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あ、クリスマスは愛のため中止です 加賀カレ目線



【加賀マンション 前】

(なんで、こいつが···)

サトコ
「···あ」

数日の出張から帰った25日の夜。
マンションの前には、いるはずのないサトコの姿があった。

サトコ
「おかえりなさい···加賀さん」

加賀
何してやがる

雨は、いつの間にか雪に変わっていた。
その中で、サトコの憂いを帯びた笑顔に何とも言えない気持ちになる。

サトコ
「来ちゃいました···」
「加賀さん、私」

口を開いた途端、サトコの頬に涙が伝い落ちる。

サトコ
「嘘つくつもりなんて、なかったんです···本当にごめんなさい」
「加賀さんと別れたくない···別れたくないです」

加賀
······

(···誰が、テメェを手放すなんて言った)
(テメェは一生、俺の駄犬だろうが)

サトコ
「もう絶対、嘘なんてつきません」
「だから、加賀さん···っ」

加賀
······
クズが···

こぼれたのは、いつもの言葉。
だがそれを聞いた瞬間、サトコの目から再び大粒の涙が零れ落ちた。

(···テメェは、俺の女だろうが)
(すぐバレるような、くだらねぇ嘘つきやがって···)

サトコの涙に思い出すのは、あの日のこと―――



【寮 入口】

寮監だったその日、歩と交代して車に乗り込む。
が、ふらりと寮から出て来た佐々木を見つけて、車を降りた。

加賀
おい

鳴子
「はい···?あ、加賀教官···」

加賀
どうした?

ぼんやりとこちらを見上げる佐々木は、明らかに普段の様子と違う。

(いつもはサトコとうるせぇくらい騒いでるくせに)
(風邪か···仕方ねぇ)

加賀
乗れ

鳴子
「え?」

加賀
病院に行くんだろ。連れてってやる

鳴子
「いいんですか···?すみません」

佐々木を乗せて、その足で病院を目指した。

【車内】

病院で、佐々木はインフルエンザの診断を受けた。
寮に送り届けると、車に乗り込んでひと息つく。

(一応、あいつにも連絡しておくか)

何度かサトコに電話したが、呼び出し音が途切れることがない。

加賀
チッ···何やってんだ、駄犬が

今日はこのあと仕事もないので、サトコを部屋に呼ぼうと思っていた。

(が···この時間でつながらねぇなら、今日は無理だな)

すでに昼を過ぎているので、そのまま家に帰ることにした。


【リビング】

家に帰ってしばらくすると、サトコから着信があった。

サトコ
『加賀さん!遅くなってすみません!』

加賀
今どこだ

サトコ
『帰ってる途中です。加賀さん、お仕事は···』

加賀
もう済んだ

途端に、サトコの声に焦りが含まれる。

サトコ
『す、すみません···!さっきまで千葉さんと遊園地で遊んでて』
『電話に気付けなくて···あ、今度お土産持っていきますね』

加賀
千葉と···?

あの人の好さそうな顔が頭に浮かんだ瞬間、普段なら聞かないようなことを口にしていた。

加賀
二人で行ったのか

サトコ
『あ···』
『い、いえ···鳴子も一緒でした!』

そんなはずがないことは、自分が一番よくわかっている。
佐々木なら今頃、部屋で寝込んでいるだろう。

(なんで嘘をつく···?隠しておきたいことでもあんのか)
(まさか、千葉と···)

サトコが千葉が意識していないことは、分かっている。
それに、本当に遊園地に行っただけで別に何もなかっただろうことも。

(だが···千葉は違う)

サトコ
『加賀さん···?』

加賀
いや···わかった

余計なことを言う前に、電話を切った。

(こんなことが、前にもあったな···)

あれは、サトコが昔付き合っていた男が現れた時だ。
あのときも、くだらない感情に振り回された。

(あんなことは、二度とごめんだ)
(···少し、距離置くか)

まずは、冷静にならなければならない。
週明けからの出張にサトコを連れて行こうと思ったが、別の補佐官のほうがいいかもしれない。

(どうせ、もともとは佐々木も一緒だったとかなんだろうが)
(それでも、他の男と遊びに行くなんざ···)

無防備にもほどがある。
ため息をつき、気持ちを落ち着かせるためシャワーを浴びることにした。


【マンション前】

サトコ
「ごめんなさい···嘘なんてついて」
「私···加賀さんと、別れたくないです」

加賀
······

ぼろぼろと涙をこぼして泣きじゃくるサトコを、抱きしめる。
そしてその瞬間、気付いた。

(···同じ失敗は繰り返さねぇ)
(そう思って、こいつと距離を置いたつもりだったが)

あのときから、自分は何も変わっていない。

(自分勝手に距離置いて、泣かせて)
(冷静になるつもりが···このザマだ)

サトコ
「加賀さん···加賀さん」

加賀
······

(···こいつのほうが、よっぽど)
(普段は、こんな行動力もねぇくせに···)

雨と雪に当たったせいか、サトコのコートは氷のように冷たい。
すぐに手を引いて、マンションの中へ入った。

【リビング】

サトコを先にシャワーへ行かせてから、コートを脱いで着替えた。

(···この寒い中、何時間待ってたんだ)

加賀
···クソッ

こみ上げてくるのは、今まで感じたことのない気持ちだ。
雪の中を所在なさげに待つサトコの姿が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。

(クズが···連絡でもすりゃいいものを)
(···いや、クズは俺か)

サトコ
「加賀さん···あの、お先にシャワーありがとうございました」

シャワーから戻ったサトコにひとつうなずき、入れ替わるようにして風呂へ向かう。

(···いったん、落ち着くか)

そうでなければ、このまま加減もせずサトコを抱いてしまいそうだ。
後にも先にも、こんな情けない自分は初めてだった。

サトコ
「いつものが、いいです···」

そう言われた瞬間、何もかも忘れてサトコを抱きしめ唇を奪っていた。

サトコ
「ぁっ···―――――」

(鈍感も無防備も、大概にしろ)
(テメェのその顔を、他の男に見せるつもりはねぇ)

加賀
激しいのがお好みだろ

サトコ
「そんなこと、ひ、一言も···!」

サトコの反論をキスで封じ込め、ソファに押し倒す。

(···何が、加減できるように気持ちを落ち着かせる、だ)
(結局、こいつはいつもこうやって···)

サトコ
「ひょ、ごさ···っ」

加賀
······

切羽詰まったようなサトコの声を聞きながら、揺さぶって奥を求める。
結局手加減などできないまま、25日の夜は更けていった。

【玄関】

翌朝、出張の報告をしに家を出る俺を、サトコが見送りに出て来た。
ニヤける顔面にアイアンクローを食らわせると、サトコが嬉しそうに笑う。

(···さすがマゾだな)

その姿に少し満足する俺に、サトコが不意打ちのようなキスをした。

加賀
······

サトコ
「い、いってらっしゃい···」

加賀
···チッ

(余計なことしやがって···出かけたくなるだろうが)
(···そういや、昨日はクリスマスだったな)

加賀
帰ったら、クリスマスのやり直しだ

サトコ
「私も、加賀さんにお土産があるんです」
「じゃあ、クリスマスの準備して待ってますね」

頬を染めるサトコの腰を引き寄せて、耳たぶを食む。

サトコ
「ひゃっ」

加賀
いい子で待ってろ

サトコ
「···はい」

肩をすくめて笑うサトコに見送られ、家を出る。
昨日の夜から降り続けてうっすらと積もった雪を踏みしめ、車に向かった。

Happy End



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