カテゴリー

恋の行方編 後藤4話



【車内】

???
「騒ぐな」

サトコ
「!」

学校に帰る途中、急停車した車の中に連れ込まれた。
強い腕の力を感じて、反射的に暴れようと身体を動かした時······

???
「サトコさん、暴れないで!オレです!」

サトコ
「え···黒澤···さん?」

黒澤
大正解です!嬉しいな~、オレの声を覚えてくれてるなんて

後藤
ふざけた声だから耳に残ったんだろ

颯馬
ふざけた喋り方だからという可能性もあるね

サトコ
「颯馬教官に後藤教官も···!」

後部座席に私を引っ張り込んだ黒澤さん。
運転席には颯馬教官が、助手席には後藤さんが座っていた。

サトコ
「後藤教官は別件があるって···もうそちらは終わったんですか?」

後藤
そっちは今日片付けるのを諦めた
黒澤の奴が一緒に行くと言うまでまとわりついてきて、仕事にもならないからな

サトコ
「そこまでして人を集めるなんて、重大な事件でも···」

黒澤
そうなんです、重大なことなんです···

うつむいた黒澤さんから深刻な声が出される。

黒澤
後藤さんとサトコさんだけ、SPの皆さんと一緒に楽しく仕事をして···!

サトコ
「え?SPの皆さんって···桂木班のことですか?」

黒澤
オレだって、桂木班に入ってみたかったですよ!
オレなんか後藤さんがいないから、石神さんとふたりきりで捜査に行ってるんですよ!

サトコ
「それは勉強になりそうですね」

黒澤
ええ、個別指導が充実してて幸せ···
じゃなくて!
石神さんのことは好きですけど、ひとりでブリザードに耐えるのはキツ過ぎますって

颯馬
まあまあ、後藤たちも頑張ってるんだからそう言わないで

黒澤
周介さんは自由に独りで捜査に行けるから、そういうことが言えるんです
1回、石神さんと1泊4日の捜査旅行に行けばわかりますよ

サトコ
「1泊4日って···おかしくないですか?」

黒澤
それが石神さんとの捜査旅行です。0泊の時もあるんですから、鬼ですね

颯馬
楽しそうだけどな、石神さんとの旅行

黒澤
じゃ、今度変わってください

颯馬
はは、スケジュールが合ったら、ぜひ

黒澤
その言い方、絶対に実現しない『ぜひ』だ···

サトコ
「あの···黒澤さんが大変なのはわかりましたけど···結局、どうして私はここに?」
「この車はどこに向かってるんですか?」

颯馬
すぐにわかりますよ。サトコさんもよく知る場所ですから

後藤
やれやれ···黒澤を止められなくて悪いな、氷川

サトコ
「いえ、私なら大丈夫ですけど···」

(教官たちと一緒なら不安もないけど。どこに行って何をするんだろう?)



【学校 屋上】

サトコ
「そういえば学校の屋上、初めて入りました。屋上庭園になってるんですね···」

(行き先が学校の屋上だとは思わなかった···)

黒澤
この学校は、生徒は進入禁止の場所が多いですからね。ここは自由に入れるんですけど
でもまあオレのピッキング技術があれば、校長しか入れない所でもお連れできますよ

後藤
バカなことを言うな。そもそもお前は部外者だろ

黒澤
部外者なんてひどい!
オレだって時々臨時教官としてお手伝いに来るかもしれないんですからね

サトコ
「それはいいんですけど、屋上で何をするんですか?」

黒澤
それは···

黒澤さんについて歩いて行くと、向こうに2つの人影が見える。

(東雲教官と···もう1人は初めて見る人···公安課の捜査官なのかな)

颯馬
彼は難波仁警視正。私たちのボスで公安課の室長です

サトコ
「難波警視正···」

(石神教官と加賀教官のさらに上の人···)
(そんなに偉い人が、どうして学校の屋上に?)

東雲
女の子連れてきた?
···って、サトコちゃんじゃん

難波
訓練生か?

東雲
例の裏技新入生です。でも、実際の捜査でも活躍してくれてるんで使える子ですよ

難波
ああ、話は聞いてる

難波警視正の視線が私に移って、私は背筋を正して深く頭を下げる。

サトコ
「氷川サトコです!よろしくお願いします!」

難波
はいはい、よろしく
バーベキューするだけだから、堅苦しい挨拶いらないよ

サトコ
「は、はい」

(難波警視正は石神教官や加賀教官とはまた全然タイプが違う感じ)
(よく言えば柔らかいし、悪く言えば適当っぽい···?)
(ん?バーベキュー?)

黒澤
木下さんも来ますよ

東雲
莉子ちゃんは女の子っていうか···ねぇ?

黒澤
言いたいことはわかりますが···肉に呼ばない方が後で大変ですし···

莉子
「相変わらず失礼なボウヤたちね」

高いヒールを響かせながら、艶っぽい雰囲気の女性がこちらに歩いてくる。

サトコ
「あの方が木下さん···ですか?」

後藤
氷川は会ったことないのか。彼女は木下莉子さん
科学捜査研究所、通称 “科捜研” の方だ

莉子
「初めまして。私もここで講義を持つんだけど、専門講義の開始はもう少し後なのよ」
「よろしくね」

サトコ
「氷川サトコです。よろしくお願いします!」

莉子
「男ばっかりでむさ苦しいだろうから、困ったことがあったら私のところに来るといいわ」

サトコ
「はい!ありがとうございます」

(女性教官がいるなんて知らなかった。何だか心強いな)

東雲
準備できたよ。バーベキュー始めようか

サトコ
「あの···これからバーベキューやるんですか?」

黒澤
あれ、お肉嫌いでした?

サトコ
「いえ、好きですけど···いいんでしょうか?訓練生の私が教官の皆さんの集いに参加して···」

後藤
いきなり拉致されたんだから、気にせず食え

莉子
「そうよ。女は若いってだけで存在価値があるんだから、無償で焼肉を食べる権利があるわ」

東雲
はは、じゃあもう莉子ちゃんには自腹切ってもらわないとー

莉子
「なぁに歩、タレにNITOROを山盛りで追加してほしいの?」

東雲
ちょっと!冗談ですってば
そもそも、なんで激辛香辛料なんて持ち歩いてるんですか

賑やかな中でお肉が焼けるいい匂いがしてきて、黒澤さんが私と後藤さんにお皿を渡してくれた。

黒澤
後藤さんのお肉は時間経ってるのとりましたから

後藤
···

(黒澤さんも後藤さんが猫舌なの知ってるんだ)

黒澤
サトコさんのは焼き立てなので、気を付けてくださいね

サトコ
「ありがとうございます」

お皿を見ると、そこには見るからに高級そうな牛肉が輝いている。

サトコ
「これ、すごく高いお肉なんじゃ···」

後藤
気にするな。黒澤が知り合いから安く調達してきた肉だ

黒澤
つまり闇肉ですね。フフ···

黒い笑みが気になったけれど、敢えて触れないことにした。

サトコ
「···黒澤さんって顔広そうですもんね」

後藤
それがアイツの唯一役に立つことかもな
まぁ、周さんも各方面の協力者たちに顔が広いが、黒澤の場合はムダな方面で顔が広い

黒澤
そこのお二人、聞こえてますよー

(気にするなって言われても、教官と一緒に高級肉を食べるなんて恐縮する···)
(でも、すごく美味しい!)

口の中でとろけるお肉に感動していると、屋上の入り口からこちらにやってくる人が2人。

サトコ
「あれ···石神教官と加賀教官···」

颯馬
顔を合わせて、あからさまに嫌な顔をしてるね

石神
人が集まるところは嫌いじゃなかったのか、加賀

加賀
お前、空気吸って生きてるような顔して食い意地張ってんな

莉子
「相変わらず仲がいいのね。秀っちも兵吾ちゃんも」

石神
···いい加減、その呼び方はやめないか

加賀
ったく、クソアマが。石神もいるなら先に言え

莉子
「言う訳ないじゃない」
「言ったら二人とも来ないに決まってるんだから。馬鹿ね」
「まあいいじゃない。兵吾ちゃんは肉好きなんだし」
「秀っちにもちゃんと激辛ダレ···じゃなくて甘ダレ用意してあるわよ」

石神
······

3人の言い合いに思わず見入ってしまう。

サトコ
「石神教官と加賀教官と対等に話せるなんて、木下教官すごい···」

颯馬
あの3人は同期なんです
莉子さんも石神さんと加賀さんに負けず劣らず恐ろしい人ですよ

後藤
アンタも気を付けろよ

サトコ
「は、はい」

(どんなふうに気を付ければいいのか、わからないけど···)

難波
おいおい、肉の前でケンカなんて野暮なことしてんなよ
ほら、食え。焼肉の前では万物平等だ

石神
何ですか?その理論は···

加賀
チッ···まぁいい。歩、一番美味しいところをよこせ

東雲
はいはい
オレは兵吾さんの焼肉係じゃないんですけどね~

ワイワイとバーベキューをする皆さんは教壇に立っている時とは雰囲気が違う。

(こんな賑やかな一面もあるんだ···)
(公安って鉄仮面の集団なんて噂されることがあったから、不安だったけど···)

そんなことを思いながら焼きエビを堪能していると、後藤さんが軽く私の肩を叩いた。

後藤
ちょっと出ないか?食休みだ

サトコ
「は、はい」

そっと皆にバレないように抜け出す後藤さんに、ドキドキしながらついていく。

(ひとりで出て行かないで、声かけてもらえるの嬉しいな)
(こういうことされると、また諦められなくなりそうだよ)

後藤さんが向かったのは、いつもの中庭だった。


【中庭】

中庭へ出た頃には、いつの間にかすっかり日も暮れていた。

後藤
ここにアンタと来るのも久しぶりだな

サトコ
「潜入捜査で出ることも多いですし、学校でのんびりできる時間なくなりましたよね」

後藤
ああ···アンタも毎日忙しいだろう

サトコ
「私は講義を受ける方だから、まだいいですけど···」
「後藤教官は講義と捜査の掛け持ちで、もっと大変ですよね」

後藤
この生活にもだいぶ慣れた
それから、呼び方だが···

サトコ
「あ···すみません、つい···」

(学校だと教官って呼ぶ方が自然な気がしちゃって···)

<選択してください>

 A:後藤教官 

サトコ
「あの、でも···後藤教官···」

後藤
校内だと抵抗があるのか?

サトコ
「本当にいいのかなって思ってしまって···」

後藤
俺がいいと言ってるんだから、気にするな

サトコ
「わかりました。後藤さん」

 B:ごっちゃん 

サトコ
「ご、ごっちゃん」

後藤
砕けすぎだろ

サトコ
「冗談です!つい、思いついたので···すみません、後藤さん」

 C:後藤さん 

サトコ
「それじゃ···後藤さん···」

後藤
ああ、その方がいい

サトコ
「ちょっと恐れ多いですけど」

後藤
アンタだって学校を卒業すれば、生徒じゃなくなるんだ」
いつまでも教官扱いされる方が落ち着かない

(後藤さんって呼んでるの、生徒の中じゃ私だけなのかな)

補佐官で、一緒に捜査をしてるからだと思うけれど。
特別扱いのような気がして、嬉しい気持ちを抑えられない。

後藤
アンタはあんまり生徒って感じもないしな
それに、名前で呼び合った方が楽でいい

(後藤さん···)

何度も思うこの感情に蓋をするように、後藤さんから視線を外した時。

ブサ猫
「ぶみゃー」

サトコ
「あ、前に後藤さんを引っ掻いた猫」

後藤
お前、この庭に住んでるのか?

ブサ猫
「ぶみゃ」

ブサカワ猫は後藤さんのそばに行くと、足元にすり寄った。

サトコ
「その子、後藤さんのことが好きみたいですね」

後藤
近づいて隙あらば引っ掻こうとしてるのかもしれないけどな

(ふふ、後藤さんもこの猫嫌いじゃないみたい)

その頭をなでる目は優しい。

後藤
悪かったな、黒澤が巻き込んで。アイツはいつもそうなんだ

サトコ
「いえ。教官たちともいろいろ話せましたし、難波警視正と木下教官にもお会いできましたし···」

(それに、後藤さんと一緒にいられて楽しかった···)

猫を撫でながら、後藤さんは私に視線を向ける。

後藤
アンタと一緒に動くようになってから、楽しいと思える日が増えた
そう思ってるのは、俺だけじゃないと思うがな。黒澤もかなり浮かれてる

サトコ
「恐縮です。私の方がお世話になってるのに···」
「手間ばかりかけているんじゃないかと、心配してたんです」

後藤
訓練生なのに、よくやってるだろ。アンタのおかげで捜査が続行できるようになったんだ
そう謙遜ばかりするな

サトコ
「そう言っていただけると、励みになります」
「後藤さんと一緒にいられるのは嬉しいので···」

後藤
嬉しい?

サトコ
「あ、不謹慎な意味じゃなくて!勉強になることが多いっていうか···」

後藤
···アンタ、変わってるな
俺と一緒にいて嬉しいと言うのはアンタくらいだ

サトコ
「きっと言わないだけで、皆さん思ってますよ」
「そうじゃなきゃ、こんなふうにバーベキューに誘わないはずです」

後藤
黒澤あたりには付きまとわれてる感あるけどな

サトコ
「ふふっ、でしょう?」

車での黒澤さんの嘆きを思い出して、私たちはぷっと吹き出す。

後藤
···アンタといれば、楽しく生きられるのかもな

サトコ
「え···?」

後藤さんの言葉が夜の中庭に溶けた時、中庭に面している渡り廊下から靴音が聞こえてきた。

千葉
「後藤教官···」

鳴子
「お疲れさまです!」

千葉
「お疲れさまです!」

後藤
ああ

千葉
「氷川もどこに行ったのかと思ったら、こんなところにいたのか」

サトコ
「う、うん···」

(千葉さんと鳴子···)

やましいことはないのだけれど、二人きりのところを見つかってしまったようで気まずい。

鳴子
「サトコ、まさか···」

サトコ
「な、なに?」

怪しむような目をしながら、鳴子がこちらに近づいてくる。

<選択してください>

 A:猫と遊んでただけ 

サトコ
「ね、猫と遊んでただけなの!中庭に猫住んでるの知ってた?」

鳴子
「そのブサ猫?知らなかったけど、よく見ると愛嬌あるね」

サトコ
「うん。後藤教官に懐いてるみたいで···」

鳴子
「そうなんだ」
「って、私が言いたいのは、そんな話じゃなくて···」
「この鳴子さんを誤魔化そうとしてもダメだからね。わかるんだから」

 B:休憩してただけ 

サトコ
「休憩してただけだよ!」

鳴子
「休憩ならカフェテリアですればいいのに、わざわざここに二人でいるってことは···」

サトコ
「いや、ここ風が気持ちよかったから···」

鳴子
「この鳴子さんを誤魔化そうとしてもダメなんだからね。わかるんだから」

 C:やましいことは何も! 

サトコ
「やましいことは何もないよ!」

鳴子
「自分から言うのはあやしい···犯人は大抵、そう言うのよね」

サトコ
「考えすぎだって!事件じゃないんだから···」

鳴子
「この鳴子さんを誤魔化そうとしてもダメだからね。わかるんだから」

鳴子は私の前に来ると小さく鼻を動かした。

(後藤さんとのこと···ど、どうしよう···!)

鳴子
「さっきから肉の焼けるいい匂いが、どこからかすると思ってたけど···」
「犯人はアナタだったのね!」

サトコ
「え?肉···?」

千葉
「確かに。氷川、美味しそうな匂いするな」

サトコ
「それは、えと···」

後藤
屋上で教官たちが集まってバーベキューをしてる
肉は大量にあったし、お前らも来るか?

鳴子
「行きます!!」

千葉
「でも、教官たちとバーベキューなんて···いいんですか?」

後藤
別に警察官同士なんだから、構わないだろ
そろそろ向こうも面倒くさいことになってそうだしな

サトコ
「面倒くさいこと?」

(片付けとかの話かな?)

鳴子
「私は行くけど、千葉さんはどうするの?」

千葉
「佐々木と氷川が行くなら、オレも行こうかな」

後藤
それじゃ、戻るか

サトコ
「はい」

鳴子と千葉さんを連れて戻った屋上では···
後藤さんの言葉通り、お酒が入った面々が面倒なことになっていた。


【寮 談話室】

千葉
「頭いた···完全二日酔い」

鳴子
「黒澤さんって人の黒い目が、目の前まで近づいてきたとこまでしか覚えてない···」

翌朝、頭に手を当てながら千葉さんと鳴子が談話室に入ってくる。

(石神教官と加賀教官と木下教官が飲み比べを初めて···皆を巻き込んで大変だったな···)

後藤さんのおかげで飲まずに済んだ私は、いいのか悪いのか全てを目撃していた。

後藤
氷川、いるか?

サトコ
「後藤···教官」

(後藤さんって言いかけちゃった。危ない、ここでは気を付けないと···)

後藤さんに呼ばれて外へ出る。

後藤
仙崎に新しい動きがあった。今から出るぞ

(···!)

サトコ
「はい!」

任務に気を引き締め、後藤さんの後を追った。
この後、何が起こるのかも知らずにーーー

to be continued



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする