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あ、クリスマスは愛のため中止です 石神カレ目線



【バス】

(なぜ···なぜ、グーを出したんだ、後藤!)

移動中のバスの中、あの時のジャンケンを再現するようにグッと拳を握った。

(予算の使い道としても不本意だが、それだけじゃない···)

この期間を逃すと、サトコと落ち着いて過ごせる時間はほぼないに等しい。
忌々しいほどに白く輝くゲレンデを見つめ、思わずため息をつく。

(···どうしてもこうも···)

気付けば彼女と過ごす時間を愛おしく思うようになっていた。
愛おしいどころか、何よりも優先したいと思っている自分がいる。

(本当に不思議な存在だ···)

改めて思いながらポケットに手を入れ、そこにある包みをそっと握る。

(これを渡せる機会はあるだろうか···)

いつしかかけがえのない存在となった彼女の笑顔を思い浮かべつつ、窓の外へ視線を戻す。

(奇しくも雪にちなんだ物を買ってしまったが···)

眩しすぎる雪景色を恨めしく眺めているうちに、バスは目的地へと到着した。



【雪道】

サトコ
『···いた!いました!』

吹雪の中、サトコの声が響いた。

石神
「見つかったか···!」

千葉
「そのようです!」

千葉は歓喜した表情で応えると、サトコの方へ向かって叫ぶ。

千葉
「氷川!今行くからそこで待機だ!」

サトコ
「わかった!」

吹雪で数メートル先もよく見えない中、彼女のハッキリとした声が帰ってきた。

(よかった、あの様子なら子どもも無事だな···)

千葉と共に進んでいくと、深い雪の中で子供を抱きしめている彼女の姿がようやく見えた。

(サトコ!よくやった)

千葉
「氷川!こっちへ」

サトコ
「うん」

千葉が手を差し伸べ、サトコは安堵した顔で子どもを彼に預けた。
が、その直後、彼女の身体がぐらりと傾き――

石神
「サトコ!!」

口よりも先に身体が動いたものの、必死に伸ばした手は、虚しく宙を掴んだ。


【小屋】

(ん···ここは···)

心地よい温かさを感じて目を覚ますと、ぼんやりと人影が見えた。

(···サトコ?)

目を凝らすと、おぼろげに見えた輪郭がはっきりとしてくる。

(よかった···無事だったのか···)
(ん···?)

ホッとしたのもつかの間、彼女は突然服を脱ぎ始める。

(なっ···何をしている!)

開けたばかりの目を思わず閉じた。
何が起きているのか分からず、ドキドキと鼓動が騒ぎ出す。

(もしや···裸になって俺を温める気か···?)

再び目を開けた俺は、セーターを脱ごうとする彼女の手を掴んだ。

石神
「···待て。意識はある」

サトコ
「石神さん!!」

石神
「早まるな···そういうことは、きちんと状況を判断してから行え」

彼女が脱いだ服を押し付けるようにして言う。

石神
「いきなり服を脱ぐ奴があるか、まずは意識レベルの確認からだろう」

(昼間の教えに沿った行動のつもりだろうが、肝心なところがズレている···)

石神
「緊急時こそ、冷静な判断を心がけろ」

サトコ
「···すみません」

(サトコ···?)

か細く呟いた彼女の瞳に、今にも溢れそうなほどの涙が浮かんでいる。
その顔は、泣き笑いのように崩れていく。

(叱られたことよりも、安堵の気持ちの方が大きいのか···)

石神
「···まったく」

呆れるほどにいじらしく、思わずその身体を抱き寄せた。

石神
「ありがとう、助かった」

サトコ
「よかった···無事でよかったです···本当に···」

抱きしめる腕に力を込めると、彼女は堪えきれないとばかりに涙を溢れさせる。

(叱るよりも先に言わなければいけない言葉だった···)

涙を指で拭ってやると、その手を優しく両手で包まれた。

サトコ
「はぁ~っ」

(サトコ···)

冷えた俺の手を温めようと、彼女は何度も息を吹きかける。
一生懸命で真っ直ぐなその姿に、俺は虚を突かれたように魅せられる。
そんな俺の視線に気付いたのか、彼女はハッとしたように顔を上げた。

(本当にお前って女は···)

サトコ
「すみま···っ!?」

言葉にできない感情は制御不能となり、気付いたら彼女の唇を塞いでいた。

石神
「あ、いや···その···」

サトコ
「え···」

石神
「い、今のはお前が悪い」

無理矢理自分を正当化しようとする俺に、彼女は何も反論しない。
困惑と恥じらいが混ざったような微笑みで、俺を見つめてくる。

(そんな顔を見せて···本当にお前には敵わない)

観念したように微笑み返した俺は、ポケットの中の物のことを思い出した。

石神
「そうだ···これを···」

サトコ
「···?」

石神
「昼間、渡しそびれた」

サトコ
「···!!」

小さな包みを渡すと、サトコは驚いた様子で目を見開いた。

石神
「今年はこの合宿で会うのが最後になりそうだからな」

サトコ
「石神さん···」

柄にもなく素直に告げると、見開かれた彼女の目が優しく細められた。
そして包みを開けると、またパッと瞳を輝かせる。

サトコ
「わあ、かわいいスノードーム!」

まるで今の自分たちみたいだと笑い、とても喜んでいる。

(少し子どもっぽいプレゼントになってしまったかと思ったが···結果的によかったか)

サトコ
「私もプレゼント持って来ればよかったです···」

散々喜んだあと、サトコはしゅんとしたように呟いた。
くるくると変わる彼女の表情に、ただ魅せられる。

(俺はそうやって、俺に気持ちを向けてくれるお前が見られただけで十分だ)
(だから···)

石神
「心配するな」

そう答えたものの、やはりそれだけでは物足りなくなる。

(ならば···)

石神
「なければ、奪えばいいだけのことだ」

サトコ
「え?···んっ!」

欲望に負け、再び彼女の唇にキスをする。

(プレゼントなどいらないと思っていたが···)

重なる唇から伝わる彼女の熱が愛おしい。

(この熱を感じられることこそが、俺にとっては何よりも嬉しいプレゼントだ)
(そんなことは、口が裂けても言えないが···)

荒れ続ける吹雪の音を聞きながら、重ねた唇を離せずにいる俺だった。

石神
「ん···」

まぶたの向こうに光を感じ、眩しさで目を覚ました。
吹雪はすっかり止み、眼鏡をかけると窓から明るい朝の陽が射しているのが見えた。

(よかった···これなら視界も良好だろう)

彼女にも知らせようと少し身をよじると、まだぐっすりと眠っている。

(···安心しきった顔だな)

俺の腕枕で静かな寝息を立てる彼女の寝顔は、まるで微笑んでいるかのように見える。
その幸せそうな寝顔につられるように、俺の口元も自然と緩んだ。

(命がけで俺を助けてくれたんだ···もう少し寝かせてやるか)

柔らかな頬にそっとキスを落とす。
少しひんやりとした感触が心地いい。

サトコ
「んん···」

(···起こしたか?)

サトコ
「石神さ···ん······」

どうやらまだ夢の中らしい。
夢に自分が登場していることに満たされ、もう一度そっと頬にキスをしたその時ー

(ん?)

遠くからスノーモービルのエンジン音が聞こえてきた。
雪を蹴散らす音と共にどんどん近づいてくる。

石神
「サトコ、起きろ。救助が来た」

サトコ
「ん、ん~···」

やがてエンジン音が停まり、聞き覚えのある声が···

黒澤
『石神さーん!サトコさーん!』

(待て···まだ開けるな···!)

バッ!!

黒澤
「みーつけた!」

サトコ
「······?」

いきなりドアが開き、予想通りの顔が現れた。
寝起きのサトコは、俺にくっついたままポカンとしている。

黒澤
「!そうやってここで一晩···」
「あれ?でもなんで裸で温め合ってないんですか!?」

サトコ
「え···あ···わっ!」

ようやく事態を把握したサトコが、弾かれたように俺から離れる。

黒澤
「あれってセオリーじゃないですか!」

(···黙れ黒澤)

黒澤
「でも、何はともあれお二人とも無事でよかったです!」

サトコ
「は、はい···ご心配をおかけしました···」

黒澤
「ところで石神さん」

石神
「なんだ」

黒澤
「あの時なんですけど··· “サトコ” って呼びませんでした?」

石神
「···黒澤」
「雪合戦のメンバーが足りないと言っていたな。参加してやる」

黒澤
「ひっ···」

小さな叫びは悲鳴に変わり、雪山にこだまするまであと3、2、1······

Happy End



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