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あ、クリスマスは愛のため中止です 颯馬1話



【教会】

クリスマスの夕刻――

神父
「貴方は、新婦を生涯愛することを誓いますか?」

新郎
「はい、誓います」

ステンドグラスから差し込む柔らかな夕陽に包まれた教会。
愛を誓い合う2人のシルエットが、静かにゆっくりと重なった···



【教官室】

1ヶ月前の11月のある日――

サトコ
「総理の護衛、ですか?」

颯馬
正確には護衛のための下調べと言ったところです

千葉さんと鳴子と共に教官室に呼ばれ、颯馬さんから新たな任務が言い渡された。

千葉
「ですが、総理の護衛は警視庁警備部が担当する案件なのでは?」

颯馬
確かに通常ではそうですね

鳴子
「どうして私たちにその話が来たんでしょうか?」

颯馬
今回は、警察庁管轄の公安学校がどのように運営されているか···
またその運営は意味があるものなのかを確認する目的があるようです

サトコ
「つまり、公安学校の存在意義を問うために下りてきた案件···ということですか?」

颯馬
そうなりますね

(公安学校の意義を問う、か···)

<選択してください>

 やる気が湧く 

サトコ
「しっかりと務め上げます!」

颯馬
どんな任務もしっかり努めてもらわなければ困りますが

サトコ
「そ、それはもちろんですけど」

 怖気づく 

サトコ
「そんな重要な任務を私たちが···」

颯馬
肩の荷が重いですか?

サトコ
「いえ···そういうわけでは···」

 緊張する 

サトコ
「それは責任重大な任務ですね···」

颯馬
その任務の担当にあなた方は選ばれたのです

サトコ
「もちろん光栄に思っています。でもやはり緊張もします···」

颯馬
日頃の成果を見せる時ですよ?

サトコ
「···はい」

(颯馬さんの言う通りだ、頑張ろう!)

颯馬
来月25日、総理のご親族が結婚されます
あなた方には、当日の式場までの安全経路の確保とルートの特定をお願いします

鳴子
「来月の25日って、クリスマスですね」

千葉
「ただでさえ混乱が生じやすいな···」

サトコ
「そのための下調べということですね」

颯馬
その通りです。では後程資料を渡しますので、よろしく頼みましたよ

一同
「はい!」


【食堂】

昼休み――
食堂で鳴子たちと先ほどの任務について話す。

鳴子
「下調べとはいえ、総理の護衛を任されるなんてびっくりだね」

サトコ
「しかも公安学校の存在意義を問うためだなんてね···」

千葉
「でもそれって、対外的にそう言ってるだけかもよ?」

サトコ
「どういうこと?」

千葉
「話がちょっと急すぎると思ってさ」

鳴子
「私も思った。総理のご親族の結婚なら、もっと前からわかってただろうし」

サトコ
「こんな急に安全経路の確保なんて、普通ないよね」

鳴子
「結婚自体が急に決まったとか···?」

千葉
「あり得るな。それで激務の警視庁公安から急案件として下りてきたのかも」

??
「余計な詮索は無用です」

(この声···!)

鳴子
「そ、颯馬教官!」

千葉
「お、お疲れさまです!」

3人で一斉に振り向くと、案の定、颯馬さんが微笑んでいた。

颯馬
皆さんに紹介したい方々をお連れしました
こちら警視庁警備部警護課の、広末そらさんと藤咲瑞貴さんです

そら
「どうも~」

瑞貴
「お疲れさまです」

(藤咲瑞貴って···あの元アイドルの!?)

驚く私に鳴子がそっと耳打ちしてくる。

鳴子
「ね、ねえサトコ、藤咲さんってあの藤咲瑞貴···だよね?」

サトコ
「うん、そうみたい···」

突然の元アイドルの登場に、私たちはもちろん、食堂全体がざわついている。

颯馬
今回の総理の警備にあたるSPの方はこの方たちです

(そうなの!?)

そら
「改めまして、広末そらです。よろしくね」

瑞貴
「藤咲瑞貴です」

千葉
「公安学校2年、千葉大輔と申します」

鳴子
「佐々木鳴子です」

サトコ
「氷川サトコです。よろしくお願いします!」

瑞貴
「こちらこそ、よろしくね」

(うわ、その笑顔···!さすが元アイドル)
(というか私、すごいファンだったんだよね···!サインとか、やっぱダメかな···)

ついそわそわして藤咲さんのことを見てしまうと、ふと視線を感じた。

颯馬
どうかしましたか?氷川さん

サトコ
「い、いえ···」

視線の主の柔らかな微笑みに、ドキッと心臓が跳ね上がる。

(浮かれた心を見抜かれた···?)

そら
「今回は急な話で驚いたでしょ?」

瑞貴
「一緒に総理を守るべく頑張りましょう」

鳴子
「はい···!」

千葉
「精一杯務めさせていただきます」

(なんか信じられないな···まさかあの藤咲瑞貴と仕事で関われるなんて)

しかし、こういった警視庁案件が警察庁に下りてくるのは異例中の異例のこと。
しかも今回は公安学校の意義を問うための試練でもある。

(···浮ついた気持ちでいちゃダメだ)

ミーハーな心を自制し、気持ちを引き締め直す。

そら
「じゃあ、安全を確保できる最適な経路の考え、よろしくね」

瑞貴
「何かあればいつでも相談してください」

サトコ
「はい、ありがとうございます」

颯馬
では、期待していますよ

広末さんと藤咲さんを連れて、颯馬さんは去って行った。

千葉
「本当に警視庁と仕事することになるんだな···」

サトコ
「うん···なんか、緊張したね」

鳴子
「ドキドキもした···」

千葉
「ああ、なんたって総理の護衛だからなぁ」

鳴子
「それももちろんだけど···」
「なんたって藤咲瑞貴がイケメンすぎる···!」

サトコ
「うん···!」

鳴子につられ、つい力が入ってしまった。

千葉
「ドキドキってそっちか···」

サトコ
「ご、ごめん。でももちろん任務のことはしっかり考えるから」

千葉
「じゃなきゃ困るよ」

鳴子
「大丈夫、3人で頑張ろう!」

サトコ
「公安学校の存在意義を証明すべく!」

3人で力強くうなずき合った。


【廊下】

鳴子たちと別れて廊下を歩いていると、再び颯馬さんと会った。

サトコ
「お疲れさまです。SPのお二人は···」

颯馬
今別れたところです

サトコ
「そうですか。お二人をご紹介いただき、より身が引き締まる思いです」

颯馬
それは何よりですが···

颯馬さんは何か言いたげな様子で私を見下ろす。

(···颯馬さん?)

颯馬
それにしても、食堂は随分と賑やかでしたね

サトコ
「ああ、それは元アイドルの藤咲さんが突然現れたらああなりますよ」

颯馬
ほぉ···では貴女も藤咲くんに興味が?

サトコ
「えっ···」

颯馬
彼に会ってとても感激している様子でしたので

<選択してください>

 否定する 

サトコ
「···そんなことないですよ」

颯馬
私の勘違いでしょうか

 とぼける 

サトコ
「···そうでしたか?」

颯馬
自覚なしですか

 認める 

サトコ
「昔ちょっとファンだったので···」

颯馬
それは初耳でした

颯馬さんはわずかに顔を近づけ、ふっと意地悪く微笑む。

(うっ···颯馬さんの微笑みが、く、黒い···)

サトコ
「あくまでアイドル時代の話で···ファン心理と恋愛感情は全く別物ですから!」

颯馬
···なるほど

微笑んだままスッと顔を離すと、颯馬さんはそのまま行ってしまった。

(ふぅ···焦った···)

ドキドキする鼓動を感じながら、去っていく背中を見送った。


【資料室】

数日後――

サトコ
「当日、新幹線に乗るまでの経路はこれでよさそうだね」

あれから連日、鳴子たちと一緒に課せられた任務に挑んでいる。

千葉
「問題はその先の、現地の駅到着後の移動だな」

鳴子
「小さな地方の街だし、なるべく目立たないようなルートを考えないと」

目的地は地方都市の山間部にある小さな教会。
市街地の地図を広げ、3人で意見をぶつけ合う。

千葉
「人目を避けるためには、駅からこの道へ入るルートはどうかな?」

鳴子
「うーん、国道へ出る裏道にはなってるみたいだけど、ちょっと狭くない?」

サトコ
「住宅地の路地みたいな道路っぽいね」

千葉
「そんな道を黒塗りの車が何台も通ったら、かえって目立つか」

サトコ
「いっそ堂々と駅前の大通りを抜けていくべきかも···」

颯馬
私もその意見に賛成です

鳴子
「颯馬教官!」

颯馬
順調に進んでいますか?

千葉
「試行錯誤しながら、なんとか考えています」

(颯馬さん、心配して様子を見に来てくれたんだな···)

これまでに考えたルート案のいくつかを颯馬さんに見てもらう。

颯馬
なかなか細かい部分まで練られているようですね

鳴子
「ですが、悩むことばかりで···」

颯馬
ここですが···
先程サトコさんが言っていたように、駅前の大通りを行くのがベストに思います

(よかった···!颯馬さんにそう言ってもらえると心強い)

颯馬
ただし、一番混雑する通りですから
通貨時間帯の交通量データのチェックもお忘れなく

千葉
「そっか···そうですよね」

サトコ
「ありがとうございます!」

颯馬
では、私はこれで

さりげなくアドバイスを残し、颯馬さんは出て行った。



【教官室】

12月に入って間もなく、完成したルート案をSPの方たちに見てもらうことになった。

そら
「えっと、現地の駅からのルートがこれかな?」

サトコ
「はい。道幅などの道路状況」
「および狙撃犯が身を隠し難い周辺立地等を考慮して編み出したものです」

瑞貴
「かなり詳細な情報が組み込まれていますね。まるで現地を視察してきたみたいです」

そら
「でも、ここは何でこの道?こっちの方が速くない?」

千葉
「交通量のデータ解析から、この道は回避したほうが良いと判断しました」

そら
「なるほどね、それでこっちの道からか」

瑞貴
「班長、どうでしょうか?」

藤咲さんが、SPの班長である桂木さんに確認を促した。

桂木
「うむ···」

“鬼軍曹” と呼ばれる桂木さんが、資料を見ながら眉間にしわを寄せる。
颯馬さんもその様子を見つめている。

(大丈夫かな···ベストな経路だとは思うんだけど···)

颯馬
いかがですか?桂木さん

桂木
「少々複雑すぎる感はあるが、概ねこれで問題なさそうですね」

(よかった···!)

思った瞬間、颯馬さんがみんなにわからないよう、そっと頷いてくれた。

(颯馬さんが見守ってくれていたおかげです)

こっそり交わすアイコンタクトに少しドキドキしながら感謝する。

桂木
「あとは我々警護班が調整しよう。そら、瑞貴、いいな」

そら・瑞貴
「はい」

颯馬
お手間を取らせてしまいますが、よろしくお願いします

桂木
「いや、正直訓練生にここまでよく練られたルート案ができるとは思ってなかった」
「感心しているよ」

颯馬
では、感心ついでにというのも何ですが
この者たち3名も当日の護衛に参加させてはどうでしょうか?

(えっ!私たちも護衛に!?)

思わず鳴子と顔を見合わせた。

颯馬
彼らは現地の情報を緻密に集め、熟知しております
何かあった際にはお役に立てるかと···

桂木
「なるほど、確かに頼もしい存在ではあるな」

そら
「オレたちとしても助かるかも!」

瑞貴
「はい、皆さんがいてくれたら心強いです」

桂木
「うむ···いいだろう。では当日も我々のサポートをお願いしよう」

サトコ・千葉・鳴子
「は、はい!」

そら
「訓練生さんたち、当日もよろしくね!」

瑞貴
「頼りにしてますから」

(藤咲さんと一緒の現場につけるんだ···)
(それに、颯馬さんとも···)

颯馬
頑張ってくださいね、公安学校の名に懸けて···

思わずはしゃぐ私の心を戒めるかのように、颯馬さんの声が低く静かな声が響いた···

to be continued



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