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あ、クリスマスは愛のため中止です 颯馬2話



【新幹線】

任務当日の12月25日――
颯馬さんの提案でSPの方たちと一緒に総理の護衛に加わった。

(颯馬さんの方も順調かな?)

颯馬さんも同行しているが、配置されている場所は別だ。
姿は見えなくとも、同じ任務につけることに喜びも感じる。

(でも今はともかく、総理を無事に目的地に送り届けることだけを考えよう)

千葉
「ここまでの道のりは順調だな」

サトコ
「うん。このまま計画通りに行くといいね」

そら
「どうやらそうはいかないようだけど」

サトコ
「え?」

VIP車両の扉前に立つ広末さんが、携帯を見つめて眉をひそめた。

鳴子
「何かあったんですか?」

そら
「新幹線車内で総理を見つけたっていうツイートが拡散されてるってさ」

サトコ
「まずいですね···もうすぐ駅に到着します」

瑞貴
「このままだと総理が降りる駅も把握されてしまうな···」

そうこうするうちに間もなくアナウンスが流れる。

そら
「仕方ない、いったん例のホテルに入ろっか」

瑞貴
「すぐ手配します」

そら
「そっちも各方面への連絡よろしくね!」

サトコ
「はい!」

非常時用の緊急回避ルートへ変更され、その旨をインカムで颯馬さんに伝える。

サトコ
「以上のことから、降車後は駅から直結のホテルへ向かいます」

颯馬
了解です。総理に伝えます

サトコ
「お願いします」

颯馬
緊急時の対応もスムーズに出来てるようですね

サトコ
「事前にいくつかのパターンを考えていたので」

颯馬
その調子で続けてください

サトコ
「···はい!」

インカムから聞こえる颯馬さんの声に、とても励まされた。

そら
「うわぁ、人が押し寄せて来ちゃってるよ···」

ホテルの窓から外を見た広末さんが、怪訝な顔をして呟いた。
なんとかトラブルなくホテルへ入ったものの、総理の来訪の噂は一気に広まってしまった。

千葉
「すごいな···国旗振って総理を歓迎してますね」

そら
「顔写真入りのうちわ振ってる人もいるし···」

鳴子
「平泉総理の人気は本当にすごいですよね」

瑞貴
「この光景、なんかちょっと懐かしいかも」

(わぁ、もしかして藤咲さん、アイドル時代を思い出してるのかな?)
(なんて浮ついてる場合じゃない···)

圧倒的な支持率を誇る総理が突然現れ、小さな街はちょっとした混乱に陥っている。
事態の打開策を何か考えなければならない。

そら
「この様子じゃ暫くここから動けそうにないね」

鳴子
「このままホテルに缶詰めってことですか?」

瑞貴
「そういうわけにもいかないですよねぇ」

サトコ
「結婚式まであと2時間です···なんとかしないと···」

コンコン

颯馬
失礼します

(颯馬さん!)

頼りになる存在の登場に、思わず駆け寄りたくなる気持ちをぐっと抑える。

サトコ
「お疲れさまです。総理のご様子はいかがですか?」

颯馬
事態を案じながらも落ち着いておられます

そら
「総理も数々の難関を突破してる人だからね」

颯馬
とにかく我々は、早急にホテルからの脱出ルートを考えましょう

サトコ
「はい。でも外があの様子ですし、どうやって人目を避けたらいいのか···」

颯馬
状況把握のため外へ出てみましょう。氷川さん、同行してください

(え···)

<選択してください>

 従う 

サトコ
「はい、分かりました」

颯馬
周辺地図も忘れないように

突然の指名に一瞬ドキッとするも冷静に答えると、颯馬さんも冷静に指示をくれる。

 迷う 

(2人だけで出て行くのはまずくない?大丈夫かな···?)

颯馬
どうしました?行きますよ

サトコ
「は、はい···!」

突然の名指しに焦る私に対し、颯馬さんは冷静な態度を崩さない。

 他の人へ譲る 

サトコ
「私よりSPの方が直接目視する必要はありませんか?」

そら
「別にその必要はないから行ってきてよ」

サトコ
「そうですか、じゃあ」

颯馬
では、行きましょう

サトコ
「はい」

鳴子たちに後を任せ、颯馬さんと共に控室を出た。



【ホテル外】

サトコ
「うわ、本当にすごい人ですね···」

外へ出ると、予想以上の人であふれかえっていた。

颯馬
この状況で総理を外にお連れするのは至難の業です

サトコ
「時間も迫って来ていますし、早くいい策を考えないと···」

颯馬
このまま通りまで出てみましょう

打開策を考えながら、2人とも言葉少なにホテル前の通りを歩く。
その時、ふと通り沿いの本屋に目が行った。

(ん?男の娘···?)

とある雑誌の表紙に目が留まり、ピンと閃く。

サトコ
「颯馬さん、私いい案を思いつきました!」

颯馬
···いい案?

【ホテル部屋】

千葉
「そ、総理に女装させるって!?」

鳴子
「サトコ、本気で言ってるの!?」

サトコ
「うん。この雑誌を見てピンときたの」

ホテルに戻った私は、総理の女装案を皆に提案した。

颯馬
なるほど、そういうことでしか

サトコ
「どうでしょうか?」

そら
「まあ、変装はスタンダードな方法ではあるけどねぇ」

瑞貴
「アイドルでも変装は定番中の定番ですね」

千葉
「でも総理大臣だよ?変装ならせめて何かの業者に扮するとか···」

鳴子
「女装はさすがにねぇ···」

颯馬
カギはそこですね

鳴子
「え?」

颯馬
総理が女装なんてさすがにあり得ない···多くの人が思うその部分を裏切る発想です

サトコ
「はい!敢えての女装です。もし総理さえこの提案に抵抗がなければですが···」

颯馬
総理のご意向を確認してからにはなりますが、彼女の案が無難と思います
女装がお得意な方もいることですし

颯馬さんはちらりと隣にいる広末さんを見た。

そら
「別に得意じゃないし···てかまた女装かよ!いや、やるけどさ、やればいいんでしょ!」

サトコ
「それと、移動の車種も一般の乗用車にしてはどうでしょうか?」

鳴子
「確かに、黒塗りの車に女装した総理を乗せたら余計に目立っちゃうね」

サトコ
「そうでしょ?なので女性が好みそうな軽自動車にするとか」

瑞貴
「それいいと思います」

サトコ
「ありがとうございます!」

千葉
「早速車の手配をしよう」

颯馬
では、運転は女装した広末さんがお願いします

そら
「オッケー」

颯馬
それから氷川さん、念のため貴女も総理と同乗してください

サトコ
「わかりました」

瑞貴
「氷川さん、頑張ってください」

サトコ
「は、はい···」

颯馬
時間がありません。すぐに準備に取り掛かってください

一同
「はい!」

(どうかうまくいきますように···!)


【車内】

そら
「じゃ、行きますよ」

女装した末広さんが運転する軽自動車が、ホテルの地下駐車場から出ていく。
後部座席には同じく女装した総理がうつむき加減で座っている。

(総理にこんな恰好させてしまって申し訳ないけど···快諾してくださってよかった)

ホテル周辺に集まる人たちは、社内の総理に気付く様子はない。
総理どころか、よくある軽自動車1台に目を留める人さえいないようだ。

サトコ
「こちら氷川、総理を乗せた軽車両、問題なくホテルより脱出しました」

颯馬
了解です。貴女の案のおかげですね

インカムで伝えた報告に、颯馬さんは優しい声で言ってくれた。

(なんとか間に合ってよかった)

無事に教会に総理を送り届け、ご親族のサンセットウェディングの挙式に間に合った。
総理はとても感謝してくれ、同時にとても嬉しそうだった。

(それにしても綺麗だなぁ···)

夕焼けに染まるロッジ型の教会は、映画の1シーンのように美しい。

(そういえば今日、クリスマスだったっけ···)
(颯馬さんは今どこだろう?一緒に見たかったな···)

クリスマスにぴったりな美しい教会を見つめながら、ふと思う。

(仕事だから仕方ないけど、ゆっくり話す時間なんてなかったもんね)

気持ちを切り替えつつ、車に戻ろうとしたその時、突然誰かに腕を掴まれた。

サトコ
「っ!!」

颯馬
私です

(えっ?)

反射的に手を振りほどこうとした私の耳元で、優しい颯馬さんの声がした。
振り返ると、颯馬さんは穏やかに微笑んで言う。

颯馬
おいで

(···?)

手を引かれるまま黙ってついて行くと···


【教会】

(わぁ···)

颯馬さんは私を連れ、こっそりとチャペルの中に忍び込んだ。
ステンドグラスから射し込む柔らかな夕陽が、新郎新婦を温かく包み込んでいる。

(綺麗だなぁ···総理もすごく嬉しそう)

参列する総理の表情を見て、改めて無事に到着できたことに安堵する。

(でもどうして颯馬さんはここに?総理の護衛はまだ続いてるってことかな···)

不思議に思いながらも、厳かな挙式の様子に目を奪われる。

(本当に素敵······)

神父
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も···」

神父が誓いの言葉の一節を読み始めると、つないでいた手にそっと力が込められた。

(颯馬さん?)

見ると、颯馬さんが真っ直ぐに私を見つめている。

神父
「貴方は、新婦を生涯愛することを誓いますか?」

颯馬
···はい、誓います

(え···)

小さく囁かれた言葉にドキドキしていると、神父が続けて新婦に誓いを促す。

神父
「貴女は、新郎を生涯愛することを誓いますか?」

颯馬
······

サトコ
「は···んっ」

『はい』と答える間もなく、颯馬さんの唇が私の唇を塞いでしまった。

(まだ答えてないのに···)

チャペル内に、オルガンの音と讃美歌が響き始める。
目を閉じると、まるで自分たちの結婚式のような気分になってくる。

(今日は同じ現場にいられるだけでもよかったのに)
(まさかこんな形で颯馬さんとクリスマスを過ごせるなんて···)

思いがけないプレゼントを貰ったようで、ドキドキと鼓動が高鳴ってしまう。

(私も、颯馬さんを愛することを誓います···)

優しいキスに飲み込まれてしまった言葉を、私はそっと心のなかで唱えた。


【ホテル】

全てを終えてホテルに戻ると、もう総理の姿はなかった。

颯馬
SPのお二人と共に無事東京へ戻られたそうです

サトコ
「そうですか···それはよかったです」

(もう帰っちゃったんだ···やっぱりサイン貰っておけば···)
(いやいや仕事だし、もう藤咲さんもアイドルじゃないんだから···!)

颯馬
どうかしましたか?

サトコ
「いえ···さてと、鳴子たちと後片付けをしないと!」

誤魔化すように言うと、颯馬さんはトンと壁に手をついて私の行く手を阻んだ。

颯馬
彼らも総理と共に帰られましたよ?

サトコ
「えっ!?」

颯馬
帰りのルートも同行してほしいとの要請がありましたので

サトコ
「そうだったんですか。それなら私たちがこちらの後処理担当ということですね」

颯馬
ええ。つまり、今夜はホテルで2人きり···ということです

サトコ
「···!」

颯馬
そんなに嬉しいですか?

<選択してください>

 嬉しい 

サトコ
「は、はい···嬉しいです···」

颯馬
ふふ、素直でなによりです

 驚いた 

サトコ
「なんか、びっくりしてしまって···」

颯馬
報告が遅れてすみません

 信じられない 

サトコ
「こ、これは何かの罠ですか···?」

颯馬
信じられない様子ですね

サトコ
「まさか今夜、颯馬さんと2人きりになれるなんて思ってもみませんでした···」

颯馬
クリスマスの奇跡でしょうか

柔らかに微笑むと、颯馬さんはそのままそっと優しく唇を重ねてくる。

(颯馬さん···)

ふわりと包まれるようなキスに、静かに目を閉じた。

(チャペルでの秘密のキスだけでも十分なのに···)

そっと交わしたキスは、どんどん深くなっていく。
グッと抱き寄せられ、近くのソファへいざなわれる。
そのままそっと押し倒され、キスが首筋に落ちる。

サトコ
「んっ···」

颯馬
その可愛い顔、やっぱり他の誰にも見せて欲しくないな···

サトコ
「え···?」

颯馬
独り言です。気にしないでください
それよりこれを。私からのクリスマスプレゼントです

颯馬さんは何やら四角いボードのような物を差し出した。

(···これって!)

颯馬
そうやって喜ぶ顔も、俺にだけ見せて

サトコ
「んっ···!」

意外なプレゼントにお礼を言う間も奪われた私は、
クリスマスの夜の甘すぎるキスに酔いしれた。

Happy End



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