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出会い編 後藤シークレット1



Episode 4.5
「お気に入りの特権」

【食堂】

お昼は抜きだと言っていた後藤教官への差し入れを買いに、学校の購買部に向かった。

(パンよりおにぎりの方がいいって東雲教官言ってたよね)

おにぎりのコーナーを見ると、いろいろなパッケージが並んでいる。

(定番味はもう売れちゃったんだ···仕方ない、あるもので考えよう···)

変わり種のおにぎりが並ぶ中、昆布のおにぎりが1つだけ残っていた。

(貴重な昆布!)

すかさず取ろうとすると、後ろから伸びてきた大きな手とぶつかってしまう。

サトコ
「すみませんっ···あっ···」

後藤
氷川?

サトコ
「後藤教官!石神教官に呼び出されてたんじゃ···」

1つの昆布おにぎりに同時に手を伸ばしたのは後藤教官だった。

後藤
石神さんが急用で30分ほど外すことになったんだ
その間に飯を食おうと思ってな

サトコ
「そうだったんですか···」

後藤
それ、氷川が食っていい

サトコ
「あ···」

(教官のために買おうと思ったんだけど···)
(本人を前に、さすがに言えない···)

かと言って買わないのも後藤教官に気を遣わせてしまいそうなので、おにぎりを手にする。

(私もお昼食べてなかったから、ちょうどいいけど···かえって悪かったな)

棚には変わり種のおにぎりばかりだけれど、私もいくつか自分のお昼用に買うことにした。

サトコ
「おもしろい味ばかりですね···」

後藤
ここの購買はもう少し普通のおにぎりの入荷を増やした方がいい

サトコ
「そうですね。でも、夕方ごろには全部売り切れるらしいですよ」

後藤
そうなのか

他愛もない話をしながらカフェテラスに向かうと、そこはすでに満席だった。

サトコ
「一度出遅れると難民になるんですね···」

(どこで食べようかな···)

席が空く気配もないそこを見渡していると、教官は少し考えた後口を開いた。

後藤
教官室に来るか?

サトコ
「え?」

後藤
あそこは人も少ないし、ゆっくり食べられる

サトコ
「···いいんですか?」

後藤
さっき誰もいなかったし、補佐官なら昼時の手伝いってことで問題ないだろ

サトコ
「それじゃ···すみません。お邪魔します」

(教官と二人でお昼を食べることになっちゃった···)
(ちょっと緊張するけど、話す時間ができたのは嬉しいかも)

教官の言葉に甘え、教官室でお昼を食べることにした。


【個別教官室】

賑やかなカフェテラスとは一転して、誰もいない教官室はひどく静かだった。

後藤
氷川のは豚骨ラーメンおにぎりに、ハムチーズマヨおにぎりか···
昆布は口直しにとっておいた方がよさそうだな

サトコ
「ふふ、そうですね」
「後藤教官のは、唐辛子おにぎりと···たまごかけご飯おにぎり?」
「そんなのあるんですね」

後藤
あの中で比較的まともなのを選んでみた

私は最初に昆布おにぎりを2つに割ると、半分を後藤教官に渡した。

サトコ
「どうぞ」

後藤
氷川の昆布おにぎりだろ

サトコ
「口直し用に」

そう言って半分渡すと、なんとなく教官の表情が緩んだ気がした。

後藤
なら、有り難く最後に食べさせてもらう。唐辛子から食うか···

サトコ
「私は豚骨ラーメンおにぎりからいってみます!」

後藤
その中にラーメンが入ってるのか?

サトコ
「いえ、風味がするだけみたいですけど···」

それぞれのおにぎりにかじりつき、お互いの手を止めた。

サトコ
「思ったより美味しい···」

後藤
俺のもだ。ただの激辛かと思ったら、味噌の甘みで食べやすくなってる

サトコ
「私のも少し濃いけど、チャーハンみたいで美味しいです」

思いがけない味との出会いに、教官と私は少しテンションが上がる。

後藤
売り切れる意味がわかったな

サトコ
「ですね」

後藤
食わず嫌いとはこのことだ

サトコ
「これからは他の変わり種も試してみようかな···」

後藤
俺もそうしよう。昼飯の楽しみが1つできたな

サトコ
「はい。美味しいおにぎり見つけたら報告しますね!」

後藤
ああ

教官と共通の話題ができたみたいで、少し嬉しかった。
お昼を食べ終わると、教官が出るまで15分くらい時間があった。
その間に本の整理を手伝うことにする。

(ちゃんと補佐官の仕事もできてよかった。ただお昼を食べに来ただけじゃ申し訳ないし)

サトコ
「この辞書は一番上でいいですか?」

後藤
ああ、最上段の辞書の並びに入れておいてくれ

サトコ
「わかりました」

本棚の上まで届く高い踏み台に乗って辞書をしまっていく。

後藤
氷川、気を付けろ

サトコ
「足元なら大丈夫ですよ」

後藤
そっちじゃない

首を傾げると、教官は私の脚のあたりを指差す。
それがスカートを指しているのだと、間を置いて気が付いた。

サトコ
「す、すみません!」

(み、見えてた!?結構スカート短いから···)

慌ててスカートを押さえると、
重い本を持っていたせいもあって、バランスを崩してしまった。

サトコ
「きゃっ!」

後藤
っ!

踏み台から落ちかけた私を後藤教官が抱き留めてくれる。

サトコ
「重ね重ね、すみません···」

後藤
こっちこそ悪かった。いきなり変なことを言って

サトコ
「いえ、私の注意が足りなかったんです。失礼しました」

その腕から抜けて頭を下げようとした時、戸口に靴音が響く。

石神
···何をしている

サトコ
「い、石神教官!」

石神
······

まるで抱き合っているように見える私たちに、
石神教官は軽く眉をひそめてメガネを押し上げた。

サトコ
「これは、その···っ」

後藤
何でもありません。もう別件はいいんですか?

石神
いや、思ったより長引きそうだ。その旨を伝えに来た

後藤
わざわざすみません。電話でもよかったんですが

石神
こっちに取りに来る書類があったからな。また追って連絡する

後藤
了解です

そう用件だけ伝え、石神教官は部屋を出て行った。

後藤
大丈夫か

サトコ
「は、はい。すみません」

後藤
気にするな

支えてもらっていた体勢から体を起こす。

(石神教官に誤解されたらどうしようかと思ってた···恥ずかしい···)

後藤
そろそろ、午後の講義の準備を始めた方がいいんじゃないか?

時計の指す時間を見てハッとする。

サトコ
「もうこんな時間!お昼、場所を貸していただいてありがとうございました!」

後藤
こっちこそ、本の片づけを手伝ってもらって助かった

頭を下げて足早に教官を出ようとすると、グッと手を掴まれた。

サトコ
「教官?」

後藤
氷川···

真剣な後藤教官の顔が近づいてくる。

(な、なに!?)

迫ってくる端正な顔に瞳を瞬かせていると······

後藤
ホコリがついていた。さっき本棚の上に登ったせいだな

サトコ
「あ、ありがとうございます」

後藤
ああ

ささっと髪を払う私に後藤教官が表情を和らげた。

後藤
氷川のおかげで有意義な昼になった

(後藤教官···)

補佐官として褒めてくれたみたいで、私の心は晴れやかな気持ちになった。

Secret End



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