。

サトコ
「期末考査も終わったし、行くなら今だよね」

鳴子
「そうだね···年末はきっと今年も忙しいだろうから、その前に行きたいね」

千葉
「じゃああとは、風邪をひかないように気を付けないと」

鳴子
「も~千葉さん、そういうフラグ立てると絶対なにかやらかすから~」

サトコ
「確かに、この中で一番不運なのは千葉さんだよね···」

千葉
「いや、それは否定しないけど···」

鳴子
「で、一番悲惨なのがサトコ」

サトコ
「悲惨!?」

鳴子
「だって、ほら···」

千葉
「ああ···確かに、いつも加賀教官に悲惨なくらいしごかれてるよな」

サトコ
「それは言わないで···」

鳴子
「まあまあ、遊園地でつらいことなんて忘れて、パーッと楽しもうよ」

(確かに、今年も色々とつらいし大変なことが多かった···)
(たまには、友だちと楽しむのもいいよね)


【遊園地 入口】

そう思いながら迎えた当日···

千葉
「佐々木が体調不良?」

サトコ
「うん、さっき連絡があって···」

待ち合わせした千葉さんに、鳴子の状況を告げる。
遊園地に来る途中に連絡があり、具合が悪いので行けない、とのことだった。

千葉
「あんなに、オレにフラグ立てるなとか氷川を悲惨だとか言ってたのに···」

サトコ
「うん···千葉さんが立てたフラグを、鳴子が回収しちゃったよね···」

(でも、千葉さんとふたりきりか···私は構わないけど)
(千葉さん、もしかしてちょっと気まずいとか思ってる···?)

サトコ
「ねえ、千葉さん···」

千葉
「···氷川」

不意に、千葉さんが真剣な顔になった。

(千葉さん、まさか···)

千葉
「オレさ···オレ···」

サトコ
「···うん、わかったよ千葉さん」

千葉
「え?」

サトコ
「みなまで言わないで」
「私とふたりでも構わないくらい、遊園地で遊びたいんだよね!」

千葉
「···え?」

サトコ
「こうなったら、鳴子の分まで楽しもう!」
「一緒に来られなかったのは残念だけど、鳴子にはお土産買って帰るから!」

千葉
「···そうだな」

なぜか苦笑している千葉さんにチケットを渡して、いざ遊園地の中に入った。

【ショップ】

千葉さんと遊園地を楽しんだあと、鳴子にお土産を買う。

千葉
「氷川、なんか欲しいものある?」

サトコ
「うーん、どうしようかな。せっかくだから、記念に···」

辺りを見回すと、スノードームが陳列されているのが目についた。
その中で、やたらと目つきの悪い犬がスノードームの中でこちらをにらんでいる。

(···加賀さんに似てる···)

千葉
「どうかした?」

サトコ
「あ、ううん···これ買おうかな」

千葉
「うわっ、すごい眼光だな···作り物とは思えない」

(千葉さんから見てもそうか···でもこれ、加賀さんのお土産にしよう)
(こんなものはいらねぇ、って言われそうだけど)

スノードームを買い、千葉さんと一緒に遊園地を後にした。


【帰り道】

千葉さんと別れた帰り道、スマホを確認すると加賀さんから着信が来ていた。

(しまった···!遊んでて気づかなかった!)
(とにかく折り返そう···でも今日は学校も休みなのに、何かあったのかな)

すぐに電話すると、数コールで呼び出し音が消える。

加賀
どこにいる

サトコ
「今、家に帰ってる途中です」

加賀
チッ···タイミング悪ぃ

サトコ
「何かあったんですか?」

加賀
···なんでもねぇ

(この感じ···もしかして、会おうと思ってくれてた?)

サトコ
「あの···つかぬことをお伺いしますけど、加賀さん、今日のお仕事は」

加賀
もう終わった

(やっぱり···!)

サトコ
「すみません···!さっきまで、千葉さんと遊園地で遊んでて」
「あ、加賀さんにもお土産買ったので!今度持っていきます!」

加賀
···千葉と?

その瞬間、加賀さんの声のトーンが変わった。

サトコ
「は、はい···」

加賀
二人か

サトコ
「え···」

(···あれ?深く考えてなかったけど、もしかして···)
(千葉さんとふたりきりで遊園地って、浮気に値する行為···!?)

サトコ
「···鳴子も一緒でした!」

咄嗟に口をついて出たのは、そんなウソだった。

加賀
佐々木が···?

サトコ
「は、はい···もともと、3人で遊ぶ予定だったので」

加賀
······
···そうか

一瞬の間のあと、加賀さんが静かに告げる。
でもその後、私が何か言う前に電話は切れた―――



【学校 廊下】

週明け、鳴子はインフルエンザだったことが判明した。

(大丈夫かな···さっき電話したら、相当つらそうだったけど)
(でもそれはそれとして、これはちょっとまずいかもしれない···)

少し話を聞けば、あの場に鳴子がいなかったことがバレてしまう。
そうなれば、加賀さんに誤解されることは必至だ。

(とにかく、誰かの口から聞く前にちゃんと自分で説明しよう)
(それに、スノードームのお土産も渡したいし)

サトコ
「いや···こんなの渡しても、逆効果かな···」
「ご機嫌取り、って思われたらどうしよう···」

悩みながら歩いていると、教官室へ向かうらしき加賀さんが歩いてくるのが見えた。

サトコ
「あの、加賀さ···」

千葉
「あれ?氷川?」

サトコ
「あ···千葉さん」

加賀
······

私たちを一瞥して、加賀さんが通り過ぎていく。

千葉
「加賀教官、お疲れさまです」

加賀
ああ

サトコ
「千葉さん、ごめんね。またあとで···」

千葉
「あ···遊園地、誘ってくれてありがとうな」
「よかったら、また行こう。その···氷川さえよければ、ふたりだけで」

加賀
······

サトコ
「······!」

(千葉さん···!このタイミングで···!)

千葉さんは小声だったけど、きっと今の言葉は加賀さんの耳に届いただろう。

サトコ
「千葉さん、ごめん!その話はまた今度!」

千葉
「え?ああ···」

怪訝そうな千葉さんを置いて、加賀さんを追いかけた。

【個別教官室】

個別教官室のドアをノックして、恐る恐る中に入る。

サトコ
「氷川です···」

加賀
なんの用だ

<選択してください>

 浮気じゃないんです 

サトコ
「あの···う、浮気じゃないんです!」

加賀
······

サトコ
「ほ、本当です···信じてください!」

加賀
何を信じりゃいい

 不可抗力で 

サトコ
「ふ、不可抗力で···!まさか千葉さんとふたりきりになるとは」
「本当に、鳴子と3人で行くつもりだったんです!」

加賀
別に、何も言ってねぇ

(でも、怒ってるのは伝わってくる···!)

 どこまで知ってます? 

サトコ
「ど、どこまで知ってます···?」

加賀
佐々木がインフルエンザってことか
それとも、テメェと千葉が遊園地に行った日はすでに寝込んでたってことか

(そこまで知ってるの···!?)

サトコ
「最初は、加賀さんと花ちゃんと3人で行こうと思ってたんです」
「莉子さんがチケットをくれて···3枚だったので」

加賀
······

サトコ
「でも、花ちゃんがインフルエンザだって聞いて···」
「加賀さんはきっと遊園地なんて興味ないだろうから、鳴子と千葉さんと3人で」

必死の弁解を、加賀さんは黙ってい聞いている。

(でもこれじゃ、まるで言い訳してるみたい···)
(いや、もう何を言っても言い訳でしかないのかもしれないけど)

サトコ
「それで、あの···」

加賀
言いたいことはそれだけか

冷たい声で、バッサリと加賀さんが話を打ち切る。

サトコ
「加賀さん···」

加賀
主人に平気で嘘をつくような、そんなクズに育てた覚えはなかったがな
···さっさと出ていけ

サトコ
「待ってください···!」

加賀
仕事の邪魔だ

突き放すような冷たい言葉に、何を言っても無駄なのだと悟る。
肩を落とし、個別教官室を出るしかなかった···

to be continued



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