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あ、クリスマスは愛のため中止です 後藤2話



【パーティー会場】

警察庁の上役たちも呼んだ公安学校のクリスマスパーティー
呼びかけ人の黒澤さんは、楽しそうに視界のマイクを握っていた。

黒澤
次は皆さんお楽しみ···
デラックスでファビュラスでワンダフルな、クリスマスビンゴコーナーです!

石神
黒澤が言うと不吉な予感しかしないな

後藤
同感です
氷川、プレゼントは誰が用意したか分かるか

サトコ
「それがプレゼント選びだけは、黒澤さんが『自分がやる』ってお1人で···」

加賀
チッ。ちゃっかり美味しいところだけ持っていきやがって

難波
加賀にやらせたら面白かっただろうなあ。ま、その場合長官たちには渡せなかったが

石神
加賀セレクトの景品ですか。下手したら始末書ものでしょうね

加賀
少しは遊ばせろ。普通にやってもつまんねーだろうが

東雲
透セレクトでも大して変わらないんじゃないですか
余計なトラブルが起きないといいですけどね

颯馬
どうでしょうね。ああ見えて、己の保身には怠りないタイプですから

サトコ
「あ、そういえば······」

難波
何だ、言ってみろ

サトコ
「いえ···買い出しから帰った時の黒澤さん、すごく楽しそうだったので···」

東雲
うわ。やっぱりロクな物じゃなさそう···

けれど私たちの予想はやや外れた。
番号の抽選を何度か繰り返した後···

黒澤
次の番号は···12番、12番です!

警察庁長官
「おや···ビンゴ!」

黒澤
あっ、長官!おめでとうございます、記念すべき1等は長官です!
皆さん、盛大な拍手をー!!

ワッと拍手が起き、長官が鷹揚に皆に手を振った。

警察庁長官
「皆、トップが抜け駆けして悪いな。だが、ありがとう」

黒澤
景品はコチラ、外出先でも服のシミ抜きがその場で落とせるミニ洗浄マシンです!

一同
「······」

東雲
何ソレ。普通に欲しいんだけど

加賀
いらねぇ

後藤
まあ···俺たちには縁遠いでしょうね

サトコ
「確かにビンゴにしてはゴージャスですね。私も欲しいです」

難波
アイツも空気読んだってことだろ、よしよし

その後もお偉方と教官の何人かが、ミニ家電や商品券などの景品をゲットした。

(ホント、意外と普通···しかも豪華)

黒澤
ハイ、次行きますよー

カラカラと音を立てて、番号の書かれたボールが転がる。

黒澤
次の番号は···10番、10番です!ビンゴになった人いますかー?

後藤
···ビンゴ

サトコ
「えっ」

黒澤
後藤さん!おめでとうございます
皆さんの人気者、後藤教官がビンゴです!皆さん盛大な拍手をー!

カードをかざす後藤さんに気付いて、黒澤さんが盛り上げる。
生徒たちの拍手を浴びながら、後藤さんは照れ臭そうにステージに上がった。

黒澤
5等の商品はコチラ!クリスマスにぴったりのシャンパンです

後藤
悪いな

まんざらでもない顔で受け取った後藤さんが戻ってきて、一瞬目が合う。
その口元が微かに緩んだ。

(一緒に飲もう···ってことかな?嬉しいなぁ)

鳴子
「確かにいい景品が揃ってるけど、生徒は全然だね···」

千葉
「まさか···カードの配布と番号の抽選で、当選者をコントロールしてるとか?」

サトコ
「うーん···でも、黒澤さんがそこまでする理由ある?」

私たちの囁きなど露知らず、黒澤さんは朗らかに呼びかける。

黒澤
まだまだ豪華景品ありますから!諦めないで最後まで付いてきてくださいねー

鳴子
「···だって。ま、期待しない程度に期待しよ」

サトコ
「アハハ、そうだね」

黒澤
次は···34番、34番です!!

(34···と)

何気なく手元のカードを確かめる。

サトコ
「···あれ?」

後藤
どうした

サトコ
「···ビンゴ!やった、ビンゴです!」

鳴子
「えっ、ウソ!やったねサトコ!!」

黒澤
あっ、サトコさん!ビンゴですか?
生徒1番乗りですね~。景品はコチラ、ドキドキお楽しみ袋です!

サトコ
「ありがとうございます!」

黒澤
おめでとうございます!皆さん、氷川サトコさんに大きな拍手をー!

商品を受け取ってステージから下がる。
その時黒澤さんがニヤリと笑っていたことなど、私は知る由もなく···

(お楽しみ袋かぁ)
(随分軽いみたいだけど、何が入ってるのかな?)

ウキウキと包装を開けようとした時、隣に立った後藤さんがこっそり囁いてきた。

後藤
···そろそろ抜けよう

サトコ
「あ、はい!」

開けかけの商品を元に戻し、
私は後藤さんと前後して会場を抜け出したのだった。


【後藤マンション】

途中で買ってきたごちそうとケーキ、それにビンゴでもらったシャンパンを並べ、
ささやかなクリスマスパーティーが始まった。

後藤
悪いな。せっかくのクリスマスが安っぽくて···

サトコ
「えっ···そんな、全然です!」
「一緒にごちそうやケーキを選ぶのも楽しかったですし」
「後藤さんといれば、私にとっては何だって特別です」

後藤
···ああ。俺も、アンタといれば···

語尾が優しく響き、ふと途中で途切れる。
視線で引き寄せ合って、ゆっくりと触れるだけのキスを交わす。

後藤
少し早いけど···メリークリスマス

サトコ
「···はい···メリークリスマス」

小さく笑い合ってから、改めてシャンパンで乾杯する。
前菜もローストチキンもシャンパンも、しみじみとおいしかった。

後藤
このサラダ、美味しいな

サトコ
「こっちのスパニッシュオムレツもシャンパンに合いますね···!」

星形のピックに嬉しそうに手を伸ばす後藤さんを見ていると、何だかふわふわとした気持ちになる。
私は半ば夢見心地でグラスを傾けた。

(こうして一緒にクリスマスを祝えるなら、当日じゃなくても十分幸せ···)
(···あっ、そうだ!)

運んできてそのまま忘れていた、ビンゴの景品に手を伸ばす。

(ちょっと軽いけど、中には何が入ってるのかな···)
(何しろ他の皆さんはミニ洗浄機に高級ドライヤー、商品券にシャンパンだもんね···!)

豪華な景品を思い浮かべつつ、はやる気持ちを抑えて包装を解く。
その中から出て来たのは···

(···カチューシャ···しかも猫耳!?)

そして少し···いや、かなり面積の少ない、尻尾のついたコスチューム。

サトコ
「!?」

( “カップルの新しい刺激に!にゃんにゃんコスチューム” ···って何コレ!?)

その瞬間、隣から冷ややかな殺気が流れ出した。
コスチュームに向けた後藤さんの目が一瞬で据わる。

後藤
黒澤············

サトコ
「ひっ」

(ダメ!このままじゃ黒澤さんが殺られちゃう···!)
(えーとえーと···そうだ!)

私は咄嗟に猫耳カチューシャを頭に着けて小首を傾げた。

サトコ
「お、怒んないで、にゃん···」

後藤
······!?

後藤さんの顔からゆっくりと表情が消えていく。
何ともいえない空気が漂った。

(あ、やっぱり外した!?)

申し訳なさと恥ずかしさで縮こまりながら、急いでカチューシャを外そうとした時だった。

後藤
···フ···
···ハハッ!
ハハハ···ハハッ···!

サトコ
「は、はは···」

珍しい全開の笑顔につられて、気付けば私も笑っていた。
後藤さんはそっとカチューシャに触れて小さく笑う。

後藤
これを忘れろと言われても無理だな

優しく目を細めて、後藤さんは私の髪に指先を滑らせた。

後藤
···不思議だな
毎年···いや···アンタとこうして過ごす度、もっとサトコを好きになる

サトコ
「!」

つ···っと指を滑らせ、私の頬を手のひらでくるむ。
困ったように眉根を寄せる後藤さんの頬は、少し赤い。

後藤
このままじゃアンタのことが好きになり過ぎて、そのうちおかしくなりそうだ···

<選択してください>

 どういう意味ですか···? 

サトコ
「それって、どういう意味ですか···?」

後藤
それを説明させるのか?

サトコ
「···」
「してみてください」

後藤
···サトコから見えなくなる
何もかも忘れて、アンタだけを感じたい

 おかしくなってください 

サトコ
「···いいですよ、おかしくなっても」
「お···おかしく、なってください」

後藤
······
今、俺は誘われてるのか?

サトコ
「!?」
「いっ、言いだしたのは後藤さんです!」

後藤
だな

 ダメです 

サトコ
「ダメです···」

後藤
そうか···

サトコ
「あ、そ、そういう意味じゃなくて···」
「そんなの、嬉しくて···私ばっかり喜んじゃうから···」

後藤
······
アンタは···

頬に添えられた手に自分の手を重ねながら、私は小さく笑い返した。

サトコ
「後藤さんの気持ち、すごく嬉しいです」
「だけど···それでもきっと、私の好きにはまだ敵いません」

後藤
···どうだろうな
俺の気持ちも相当なものだ

サトコ
「はい···嬉しいです。でも···やっぱり、私の方が後藤さんを···ん···」

言葉の続きは柔らかな口づけで封じ込まれた。
角度を変えながら急速に深さと熱を帯びていくキスが、私の胸を苦しくさせる。

後藤
···

ふと顔を離した後藤さんが、カチューシャの猫耳を優しくつつく。

後藤
 “子ども” に、こんなキスはダメか···?

サトコ
「え···」

後藤さんの指が猫耳にかかり、するりと撫でる。
酔いで揺れる瞳が私を照れくさそうに見下ろした。

後藤
どうやらアンタは、自分を子どもだと思っているようだからな

私は首を起こして後藤さんに小さく口づけた。

サトコ
「私···後藤さんにはまだまだ追いつけませんし、時々子どもっぽくなっちゃいますけど」
「···それでも一応、大人ですよ」

後藤
···それは···助かる

サトコ
「あ···」

私を抱き寄せて首筋に顔を埋めながら、後藤さんは熱い息を吐く。

後藤
大人でなければできないことを、アンタにしてやれる···

サトコ
「後藤さ···」

私の唇からも小さな吐息が零れた。

【寝室】

ゆっくりとベッドに沈み、くすぐったい気持ちで後藤さんを見上げる。
幸せな時間の続きを紡ごうと、私たちは互いを引き寄せた。

後藤
サトコ···

サトコ
「後藤さん···」

あちこちに落とされるキスを、ふわふわとした気持ちで受ける。
何度目かの唇へのキスのあと、優しく服を奪われた。

後藤
俺がアンタのことをどれほど好きか、責任を持って教えないとな

ひと足早いクリスマスのお祝いをしながら、私たちは肌を重ね···
互いを求める気持ちまで、余すところなく重ねたのだった。

Happy End



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