カテゴリー

あ、クリスマスは愛のため中止です 東雲1話



【個別教官室】

それは12月のある日のこと。

サトコ
「もうすぐですねー、もうすぐ来ちゃいますねー」
「♪クリスマスー、楽しい楽しいクリスマスー」

東雲
氷川さん、これ

(教官の勤務表?どうして今さら···)
(ええっ!?)

サトコ
「なんですか、18日から1週間沖縄出張って!」

東雲
兵吾さんの代理

サトコ
「じゃあ、24日は···」

東雲
沖縄

サトコ
「戻りは···」

東雲
25日の昼過ぎ
ああ、キミはその日『課外研修』で遠出するんだっけ?

サトコ
「そうです!」
「だから、24日にクリスマスをするつもりでいたのに···」
「ふたりでイルミネーションを見て、美味しいご飯を食べて···」
「そのあとは、もちろん···」

東雲
キモ。無理

サトコ
「まだ何も言ってません!」
「せめて、何をやりたいのか聞いてから否定してください」

東雲
······

サトコ
「教かーん、聞こえてますか?」
「私が、今年一番やりたかったのは···」

<選択してください>

 コスプレ 

サトコ
「コスプレです」
「『ミニスカサンタ』で、教官のハートを狙い撃ちです!」

東雲
冷えるよ、腰

サトコ
「大丈夫です!ちゃんとハラマキをして···」
「って、そうじゃなくて!」
「もっと『ミニスカ』に食いついてくださいよ~」
「初めてのセクシー系コスプレなのに」

東雲
ウザ···

(うっ···)

 ヤドリギの下でキス 

サトコ
「ヤドリギの下でキッスです」
「ヤドリギの下で私が待ってると、教官がやってきて···」
「そっと、聖なるクリスマスキッスを···」

東雲
ふーん。で···

サトコ
「······え?」

東雲
オレがキミにキスするとして
『ヤドリギ』ってなに?

サトコ
「え、ええと···それは」

(そういえば、ちゃんと確認していなかったような···)

東雲
ま、いいけど
どうせ実現しないことだし

(うっ···)

 クリスマスケーキの手作り 

サトコ
「クリスマスケーキの手作りです」

東雲
あっそう···

サトコ
「それもパンケーキ5段重ねにしたもので···」

東雲

サトコ
「もちろんパンケーキはふわっふわ仕様で、クリームでいっぱいで」

東雲
!!

サトコ
「飾り付けのフルーツは『桃』で···」

東雲
そ、その辺にしておけば?
どうせ実現しないわけだし

(うっ···)

サトコ
「でも、ちょっとくらいなら···」

東雲
どうやって?
24日はオレが不在
25日は、キミの戻りが22時過ぎ
無理だよね。どう考えても

(うう···)

東雲
いい加減、あきらめれば?
クリスマスがなくても生きていけるんだし

(そうだけど···確かにその通りだけど···)

サトコ
「そういう問題じゃないんだってばーーー!」

(イヤだよ、クリスマスを全スルーなんて)
(こうなったら、意地でもクリスマスっぽいことをするんだから!)



【寮 談話室】

(当日は無理でも、教官が出張に行く前に···)
(先取りで「クリスマスデート」っぽいことをして···)

鳴子
「おつかれーサトコ···」
「って、どうしたの?なんか目が血走ってるけど···」

サトコ
「ちょっと調べものをしているところ」

(···うん?)

サトコ
「鳴子、その雑誌···」

鳴子
「これ?今日発売の『MOST』だよ」
「『クリスマス限定コスメ』の限定クーポンがついててさ」

鳴子がページをめくり始めたので、私も一緒に覗き込む。
と、思いがけない写真が目に飛び込んできて···

サトコ
「お願い!ちょっと貸して!」

鳴子
「???どうぞ」

(期間限定「恐竜カフェ」···いつの間に、こんなものが···)
(この「恐竜クリスマスケーキ」なんて、教官、絶対好きそうだし···)

サトコ
「!!」

(なに、この「サンタクロース・ザウルス」ってぬいぐるみ···)
(これ、教官に贈ったら···)


東雲
ちょ···なにこれ!
サンタクロース・ザウルス!?
やば···なにこれ、やば···
こんなの初めてなんだけど!

(···これだ、今年のプレゼントはこれしかない)
(そのためにも、まずはデートの約束を取り付けないと)



【個別教官室】

翌日···

サトコ
「教官!今月の17日って空いてますよね?」

東雲
···なに、その決めつけ

サトコ
「だって、この日は二人とも休みですよね?」
「だったら、デートするしかないじゃないですか」

東雲
······

サトコ
「いいですよね、デート」
「行き先は、もう決めましたから!」

東雲
べつに、わざわざ外出しなくても···

サトコ
「ダメです。17日は『お外デート』です」
「教官はついてきてくれるだけでいいですから!」

東雲
······あっそう
好きにすれば

(よし!「先取りクリスマス作戦」第一段階クリア!)
(あとはカフェに予約を入れて···それから···)

サトコ
「サンタクロース・ザウルス!」

(···と、これは、当日でいいよね)
(教官と一緒に選んだ方が楽しそうだし)
(よーし、まずはカフェの予約をしないと)

東雲
······


【駅前】

さて「先取りクリスマス」決行当日···

(新しいワンピース···ちょっと派手だったかな)
(教官が普段どおりだと、ちょっと浮くかも···)

サトコ
「でも、クリスマスデートだし」

(ここはやっぱり気合い入れていかないと!)
(せめて、私だけでも···)

東雲
お待たせ

サトコ
「はい!おつかれさま···」
「!!!」

(教官!?)

サトコ
「ど、どうしたんですか、その格好」

<選択してください>

 素敵すぎます! 

サトコ
「素敵すぎます!」
「スーツとか髪型とか、髪型とか、髪型とか」

東雲
たまにはね
特別な日だし。今日は

(特別···)
(私とのデートが「特別」!!)

東雲
でも、そのわりに···
イマイチだね、キミは

(えっ?)

 結婚式の帰り? 

サトコ
「結婚式の帰りですか?」

東雲
は?

サトコ
「だってスーツだし、髪型もキノ···キメキメで···」

東雲
ああ、これ?
30分かけたから。ブローに

(···うん?)

東雲
困るよね、ほんと
髪がサラサラすぎると、固めるのも大変で
ま、キミには分からない苦労だけど

サトコ
「は、はぁ···」

(今、さり気なくけなされたような···)

東雲
それにしても、キミ···
イマイチすぎない?

(うん?)

 まさか私のため? 

サトコ
「まさか、私のため···とか······?」

東雲
·········は?

サトコ
「わかります···すごくわかります!」
「わたしもちょっと今日は気合いれてきたっていうか」
「リップもラメ入りのにしてみたし」
「ワンピも通販だけど新しいの買って来たし」
「それも今日のデートのためていうか、教官のためっていうか」
「やっぱり、この季節のデートは特別···」

東雲
そのわりにイマイチだね。キミは

(うん?)

東雲
服は、まぁ、悪くないけど
なに、その髪
枝毛多すぎ

サトコ
「そ、そんなことないですよ」
「たしかに、ここのところびよういんい行ってなかったですけど」

東雲
あり得ない。女子力低すぎ

サトコ
「教官が高すぎるんです!」
「月イチで美容院なんて、ふつう女子でも···」

東雲
言い訳はいいから
来て

(えっ、どこに···)


【美容院】

(ええっ!?)
(ここ、私でも知ってる超人気の美容室···)

スタッフ
「あらー、歩くん、どうしたの?先週来たばかりなのに」

東雲
今日はオレじゃないんです
彼女の髪を整えてほしくて

スタッフ
「彼女の?」
「あら、これは·········なかなかの強敵ね」

(うっ···強敵って···)

スタッフ
「で、どうすればいいの?」

東雲
痛んでいるところをカットして、後ろもサイドも軽めにして
髪色はこのままで、トリートメントは···

(すごい注文量···)
(私、いつも前髪と毛先をカットしてもらって終わりなんですけど)
(ていうか、そもそもなんでこんなことに?)
(まさか「恐竜カフェ」の予約に間に合わないなんてことは···)

東雲
···というわけで、よろしくお願いします
彼女、素材は悪くないんで

サトコ
「!!」

(今の、空耳?)
(ううん、間違いなく言ったよね。「素材は悪くない」って)
(「素材は悪くない」···「悪くない」···「いい」···つまり······)

東雲
オレの彼女、可愛いんで

サトコ
「○×△■■※×~~~~!!!」

(こうなったら、教官の期待に応えるしかないよね)
(教官自慢の「可愛い彼女」になって···)
(最高の「先取りクリスマスデート」にしないと!)

スタッフ
「じゃあ、シャンプー台···」
「···の前に、痛んでる部分を切っちゃおうかしら」

サトコ
「はい、よろしくお願いします!」

スタッフ
「それじゃあ···」

シャキッ!

(え···)

シャキシャキシャキシャキ···

(えっ、ちょ···)
(あああああーーーっ)

【街】

東雲
······ふーん
悪くないんじゃない。さっぱりして

サトコ
「そりゃ、かなり切られましたから」

(さすがに、それは予想外っていうか···)
(これ···もはやショートボブなんじゃ···)

東雲
嫌いじゃないけどね

サトコ
「!」

東雲
似合ってるんじゃない、今日の服にも

サトコ
「!!」

(教官が···)
(あの教官が、ここまで誉めてくれるなんて!)

サトコ
「教官、お願いです!」
「もう1回···」
「もう1回だけ『似合ってる』って言ってください!」
「あと、できれば『可愛い』も···」

(って、いない!?)

東雲
はい···はい···
わかってる。ちゃんとそっちに向かうから

(···電話中?)
(ていうか「そっちに向かう」って···)

東雲
じゃあ、はい···
ああ···
終わった?独り言タイム

(な···っ)

サトコ
「違います!さっきのは独り言じゃなくて···」

東雲
終わったらならもう行くけど

(···行く?)

東雲
···何?読んでないの、LIDEのメッセージ···
うわ、未読···
これ、2時間前に送ったんだけど

突きつけられたメッセージ画面を、私はゆっくり読み上げた。

サトコ
「『予定変更』···」
「『今日はオレに付き合って』···?」


【車内】

(どういうことだろう、「予定変更」って)
(今さら「お家デート」とか?)
(それはないよね。教官、おしゃれスーツを着ているし)
(だったら「高級ホテルでサプライズ・ディナー」の方がまだ納得···)

東雲
着いたよ。下りて

サトコ
「はい」

(って、ここ···)

(えええええっ!?)

Happy End



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする