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あ、クリスマスは愛のため中止です 黒澤1話



【資料室】

それは、クリスマス1週間前のこと。

鳴子
「あーもう、ありえない」
「今年のクリスマス、まだなんの予定も入ってないんだけど!」

サトコ
「それ、私もだよ、鳴子」

千葉
「まぁ、仕方ないんじゃない?」
「期末考査を控えてるんだし」

鳴子
「それそれ!」
「考査が終わるまで、クリスマスのことを考えられないってのがね」

サトコ
「たしかに···赤点は土日返上で補習だもんね」

千葉
「でも、22日には考査の結果が出るわけだから」
「クリスマスのことは、そのとき考えても···」

すると、入り口のドアが開く音がした。

??
「歩さーん、お願いですからー」

??
「ウザ···」

??
「そんなこと言わないでー」

(この声は···)

東雲
あ···
お疲れさま。もしかして勉強中?

サトコ
「はい、もうすぐ期末考査なので」

東雲
だったら特別に勉強をみてあげるよ
透が

(えっ、黒澤さんが?)

東雲
わからないことがあったら、透になんでも聞いてね
それじゃ

サトコ
「えっ、東雲教官?」

(···行っちゃった)

黒澤
ううう···

千葉
「あの···俺の隣、座りますか?」

黒澤
ありがとうございますぅぅぅ···ううう···

千葉
「じゃあ、勉強再開しようか」

鳴子
「そうだね」

30分後――

黒澤
ううう···

千葉
「···じゃあ、次の事例だけど」
「ケースBについてどう思う?」

サトコ
「ターゲットとは接触しない方がいいと思うな」
「もう少し泳がせた方がいいというか···」

黒澤
うう···ううう···

千葉
「···え、ええと···佐々木の意見は?」

鳴子
「難しいところだよね」
「本来ならサトコの考え方で良さそうだけど···」
「このケースの場合、ターゲットが表に出てきたのは1年ぶりで···」

黒澤
うう···うううう···

3人
「「「······」」」

(ええと、これは···)

<選択してください>

 どうかしましたか? 

サトコ
「あの···どうかしましたか?」

黒澤
よくぞ聞いてくれました!

(近···っ)
(顔、近すぎなんですけど···!)

 石神に連絡··· 

(よし、ここは石神教官に連絡しよう)
(黒澤さんは石神班の人だもん。ビシッと何か言ってもらえるかも···)
(···あ、出た)

??
『なんだ、クズ』

(えっ!?)

??
『······おい、どうした、クズが』

(こ、この声は加賀教官!?)

サトコ
「すみません、間違えました!」

(バカ!私ってばなんで間違えて···)
(って、あれ···今の、やっぱり石神教官の番号だよね)
(なんで石神教官のスマホに、加賀教官が···)

動揺している私をよそに、千葉さんが黒澤さんの顔を覗き込んだ。

千葉
「あの···さっきからずっと唸ってますけど、どうかしましたか?」

黒澤
よくぞ聞いてくれました!!

 (そっとしておこう) 

(今はそっとしておこう)
(そうすれば、そのうち落ち着いて···)

千葉
「あの···どうかしましたか?」

(えっ···)

千葉
「もしかして、どこか具合でも悪いとか···」

黒澤
千葉さん···
よくぞ···よくぞ聞いてくれました!

千葉
「うわぁっ」

(千葉さんに抱きついた!?)

黒澤
ひとりなんです

千葉
「ひとり?」

黒澤
今年のクリスマスです
オレ、このままだと、ひとりぼっちなんですぅぅぅ
ううううう···

(へぇ、意外だなぁ)
(黒澤さんならとっくに予定入っていそうなのに···)

鳴子
「わかります、黒澤さん」
「虚しいですよね···切ないですよね!」

(えっ、鳴子?)

鳴子
「キラキラとまぶしいイルミネーション···」
「なのに、私はひとりぼっち!」

サトコ
「な、鳴子、ちょっと落ち着いて···」

鳴子
「それでもケーキだけは買うんですよ」
「ささやかながらもクリスマス気分を味わいたくて···」
「コンビニの、おひとり様用のケーキを!」

黒澤
わかります···想像できますよ、ううう···
オレ、こんなの3年ぶりで···

鳴子
「いっそ、ひとりぼっち同士で飲みに行きましょう!」

黒澤
いいですね、それ
寂しい者同士、ともに肩を寄せ合おうじゃないですか!

(え、この流れって···)

鳴子
「いいよね、サトコ!千葉さんも!」

サトコ
「え、ええと···」

千葉
「ごめん。俺、もしかしたら予定が入るかもしれなくて···」

鳴子
「裏切り者!」

千葉
「違っ···同期との飲み会だから!」
「もしひとりだったら、参加させてもらうよ」

鳴子
「わかった。サトコは?」

サトコ
「私は···構わないけど」

黒澤
じゃあ、決まりですね!
よかったぁ···ひとりぼっちじゃなくて···ううう···

(クリスマスに飲み会、か)
(しかも、黒澤さんも一緒なんて楽しみ···)

サトコ
「!」

(べ、別に黒澤さんと過ごせることだけが楽しみじゃないから!)
(みんなでワイワイできるのが楽しいんであって···)

黒澤
どうかしましたか、サトコさん?
ずいぶん顔が赤いですね

サトコ
「えっ」

鳴子
「サトコ、風邪ひいたんじゃない?」

サトコ
「そ、そんなことは···」

黒澤
どれ?

(ひゃっ···)

少しかさついた黒澤さんの手が、私のおでこに優しく触れた。

黒澤
···やっぱり少し熱いですね

千葉
「氷川、今日はもう帰ったほうが···」

サトコ
「大丈夫、本当に大丈夫だから!」

黒澤
だったらいいですけど
体調、崩さないようにしてくださいね
クリスマス、一緒に過ごしたいですから

サトコ
「は、はい···」

(誤解するな、私)
(黒澤さんとクリスマスを一緒に過ごすのは、私だけじゃないんだから)
(鳴子と千葉さんもだから!)

千葉
「じゃあ、そろそろ勉強再開しようか」

サトコ
「そうだね」

黒澤
あ、なにか質問があったら答えますよ

鳴子
「ホントですか?じゃあ、この事例ですけど···」

クリスマスの予定が決まったせいだろうか。
私たちの期末考査に向けた勉強も、かなりはかどって···



【教場】

12月22日――

鳴子
「やったー!終わったー!」

千葉
「よかったよな、3人とも赤点取らずに済んで」

鳴子
「うん!これでクリスマスも年末年始もとことん楽しめるよー」
「って、サトコ、どこ行くの?」

サトコ
「石神教官のところ」
「考査が終わるまで、補佐官としての仕事お休みしてたから」

鳴子
「そっか、いってらっしゃい」



【教官室】

サトコ
「失礼します」
「石神教官はいらっしゃいますか?」

後藤
石神さんなら本庁に行っている

サトコ
「そうですか···」
「じゃあ、また出直します」

後藤
伝言があるなら伝えておくが

サトコ
「いえ、仕事がないか聞きに来ただけなんです」
「期末考査も終わったので」

颯馬
そうですが。ですが···
当分は何もないと思いますよ。貴女に頼むようなことは

(うっ···)
(そ、そりゃ、私は優秀な補佐官じゃないですけど···)

後藤
···石神さんは今、加賀さんとふたりで面倒な任務に就いている
だから頼めることは何もないんじゃないか
お前に限らず、部下である俺にもな

(後藤教官···)

颯馬
それに、いずれサトコさんは忙しくなるでしょうからね
補佐官としての仕事がなくても

(え?)

後藤
···そういえば、そうでしたね

颯馬
ええ

サトコ
「あの···それはどういうことですか?」

後藤
いや、まぁ···なんというか···

颯馬
そのうち分かりますよ。おそらく近日中に

サトコ
「はぁ···」

【廊下】

(いずれ忙しくなる、ってどういうことだろう)
(新しい任務が控えてるとか?)
(それとも特別訓練があったりして···)

??
「サトコさーん!」

サトコ
「!」

黒澤
おつかれさまです。期末考査はどうでしたか?

サトコ
「無事に終わりました。赤点もナシです」

黒澤
よかったー
やっとこれで堂々と誘えますね

黒澤さんは、少しいたずらっぽそうに目を細めた。

黒澤
クリスマスの約束、覚えていますか?

サトコ
「はい、もちろんです」

黒澤
じゃあ、24日よろしくお願いしますね
13時に駅前で待ってますんで

(えっ、13時?)

サトコ
「『飲み会』じゃないんですか?」

黒澤
ああ、変更になったんですよ。『勉強会』に

(うっ、いつの間に···)

黒澤
というわけで、当日はデジカメを持ってきてくださいね
それとボイスレコーダーと筆記用具と···

サトコ
「ま、待ってください!今、メモしますんで···」

(「デジカメ」「ボイスレコーダー」「筆記用具」···)

黒澤
あとは、そうだなぁ
当日は可愛い服装で来てくださいね

(···可愛い服装?)

<選択してください>

 わかりました 

サトコ
「わかりました」

(どうして勉強会で「可愛い服装」なのかは、いまいち分からないけど···)

サトコ
「その···頑張ってみますね。可愛い服装を」

黒澤
さすが、サトコさん!
素直ですねー

(え···)

黒澤
ああ、気にしないでください
今のは、ただの独り言なんで

サトコ
「は、はぁ···」

 具体的には? 

サトコ
「ええと···具体的には···」

黒澤
そうですね···『クリスマスっぽい恰好』とか?

(え···)

サトコ
「そ、それってコスプレとかですか?」
「ミニスカサンタとか···」

黒澤
あーそっち系は、オレより周介さんが好きなんですよねー

サトコ
「!?」

黒澤
あ、違った···難波さんの好みだったかな?

サトコ
「!!?」

 どうして? 

サトコ
「どうしてですか?」

黒澤
えーそんなの決まってるじゃないですか
可愛いサトコさんを見てみたいからですよ

(えっ···)

黒澤
なーんて
サトコさんは、普段の恰好でも十分可愛いですけどねー

サトコ
「!??」

(た···ただのお世辞だよね、今の···)

黒澤
ま、とにかく···
あまり気負い過ぎずに、可愛い恰好をしてきてくださいね
オレも、いろいろ計画を立てておきますんで

サトコ
「分かりました。24日、よろしくお願いします」

(クリスマスに「勉強会」···)
(意外だったけど、ある意味、訓練生らしいクリスマスなのかもなぁ)


【寮 談話室】

さて、12月24日――勉強会当日。

(今日の服装、どうしよう)
(候補は2つに絞ったけど、どっちも気合い入れ過ぎかな)

鳴子
「ちょっとー!聞いてよ、サトコ!」
「通販で頼んだワンピ、午後じゃないと届かないっていうんだよ」
「午前中で指定してんのに、ありえなくない?」

サトコ
「それって、今日着る予定の?」

鳴子
「もちろん!」
「どうしよう···せっかくの初デートなのに」

(初デート??)

サトコ
「勉強会じゃなくて?」

鳴子
「勉強会?なにそれ」

(······え?)

(どういうこと?今日の「勉強会」って4人じゃなかったの?)
(私と黒澤さんと、鳴子と千葉さんと···)
(あ、でも千葉さんは「同期と飲み会かも」って···)


【駅前】

黒澤
おつかれさまでーす

サトコ
「すみません、お待たせして」

黒澤
大丈夫ですよ。オレもさっき来たばかりですから
それじゃ、移動しましょうか

(移動?もう!?)

サトコ
「あの···今日のメンバーって、私と黒澤さんと···」

黒澤
はい、この2人です

(え···)

黒澤
それじゃ、はじめましょうか
ふたりきりの勉強会を

(ええっ、本当に!?)

to be continued



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